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第三章 記憶の彼方
第三十二話 訪問者 Ⅳ
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「じゃぁ、始めるよ」
全員がグランレイクの泉の手前に集まるとレイはエーテルを練りだした。次第に足元から冷気が流れ出すとそれが一気に辺りを凍り付かせていく。目を閉じて集中すると泉が見る見るうちに凍り付いていく。氷雪剣聖結界で体内のエーテルをさらに飛躍的に増幅させると右手に集中させる。
「絶対零度」
グランレイクに右手を入れるとそこからまっすぐに氷が伸びていく。レイの体からはこの時期では味わえないほどの冷気を感じさせてくれる、それ程の法術であった。後ろで見ていたミラはその技に思わず目を疑ってしまった、まさか自分よりこれ程の法術を使える人間が居るのかと目を丸くして驚いた。
ミラ以上にミトも驚いた、自分から出した案ではあったが本当に実現するとは思わなかったからだ。失敗すれば三キロ程度泳いで渡れば良いと考えて居た彼女は今目の前で起きている事象に開いた口が塞がらない。それを横目にギズーとガズルが見慣れた光景だと多少なり呆れている。
「相変わらずだな剣聖結界ってのは」
ガズルが口笛を吹いて呟いた、左手にはアデルの足が握られている。先ほどの一発で気絶しているアデルを。
「グランレイク全体を氷漬けなんてのは無茶だが、五メートル程の幅なら対岸までたどり着くだろうさ。これまでのレイの法術からすれば多分行けるさ」
同じく目の前で起きている異常な光景にギズーもそう確信していた、これも一会に普段の努力の賜物である。先の事件よりレイは普段より常にエーテルをコントロールする事に力を入れていた。この暑い夏ですら常に冷気を放出し外気温を調節、さらには体温調整までやってのける程の法術使いに成長していたのだ。変わって剣の腕は現状アデルの方が一枚上手ではあるが。
次第にレイの体から冷気が薄れつつあることを一同は感じる。エーテル切れを起こす寸前まで絞り出しているレイの表情に初めて苦悶が見えた。今まで法術を使ってこれ程消耗したことは無い、先の事件ですらここまでの消費は無かった。それほど異常な作業であることをレイ以外の全員が感じていた。特にガズルとギズーは。
「――ここまでかな、きっと対岸まで届いてない。これ以上は僕のエーテルが持たないよ」
「十分だ、対岸まで届いてなくてもある程度までは行ってるだろうさ。確認してみるか」
ゆっくりと立ち上がるレイの体はふらついていた、すぐさまギズーがレイの体を支えて肩を貸した。次にガズルが確認をすると言ってレイ達の前へと歩いていく。氷の上に立つとしっかり固まっていることを確認して。
「そぉぉら! 行ってこい!」
アデルを投げ飛ばした。
何度か氷にバウンドした後ツルツルと滑っていくアデルは勢いを殺さずにどんどんと先に進んでいく。それを確認したガズルが皆の後ろにある丸太を担いで氷の上に置く。それに彼等は二人ずつ乗っかるとガズルが右足に重力球を作り出して思いっきり蹴り飛ばす。
「まず一発目!」
最初に乗り込んだのはミラとファリックだ。蹴り飛ばされた丸太は氷の上を凄まじいスピードで滑っていく、乗っている二人は最初こそ恐怖を感じたが次第に楽しくなってきたのか丸太の上ではしゃぎ出す。
「――ったく、遊んでるんじゃねぇっての。次、ギズーとレイ」
因みにこの丸太だが、グランレイクの周辺に生えている木をレイが伐採したものである。初めは何に使うのかと思っていたレイだが、目の前を滑っていく丸太を見て顔を青ざめた。
「ね、ねぇギズー。僕は走っていくから大丈夫だよ?」
「あ? 今にも倒れそうになるまで消耗したお前がそんな事出来る訳ねぇだろ? ほら、さっさと乗った!」
「いやいやいや、それでも僕は――」
全てを言い切る前にギズーが無理やり丸太に座らせる、そして自分もレイの後ろに座るとガズルに合図を送った。
「いいぞ、やってくれ」
「ちょっと!? ギズー! 待って降ろし――」
また全てを言い終える前にガズルが二人の乗る丸太を蹴り飛ばした。先ほどと同様に勢いよく氷の上を滑っていく。流石に二台もあの威力で蹴り飛ばしているとなると氷に僅かながらヒビが入り始める。きっと次の丸太でこの氷は割れるだろうとガズルは推測する。
「それで、私達はどうやって行くの?」
最後にガズルと二人になったミトは腕を組んで疑問を口にした、これまでは丸太をガズルが蹴り飛ばして進んでいたのだが、二人が乗るとなるとどの様に進むのかと想像できないでいた。
「お前と二人ってのが気に入らねぇが、まぁ見てろ」
最後の丸太を氷の上に置く、ミトが首を傾げながら丸太に座るとガズルがロープを投げてきた。
「それを丸太に結んでくれ、そしたら合図をくれれば良い」
言われるがままにロープを丸太に括り付けてきつく結んだ。
同時に結んだことをガズルに告げると歯を食いしばって丸太を見つめる。この時点でミトはまさかと思っていただろう、渡されたロープの先はガズルが握っている。いや、流石にそんな事はしないだろうと。
「行くぞぉ!」
ミトの予想は的中した、躊躇なく丸太を蹴り飛ばすと体にグンと加速が掛かる。それと同時に丸太が氷の上を滑り出してガズルの握るロープのたるみが無くなってピーンと張り詰めた。同時にガズルの体が宙に浮く、いや、正しくは引っ張られて放り出されたというのが正しい。
「あんた本当に馬鹿ね!」
「だって手っ取り早くやるならこうするのが早いだろう!」
そんなやり取りをしている間にガズルの体が落ちてくる。ミトは顔と一緒に目線も動いてガズルにそれを知らせようとするが、ガズルはロープにしがみつくので精一杯のようだった。自分でもどんどん落下していることは気づいているが現状の態勢ではこのまま氷に激突し、引きずられる事も脳裏をよぎった。だが現実はその通りに動く。
「っ!」
腹から落下し右手でロープを何とかつかみズルズルと引きずられる結果となる。ミトは絶句しながらもあまりにも予想通りの落ち方と悶絶に笑いが出てしまう。ガズルには申し訳ないと思いながらもどんどん笑いが込み上げ、止まらなくなる。
「ぷ……あはははははははは! お腹痛いっ」
よく腹筋が崩壊すると聞くがきっとこの事なのか、笑い声がガズルの耳元に届くと自分が置かれている状況の恥ずかしさと強打した痛さが同時に彼を責め立てる。だが彼の不運はまだ終わらない。
「いてぇっ!」
もう一度ガズルに衝撃が襲う。体に重しがかかったような感覚を覚えるとロープを握る右腕に激痛が走った。それと同時に右足首に違和感を感じた。
「ガーズールー――!」
一番先に投げ飛ばしたアデルがガズルの右足をつかんでいた。滑っている途中で目を覚ました彼は現状を把握するためにつるつると滑る氷の上で何とか立ち上がり、周囲を見渡している最中。ミラとファリックが乗った丸太に轢かれる。ふわりと宙に弾き飛ばされたアデルはもう一度氷に真っ逆さまに落ちる。ふらつきながらも頭を右手で抑えて立ち上がるが、レイとギズーが乗った丸太に再び轢かれる。
三度宙に浮き、顔から落ちた。そして最後の二人が乗った丸太が近づいてくるのが見えると今度は――三度轢かれる。だが今度は丸太が激突する衝撃に耐えて見せた。先頭にしがみつくが二度轢かれたダメージが思いのほか大きく直ぐに力尽きる。徐々に丸太の重心からズレ始めるとついに投げ出される。
彼はこの時こう思った。「俺が一体何をしたんだ」と。一度走馬燈が彼の脳裏をよぎり目に映る全てのものがスローモーションで流れるのを彼は感じた。同時に目の前でガズルが泣きそうな顔をしてロープにしがみ付いてるのが見えた。
意識が朦朧とし始める中、ガズルの姿をとらえたアデルは最後の力を振り絞って手を伸ばす。そして奇跡的にもガズルの右足を掴むことに成功した。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ! 出たぁぁぁぁぁ!」
ガズルは見た、真っ黒で顔中血だらけのお化けを。それが自身の親友であり、これまで幾多の山場を共に乗り越えてきた仲間だと気づいたのは、対岸に到着した時だった。
全員がグランレイクの泉の手前に集まるとレイはエーテルを練りだした。次第に足元から冷気が流れ出すとそれが一気に辺りを凍り付かせていく。目を閉じて集中すると泉が見る見るうちに凍り付いていく。氷雪剣聖結界で体内のエーテルをさらに飛躍的に増幅させると右手に集中させる。
「絶対零度」
グランレイクに右手を入れるとそこからまっすぐに氷が伸びていく。レイの体からはこの時期では味わえないほどの冷気を感じさせてくれる、それ程の法術であった。後ろで見ていたミラはその技に思わず目を疑ってしまった、まさか自分よりこれ程の法術を使える人間が居るのかと目を丸くして驚いた。
ミラ以上にミトも驚いた、自分から出した案ではあったが本当に実現するとは思わなかったからだ。失敗すれば三キロ程度泳いで渡れば良いと考えて居た彼女は今目の前で起きている事象に開いた口が塞がらない。それを横目にギズーとガズルが見慣れた光景だと多少なり呆れている。
「相変わらずだな剣聖結界ってのは」
ガズルが口笛を吹いて呟いた、左手にはアデルの足が握られている。先ほどの一発で気絶しているアデルを。
「グランレイク全体を氷漬けなんてのは無茶だが、五メートル程の幅なら対岸までたどり着くだろうさ。これまでのレイの法術からすれば多分行けるさ」
同じく目の前で起きている異常な光景にギズーもそう確信していた、これも一会に普段の努力の賜物である。先の事件よりレイは普段より常にエーテルをコントロールする事に力を入れていた。この暑い夏ですら常に冷気を放出し外気温を調節、さらには体温調整までやってのける程の法術使いに成長していたのだ。変わって剣の腕は現状アデルの方が一枚上手ではあるが。
次第にレイの体から冷気が薄れつつあることを一同は感じる。エーテル切れを起こす寸前まで絞り出しているレイの表情に初めて苦悶が見えた。今まで法術を使ってこれ程消耗したことは無い、先の事件ですらここまでの消費は無かった。それほど異常な作業であることをレイ以外の全員が感じていた。特にガズルとギズーは。
「――ここまでかな、きっと対岸まで届いてない。これ以上は僕のエーテルが持たないよ」
「十分だ、対岸まで届いてなくてもある程度までは行ってるだろうさ。確認してみるか」
ゆっくりと立ち上がるレイの体はふらついていた、すぐさまギズーがレイの体を支えて肩を貸した。次にガズルが確認をすると言ってレイ達の前へと歩いていく。氷の上に立つとしっかり固まっていることを確認して。
「そぉぉら! 行ってこい!」
アデルを投げ飛ばした。
何度か氷にバウンドした後ツルツルと滑っていくアデルは勢いを殺さずにどんどんと先に進んでいく。それを確認したガズルが皆の後ろにある丸太を担いで氷の上に置く。それに彼等は二人ずつ乗っかるとガズルが右足に重力球を作り出して思いっきり蹴り飛ばす。
「まず一発目!」
最初に乗り込んだのはミラとファリックだ。蹴り飛ばされた丸太は氷の上を凄まじいスピードで滑っていく、乗っている二人は最初こそ恐怖を感じたが次第に楽しくなってきたのか丸太の上ではしゃぎ出す。
「――ったく、遊んでるんじゃねぇっての。次、ギズーとレイ」
因みにこの丸太だが、グランレイクの周辺に生えている木をレイが伐採したものである。初めは何に使うのかと思っていたレイだが、目の前を滑っていく丸太を見て顔を青ざめた。
「ね、ねぇギズー。僕は走っていくから大丈夫だよ?」
「あ? 今にも倒れそうになるまで消耗したお前がそんな事出来る訳ねぇだろ? ほら、さっさと乗った!」
「いやいやいや、それでも僕は――」
全てを言い切る前にギズーが無理やり丸太に座らせる、そして自分もレイの後ろに座るとガズルに合図を送った。
「いいぞ、やってくれ」
「ちょっと!? ギズー! 待って降ろし――」
また全てを言い終える前にガズルが二人の乗る丸太を蹴り飛ばした。先ほどと同様に勢いよく氷の上を滑っていく。流石に二台もあの威力で蹴り飛ばしているとなると氷に僅かながらヒビが入り始める。きっと次の丸太でこの氷は割れるだろうとガズルは推測する。
「それで、私達はどうやって行くの?」
最後にガズルと二人になったミトは腕を組んで疑問を口にした、これまでは丸太をガズルが蹴り飛ばして進んでいたのだが、二人が乗るとなるとどの様に進むのかと想像できないでいた。
「お前と二人ってのが気に入らねぇが、まぁ見てろ」
最後の丸太を氷の上に置く、ミトが首を傾げながら丸太に座るとガズルがロープを投げてきた。
「それを丸太に結んでくれ、そしたら合図をくれれば良い」
言われるがままにロープを丸太に括り付けてきつく結んだ。
同時に結んだことをガズルに告げると歯を食いしばって丸太を見つめる。この時点でミトはまさかと思っていただろう、渡されたロープの先はガズルが握っている。いや、流石にそんな事はしないだろうと。
「行くぞぉ!」
ミトの予想は的中した、躊躇なく丸太を蹴り飛ばすと体にグンと加速が掛かる。それと同時に丸太が氷の上を滑り出してガズルの握るロープのたるみが無くなってピーンと張り詰めた。同時にガズルの体が宙に浮く、いや、正しくは引っ張られて放り出されたというのが正しい。
「あんた本当に馬鹿ね!」
「だって手っ取り早くやるならこうするのが早いだろう!」
そんなやり取りをしている間にガズルの体が落ちてくる。ミトは顔と一緒に目線も動いてガズルにそれを知らせようとするが、ガズルはロープにしがみつくので精一杯のようだった。自分でもどんどん落下していることは気づいているが現状の態勢ではこのまま氷に激突し、引きずられる事も脳裏をよぎった。だが現実はその通りに動く。
「っ!」
腹から落下し右手でロープを何とかつかみズルズルと引きずられる結果となる。ミトは絶句しながらもあまりにも予想通りの落ち方と悶絶に笑いが出てしまう。ガズルには申し訳ないと思いながらもどんどん笑いが込み上げ、止まらなくなる。
「ぷ……あはははははははは! お腹痛いっ」
よく腹筋が崩壊すると聞くがきっとこの事なのか、笑い声がガズルの耳元に届くと自分が置かれている状況の恥ずかしさと強打した痛さが同時に彼を責め立てる。だが彼の不運はまだ終わらない。
「いてぇっ!」
もう一度ガズルに衝撃が襲う。体に重しがかかったような感覚を覚えるとロープを握る右腕に激痛が走った。それと同時に右足首に違和感を感じた。
「ガーズールー――!」
一番先に投げ飛ばしたアデルがガズルの右足をつかんでいた。滑っている途中で目を覚ました彼は現状を把握するためにつるつると滑る氷の上で何とか立ち上がり、周囲を見渡している最中。ミラとファリックが乗った丸太に轢かれる。ふわりと宙に弾き飛ばされたアデルはもう一度氷に真っ逆さまに落ちる。ふらつきながらも頭を右手で抑えて立ち上がるが、レイとギズーが乗った丸太に再び轢かれる。
三度宙に浮き、顔から落ちた。そして最後の二人が乗った丸太が近づいてくるのが見えると今度は――三度轢かれる。だが今度は丸太が激突する衝撃に耐えて見せた。先頭にしがみつくが二度轢かれたダメージが思いのほか大きく直ぐに力尽きる。徐々に丸太の重心からズレ始めるとついに投げ出される。
彼はこの時こう思った。「俺が一体何をしたんだ」と。一度走馬燈が彼の脳裏をよぎり目に映る全てのものがスローモーションで流れるのを彼は感じた。同時に目の前でガズルが泣きそうな顔をしてロープにしがみ付いてるのが見えた。
意識が朦朧とし始める中、ガズルの姿をとらえたアデルは最後の力を振り絞って手を伸ばす。そして奇跡的にもガズルの右足を掴むことに成功した。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ! 出たぁぁぁぁぁ!」
ガズルは見た、真っ黒で顔中血だらけのお化けを。それが自身の親友であり、これまで幾多の山場を共に乗り越えてきた仲間だと気づいたのは、対岸に到着した時だった。
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