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第二夜
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蒼鬼のお膝元――ここの地域一帯がそう呼ばれていたのははるか昔――千年も昔のことである。
往来の絶えなかった蒼鬼の屋敷を中心に、一つの町が形作られた。
その周囲をぐるりと大きく囲うようにまた町が出来ては増えて、それを十度ほど繰り返した結果――都となり、やがては蒼鬼の國と呼ばれるようになった。
元は戦乱の絶えない荒地であり、それを嘆きを聞き入れた天が平定するための妖者を遣わした。
寿命の短い人間よりも、遥かに強靭な力を持つ人ならざる者が適していたからだった。
人と妖者。
妖者――時に妖、妖怪と呼ばれた人ならざる者達は、その多くが土地を荒らし人を喰らい、人はなすがまま弄ばれた。
人は当然憎悪し、妖者を討伐する為の軍が組まれたこともあったが、人の世の天下は未だ成らず。また人同士の争いも耐えず、都すらも荒れ果てた時代。
戦乱の世を嘆いた人々は、時の帝に直訴し、世を生み出した天へとある願いを込めた。
最も荒れた土地一帯を治める者が、天の遣いが送り出されることを望んだ。
――万の命を差し出せ、さらば与えん。
そう神託が下った折に、時の帝が主導し儀式を行った。
ありとあらゆる生き物、馬から虫に至るまで――老若男女の贄が差し出された。
――これは契約だ。天と地の契約であり、事が成されるまで、これを妨げる者はその血肉で贖うことだろう。
かくて願いは聞き届けられ、万の命と引き換えに、天の遣いが遣わされた。
「ああつまり――全員殺せば良いってことか?」
蒼い髪を持つ若い鬼の男――天の遣いとされたのは、天与の暴君と称されるほど荒事に長けた鬼族であった。
遣わされた存在が人ならざる者――暴力沙汰に欠かない嫌われ者となれば、大きな反感を食らった。
とは言え、平定という多くの血が流れるだろう予想に、暴に長けた存在は欠かせない。
暴君と称される程だが、同時に若い鬼の男には多くの者を惹きつけてやまない暴力的な匂い――天性の魅力があった。
では悪どい妖狐や他の妖者ではどうかと言われれば、あの鬼の男までの天性の魅力はなかった。
また血の気の多い軍勢を率いることができるかと問われれば、仕方無いと――捩じ伏せる力を持つ蒼い髪を持つ鬼の男に白羽の矢がたった。
名を『 』と言ったが、特徴的な髪色から専ら蒼鬼としか呼ばれなかった鬼の男。
蒼鬼は天から与えられた軍勢と共に、その地域の平定をすぐさま行った。
あらゆる勢力を飲み込み、止まることを知らない蒼鬼の軍勢は、一大勢力となった末に、妨げる者、土地全てを更地へと変えた。
全身を返り血で染めでも尚、輝く蒼髪はやがて蒼鬼の象徴となった。
「邪魔する奴ら全員叩き切りゃ、事は済むなァ」
――おのれッ! おのれ…化け物め、貴様は死んでも呪われるだろうッ……!
――どうか、この子だけはッ……嫌ッ! 嫌ァァ!
「悪りィな、恨むんなら天を恨みな……ま、死んでくれ」
――貴様がいるから、何時までも地獄が終わらんのだッ……! 天ではなく、地獄からの遣いでは無いか!
「あー、文句はあっちに言ってくれ。俺はただの遣いだからなァ……言わば平和のための使者って奴だ」
戦乱を止める為におびただしい血が流れることは皮肉に思えたが――青鬼は立ち塞がるあらゆる全てを叩き潰した。
命乞いするものを殺し、裏切り者を殺し、争いとは無縁だった場所も、邪魔な領主を消すために攻め込んだ。
一方で虐げられた人々の領地を解放し、多くの民から忠誠を誓われた。
法を整備し、犯罪を取り締まる組織を作り、争いばかりだけでなく知を示した。
後にこの法が青鬼の國の法となるが――それまだ先のこと。
平定のために――大義の為に事をなす。
妨げる者は血肉で贖う――その天の言葉は、約束された勝利を示していた。
そうして振り返った時には、一帯の土地を平定し、おびただしい犠牲と引き換えに、天から与えられた権利として蒼鬼は一国の国主となった。
争いは苦ではない。むしろ嬉々として暴を振るうのが鬼の性だ。血を見ると本能が沸き立ち、武者震いに襲われ、つい血の気の多さから喧嘩を売り買いしてしまう。
そんな厄介な鬼の性を憂う事無く振るえる平定という任務は、実に都合が良かった。
が、戦が終われば天の軍勢は消え去った。
後に残ったのは、骸転がる戦乱の跡地と、厄介な残党勢力の後始末。
降伏し見方となったは良いものの、虎視眈々と下克上を狙う不届き者の大群。
一方で、蒼鬼の才に惚れ込んだ者、飲み込む過程で青鬼の傘下に下った者がいた。
平定前よりも爆発的に数を増やし、お山の大将からひとつの勢力と呼べるものになっていた。
平定が終われば鬼の里へと戻るつもりだったが、己を慕う民の姿を見て、気紛れな鬼は決断を下す。
――今からこの一帯は俺の国だ。
やがてその一帯には、多くの領民と臣下が傅く蒼鬼の國が生まれた。
権謀術数渦巻く一方で、最も豊かな鬼が治める國として名を知らしめることとなる。
往来の絶えなかった蒼鬼の屋敷を中心に、一つの町が形作られた。
その周囲をぐるりと大きく囲うようにまた町が出来ては増えて、それを十度ほど繰り返した結果――都となり、やがては蒼鬼の國と呼ばれるようになった。
元は戦乱の絶えない荒地であり、それを嘆きを聞き入れた天が平定するための妖者を遣わした。
寿命の短い人間よりも、遥かに強靭な力を持つ人ならざる者が適していたからだった。
人と妖者。
妖者――時に妖、妖怪と呼ばれた人ならざる者達は、その多くが土地を荒らし人を喰らい、人はなすがまま弄ばれた。
人は当然憎悪し、妖者を討伐する為の軍が組まれたこともあったが、人の世の天下は未だ成らず。また人同士の争いも耐えず、都すらも荒れ果てた時代。
戦乱の世を嘆いた人々は、時の帝に直訴し、世を生み出した天へとある願いを込めた。
最も荒れた土地一帯を治める者が、天の遣いが送り出されることを望んだ。
――万の命を差し出せ、さらば与えん。
そう神託が下った折に、時の帝が主導し儀式を行った。
ありとあらゆる生き物、馬から虫に至るまで――老若男女の贄が差し出された。
――これは契約だ。天と地の契約であり、事が成されるまで、これを妨げる者はその血肉で贖うことだろう。
かくて願いは聞き届けられ、万の命と引き換えに、天の遣いが遣わされた。
「ああつまり――全員殺せば良いってことか?」
蒼い髪を持つ若い鬼の男――天の遣いとされたのは、天与の暴君と称されるほど荒事に長けた鬼族であった。
遣わされた存在が人ならざる者――暴力沙汰に欠かない嫌われ者となれば、大きな反感を食らった。
とは言え、平定という多くの血が流れるだろう予想に、暴に長けた存在は欠かせない。
暴君と称される程だが、同時に若い鬼の男には多くの者を惹きつけてやまない暴力的な匂い――天性の魅力があった。
では悪どい妖狐や他の妖者ではどうかと言われれば、あの鬼の男までの天性の魅力はなかった。
また血の気の多い軍勢を率いることができるかと問われれば、仕方無いと――捩じ伏せる力を持つ蒼い髪を持つ鬼の男に白羽の矢がたった。
名を『 』と言ったが、特徴的な髪色から専ら蒼鬼としか呼ばれなかった鬼の男。
蒼鬼は天から与えられた軍勢と共に、その地域の平定をすぐさま行った。
あらゆる勢力を飲み込み、止まることを知らない蒼鬼の軍勢は、一大勢力となった末に、妨げる者、土地全てを更地へと変えた。
全身を返り血で染めでも尚、輝く蒼髪はやがて蒼鬼の象徴となった。
「邪魔する奴ら全員叩き切りゃ、事は済むなァ」
――おのれッ! おのれ…化け物め、貴様は死んでも呪われるだろうッ……!
――どうか、この子だけはッ……嫌ッ! 嫌ァァ!
「悪りィな、恨むんなら天を恨みな……ま、死んでくれ」
――貴様がいるから、何時までも地獄が終わらんのだッ……! 天ではなく、地獄からの遣いでは無いか!
「あー、文句はあっちに言ってくれ。俺はただの遣いだからなァ……言わば平和のための使者って奴だ」
戦乱を止める為におびただしい血が流れることは皮肉に思えたが――青鬼は立ち塞がるあらゆる全てを叩き潰した。
命乞いするものを殺し、裏切り者を殺し、争いとは無縁だった場所も、邪魔な領主を消すために攻め込んだ。
一方で虐げられた人々の領地を解放し、多くの民から忠誠を誓われた。
法を整備し、犯罪を取り締まる組織を作り、争いばかりだけでなく知を示した。
後にこの法が青鬼の國の法となるが――それまだ先のこと。
平定のために――大義の為に事をなす。
妨げる者は血肉で贖う――その天の言葉は、約束された勝利を示していた。
そうして振り返った時には、一帯の土地を平定し、おびただしい犠牲と引き換えに、天から与えられた権利として蒼鬼は一国の国主となった。
争いは苦ではない。むしろ嬉々として暴を振るうのが鬼の性だ。血を見ると本能が沸き立ち、武者震いに襲われ、つい血の気の多さから喧嘩を売り買いしてしまう。
そんな厄介な鬼の性を憂う事無く振るえる平定という任務は、実に都合が良かった。
が、戦が終われば天の軍勢は消え去った。
後に残ったのは、骸転がる戦乱の跡地と、厄介な残党勢力の後始末。
降伏し見方となったは良いものの、虎視眈々と下克上を狙う不届き者の大群。
一方で、蒼鬼の才に惚れ込んだ者、飲み込む過程で青鬼の傘下に下った者がいた。
平定前よりも爆発的に数を増やし、お山の大将からひとつの勢力と呼べるものになっていた。
平定が終われば鬼の里へと戻るつもりだったが、己を慕う民の姿を見て、気紛れな鬼は決断を下す。
――今からこの一帯は俺の国だ。
やがてその一帯には、多くの領民と臣下が傅く蒼鬼の國が生まれた。
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