出戻り皇妃と壊れた皇帝

黒崎

文字の大きさ
上 下
3 / 4

帝の狂気(R18)

しおりを挟む
最初に感じたのは、振動。
 何かに揺さぶられていることに気づく。ふっ、と意識を取り戻した時、ぎょっとした。なぜ、という疑問は、
「あっ、んっ…やあっ」
 喘ぎ声として出てしまった。
 分からない。意味がわからない。
 だって、私はひたすら犯されていた。抱かれている。
 誰に? 男にだ。胸に顔を埋める男の表情は見えない。
 何度も胸を吸われ、ぴくりと身体が反応してしまう。
 淫らな水音が響き、絶えず身体にぞくぞくと快感が走る。
 気を抜けば、みっともなく喘いでしまいそうな所を何とか耐える。
 薄暗い部屋の中では、月明かりだけが頼りだ。 
 ギシギシと揺さぶられながら、周りに視線を走らせれば、何処か見覚えのある部屋だと気付く。
 煌びやかな装飾。天蓋付の豪華な寝台。西国風の装飾が施された紋様がはしる部屋。
 この部屋は、知っている。
 私が、かつて暮らした部屋であり、――陛下が私の為に造らせた、私と陛下の蜜月を過ごす為の部屋だ。
 その時、一層強い快楽が身体に走り、ビクビクと身体を仰け反らせてしまう。
「あっああ…いくッ……!」
「余所見をするな。……お前が見るべきは、私だろう?」
 ぐちゃぐちゃと激しい水音が響く。
 強い快楽に身を捩らせる私を、男が顔を上げて見ていた。。
 薄暗い部屋の中で、ぼんやりと照らされている姿は、私のよく知るお方。
 この国の皇帝その人。
 烏の濡れ羽色の髪に、皇帝の証たる赤い瞳。
 彫像かと見紛う程、整った美しい顔貌は、今や柳眉を逆立てていた。
「私だけを、俺だけを見ろと…あれ程言っていた筈だが」
 ――私を映す赤い瞳が、怒りの色から愉悦に染まる。
 ぱちゅん、と腰を強く打ち付けられ、快楽に抗えず嬌声が漏れる。
 開いた唇を塞ぎ、舌で口内を貪りながら、皇は愛おしげに笑う。
「ああ、愛いな。……この俺から目を逸らすのは…お前だけだ」
 あとは俺に逆らった大臣か、あの女狐くらいか……既に殺してやったが――と薄く笑みを浮かべながら。
「こればかりは、神に感謝しなければ。あの張りぼても、役に立つでは無いか」
「――なぁ? 私の宝石リュカ。やっとだ、ああ、ようやくお前を――」
 はぁ、と熱い吐息が耳をくすぐり、ぞくりと肌が泡立つ。
「もう二度と逃がしてやらないからな――私の半身」
「お前が望むなら、俺はなんだってしてやる。国も、富も、人も、何だってくれてやる」
 うっすらと浮かべる笑みは、何処か虚ろで狂気を帯びていた。
「もしまたお前が居なくなれば、俺はどうなるだろうなぁ? 次こそは、この国を滅ぼしてしまうかもしれないなぁ」
 耳にへばりつくような、恐ろしい声音で、軽い口調の言葉に、私は呆然とする。以前の陛下なら、決して言わなかったような、国を捨てるような言葉。

多くの人が言っていたように、この方は狂ってしまわれたのだ。
その事実を目の当たりにして、この世界に戻ってきて初めて、私は涙を流した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

憐れな妻は龍の夫から逃れられない

向水白音
恋愛
龍の夫ヤトと人間の妻アズサ。夫婦は新年の儀を行うべく、二人きりで山の中の館にいた。新婚夫婦が寝室で二人きり、何も起きないわけなく……。独占欲つよつよヤンデレ気味な夫が妻を愛でる作品です。そこに愛はあります。ムーンライトノベルズにも掲載しています。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...