悪役令嬢の断罪後

黒崎

文字の大きさ
上 下
1 / 5

悪役令嬢、永遠に眠る

しおりを挟む
 悪女が死んだ。
 かつては国随一の才女と謳われ、次期王妃と名高かった公爵家の女が、死んだ。
 麗しい容姿に聡明さを兼ね備えていたその公爵家の女は、断頭台に上がる頃には見る影もなく、愚かな罪人として相応しい姿となっていた。女はかつて王太子の婚約者だった。
 異界から落ちてきたという聖女の存在をきっかけに、王太子は婚約者である女から、異界からの聖女に目を向けるようになる。女の性格は苛烈で、王太子も手を焼くほどだった。
 自然と王太子は婚約者の女から、可憐な少女である聖女と深く仲を持つようになる。次期王妃として期待を込められ教育を受けてきた女は、その苛烈な性格を持ってして聖女を責めたてた。
 あなたは彼に相応しくない、隣に立つには身分不相応だ。
 
 ーー女への愛情は既に枯れ果て、聖女を愛するようになっていた王太子は、女との婚約を破棄するまでに至った。
 聖女及び王太子への毒殺未遂事件をきっかけに、婚約者だった女が犯人として挙げられ、ーー女の実家である公爵家は、王家に仇なしたとして謀反の疑いをかけられ、公爵家もろとも謀反人として断罪ーー処刑されようとしていた。
 
 
 
 公爵家の人間の首が次々と処刑されていく光景を、悪女と呼ばれた女はただ見つめる。家族の首が、両親が最初に撥ねられた。次に兄、その次に女の番だった。両親はすまないと謝った。兄は守ってやれなかったと言った。
 ギロチンの刃が煌めき、首が落ちる。光が失われ、暗く濁った瞳へと変わり果てる。ギロチンの刃が血に染まり、命が消える。首と胴に断たれた遺体は、有志の人間によって何処かへと運ばれていく。どこへ行くのかは分からなかったが、恐らく女もそうなるのだろう。女の番が来た。誰もが憎悪を抱いて女を見ていた。罵倒の嵐が止むことはなく、その場の人間全てが、女の死を望んでいた。熱狂的な、異様な雰囲気が漂っていた。誰もがあの可憐な聖女様を愛していた。だからこそ、許せるはずが無い。かつて才女と謳われ、今では悪女と憎まれる女は全てに絶望していた。絶望し、感情も枯れ果てたーー筈だった。狂気に落ちた女は、断頭台へと上がる。ーー首を固定され、ギロチンの刃が振り下ろされると同時に、
 呪いの言葉を叫んだ。
 処刑は一瞬だった。
 ギロチンの刃が煌めき、女の首を断つーーその刹那まで女の口は動き続けた。
 王家に呪いあれ、聖女に呪いあれと。
 首が撥ねられ、転がった女の首を持ち上げると、見るも恐ろしい表情に、場は静まり返った。
 こうして悪の公爵家は断罪された。その命を持って。
 王太子はその最後を見届けると同時に、恐ろしげに震える聖女に微笑みかけた。
 「悪女は死んだ、もう居ない」と。

 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

場所は打って変わって、荒れ果てた共同墓地。
ーーせめてもの情けとして胴と首を縫い合わされた女の、公爵家の人間の死体は人知れず墓地へと運ばれ。穢れた身分の下僕によって埋葬された。
 
荒れ果て滅多なことでは近寄るものもいないこの場所にーー、一人の男が訪れる。
 
「久しぶりに、いいもの見させてもらった。面白そうだから、少し、弄らせて貰うよ」

そう言って笑った男の瞳には、嬉々として暗い歓喜の色が混じっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

【完結】魅了が解けたあと。

恋愛
国を魔物から救った英雄。 元平民だった彼は、聖女の王女とその仲間と共に国を、民を守った。 その後、苦楽を共にした英雄と聖女は共に惹かれあい真実の愛を紡ぐ。 あれから何十年___。 仲睦まじくおしどり夫婦と言われていたが、 とうとう聖女が病で倒れてしまう。 そんな彼女をいつまも隣で支え最後まで手を握り続けた英雄。 彼女が永遠の眠りへとついた時、彼は叫声と共に表情を無くした。 それは彼女を亡くした虚しさからだったのか、それとも・・・・・ ※すべての物語が都合よく魅了が暴かれるとは限らない。そんなお話。 ______________________ 少し回りくどいかも。 でも私には必要な回りくどさなので最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

ふしだらな悪役令嬢として公開処刑される直前に聖女覚醒、婚約破棄の破棄?ご冗談でしょ(笑)

青の雀
恋愛
病弱な公爵令嬢ビクトリアは、卒業式の日にロバート王太子殿下から婚約破棄されてしまう。病弱なためあまり学園に行っていなかったことを男と浮気していたせいだ。おまけに王太子の浮気相手の令嬢を虐めていたとさえも、と勝手に冤罪を吹っかけられ、断罪されてしまいます。 父のストロベリー公爵は、王家に冤罪だと掛け合うものの、公開処刑の日時が決まる。 断頭台に引きずり出されたビクトリアは、最後に神に祈りを捧げます。 ビクトリアの身体から突然、黄金色の光が放たれ、苛立っていた観衆は穏やかな気持ちに変わっていく。 慌てた王家は、処刑を取りやめにするが……という話にする予定です。 お気づきになられている方もいらっしゃるかと存じますが この小説は、同じ世界観で 1.みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について 2.婚約破棄された悪役令嬢は女神様!? 開国の祖を追放した国は滅びの道まっしぐら 3.転生者のヒロインを虐めた悪役令嬢は聖女様!? 国外追放の罪を許してやるからと言っても後の祭りです。 全部、話として続いています。ひとつずつ読んでいただいても、わかるようにはしています。 続編というのか?スピンオフというのかは、わかりません。 本来は、章として区切るべきだったとは、思います。 コンテンツを分けずに章として連載することにしました。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

処理中です...