『この星で、最後の愛を語る。』~The Phantom World War~

青葉かなん

文字の大きさ
上 下
119 / 146
第四章 永久機関・オートマタ

第四十話 蒸気機関の街「リトル・グリーン」 Ⅲ

しおりを挟む
 部屋を後にした三人は近くの椅子に腰を掛ける。
 アデルはあまり見た事の無いレイの姿に動揺し右往左往している、その間ミトはレイに言葉をかけ続けた。

「大丈夫?」
「……うん、ちょっとだけ取り乱した」
「アレがちょっとね、剣聖の名前は本当に伊達じゃないのね」
「そんな事は無いよ、本音を言えばまだ僕に先生の後を継ぐ資格なんて無いしまだまだ未熟者だ。さっきだって感情を抑えきれずエーテルが暴れた。先生が居たら何て言うか」
「何でもかんでも背負い込み過ぎ、隣を見てみなよ」

 両手で顔を覆うレイにミトが左側を指さして見せた。慌てふためくアデルの姿があまりにも滑稽で可笑しかったからだ。ゆっくりと顔を上げて指さす方へ目線を向けるレイ。

「何してんだよアデル」
「だってお前、いきなり氷結剣聖結界ヴォーパル・インストールなんて使うし周りに俺達もいたのに精神寒波は放つしでびっくりするだろう!」
「そうだよね、びっくりしたよね。僕だって驚いたんだ。感情に負けそうになっても何とか冷静になろうって思って、それでも体の底から湧き上がる感情には勝てなかった。暴走するってきっとこんな感じなんだろうなって少しだけ怖くなった。それでも僕は許せなかった」
「確かに俺も許せねぇと思ったさ。でもよ、ギズーが言っただろう。お前だけはこっち側に来るなって、アレはお前の為を思って言ったんだ」
「分かってる、でも僕達はチームだ、僕だけ汚れ役をやらないってのは違うだろうアデル。それじゃまるで僕もあいつ等と同じになっちゃうんだ」

 そう、ギズーのあの一言で我に返ったレイ。お前だけはこっち側に来るな。ギズーがそう願いそう言い聞かせるように放った一言だった。その言葉にレイは少なからずショックを受けていた。
 共に困難を突破し、共に笑い共に進んで来た仲間である彼等だ。皆が皆同じ経験をしてこの先も歩んでいくものだとレイは思って居ただけにあの言葉が心に刺さった。

「僕達は何をするも常に一緒だった、一緒だったからこそ進んで来た道があると思って居たんだ。だから僕だけが手を汚さないなんて許されるはずがないんだ」
「違うよレイ、そうじゃない」

 落ち込むレイに再びミトが声を掛ける。

「ギズーが言ったのはね、お前だけはこっち側に来るなでしょ? それはきっと感情のまま動いてはいけないって事なんだと思う。アデルやガズル、ギズーは勿論だけど少なくとも感情で人を傷つけようとしたことが有るんだと思う。君は今私達のリーダーなんだよ、だから冷静に状況を分析しなくちゃいけない。だから感情のままに動いちゃダメ、君が私達を取りまとめないといけない。そう言う意味なんじゃないかな」

 真剣な表情の裏にレイを心配する一面が残るミトがそこに居た。ガズルもギズーもアデルも、いや、少なくとも人であれば感情のまま動く事も少なくはない、だがそれでは大局を見失う事もあるのも事実で、リーダーとして負うべき責任は他にある。

「君はさっき何を言おうとしたのか覚えてる? 私はまだ付き合い短いけど、何度もギズーに言ってたよね。むやみに人を殺してはいけない、感情のまま引き金を引いてはいけないって。ギズーはあんな風に見えて君の言葉ちゃんと理解して守って来てると思うよ。だから君が破ってはダメ」

 そこでレイはさっき自分が何を言おうとしたのか、何をしようとしたのかを改めて思い出す。そう、相手の言葉に煽られたかもしれないが後一歩アデルとギズーの対応が遅かったら間違いなくガイを殺していたかもしれない。無防備な状態で精神寒波を直接受ければどうなるか、彼等はよく知っている。身動きできなくなったところに大量のエーテルをぶつけ氷漬けにさせる事だって可能だ。

 ギズーはそこまで理解して瞬時に動いていた。
 アデルの傍に座っていたという事も相まって直ぐに動けたのだ、勿論ガズルもすぐさま止めようとしていたがレイの真後ろに座っていた為アデルから少し距離があり、先に動けたのはギズーの方だった。

「そうだぜ、あのまま暴走させてたら俺の炎帝剣聖結界ヴォルカニック・インストールも維持できなくなってただろうし、何より危ない所だったんだ。ギズーの咄嗟の判断に感謝しないといけないんだぜレイ」
「――僕は」
「でも気に病むな、誰も皆万能じゃない。俺だってキレる時はキレるしガズルもプッツンしたら手に負えなくなる。ギズーに関していえば言わずもがなだろ。だから今回お前がキレた事をとやかく言う奴なんていねぇさ。心配するな」
「――それでも、それでも僕はっ!」

 涙が溢れだした。
 ガイの言う事が正しければ現状彼等のポジションは危ういバランスで立っている、そこに海上商業組合ギルドの後ろ盾を無くすようなことになれば、ましてや海上商業組合からも狙われるようなことが起きれば皆の命にだって関わってくる。ソレを実感した瞬間レイの瞳から涙が溢れ始めた。

「僕は、皆をこれ以上危険に晒すところだった! 僕は――っ!」

 頬を伝わる涙はレイのズボンにポタリ、ポタリと落ちていく。アデルは自分達のリーダーがこれ程までに自分達を気にしていた事、きっとあの日メリアタウンで戦死した彼等の墓標の前で流した涙の時からずっと抱え込んでいたのかと、二つも年下の少年に何もかも背負わせていたのかと悔やんだ。

「馬鹿が、俺達の事信用してるならもっと頼れよ。お前一人に何もかも押し付ける何てことさせねぇよ。俺達七人全員でFOS軍だ。俺達は一心同体だけどお前だけはもっと気楽に生きて良いんだ」
「そうよレイ、何もかも全部背負い込む必要は無いんだよ。だから大丈夫、大丈夫だから」

 ギズーの言う情緒不安定とはきっとこの事だろうとミトは思った、そこまで考えてあの場所から連れ出す様に言ったのかと、彼の事を一番に考えるギズーだからこそ咄嗟にそう考えたのだろうかと思った。そう思わざるえなかった。



 話し合いが終わったのはそれから二時間が経過した辺りだった。
 ゆっくりとドアが開いて中からガズルとギズーが何かを話しながら出てくる。その後ろからミラとファリックが疲労を隠せない表情で出てくると、最後にガイが神妙な面持ちで出てくる。

「終わったぞレイ、少しは休めたか?」
「ギズー……ごめん」
「気にすることはねぇ、そうだろガズル?」
「あぁ全く持って気にすることじゃ無いな、こういう交渉だとかは本来俺の役割だからな。上手い事纏めたから後で詳細を聞いてくれ。だがその前に――」

 会議室から出てきた四人はゆっくりとガイへと振り向き道を開けた。同時にレイの元へと足を運ぶガイの姿があった。

「――謝罪する剣聖、申し訳なかった」

 レイの前にまで足を運ぶと深々と頭を下げた。

「そしてあの発言は撤回する、君達を試すようで申し訳ない事をした。同時に言っていい事と悪い事の区別を付けずに発言した事を謝罪する」
「……試すってどういうことですか」

 その言葉を聞いてレイがガイの顔を見上げた、目の前で頭を下げたままガイは続ける。

「本音を言えば分からなかったのだ、君達のような子供にこの戦争を任せていい物なのかと。噂には尾ひれがつくものだ、何か偶然起きた出来事が誇張して伝わるなんてことはザラで君達の事は正直報告と噂話でしか私の元に届いていなかったのだ。新たな剣聖の実力とその仲間達の力、実際に目にし体感するまで信じられる話では無かった」
「だからワザと僕を怒らせるようなことを」
「申し訳なかった」

 ガズル達はその姿を見て肩を落とした。レイ達が部屋を出た直後にガイはすぐさまその事を白状していた。身をもってレイの強さを確認し、あまつさえ敵に回してはいけないと十二分に理解したのだ。同時にギズー以外の三人は当然抗議した。だがギズーだけは何も言わなかったという。

「真実だレイ、このおっさんが言う事は」
「なんでそう言いきれるの?」
「――よく見てみろよ、このおっさんの目を」

 ガイがゆっくりと頭を上げ、その目を覗き込むレイ。

アイツレナードと同じ目をしてるだろ、この目は信用できる」

 そこにあったのは、かつて見た英雄の目と一緒の物だった。このクソッタレな世界をどうにかしようと企む、後に英雄と呼ばれる男たちの目がそこにはあった。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

二度目の人生 〜無敵の神スキル保持者の転生物語〜

グリゴリ
ファンタジー
45歳のサラリーマン、五十嵐努は取引先の高校で突如として異世界「イグジノス」へと召喚されます。5年の歳月をかけて魔王を倒した彼は、元の世界へ送還されるはずでしたが、目を覚ますと見知らぬ豪邸で10歳の少年の姿になっていました。 努は自分が転生したこの世界が、かつての普通の家庭だった五十嵐家が世界有数の財閥に変貌している、パラレルワールドだと気づきます。さらに驚くべきことに、この世界では10年前から世界各地にダンジョンと呼ばれる魔物の巣窟が出現し、人々の中にスキルと呼ばれる特殊能力に目覚める者が現れ始めていました。 彼の父・剛と母・栄子はAランクの冒険者として名を馳せ、長兄・大和と次兄・誠も優秀なスキル保持者となっています。しかし努だけは「無スキル」とされ、家族の恥として扱われていました。 実はこの現実は偽りでした。努の本当の両親は、六神スキルを所持していた父・剛がバルドゥルという組織に捕らえられ、母・栄子も同じく拉致された後、努たち兄弟の側に送り込まれたのは偽物の両親だったのです。 異世界での経験から、努の中には六つの「神スキル」が眠っていました: - 【ゼウスの雷霆】(攻撃系) - 【アテナの盾】(防御系) - 【アポロンの叡智】(智識系) - 【ヘラクレスの召喚】(召喚系) - 【ヘパイストスの創造】(創造系) - 【クロノスの時空間】(時空間収納系) 剣持先生という武道の師と、本当の兄である大和と誠の助けを借りて、努は徐々に六神スキルを覚醒させていきます。自宅の地下室で発見したプライベートダンジョンでの修行や、各神スキルの守護者との対話を通じて力を強化していきます。 最後のスキル【クロノスの時空間】を覚醒させた際、努は衝撃の事実を知ります。彼の本当の両親は死んだのではなく、時空の狭間に閉じ込められていたのです。そして六神スキルを完全に習得することで、彼らを救出できる可能性があると知ります。 しかし、最後のスキルの覚醒と同時に、バルドゥルの組織も動き出します。偽の両親は本性を現し、努たちを捕らえようとします。窮地に立たされた努は、新たに目覚めた【クロノスの時空間】の力で自宅のプライベートダンジョンへと逃げ帰り、兄たちと剣持先生との再会を誓います。 これからの努の旅は、六神スキルの力を完全にマスターし、本当の両親を救出し、バルドゥルの野望を阻止するという使命を帯びたものとなります。一度は無能と蔑まれた少年の逆襲が始まるのです。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

恥ずかしい 変身ヒロインになりました、なぜならゼンタイを着ただけのようにしか見えないから!

ジャン・幸田
ファンタジー
ヒーローは、 憧れ かもしれない しかし実際になったのは恥ずかしい格好であった! もしかすると 悪役にしか見えない? 私、越智美佳はゼットダンのメンバーに適性があるという理由で選ばれてしまった。でも、恰好といえばゼンタイ(全身タイツ)を着ているだけにしかみえないわ! 友人の長谷部恵に言わせると「ボディラインが露わだしいやらしいわ! それにゼンタイってボディスーツだけど下着よね。法律違反ではないの?」 そんなこと言われるから誰にも言えないわ! でも、街にいれば出動要請があれば変身しなくてはならないわ! 恥ずかしい!

キーナの魔法

小笠原慎二
ファンタジー
落とし穴騒動。 キーナはふと思った。今ならアレが作れるかもしれない。試しに作ってみた。そしたらすんばらしく良くできてしまった。これは是非出来映えを試してみたい!キーナは思った。見回すと、テルがいた。 「テルー! 早く早く! こっち来てー!」 野原で休憩していたテルディアスが目を覚ますと、キーナが仕切りに呼んでいる。 何事かと思い、 「なんだ? どうした…」 急いでキーナの元へ駆けつけようとしたテルディアスの、足元が崩れて消えた。 そのままテルディアスは、キーナが作った深い落とし穴の底に落ちて行った…。 その穴の縁で、キーナがVサインをしていた。 しばらくして、穴の底から這い出てきたテルディアスに、さんざっぱらお説教を食らったのは、言うまでもない。

時空鍵(クロノキー)・レヴェレーション

momo
ファンタジー
王都アレシアン――その名は今や廃墟と化し、17歳の見習いギルド士リゼット・クロノは両親と家を失った。瓦礫の下で拾った小さな銀色の鍵──時空を操る“黎明の鍵”との邂逅が、彼女の運命を一変させる。 鍵の囁きに導かれ、記憶の断片と向き合いながら、リゼットは7つの時空鍵を巡る大陸縦断の旅に出る。 裏切り、陰謀、友情、そして選択――“時間”と“記憶”が交錯する群像劇の幕が上がる。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...