蒼鬼は贄の花嫁を誘い出す

黒崎

文字の大きさ
2 / 4

第二夜

しおりを挟む
 蒼鬼のお膝元――ここの地域一帯がそう呼ばれていたのははるか昔――千年も昔のことである。
 往来の絶えなかった蒼鬼の屋敷を中心に、一つの町が形作られた。
 その周囲をぐるりと大きく囲うようにまた町が出来ては増えて、それを十度ほど繰り返した結果――都となり、やがては蒼鬼の國と呼ばれるようになった。
 元は戦乱の絶えない荒地であり、それを嘆きを聞き入れた天が平定するための妖者を遣わした。
 寿命の短い人間よりも、遥かに強靭な力を持つ人ならざる者が適していたからだった。
 人と妖者。
 妖者――時に妖、妖怪と呼ばれた人ならざる者達は、その多くが土地を荒らし人を喰らい、人はなすがまま弄ばれた。
 人は当然憎悪し、妖者を討伐する為の軍が組まれたこともあったが、人の世の天下は未だ成らず。また人同士の争いも耐えず、都すらも荒れ果てた時代。
 戦乱の世を嘆いた人々は、時の帝に直訴し、世を生み出した天へとある願いを込めた。
 最も荒れた土地一帯を治める者が、天の遣いが送り出されることを望んだ。
 
 ――万の命を差し出せ、さらば与えん。
 
 そう神託が下った折に、時の帝が主導し儀式を行った。
 ありとあらゆる生き物、馬から虫に至るまで――老若男女の贄が差し出された。
 
 ――これは契約だ。天と地の契約であり、事が成されるまで、これを妨げる者はその血肉で贖うことだろう。
 
 かくて願いは聞き届けられ、万の命と引き換えに、天の遣いが遣わされた。
 
「ああつまり――全員殺せば良いってことか?」
 
 蒼い髪を持つ若い鬼の男――天の遣いとされたのは、天与の暴君と称されるほど荒事に長けた鬼族であった。
 
 遣わされた存在が人ならざる者――暴力沙汰に欠かない嫌われ者となれば、大きな反感を食らった。
 とは言え、平定という多くの血が流れるだろう予想に、暴に長けた存在は欠かせない。
 暴君と称される程だが、同時に若い鬼の男には多くの者を惹きつけてやまない暴力的な匂い――天性の魅力があった。
 では悪どい妖狐や他の妖者ではどうかと言われれば、あの鬼の男までの天性の魅力はなかった。
 また血の気の多い軍勢を率いることができるかと問われれば、仕方無いと――捩じ伏せる力を持つ蒼い髪を持つ鬼の男に白羽の矢がたった。
 
 名を『  』と言ったが、特徴的な髪色から専ら蒼鬼としか呼ばれなかった鬼の男。
 蒼鬼は天から与えられた軍勢と共に、その地域の平定をすぐさま行った。
 あらゆる勢力を飲み込み、止まることを知らない蒼鬼の軍勢は、一大勢力となった末に、妨げる者、土地全てを更地へと変えた。
 
 全身を返り血で染めでも尚、輝く蒼髪はやがて蒼鬼の象徴となった。
 
「邪魔する奴ら全員叩き切りゃ、事は済むなァ」
 
 ――おのれッ! おのれ…化け物め、貴様は死んでも呪われるだろうッ……!
 
 ――どうか、この子だけはッ……嫌ッ! 嫌ァァ!
 
「悪りィな、恨むんなら天を恨みな……ま、死んでくれ」
 
 ――貴様がいるから、何時までも地獄が終わらんのだッ……! 天ではなく、地獄からの遣いでは無いか!
 
「あー、文句はあっちに言ってくれ。俺はただの遣いだからなァ……言わば平和のための使者って奴だ」
 
 戦乱を止める為におびただしい血が流れることは皮肉に思えたが――青鬼は立ち塞がるあらゆる全てを叩き潰した。
 命乞いするものを殺し、裏切り者を殺し、争いとは無縁だった場所も、邪魔な領主を消すために攻め込んだ。
 一方で虐げられた人々の領地を解放し、多くの民から忠誠を誓われた。
 法を整備し、犯罪を取り締まる組織を作り、争いばかりだけでなく知を示した。
 後にこの法が青鬼の國の法となるが――それまだ先のこと。
 
 平定のために――大義の為に事をなす。
 妨げる者は血肉で贖う――その天の言葉は、約束された勝利を示していた。
 
 そうして振り返った時には、一帯の土地を平定し、おびただしい犠牲と引き換えに、天から与えられた権利として蒼鬼は一国の国主となった。
 
 争いは苦ではない。むしろ嬉々として暴を振るうのが鬼の性だ。血を見ると本能が沸き立ち、武者震いに襲われ、つい血の気の多さから喧嘩を売り買いしてしまう。
 そんな厄介な鬼の性を憂う事無く振るえる平定という任務は、実に都合が良かった。
 が、戦が終われば天の軍勢は消え去った。
 後に残ったのは、骸転がる戦乱の跡地と、厄介な残党勢力の後始末。
 降伏し見方となったは良いものの、虎視眈々と下克上を狙う不届き者の大群。
 一方で、蒼鬼の才に惚れ込んだ者、飲み込む過程で青鬼の傘下に下った者がいた。
 平定前よりも爆発的に数を増やし、お山の大将からひとつの勢力と呼べるものになっていた。
 
 平定が終われば鬼の里へと戻るつもりだったが、己を慕う民の姿を見て、気紛れな鬼は決断を下す。
 
 ――今からこの一帯は俺の国だ。
 
 やがてその一帯には、多くの領民と臣下が傅く蒼鬼の國が生まれた。
 権謀術数渦巻く一方で、最も豊かな鬼が治める國として名を知らしめることとなる。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...