作家の先生と私

黒崎

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プロローグ

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「先生!」
そう言って呼び止めたのは、鈴の音のようなかわいらしい声。その声の主が誰なのか、僕は知っている。かけがえのない僕の宝物。
…階段をおりた先で待っていた彼女に微笑みかけ、挨拶がわりの返事をす
る。
「おはよう、ーー。…本当に君は朝が早いね。僕なんか気を抜くと、夕方まで寝てしまうからね」
そんな僕に、苦笑し呆れながらも世話を焼いてくれる彼女。
僕を先生と呼び慕う彼女は、僕の娘だ。
娘と言っても血の繋がりなどなどなく、親子と言っても仮でしかない。
関係の始まりは、
孤児院で暮らしていた彼女を引きとったことから。
それまで惰性で生きていた僕は、気紛れに孤児を引き取った。
僕が引き取らなければ朽ちていただろう彼女の命。
野良犬のような荒んだ目。
世界が不条理だということを知りえながら、必死に生にしがみついていた。
それまで恵まれた環境で育ち、好きなように生きてきた僕は、興味を持った。ここでこの子を拾ったら、人生が変わるだろうかと。爛れた生活に辟易していた、というのもあったかもしれない。
先生と呼び慕う今の彼女には、ーー喜ばしいことにーー昔の荒んだ面影は欠片も残っていない。
ここ数年で随分と美しくなった。拾ったものは、素晴らしい原石だったようだ。
そんな美しく育った彼女に対して、僕が抱く感情に変化が訪れた。
仮の親としての情。庇護欲。愛情。それとは別のもの。
その感情に名をつけると言うなら、
それは世でいう恋というやつかもしれない、と。
よく言えばそうかもしれない。ーーああ、しかし僕自身も分かっている。これは恋とは呼べない程醜いものだと。
僕は許されない人間だ。ましてや、先生などと、呼び慕われる資格もないーー愚者だ。
そうだ。僕は彼女に、許されない感情を抱いている。憚れるような。歪んだ醜い劣情を。
抱いてしまった。
ーー彼女を■□してみたい。
ーーの顔を。僕だけに見せて欲しい。
他の男なんて見ないでくれ。
きみの瞳に映るのは、僕だけで充分だと。
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