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悪役令嬢は過去を呑む。
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誰からも愛されなかった。
という訳ではない。
公爵令嬢として生まれた私は、何不自由なく、すくすくと家族に愛されて育った。家族の愛を受けられず、酷い扱いを受ける……というのは、私の家族にはなかった。
人並みに愛し愛された、優しい家族に。
私には婚約者がいた。この国の王太子である彼との、産まれる前に結ばれた婚約が。
何不自由なくというより、恵まれた環境で、彼に相応しい人間になることを定められていた私は、それを理想とした厳しい教育を受けて育った。王妃になるため、王太子の彼に笑われぬ様に。
それが当たり前だったから。彼がどれほど私に興味をもたずとも、生まれた時から定められていたから、それを当たり前としていた。愛というものを彼からは与えられなかった。
彼の婚約者として、相応しいように、王城での教育を受ける日々。恥をかかせるような振る舞いは、国の恥となる。国の象徴は正しく在れ。
教育係は私を王妃にする為、鞭を振るうこともあった。
過剰な"躾"がされたこともあったが、身の回りの、家から付いてきた信用のある使用人以外、誰もそれを指摘しなかった。
王城の重要な職に就く彼らは、派閥争いで忙しく、お互いを蹴落とし合うのに必死だった。家族は私を慈しみ、愛してくれた。教育係の躾に不満は無いかと聞かれたが、心配をかけたくなかった私はないと答えた。
婚約は王命だった、許しがない限り、臣下たる貴族(わたしたち)は従うしかない。
婚約者だった王太子は、わたしを嫌っていた。私の方が優秀だったというのもあったが、幼い頃から厳しい教育を受け、大人びていた私の、その精神面が彼には不愉快だったのだろうか。
王と王妃は政略結婚であり、珍しくもない当たり前とされた。冷たい家庭。最高の教育、愛情は要らないとばかりに詰め込まれる知識の日々。彼の努力をもちろん私は知っていた。
私を邪険に扱う彼に臆せず、厳しい教育を受けるを受けるうち、恋とは違うーー友情以上恋愛未満の、パートナーとしての感情。
この人と愛することはなくても、良い結婚相手にはなれるだろう。
そんな思いを胸に秘め続けていたある日を境に。
彼との関係は変わってしまった。
彼の乳母による王太子毒殺未遂事件。
それがきっかけだった。
王太子たる彼に実の母親の愛情は注がれず、代わりに彼の乳母が注いでいた、というのは噂で知っていた。お可哀想な王子様。王妃様は、ご自分が産んだお子さまを可愛がらず、愛人と遊んでばかり。
くすくすとこぼれる噂。私は、その噂を聞いて憐れむと同時に、良きパートナーであってくれれば問題ないと決め、変わらず接していた。彼もまた、実の母親との確執にはそれなりに悩みながらも、教育を変わらず受けていた。ことが起こる前までは。
という訳ではない。
公爵令嬢として生まれた私は、何不自由なく、すくすくと家族に愛されて育った。家族の愛を受けられず、酷い扱いを受ける……というのは、私の家族にはなかった。
人並みに愛し愛された、優しい家族に。
私には婚約者がいた。この国の王太子である彼との、産まれる前に結ばれた婚約が。
何不自由なくというより、恵まれた環境で、彼に相応しい人間になることを定められていた私は、それを理想とした厳しい教育を受けて育った。王妃になるため、王太子の彼に笑われぬ様に。
それが当たり前だったから。彼がどれほど私に興味をもたずとも、生まれた時から定められていたから、それを当たり前としていた。愛というものを彼からは与えられなかった。
彼の婚約者として、相応しいように、王城での教育を受ける日々。恥をかかせるような振る舞いは、国の恥となる。国の象徴は正しく在れ。
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過剰な"躾"がされたこともあったが、身の回りの、家から付いてきた信用のある使用人以外、誰もそれを指摘しなかった。
王城の重要な職に就く彼らは、派閥争いで忙しく、お互いを蹴落とし合うのに必死だった。家族は私を慈しみ、愛してくれた。教育係の躾に不満は無いかと聞かれたが、心配をかけたくなかった私はないと答えた。
婚約は王命だった、許しがない限り、臣下たる貴族(わたしたち)は従うしかない。
婚約者だった王太子は、わたしを嫌っていた。私の方が優秀だったというのもあったが、幼い頃から厳しい教育を受け、大人びていた私の、その精神面が彼には不愉快だったのだろうか。
王と王妃は政略結婚であり、珍しくもない当たり前とされた。冷たい家庭。最高の教育、愛情は要らないとばかりに詰め込まれる知識の日々。彼の努力をもちろん私は知っていた。
私を邪険に扱う彼に臆せず、厳しい教育を受けるを受けるうち、恋とは違うーー友情以上恋愛未満の、パートナーとしての感情。
この人と愛することはなくても、良い結婚相手にはなれるだろう。
そんな思いを胸に秘め続けていたある日を境に。
彼との関係は変わってしまった。
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それがきっかけだった。
王太子たる彼に実の母親の愛情は注がれず、代わりに彼の乳母が注いでいた、というのは噂で知っていた。お可哀想な王子様。王妃様は、ご自分が産んだお子さまを可愛がらず、愛人と遊んでばかり。
くすくすとこぼれる噂。私は、その噂を聞いて憐れむと同時に、良きパートナーであってくれれば問題ないと決め、変わらず接していた。彼もまた、実の母親との確執にはそれなりに悩みながらも、教育を変わらず受けていた。ことが起こる前までは。
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