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第四章 永久機関・オートマタ

第四十一話 帝国遊撃師団ゾルベック Ⅰ

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 話し合いの結果、彼等と海上商業組合ギルドは正式な同盟を組むことになった。
 海上商業組合が提供するものは現状の技術全て、そして膨大な資金に資材。その中には前世代の蒸気機関車アクセルも含まれていた。現在仮ではあるが拠点を置かしてもらう事になる西支部から彼らが目指すジグレッドまではカルバリアントを経由して行かなければならない。その理由が西大陸特有の地形にあった。

 西大陸は過去の大戦時における中心地グラウンド・ゼロであり、二千年経った今でもその傷跡は残されている。濃すぎるエーテル反応によって溶解した大地、底が見えないほど深い峡谷といった自然のバリケードがいくつも存在している。同時に南北に延びる西大陸特有の地形も相まって移動はほぼ船か蒸気機関が主流となっていた。
 ここで彼等を悩ませたのがその地形だった。ジグレッドへ向かうには溶解し今でも熱源を帯びている灼熱地帯を通り、峡谷を渡るルート。そしてもう一つが蒸気機関で移動できるルートの二つである。
 船での移動も当初考えられてはいたが、帝国が海を見張っている可能性は十二分に考慮できる。加えて船が大破した時のことを考えると海での移動は困難なものになると結論付けられた。

 だが陸地を移動するのも同時にいくつもの困難が予想される。
 彼らが西大陸に移動したことはすでに帝国側も予測しているだろう、それ故の賞金だとガズルは予想している。つまり陸地を進も海を進もどちらも危険であることに変わりはない。それでもまだ陸地であれば何かあっても逃げることはできる。

 では、現在彼らを悩ませている現状を整理しよう。
 どちらも移動するにあたって非戦闘員が混じっていることがまず念頭に置かれる。海上商業組合も武装はしているがその大半は素人も同然であり、特別訓練を受けた戦闘員は皆無である。言うなれば非戦闘員を守りながら移動することになる。今までの彼等から経験則を言えば「どうしても犠牲者は出る」である。
 ある程度の覚悟はして貰わなければならない点、同時に蒸気機関内でもしも戦闘が起きた場合に考えられる事として。

「レイやアデルは使い物にならないと考えていいだろう、こんな狭い中でお前ら剣なんて振れないだろ」

 とガズルが自分達が乗車する蒸気機関車の中を見ながら答えた。

「こんなに狭いとは思わなかった、それでも移動速度を考えたらこれが一番手っ取り早いんだろうけど」

 同じくレイが車内を見て答える。霊剣もそうだがアデルのグルブエレスやツインシグナルも振り回すには狭すぎると思われる、見物に来た彼等が等しく頭を抱えているとギズーがため息を漏らしながら一言。

「だからシフトパーソルをまともに撃てるようにしておけと言っただろボケ共が、いいか? 昨今の戦闘で物をいうのは遠距離攻撃だ、ましてや集団戦となれば適当に発砲しても大体はドレかに当たる。しかしだ、こんな狭い中じゃでたらめに撃ったところで遮蔽物に当たるか外れるかのどれかだ」

 そう言いながら懐から予備のシフトパーソルを取り出してレイとアデルに手渡す。

「一度しか言わねぇぞ、弾倉は六発。旧式だが威力は主流になりつつあるオートマチックに比べれば高い、だが再装填リロードが手間だから時間はかかる。いざって時以外は無暗に使うな」

 回転式弾倉のシフトパーソルを手に取る二人、信号弾を打てる一発型のシフトパーソルとは違った重さがある。グリップ部分はきれいな装飾が施されているが握りやすく整備も行き届いている。ギズーから予備の弾薬を受け取るとそれぞれがポケットへとしまう。

「弾丸は四四口径、発砲時の衝撃は言うまでもないがきちんと両手で握って撃て。素人が片手で撃つと腕持ってかれるからな。狙いを定めたらそのまま引き金を引いてもいいが大体外れる。最初に必ず親指のところにある撃鉄を起こすんだ。そうすれば引き金が奥までもぐりこむから後は少し絞ればブレずに撃てる」
「再装填はどうすればいいんだ?」
「お前に渡した分は右手親指の部分に押し込む部分がある、ソレを押せば弾倉が横に飛び出てくるから空薬莢を排出しろ。逆にレイに渡した奴は少し特殊で発射口付近にスライドさせるバーがある。それを手前に押せば薬莢を排出できる。ただし一発ずつしか出せないから気を付けろ」

 簡単に説明を受けるレイとアデルは構造をある程度理解した後手渡されたホルスターを腰に巻き、シフトパーソルを刺した。

「あぁ、それとレイに限っての話だが蒸気機関に乗ってる間は法術禁止な」
「どうして?」
「蒸気機関は文字通り蒸気を主動源としてるから氷の法術とは相性が悪いんだ。下手に機関部を凍らせたら止まる可能性が高い、だからお前は乗車中法術禁止」
「風法術は?」
「それなら構わないけど、お前の風法術って原則剣技の補助として使うだろ。霊剣が使えない状況で風法術何か使えるのか?」

 忠告するガズルに疑問をぶつけるレイだったが、確かにその通りであった。蒸気を利用して動かす動力源に「冷やす」行為はご法度だ、先を急ぐ一行としては再び炉に火を入れてる時間を考えれば止まる事は最善ではない。

「それで、どう別れるつもり?」

 男たちのやり取りを後ろで見ていたミトが発現する、両手を組んで準備を進めている彼等の後ろ姿と海上商業組合の組員がせわしなく動いている光景を静かに見ていた。

「今考えてるのはレイ、アデル、ミト、ミラの四人。俺とギズーとファリックの三人チームだ」
「理由は?」
「お前達四人チームはそのまま蒸気機関に乗ってジグレッド一つ手前の街で降りて貰う。俺達は自動二輪型移動装置スティンガーで海岸線を北上、そのままジグレッドへと向かう。機動力は俺達迂回路チームの方が融通は利くし隠密行動は遠距離攻撃が出来るギズーとファリックにはもってこいだ。どちらかって言うと俺達が本命でお前たちは囮みたいなもんだ」

 忘れてはいけない、彼等が現在第一目標として掲げているのはプリムラの救出と合流。もしカルバリアントで合流が出来ればソレで良し、できなければ帝国領になっているジグレッドに捕まっている可能性。その救出になる。

「剣聖と序列筆頭を囮に使うなんて随分豪華だよね」

 海上商業組合から受け取った地図を眺めながらミラが笑顔で話す、ファリックもそれに同意して自分の獲物の手入れをしていた。

「文字通りの囮だ、最大戦力をそっちに回したのは存分に暴れて欲しいってのもある。お前達が暴れれば暴れる程こっちのミッションが楽になる。フレデリカ・バーク最恐が出てくればどうなるか分からねぇが雑兵だけならお前等が負ける要素はねぇ」

 同じく自分のシフトパーソルを整備し始めたギズーが編成について説明を付け加える、その言葉に先の会議であった気になる話をファリックが持ち出す。

「でも、イレギュラーなのはフレデリカ・バーク最恐だけじゃなくて例の奴ら・・・・もだよね?」
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