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第四章 永久機関・オートマタ
第四十三話 多重剣聖結界 Ⅲ
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「炎帝剣聖結界――ッ!?」
ミトの目に移ったソレは悲壮感と呼ぶにふさわしかった。大量にエーテルを消費し自身の身体能力を底上げするカルナックが編み出した奥義。門下であれば伝えられる技だったが今となっては帝国にもその術は間違いなく伝わっていた。
フレデリカ・バークによって作られた直属の旅団、言うなれば彼女の尖兵であった。その兵士が使えない筈はない。トリガーポイントさえ刺激してしまえば後は自身との闘いとなる術をあのフレデリカ・バークが伝授しない訳が無かった。
ラストアルファセウス――いや、あの女は間違いなく最恐だとミトとレイは感じ取った。自身の為ならどんな手段でも使う。元より剣聖結界の代償はレイが一番理解している。一度そのエーテルに身が焼かれてしまえば人として元に戻ってくることは許されない禁術である、それがエーテル量の大小もそうだが術師としての資質が物を言うその禁忌。
「フレデリカ・バーク……なんてことをっ!」
「あぁそうだ、剣聖結界を無事に会得できるまでに人ならざる者になった数は多い。今帝国でもコレが使える人間がどれほどいるか分かるか剣聖――気が狂いそうになるよなぁ!」
多重剣聖結界を発動させている最中、目の前で起こったソレはレイの心象を揺さぶるには安易だった。僅かなコントロールのブレが術者に多大なる負荷を与える。グラブの狙いとしてはまさに成功していた。
「そうだとも! あの人の所為で死んでいった仲間がどれほどいると思う、どれだけの同僚が俺の目の前で化け物になり果てたと思ってる! そもそもこんな術を編み出した剣老院もあの人同様の化物だ! そしてその門下に居る剣聖、貴様も人ならざる存在だ!」
「帝国兵が僕達の事を化物だなんてどの口が言うんだ、アンタ達がしてきた事忘れたとは言わせない!」
「それだ、それがテメェらがガキだと言う証拠でありこの星の寿命を縮める原因だ!」
「何をいって――」
レイが言い終わる前にグラブが動いた、同じように瞬間的に気配が消えて超高速で移動してくる。しかし暴風剣聖結界と氷雪剣聖結界を同時に発動させているレイには察知していた。
右手に握る霊剣を正面で構え迎撃の準備へと移る、同時に霊剣に重圧が加わった感触が手を伝わってきた。
「人ならざる者が人間を語るな剣聖、テメェらのその歪んだ正義がこの星の寿命を縮めてる事に何故気付かない! 気付く事すらできねぇならその腐りきった幻想と共に星の養分となれ!」
「黙れ、訳の分からない事を唯々諾々と語るな帝国! アンタらの言う正義がこの星に住む人々の命を奪ったんだ、人殺しにどこに正義があるんだ!」
「ソレが分からないから餓鬼だと言うんだ、何も知らないテメェらが人を語るな。この星を語るなっ!」
グラブの剣圧が徐々に力を増していく、ゆっくりと押され始める霊剣に圧倒されながらも両足に力を入れて押し返し始める。ぶつかり合う金属音が周囲に広がって反響を繰り返した。
「終わりにしよう剣聖、テメェの力じゃフレデリカ・バークには通用しねぇ。今頃剣老院も星の養分になってる頃だろうよ!」
「――っ! 先生が負けるはずない、あの人が負けるはずないっ!!」
不意に出た師の名前に力が入る、エーテルを極限まで消費しているレイの何処にそんな力が残されているのかと疑問に思える程の出力だった。そしてついに均衡は崩れグラブの剣をはじき、相手共々薙ぎ払った。
弾かれたグラブは一度体制を崩し空中に薙ぎ払われたが着地する頃には足から地に付いた。もう一度剣を構えてレイを睨む。
「だが終わりだ、その様子じゃもう数分と持たないだろ。剣聖結界がどれほど自分の体に負荷をかけるかは俺が良く理解してる。そろそろ術を解いて楽になれ剣聖」
グラブの言う事は正しかった、多重剣聖結界で消費したエーテルは術者であれば致死量をまもなく迎える。証拠にレイの視界はかすみ始め立っていることがやっとの状態であった。もって残り五分弱、その間に消費量がまだ浅いグラブを倒す事は難しい。そうグラブの目には見えた。同じくミトにもその様に映っていた。
「レイ!」
自分が動けば、二人の一騎打ちに割って入れば確実にグラブに殺される事を理解していたミトは何もすることが出来ずにいた。しかし目の前で死に掛けているレイの姿を見て声を出さずにはいられなかった。
「慌てるなよお嬢ちゃん、次はアンタだ」
にっこりと笑いながらグラブはミトを見た。それがいけなかった。
その一言、ミトに初めて向けられた殺気にレイのタガが外れる。それ以上の力を使えばどうなるか分かった物ではない上での覚悟、自分の力不足によって引き起こされたこの無惨な現状を打開する為に浮かんだ策。
「――駄目だな僕は」
「やっと折れてくれたか剣聖、こっちも仕事が楽になって助かるぜ」
「自分の力不足を痛感した上に、もう一度あんな思いをするのかと思うと心底嫌になる。今のままでどうにかならないならもう頼るしかないじゃないか」
正面に構えていた霊剣をゆっくりと下す、軋む体に鞭を打って一度大きく深呼吸を入れると再び霊剣を横一杯にして構えた。グラブはその行動の意図を理解できず、同時に再び畏怖した。目の前の小さな子供の体から巻き上がる異質なエーテルの存在に恐怖した。
「――テメェ、本当に化け物だったんじゃねぇのか?」
「化け物で結構、僕の所為でまた誰かが傷つき、苦しみ、命が奪われるというのなら――僕はこの二百五十二秒に全てをかける」
レイの周囲に緊張が走る。
冷たすぎるその緊張はグラブの体を直接蝕んでいく、精神寒波に乗せられたおびただしいまでの殺気と感じた事の無い大量のエーテル反応。無意識のうちに右足が後ろに下がっていたことをこの時点でグラブは気付いていない。
恐ろしいまでの反応にグラブは体を硬直したまま動かすことが出来ずにいた、今目の前で起きている現象と人ならざる者が本当に誕生する瞬間を目撃することになる。
「何者なんだ、テメェ本当は何者なんだ剣聖ぇぇぇ!」
おびえ切ったグラブは叫ぶ、その声が自身の耳に届き一瞬体全体を覆っていた呪縛の様な感覚が解けると一目散にレイへと飛び掛かった。意識を保っているのが困難な程濃密な精神寒波の中自身の炎帝剣聖結界を再活性させて決死の攻撃を仕掛けてくる。
「――厄災剣聖結界」
ミトの目に移ったソレは悲壮感と呼ぶにふさわしかった。大量にエーテルを消費し自身の身体能力を底上げするカルナックが編み出した奥義。門下であれば伝えられる技だったが今となっては帝国にもその術は間違いなく伝わっていた。
フレデリカ・バークによって作られた直属の旅団、言うなれば彼女の尖兵であった。その兵士が使えない筈はない。トリガーポイントさえ刺激してしまえば後は自身との闘いとなる術をあのフレデリカ・バークが伝授しない訳が無かった。
ラストアルファセウス――いや、あの女は間違いなく最恐だとミトとレイは感じ取った。自身の為ならどんな手段でも使う。元より剣聖結界の代償はレイが一番理解している。一度そのエーテルに身が焼かれてしまえば人として元に戻ってくることは許されない禁術である、それがエーテル量の大小もそうだが術師としての資質が物を言うその禁忌。
「フレデリカ・バーク……なんてことをっ!」
「あぁそうだ、剣聖結界を無事に会得できるまでに人ならざる者になった数は多い。今帝国でもコレが使える人間がどれほどいるか分かるか剣聖――気が狂いそうになるよなぁ!」
多重剣聖結界を発動させている最中、目の前で起こったソレはレイの心象を揺さぶるには安易だった。僅かなコントロールのブレが術者に多大なる負荷を与える。グラブの狙いとしてはまさに成功していた。
「そうだとも! あの人の所為で死んでいった仲間がどれほどいると思う、どれだけの同僚が俺の目の前で化け物になり果てたと思ってる! そもそもこんな術を編み出した剣老院もあの人同様の化物だ! そしてその門下に居る剣聖、貴様も人ならざる存在だ!」
「帝国兵が僕達の事を化物だなんてどの口が言うんだ、アンタ達がしてきた事忘れたとは言わせない!」
「それだ、それがテメェらがガキだと言う証拠でありこの星の寿命を縮める原因だ!」
「何をいって――」
レイが言い終わる前にグラブが動いた、同じように瞬間的に気配が消えて超高速で移動してくる。しかし暴風剣聖結界と氷雪剣聖結界を同時に発動させているレイには察知していた。
右手に握る霊剣を正面で構え迎撃の準備へと移る、同時に霊剣に重圧が加わった感触が手を伝わってきた。
「人ならざる者が人間を語るな剣聖、テメェらのその歪んだ正義がこの星の寿命を縮めてる事に何故気付かない! 気付く事すらできねぇならその腐りきった幻想と共に星の養分となれ!」
「黙れ、訳の分からない事を唯々諾々と語るな帝国! アンタらの言う正義がこの星に住む人々の命を奪ったんだ、人殺しにどこに正義があるんだ!」
「ソレが分からないから餓鬼だと言うんだ、何も知らないテメェらが人を語るな。この星を語るなっ!」
グラブの剣圧が徐々に力を増していく、ゆっくりと押され始める霊剣に圧倒されながらも両足に力を入れて押し返し始める。ぶつかり合う金属音が周囲に広がって反響を繰り返した。
「終わりにしよう剣聖、テメェの力じゃフレデリカ・バークには通用しねぇ。今頃剣老院も星の養分になってる頃だろうよ!」
「――っ! 先生が負けるはずない、あの人が負けるはずないっ!!」
不意に出た師の名前に力が入る、エーテルを極限まで消費しているレイの何処にそんな力が残されているのかと疑問に思える程の出力だった。そしてついに均衡は崩れグラブの剣をはじき、相手共々薙ぎ払った。
弾かれたグラブは一度体制を崩し空中に薙ぎ払われたが着地する頃には足から地に付いた。もう一度剣を構えてレイを睨む。
「だが終わりだ、その様子じゃもう数分と持たないだろ。剣聖結界がどれほど自分の体に負荷をかけるかは俺が良く理解してる。そろそろ術を解いて楽になれ剣聖」
グラブの言う事は正しかった、多重剣聖結界で消費したエーテルは術者であれば致死量をまもなく迎える。証拠にレイの視界はかすみ始め立っていることがやっとの状態であった。もって残り五分弱、その間に消費量がまだ浅いグラブを倒す事は難しい。そうグラブの目には見えた。同じくミトにもその様に映っていた。
「レイ!」
自分が動けば、二人の一騎打ちに割って入れば確実にグラブに殺される事を理解していたミトは何もすることが出来ずにいた。しかし目の前で死に掛けているレイの姿を見て声を出さずにはいられなかった。
「慌てるなよお嬢ちゃん、次はアンタだ」
にっこりと笑いながらグラブはミトを見た。それがいけなかった。
その一言、ミトに初めて向けられた殺気にレイのタガが外れる。それ以上の力を使えばどうなるか分かった物ではない上での覚悟、自分の力不足によって引き起こされたこの無惨な現状を打開する為に浮かんだ策。
「――駄目だな僕は」
「やっと折れてくれたか剣聖、こっちも仕事が楽になって助かるぜ」
「自分の力不足を痛感した上に、もう一度あんな思いをするのかと思うと心底嫌になる。今のままでどうにかならないならもう頼るしかないじゃないか」
正面に構えていた霊剣をゆっくりと下す、軋む体に鞭を打って一度大きく深呼吸を入れると再び霊剣を横一杯にして構えた。グラブはその行動の意図を理解できず、同時に再び畏怖した。目の前の小さな子供の体から巻き上がる異質なエーテルの存在に恐怖した。
「――テメェ、本当に化け物だったんじゃねぇのか?」
「化け物で結構、僕の所為でまた誰かが傷つき、苦しみ、命が奪われるというのなら――僕はこの二百五十二秒に全てをかける」
レイの周囲に緊張が走る。
冷たすぎるその緊張はグラブの体を直接蝕んでいく、精神寒波に乗せられたおびただしいまでの殺気と感じた事の無い大量のエーテル反応。無意識のうちに右足が後ろに下がっていたことをこの時点でグラブは気付いていない。
恐ろしいまでの反応にグラブは体を硬直したまま動かすことが出来ずにいた、今目の前で起きている現象と人ならざる者が本当に誕生する瞬間を目撃することになる。
「何者なんだ、テメェ本当は何者なんだ剣聖ぇぇぇ!」
おびえ切ったグラブは叫ぶ、その声が自身の耳に届き一瞬体全体を覆っていた呪縛の様な感覚が解けると一目散にレイへと飛び掛かった。意識を保っているのが困難な程濃密な精神寒波の中自身の炎帝剣聖結界を再活性させて決死の攻撃を仕掛けてくる。
「――厄災剣聖結界」
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