悪役令嬢の断罪後

黒崎

文字の大きさ
上 下
5 / 5

悪役令嬢は過去を呑む。

しおりを挟む
 誰からも愛されなかった。
 という訳ではない。
 公爵令嬢として生まれた私は、何不自由なく、すくすくと家族に愛されて育った。家族の愛を受けられず、酷い扱いを受ける……というのは、私の家族にはなかった。
 人並みに愛し愛された、優しい家族に。
 私には婚約者がいた。この国の王太子である彼との、産まれる前に結ばれた婚約が。
 何不自由なくというより、恵まれた環境で、彼に相応しい人間になることを定められていた私は、それを理想とした厳しい教育を受けて育った。王妃になるため、王太子の彼に笑われぬ様に。
 それが当たり前だったから。彼がどれほど私に興味をもたずとも、生まれた時から定められていたから、それを当たり前としていた。愛というものを彼からは与えられなかった。
 
 彼の婚約者として、相応しいように、王城での教育を受ける日々。恥をかかせるような振る舞いは、国の恥となる。国の象徴は正しく在れ。
 
 教育係は私を王妃にする為、鞭を振るうこともあった。
 過剰な"躾"がされたこともあったが、身の回りの、家から付いてきた信用のある使用人以外、誰もそれを指摘しなかった。
 王城の重要な職に就く彼らは、派閥争いで忙しく、お互いを蹴落とし合うのに必死だった。家族は私を慈しみ、愛してくれた。教育係の躾に不満は無いかと聞かれたが、心配をかけたくなかった私はないと答えた。
 
 婚約は王命だった、許しがない限り、臣下たる貴族(わたしたち)は従うしかない。

 婚約者だった王太子は、わたしを嫌っていた。私の方が優秀だったというのもあったが、幼い頃から厳しい教育を受け、大人びていた私の、その精神面が彼には不愉快だったのだろうか。
 王と王妃は政略結婚であり、珍しくもない当たり前とされた。冷たい家庭。最高の教育、愛情は要らないとばかりに詰め込まれる知識の日々。彼の努力をもちろん私は知っていた。
 私を邪険に扱う彼に臆せず、厳しい教育を受けるを受けるうち、恋とは違うーー友情以上恋愛未満の、パートナーとしての感情。
 この人と愛することはなくても、良い結婚相手にはなれるだろう。
 そんな思いを胸に秘め続けていたある日を境に。
 彼との関係は変わってしまった。
 
 彼の乳母による王太子毒殺未遂事件。
 それがきっかけだった。
 王太子たる彼に実の母親の愛情は注がれず、代わりに彼の乳母が注いでいた、というのは噂で知っていた。お可哀想な王子様。王妃様は、ご自分が産んだお子さまを可愛がらず、愛人と遊んでばかり。
 くすくすとこぼれる噂。私は、その噂を聞いて憐れむと同時に、良きパートナーであってくれれば問題ないと決め、変わらず接していた。彼もまた、実の母親との確執にはそれなりに悩みながらも、教育を変わらず受けていた。ことが起こる前までは。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです

山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。 今は、その考えも消えつつある。 けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。 今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。 ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

処理中です...