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第三章 記憶の彼方
第三十五話 約束 Ⅱ
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「――厄災剣聖結界」
レイの足元から炎が噴き出した、何時ぞや見たイゴール出現の炎だ。
真っ青な髪の毛は次第に赤く変色し、顔つきも変わり始め、裏でひっそりとしていたイゴールが前へと現れる。ゆっくりと瞼を開くと懐かしい景色が目に飛び込んできた。
「この場所でまた現界するとは思いませんでしたよ、カルナックさんご無沙汰しております」
「やぁ厄災、あの時と違って今は紳士的なのですね」
「揶揄わないでください、あの時はどうかしてたんです。それで――」
カルナックの横に立つシュガーを一目見て理解した、懐かしいまでのエーテルと過去千年以上触れられなかった純粋な魔族としてのエーテルを感知する。
「あぁ……お久しぶりで御座います、シュガー様」
「千年ぶりじゃなバスカヴィル、最後におうたのはお主がまだ小童の頃じゃったか。体と言う依り代から解き放たれた感想はどうじゃ?」
「悪くは無いですね、私の体はまだ異空間に封印されたままですが――今はこの少年の目で世界を見て、この少年と共にあります」
「そうか――」
シュガーはバスカヴィルの肩に手を置くと久しく見る同族のエーテルを感じていた。千年だ。千年もの間感じる事の出来なかった個体をこの時久しぶりに感じ取り、目じりには涙がにじみだしていた。
「さて――」
バスカヴィルとの再会をそこそこにシュガーは彼女達三人へと顔を向けた。術式は既に整っており後は強力なエーテルを注ぎ込むことで完成する。魔法陣は次第に青白く光り輝き術式開放へ着々と進んでいた。
「良いか小童共、今からお主達の頭の中を覗かせてもらう。何がどうなって記憶が失われてるか分からんがこれなら原因を探れるじゃろ。ちぃっとばかり体への負担はあるが安心せぇ。死ぬことは無いさね」
笑顔でそう告げられた。
ミト達は若干顔を引きつりながらもその説明に頷いて術式開放の時を待つ。
「ではバスカヴィルよ、お主のエーテルを儂にも分けておくれ」
「はい、シュガー様」
バスカヴィルがシュガーの肩に手を乗せるとあたり一面が緊張する。途方もないエーテルがその場に満ちていくのがその場にいる全員が感じ取った。ましてやエーテルをほぼ持たないギズーからすればちょっとした精神寒波に近い物がある。
「この感覚久しぶりだな、レイが緩和してくれてたから最近は分からなかったが……よく先の戦いで生き延びたよ俺」
「同感だな、エルビーとレイヴンの精神寒波をまともに食らってたら一溜りも無いだろうよ」
ギズーが身震いしながらその場で耐えている。その隣でガズルもまた同様にしていた。
その二人を背にアデルはと言うと、全く動じていない。先の戦いから半年である程度のエーテルコントロールを身に着けた彼だが、その成長は目を見張るものが在る。
また同時にその姿を見てカルナックは愛弟子の成長をその目に確かに見た。
「十分じゃ、では行くぞ」
右手に持つ杖を魔法陣に突き立てると閃光が轟いた。一瞬目を覆う程の光が放たれた後、ゆっくりと光は収束していく。そして――。
「っ!」
突如シュガーの体が宙に舞った。弾き飛ばされたようだった。咄嗟の事で瞬時に反応できたのはカルナックだけだった。落下地点を予測し即座に走り出して受け取る体制を取った。
「シュガー様!?」
少し間を置いてバスカヴィルが反応した、魔法陣のすぐ傍にいた事もあり魔力暴走の影響を少なからず受けていた。一瞬体が硬直し思考が停止する。気が付いた時にはシュガーの体は宙に舞っていたのだ。
「いてててて……これは予想外じゃ」
「魔力暴走など貴方らしくもない、何があったのですか?」
カルナックは小柄なシュガーを受け止めると静かに地面へと降ろした。この間アデルを含めた三人は何もできなかった。
「予想以上に厄介じゃな、こやつらの記憶は意図的に封印されておるようじゃ」
その言葉にいち早くギズーがホルスターからシフトパーソルを引き抜いて躊躇なくトリガーを引いた。確実に殺意有っての発砲だった。しかし弾丸はまだ光り輝く魔法陣の内側に入ると即座に蒸発した。
「ギズー!?」
顔の横スレスレを弾丸が飛んで行ったアデルが振り向いて叫んだ。同時に彼の表情を見て驚く。いつもぶっきらぼうな表情で覚めている彼の顔が敵意丸出しでミト達三人を睨みつけていたからだ。
「意図的に封印された記憶だぁ? やっぱりテメェら帝国の差し金何だろう!」
「何言ってんだよお前!」
「意図的って事はだ、都合よく戻せる可能性だってあるって話だろ。レイに何か危害が加わる前に殺してやるんだよ!」
隣にいたガズルもギズーを宥め様と止めに入るが聞く耳を持たない。そしてもう一度引き金を引いた。
「ギズー!」
発射された弾丸はまたもやアデルの顔スレスレを通過して飛んでいく。しかし魔法陣に入るかどうかの手前で霊剣で弾かれた。瞬時にバスカヴィルとチェンジしたレイが炎帝剣聖結界が解除される前に出てきていた。相容れないエーテルにレイの体は悲鳴を上げる。
「落ち着けよギズー、まだ何もわかってない。まだ何も分かってないっ!」
体全体に走る激痛に表情が歪み始め、ついには膝をついてしまった。それを見たギズーは青ざめた表情でレイを見た。
「なんでだ……何でお前はそうまでして――」
「良いから――ここは僕に任せて」
魔法陣がゆっくりと消えていく。それとほぼ同時にレイは激痛のあまり意識を失ってその場に倒れ込んだ。
あれから三時間、意識を取り戻したレイは見覚えのある天井を見つめていた。カルナック家のレイが住んでいた部屋だ。
(目が覚めたか少年)
「うん、咄嗟に出ちゃってごめん」
(全く、無茶もほどほどにしなくてはな。相容れないエーテルが体内に残ってる状態で表に出たらこうなると分かっていただろう)
「それでもでなくちゃって思ったんだ、アイツを止める為に無理やりにでもね」
(その結果暴走寸前だった、今後はあのような無茶はしない方が良い。その内エーテルに食われるぞ)
「忠告痛み居るよイゴール」
ゆっくりと体を起こしベッドから出ようとした時、自分の体に寄りかかってるものが在ることに気付いた。
「――ミト?」
スゥスゥと寝息を立てているミトの姿があった。うつ伏せで両手を枕にして寝ている。きっと寝ている間に看病してくれていたのだろう。
(そもそも少年は何故この娘を助けようと思ったのか? まだ出会って日も浅い、ギズーの言う様に敵側の差し金の可能性だって否定できない)
イゴールの言う事は一理あった。
この数日様々な事が起きている、帝国との接触もそうだがあの得体の知れない機械仕掛けの巨人。そして何より彼女達の出現。
正直レイも疑ってはいた、得体の知れないエーテルの正体は別として突如彼等の前に現れた事。そしてあの戦闘能力の高さと記憶喪失と言う異質。考えれば考える程怪しい事ばかりだった。
それでもレイは彼女達を信じようと思った。理由はいくつかあったが、彼の中で決定的な事が一つ。
「懐かしいんだ、彼女達のエーテルが。全く知らない人達のはずなのにエーテルだけはどこか懐かしい。きっと僕は彼女達の事を知ってるのかも知れない、でも見た事も聞いたことも無い。それでもエーテルだけは覚えがあった。それだけだよイゴール」
(――確かにエーテル自体個人差があり全く同じエーテルは無いと聞くが、尚更敵側と接触した時に感じ取った物では無いのか?)
「ううん、今まで出会って帝国兵は全て倒してきた。僕が知る中で対峙した帝国兵の生き残りは居ないんだ。だから帝国の人間では無いと思ってる」
そこまで話しているとミトが目を覚ました。
眠そうに眼を擦りながらゆっくりとレイの顔を見る。事情を知らないミトからすれば独り言を喋ってるように見えただろう。
「気づいたのねレイ」
「起こしちゃったね、看病してくれたみたいで有難う」
二人はゆっくりとそんな話をして、少しの間無音があった後おかしくなり笑い始めた。
「何を独り言喋ってるのよ貴方」
「独り言じゃないさ、僕の中にいる相棒みたいな奴だよ。今度紹介するよ。君も良いだろイゴール?」
反応は無かった、レイは大丈夫だと判断していてもイゴールはまだ確証を得ていないからかミトとの接触はなるべく避けようとしていた。もしくは単純に照れているだけか。
「シャイな奴だな君も」
「本当に独り言みたい、変なレイ」
レイの足元から炎が噴き出した、何時ぞや見たイゴール出現の炎だ。
真っ青な髪の毛は次第に赤く変色し、顔つきも変わり始め、裏でひっそりとしていたイゴールが前へと現れる。ゆっくりと瞼を開くと懐かしい景色が目に飛び込んできた。
「この場所でまた現界するとは思いませんでしたよ、カルナックさんご無沙汰しております」
「やぁ厄災、あの時と違って今は紳士的なのですね」
「揶揄わないでください、あの時はどうかしてたんです。それで――」
カルナックの横に立つシュガーを一目見て理解した、懐かしいまでのエーテルと過去千年以上触れられなかった純粋な魔族としてのエーテルを感知する。
「あぁ……お久しぶりで御座います、シュガー様」
「千年ぶりじゃなバスカヴィル、最後におうたのはお主がまだ小童の頃じゃったか。体と言う依り代から解き放たれた感想はどうじゃ?」
「悪くは無いですね、私の体はまだ異空間に封印されたままですが――今はこの少年の目で世界を見て、この少年と共にあります」
「そうか――」
シュガーはバスカヴィルの肩に手を置くと久しく見る同族のエーテルを感じていた。千年だ。千年もの間感じる事の出来なかった個体をこの時久しぶりに感じ取り、目じりには涙がにじみだしていた。
「さて――」
バスカヴィルとの再会をそこそこにシュガーは彼女達三人へと顔を向けた。術式は既に整っており後は強力なエーテルを注ぎ込むことで完成する。魔法陣は次第に青白く光り輝き術式開放へ着々と進んでいた。
「良いか小童共、今からお主達の頭の中を覗かせてもらう。何がどうなって記憶が失われてるか分からんがこれなら原因を探れるじゃろ。ちぃっとばかり体への負担はあるが安心せぇ。死ぬことは無いさね」
笑顔でそう告げられた。
ミト達は若干顔を引きつりながらもその説明に頷いて術式開放の時を待つ。
「ではバスカヴィルよ、お主のエーテルを儂にも分けておくれ」
「はい、シュガー様」
バスカヴィルがシュガーの肩に手を乗せるとあたり一面が緊張する。途方もないエーテルがその場に満ちていくのがその場にいる全員が感じ取った。ましてやエーテルをほぼ持たないギズーからすればちょっとした精神寒波に近い物がある。
「この感覚久しぶりだな、レイが緩和してくれてたから最近は分からなかったが……よく先の戦いで生き延びたよ俺」
「同感だな、エルビーとレイヴンの精神寒波をまともに食らってたら一溜りも無いだろうよ」
ギズーが身震いしながらその場で耐えている。その隣でガズルもまた同様にしていた。
その二人を背にアデルはと言うと、全く動じていない。先の戦いから半年である程度のエーテルコントロールを身に着けた彼だが、その成長は目を見張るものが在る。
また同時にその姿を見てカルナックは愛弟子の成長をその目に確かに見た。
「十分じゃ、では行くぞ」
右手に持つ杖を魔法陣に突き立てると閃光が轟いた。一瞬目を覆う程の光が放たれた後、ゆっくりと光は収束していく。そして――。
「っ!」
突如シュガーの体が宙に舞った。弾き飛ばされたようだった。咄嗟の事で瞬時に反応できたのはカルナックだけだった。落下地点を予測し即座に走り出して受け取る体制を取った。
「シュガー様!?」
少し間を置いてバスカヴィルが反応した、魔法陣のすぐ傍にいた事もあり魔力暴走の影響を少なからず受けていた。一瞬体が硬直し思考が停止する。気が付いた時にはシュガーの体は宙に舞っていたのだ。
「いてててて……これは予想外じゃ」
「魔力暴走など貴方らしくもない、何があったのですか?」
カルナックは小柄なシュガーを受け止めると静かに地面へと降ろした。この間アデルを含めた三人は何もできなかった。
「予想以上に厄介じゃな、こやつらの記憶は意図的に封印されておるようじゃ」
その言葉にいち早くギズーがホルスターからシフトパーソルを引き抜いて躊躇なくトリガーを引いた。確実に殺意有っての発砲だった。しかし弾丸はまだ光り輝く魔法陣の内側に入ると即座に蒸発した。
「ギズー!?」
顔の横スレスレを弾丸が飛んで行ったアデルが振り向いて叫んだ。同時に彼の表情を見て驚く。いつもぶっきらぼうな表情で覚めている彼の顔が敵意丸出しでミト達三人を睨みつけていたからだ。
「意図的に封印された記憶だぁ? やっぱりテメェら帝国の差し金何だろう!」
「何言ってんだよお前!」
「意図的って事はだ、都合よく戻せる可能性だってあるって話だろ。レイに何か危害が加わる前に殺してやるんだよ!」
隣にいたガズルもギズーを宥め様と止めに入るが聞く耳を持たない。そしてもう一度引き金を引いた。
「ギズー!」
発射された弾丸はまたもやアデルの顔スレスレを通過して飛んでいく。しかし魔法陣に入るかどうかの手前で霊剣で弾かれた。瞬時にバスカヴィルとチェンジしたレイが炎帝剣聖結界が解除される前に出てきていた。相容れないエーテルにレイの体は悲鳴を上げる。
「落ち着けよギズー、まだ何もわかってない。まだ何も分かってないっ!」
体全体に走る激痛に表情が歪み始め、ついには膝をついてしまった。それを見たギズーは青ざめた表情でレイを見た。
「なんでだ……何でお前はそうまでして――」
「良いから――ここは僕に任せて」
魔法陣がゆっくりと消えていく。それとほぼ同時にレイは激痛のあまり意識を失ってその場に倒れ込んだ。
あれから三時間、意識を取り戻したレイは見覚えのある天井を見つめていた。カルナック家のレイが住んでいた部屋だ。
(目が覚めたか少年)
「うん、咄嗟に出ちゃってごめん」
(全く、無茶もほどほどにしなくてはな。相容れないエーテルが体内に残ってる状態で表に出たらこうなると分かっていただろう)
「それでもでなくちゃって思ったんだ、アイツを止める為に無理やりにでもね」
(その結果暴走寸前だった、今後はあのような無茶はしない方が良い。その内エーテルに食われるぞ)
「忠告痛み居るよイゴール」
ゆっくりと体を起こしベッドから出ようとした時、自分の体に寄りかかってるものが在ることに気付いた。
「――ミト?」
スゥスゥと寝息を立てているミトの姿があった。うつ伏せで両手を枕にして寝ている。きっと寝ている間に看病してくれていたのだろう。
(そもそも少年は何故この娘を助けようと思ったのか? まだ出会って日も浅い、ギズーの言う様に敵側の差し金の可能性だって否定できない)
イゴールの言う事は一理あった。
この数日様々な事が起きている、帝国との接触もそうだがあの得体の知れない機械仕掛けの巨人。そして何より彼女達の出現。
正直レイも疑ってはいた、得体の知れないエーテルの正体は別として突如彼等の前に現れた事。そしてあの戦闘能力の高さと記憶喪失と言う異質。考えれば考える程怪しい事ばかりだった。
それでもレイは彼女達を信じようと思った。理由はいくつかあったが、彼の中で決定的な事が一つ。
「懐かしいんだ、彼女達のエーテルが。全く知らない人達のはずなのにエーテルだけはどこか懐かしい。きっと僕は彼女達の事を知ってるのかも知れない、でも見た事も聞いたことも無い。それでもエーテルだけは覚えがあった。それだけだよイゴール」
(――確かにエーテル自体個人差があり全く同じエーテルは無いと聞くが、尚更敵側と接触した時に感じ取った物では無いのか?)
「ううん、今まで出会って帝国兵は全て倒してきた。僕が知る中で対峙した帝国兵の生き残りは居ないんだ。だから帝国の人間では無いと思ってる」
そこまで話しているとミトが目を覚ました。
眠そうに眼を擦りながらゆっくりとレイの顔を見る。事情を知らないミトからすれば独り言を喋ってるように見えただろう。
「気づいたのねレイ」
「起こしちゃったね、看病してくれたみたいで有難う」
二人はゆっくりとそんな話をして、少しの間無音があった後おかしくなり笑い始めた。
「何を独り言喋ってるのよ貴方」
「独り言じゃないさ、僕の中にいる相棒みたいな奴だよ。今度紹介するよ。君も良いだろイゴール?」
反応は無かった、レイは大丈夫だと判断していてもイゴールはまだ確証を得ていないからかミトとの接触はなるべく避けようとしていた。もしくは単純に照れているだけか。
「シャイな奴だな君も」
「本当に独り言みたい、変なレイ」
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