『この星で、最後の愛を語る。』~The Phantom World War~

青葉かなん

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第四章 永久機関・オートマタ

第四十一話 帝国遊撃師団ゾルベック Ⅲ

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 レイ・フォワード率いるFOS軍が明朝出発することを決めその作業を急いでいた一方。帝国の方もまた同様に動きが慌ただしくなっていた。
 フレデリカ・バーク最恐率いる遊撃旅団ゾルベックのリーダー「グラブ」は彼等の動向を探るべく一路カルバリアントへと出発していた。引き連れている兵力は二十。少数ではあるが精鋭部隊である。
 レイ達の予測はあながち間違ってはいなかった、フレデリカ・バーク最恐剣老院カルナックと対峙し現在戦闘中である。その戦いは今日で六日目、均衡を保っている現在アルファセウス同士の戦いと言う事もあり加勢する事も出来ずにいた。間違っても加勢しようものなら瞬間的に蒸発させられる。現に二日目に痺れを切らした数名の兵士が突撃したがシュガーによってチリすら残らなかった。

「あんな連中化け物に付き合う必要はねぇ、こっちの身がいくらあっても足りねぇんだ」
「ですが大尉、相手は剣老院カルナックです。それに隣にいたあの少女も侮れません、やはり我々も加勢すべきでは?」
「馬鹿かテメェは、衝突二日目の事を忘れたとは言わせんぞ。あの餓鬼――あのナリだがまともにやり合えるのは家の大隊長位なもんだ、片腕を失っても尚アルファセウスだって事を忘れるな。それにな――」

 軍帽を深く直したグラブがその戦闘を遠目で見ていた事を鮮明に思い出しながら部下の具申を一蹴する、奪取した蒸気機関アクセルに乗ってジグレッドから移動してる最中の事だった。そして同席している部下達に忠告するように。

「コレからやり合う俺達のターゲット餓鬼どものリーダーは現剣聖だ、あのカルナックの弟子で認めた戦力だ。子供だと侮っているとテメェらだって確実に殺されるぞ、気を引き締めて行け」
「自分には大尉が言う程の連中には思えません、どう見てもただの餓鬼共じゃ無いですか。大隊長殿も仰ってましたがそれ程の強さを持っているのですか?」
「テメェの意見具申はこれで何度目だ? この際だお前等よく聞け。勘違いしてる奴も他に居るかもしれねぇが剣聖って言うのはその肩書だけで十分すぎる脅威だ。先の剣帝序列筆頭だったレイヴン・イフリートを覚えているだろう。かのエレヴァファル・アグレメント最狂と行動を共にしてた奴もまたカルナックの弟子だった。それを凌駕する力だと言えば頭空っぽのテメェらにも分かるだろう。本気を出せばエレヴァファル・アグレメント最狂と同等かとも謳われた旧序列筆頭、その上に位置するのが剣聖だ」

 グラブの言葉には説得力があった。
 帝国が保有する戦力の内、半分はエレヴァファル・アグレメント最狂が率いた部隊でありそれをレイ達は打倒した。コレが何を意味するのかは帝国兵でなくとも理解はできる。
 つまるところ、レイ達自身はそこまで気にはしていないが帝国からすれば彼等は脅威そのもの。現有戦力の半分を削られた帝国が焦る理由もそこにあった。それも年端の行かない子供の集団によって倒されてしまったのだ。可能な限り暗殺を目論んだ帝国だったがレイの索敵能力と感知能力がそれらを許すことは無かった。

 剣聖結界インストール時の感知能力は先の戦いでも分かる通りだ、自信が保有する間合いから周囲に伸ばした索敵エリアまでを完全にカバーし瞬間的に防御に移れる。
 レイが感知した後ギズーが指示に従い超長距離射撃を行い、ガズルによる戦略で包囲網は突破され、アデル単騎による突撃は効果を得た。詰まる所彼等はたったの四人で自己防衛から索敵、一点突破からの離脱までこなせる言わば化け物達だ。
 帝国が恐れるのも無理はない、たったの四人に向けられる戦力は正直限られているからだ。周辺で起きてる小競り合い中の中から引き抜こうにもそれは許されないのが今の帝国側の現状でもあった。特に東大陸との戦闘は大人しい西に比べれば激化を極めていた。
 投入されていたゾルベックですら均衡を保つのが精一杯だった。しかしそれはグラブとダルの二名体制だった時の話。そこへ投入されたのがマイク・ガンガゾンだった。

「分かってるとは思うがあの狂犬マイク・ガンガゾンにだけは逆らうな、大隊長が連れてきた男だからってのもあるが味方にまで牙を向きかねないイカレ野郎だ。東大陸で俺達が均衡を保っていたのが一瞬で優勢に変わったのを忘れるな。アレはアレでアルファセウスとはまた違う化け物だ」

 内心グラブは恐怖を覚えていた。
 あの戦闘能力とセンス、そして殲滅速度は人間のソレ・・を遥かに超えているものだと瞬間的に理解したのだ。またそれは一緒に居たダルも同じだった。
 彼等は任務で人を殺す。が、マイクはそうではない。
 人間誰だって人を殺す瞬間は躊躇したりするものだ、それがマイクには一切見られなかった。むしろ殺戮を楽しんでいるかのようにも思えた。それがマイクとダルには気に食わない事だった。
 帝国の敵となるのであれば祖国にささげたその命だ、いくらでも投じる覚悟はある。敵であるならば罪悪感も多少薄れる。だが無関係な一般市民に対してはその限りではない。
 だが、マイクは違った。
 殺人を楽しみ、人殺しに快楽を覚え、その高揚に身を委ねていく。それ故に付けられた二つ名が殺戮永久機関キラーマシンだった。グラブ達も帝国に上がってくる噂程度ではあったがマイクの事はもちろん知っていた。しかし噂には大体尾ひれがついて回るものと相場が決まっている。だからこそ最初は甘く見ていた所があった。

 ところがいざ戦闘が始まってみればどうだったか。
 噂所の話では無かった。
 それこそが真実で、真実が目の前に居て、目の前に居るマイクこそが真実だった。

 眼前に現れる敵は一切合切有象無象の区別なく殺していった。
 それがマイクの美学でもあり、拘りであり、彼の世界だったからだ。それを把握するのにグラブ達は時間が掛かった。絶命している筈の敵に向かいシフトパーソルを何度も何度も打ち続け、頭部は勿論、腕、足、胸部、腹部に至るまでありとあらゆる箇所を破壊した。そうまでしないと彼の中で「殺し」として定義されなかったのだった。それが目の前で行われている現状に二人は恐怖した。

「世間じゃ殺戮永久機関キラーマシンなんて呼ばれているが、俺から言わせればあんなものはただの狂った犬――狂犬ばけものだ。文字通りの意味を含めてな」

 そして一カ月半前、彼等二人が目撃した一般市民の大量虐殺。ケープバレーで起きたあの一件だった。

「大隊長殿は笑って居たが俺には理解できねぇ」
「大尉殿、それ以上は祖国批判となります。おやめください」
「馬鹿言ってんじゃねぇ、我が身可愛さで乗ったこの線路は途中で降りる事は許されねぇんだよ。俺はまだ一般人だと思い込んでる。テメェらもあんな風にはなるなって言ってるんだ」
「しかし大尉殿っ!」

 そこでグラブは口を詰むんだ、今自分が何を言おうとしていたのかを部下に諭される形だったことに気付いたのだ。

「――はっはっは、すまねぇな。少しばっかりナーバスになってるみてぇだ、それも仕方ねぇさ。誰だって人殺しをしたい訳じゃねぇ、そんなものは一部の狂った戦争屋共に任せて俺達は唯々自分達の保身のために「命令」を遂行すればいい。忘れてくれ」

 そう、グラブはまだ自制の効いた一般人と差支えは無かった。
 
 もとよりこの戦争、誰が得をするのだろうとグラブは常々考えていた。
 帝国が戦火を広げれば広げる程、この星は衰退していく始末。帝国本土も一年を通して極寒の閉ざされた国だ。確かに資源は少ないが戦火を広げる程衰退している訳でもない。ましてやこの戦争を続ければ続ける程帝国本土は衰弱していくようにも見えていた。だからこその疑問だった。
 だが、彼もまた軍人。命令と有れば東西南北何処へでも赴き戦闘を行う。それが彼等遊撃旅団の仕事。
 自分の命可愛さとグラブは言うが、部下達は決してその真偽を疑う事はしなかった。彼等も分かっていたのだ。
 戦場に向かえば殺し合いが待っている。殺した殺されたの世界で次は自分の番かもしれない。それが分からない彼等では無かった。
 それはまだ彼等が一般的な常識を理解していて、彼等が何をしているのかが分かっているからだ。分かっているからこそ冷静でいられる。命令だからと自分自身に言い聞かせ自分が殺されない為にも、死なない為に戦っているのだと理解しているつもりだった。

「大尉殿は我々を励まそうとしておられる、貴様等分かっているなっ!?」

 狭い蒸気機関アクセルの一室で歓声が上がった。
 彼等は理解していた、もしかしたら自分達が死ぬかもしれないという事を。
 彼等は理解していた、この世界がクソッタレだと言う事を。
 彼等は理解していた。

 実は、帝国はもう詰んでいるのではないかと言う事を。

「仕方ねぇなテメェら、覚悟できてる奴から飯行ってこい。明日死ぬかもしれねぇ我が身だ。昔の言葉でいう所の最後の晩餐ラスト・オーダーだ、美味いモンを大量に拝借してきてある。騒げ飲め食えっ!」

 逆に自分が勇気付けられたのだと理解したグラブは、自分達の部下にそう告げると立ち上がり食堂車へと移動した。その表情は笑顔で明日死ぬかもしれないという何処か寂しい一面も一緒に見られた。
 だからこそこういう人間はとても強いとも言われている。それが彼の力でありこの部隊の強さなのかもしれない。




 決戦はカルバリアント、西大陸一美しいと言われる水と水蒸気の都。
 双方の蒸気機関アクセルは一日遅れで対峙することになる。決戦の当日どちらが勝つかは現状分からない。剣聖レイ・フォワード率いるFOS軍か、はたまたフレデリカ・バーク最恐が遊撃旅団ゾルベックか。
 明日、この地で戦争が始まる。
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