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第四章 永久機関・オートマタ

第四十七話 最強VS最恐 Ⅱ

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 約一ヵ月程前、カルナックとシュガーは中央大陸のカルナック宅を離れレイ達より早く西大陸へと到着していた。身を潜めながら出来る限り帝国との接触を抑え行動していた二人は慎重に情報収集を進めていた。

 現状帝国が何をしようとしているのか、何処で活動しているのか、そして何より最恐かのじょが一体どこに居るのかを捜索していた。
 
 最初の数日は全く情報が得られなかった、フレデリカ・バーク最恐によって情報統制が行われているのだろう。両者による我慢比べが始まった。

 しかし来る日も来る日も情報は何一つ降りてこない、海上商業組合ギルドを通しても情報が来ないという事はある種の異常事態とも言えた。
 情報戦では帝国側が有利に動いている事、それは事実。
 相手はフレデリカ・バーク最恐、何も情報が無いまま相手の懐に飛び込める訳も無く彼等は焦っていた。何処から攻めてくるのか、どの程度の規模なのか、最大戦力で来るのか細かく分けてくるのか。こちらの消耗を狙うのかは、もしくは再起不能となる一撃を加えてくるのか。

 彼等は何一つ情報が無いまま一ヵ月が過ぎようとしていた。

 事が動いたのはレイ達が西大陸に上陸する三日程前。
 ジグレッド西部にて大規模演習が行われる事が分かった。勿論罠の可能性も高い、それまで何一つ情報が出てこなかった所にいきなりの大規模演習情報。怪しさよりもやっと掴んだ情報に彼等は動かざるえなかった。

 大規模演習にはフレデリカ・バーク最恐も参加する事は分かっていた、向こうが罠を仕掛けているのならソレを踏みつぶして一気に叩くしかないとカルナック達は考えた。
 利き腕を失ったとはいえ彼の師であるシュガーの魔術、カルナックによる法術で戦闘は均衡もしくはこちらが優勢になると迄踏んでいた。そう確信するほどシュガーの力は現存する法術士達を凌駕していた。だがそこに油断が無かったとは言えない。



 歴史はそう語っていたのだから。



 当日。
 ジグレッド西部の荒野地帯に帝国兵三万が集結していた、それらを剥き出しの岩場から見下ろしているカルナックとシュガーは様子を伺っている。
 ショットパーソルによる射撃訓練から包囲殲滅を想定した訓練迄多岐にわたる演習が行われている。兵士の後方にはテントが張られ指揮官と思われる将校達はそこから訓練の一部始終を観察しているようだった。

「さて、どの様に攻めるかのぉ」
「人数が居れば挟み撃ちで両翼から潰していくのが定積でしょう、ですが戦力は私と師匠のみ。向こうの最大戦力はフレデリカ・バーク最恐であると考えて間違いないと思います」
「ふむ、ならば――」

 屈んでいたシュガーはゆっくりと立ち上がり両手に術式を展開して小さな炎を作り出した、同じくして立ち上がりカルナックはシュガーの肩を掴むと同時に二人の姿が消えた。
 そして三万の帝国兵の前方、距離にしておよそ百。突如として現れたカルナック達に帝国兵は驚愕する。

「正面突破じゃな」

 同時に両手を前に放るとシュガーの作り出した炎が巨大な球となって帝国兵達を飲み込んでいった。

「師匠……こういう時は奇襲を仕掛けるのがセオリーではないのでしょうか?」
「だから仕掛けたじゃろう、正面突破と言う名の奇襲を。ほれ、お主もさっさと行かぬか」

 カルナックは軽くため息を付くと左手で愛刀を抜く。相手が混乱している所に向かって大地を蹴って瞬時に接近し即座に切り刻んでいく。声を上げる事すら許さないその速度、まさしく神速と言って良いだろう。利き腕を失ったとして尚その力は健在だった。

 シュガーの言う奇襲の効果は大なり、非常に大なり。

 伝令は間に合わず、遠目からでは法術の演習に見えるだろう。カルナック達を狙うショットパーソルから放たれる発砲音もまた同様だ。演習なのだから実際に法術も使えば銃声も飛び交う。

 故に、その効果は大なり。





 同時刻、カルナック達が奇襲を仕掛けたと同時に違和感を感じた後方の将校達にどよめきが走る。
 騒がしくなるテントの中で一人だけ落ち着いて自身の獲物を磨いている将校が一人、白銀の髪を靡かせ獲物をじっと見つめている深紅の瞳。

 カルナックやエレヴァファル同様「最」の称号を持つアルファセウス英雄最後の一角。



 曰く、出会ってはいけない。

 曰く、見てはいけない。

 曰く、その名を口にしてはいけない。



 曰く、最恐フレデリカ・バーグ




「まだアレを投入していないのにもかかわらず何が起きている!」
「わかりません――突如爆発音が響いた後発砲音が鳴りやみません!」

 赤いエルメアと黄色いエルメアを着た将校が互いに何が起きたのかを確認しようとテントを出ようとした、だがそこに少佐であるにもかかわらず白いエルメア・・・・・・を着たフレデリカ・バーク最恐が制止する。

「外は危ないですよルード大佐、オルデン准将。状況は大体把握しております。撒き餌に食い付いた魚が居るのでしょう、ここまでは私の目論見通りです」
「では説明してもらおう少佐、外では一体何が起きている!」

 フレデリカ・バーク最恐はスッと立ち上がると自身の獲物を幻聖石へと収納させてキャップを深く被りなおす。

「現在外ではカルナック・コンチェルトが我等戦友達と戦っているのでしょう、三日前に流した情報は彼にとっては有力な物だったのですから。私が此処に来ているという本当の情報しんじつを流しただけです」
「待ちたまえ少佐、この演習はアレの起動試験と耐久性を確認する為に皇帝陛下に懇願して実現した物だ。貴様はそれを対最強との舞台にしようと言うのかねっ!」
「はい、いいえ准将閣下。舞台で御座いません、アレの耐久テストは既に済ませてあります。私自ら度重なる法術で攻撃した結果傷一つつける事すらできませんでした。そしてこの場には私が居るのです」

 フレデリカ・バーク最恐に将校二人は戦慄を覚える。

「友が倒された時からこの時をずっと待っておりました、私はこの日が来ることをずっと待っておりました。長年にわたる因縁に終止符を打つ今日に焦がれて来たのです」

 彼女から笑みが零れると周囲の気温が一気に下がった、体内のエーテルを練り上げ周囲のエレメントを大量に取り込む。

「何をするつもりだ貴様――一体何をするつもりなのだ少佐!」
「ご安心ください大佐、お二人方は一度本土へお戻りください。これからここは死地になりましょう。この者がお二人を安全に本国へと帰還させます」

 フレデリカ・バーク最恐の後ろからスッと影のように現れた青年がニコリと笑う、オルデン准将とルード大佐は揃って一歩後ろへ下がってしまう程の異質を見た。

「任せましたよマイク、無事に本国へと送り届けなさい」
「貴様、マイク・ガンガゾ――」

 オルデン准将がその名前を言い切る前にフレデリカが法術を発動させる。巨大な氷壁を作り上げるとそこに巨大な炎がぶつかった。ほぼ同時にマイク・ガンガゾンと二人の将校は姿をその場から消えた。

「――あぁ、逢いたかったわ。あの日から焦がれ焦がれ待ちに待った今日この日、やっと貴方に会えることが出来た。今日を記念日にしたい位ね」

 氷塊にぶつかった炎は更に温度を上昇させ、赤から黄色へと変化していく。急速に上がった温度によって氷塊は徐々に溶解していく。

「さぁ始めましょう、私達の戦いを。あの日の続きをっ! エレヴァファル・アグレメント最狂と分かち合った「最」を決めましょうっ!」

 氷塊が全て溶け切ると炎がフレデリカに襲い掛かる、しかしその炎が彼女に届くことは無かった。瞬間的にその炎全てを凍らせた。圧倒的なエーテル量がフレデリカを中心溢れだし、まるでその周辺の時間だけが止まったかな様に静かになった。

 そして、氷塊へと化した炎が割れる。

「――会いたかったわ最強っ!カルナック」「――終わりにしましょう最恐フレデリカ

 まるで恋焦がれた少女のように頬を染めるフレデリカ・バーク最恐と、三万の帝国兵を全て薙ぎ払ったカルナック・コンチェルト最強が西大陸の荒野で対峙した。
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