『この星で、最後の愛を語る。』~The Phantom World War~

青葉かなん

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第三章 記憶の彼方

第二十七話 招かれざる客 Ⅲ

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 ガズルが手に取ったのは手の平に乗る程度の小さな本だった、表紙は何かの革で作られていて中身には見た事も聞いたことも無い文字が羅列している。何ページかめくるとミトと同じ顔をしたものが写っている。アデルも興味津々でそれを覗き込むが、さっぱり分からないでいた。

「さっぱりだな、でも帝国の人間じゃないのは分かった。こんなの見た事も聞いたことも無い、ましてや似顔絵にしたって鏡を見てるような綺麗な出来栄えだ。俺の知る限りじゃこんな技術知らん」

 ギズーがその小さな本を片手で閉じると再びバックパックの中へと戻す。

「ごめんなさい、私達も本当に何も覚えてないんです。名前と私達の間柄ぐらいしか……」

 その言葉に四人は再び黙り込んでしまう、この少女たちの扱いを如何すればいいのか困惑していた。そんな中アデルがバックパックを手に取りレイに返そうとした時、彼等が見落としていた横の小さなポケットをアデルが発見する。返そうと伸ばした手をもう一度自分の方へ引き戻しそのポケットに手を入れる、その瞬間アデルの表情が強張った。

「ミトっつったっけ? コレは何だ?」

 ポケットから取り出したのは彼等にしてみれば見覚えのあるものだった、青く光る手のひらサイズの小さな石。幻聖石である。

「分かりません、それは一体なんでしょう?」
「とぼけるのか? これはこうやって――」

 アデルがその幻聖石の中身を確認するべく具現化させようとする、しかし本人でない限り中身を取り出す事の出来ない幻聖石はアデルの手の平では何も反応しない。そんな初歩的なことも忘れているのかと他の三人は呆れ顔でアデルを見る。

「アデル、別に幻聖石を隠し持ってた訳じゃないだろ。僕達が見落としていただけだ、彼女に中身を見せてもらおう」
「……」

 顔を真っ赤にして幻聖石をミトへと放り投げる、両手で受け取るとミト本人が首を傾げてその石を見つめていた。

「これ、どうすればいいんですか?」
「強く握って、それからその石に意識を集中させてみて。何かイメージが浮かんで来たらそれを実際に持ってるようにさらにイメージしてみて」

 レイが優しく使い方を教える、ミトは戸惑いながらも言われるがままにイメージする。すると幻聖石は光だし中に格納されているものが出現し始めた。杖だった、見た目は木材だが手入れはしっかりとされている杖が出てきた。

「……杖?」

 出てきた杖を両手で持ってそれを眺める、何処にも変わったところは見られない普通の杖だった。
 ミトとファリックもまた同様に自分のパックパックを漁り、同じように幻聖石が見つかる。二人はミトと同じようにそれに集中するとそれぞれ格納されているものが出てくる。

「ミラ君は槍でファリック君は……何だそれ」

 出てきたのはシフトパーソルによく似たモノだった、それも二丁。真っ先に飛びついたのがギズーである、ファリックが握っている二丁のシフトパーソルによく似たモノを見て興奮する。

「おい、お前それちょっと見せて見ろ」

 ファリックは自分の元へと迫り寄ってくるギズーの気迫に押されて恐怖を覚えた、すぐさまその二丁を手渡すとミラの後ろへと隠れる。渡されたギズーは目を丸くしてソレについて語る。

「信じられねぇ、『コルト・パイソン』じゃねぇか……しかも『オリジナル』かこれ?」
「始まったよ、ギズーのシフトパーソル語り……」

 目の色を変えてソレをマジマジと見つめるギズーに対してアデルがまたかと落胆する、しかしギズーの熱は冷めず続く。

「馬鹿野郎、お前これがどれほどの貴重品か分かってねぇだろ! こんな骨董品俺のウィンチェスターライフルなんかより数が少ねぇんだ、見て見ろこの美しいライン、このバレル。あぁ……すげぇ、こんなに状態の良いオリジナルを見るのは初めてだ。そもそも現代におけるシフトパーソルの原型は全てこの骨董品を真似して作られたんだ。言わばご先祖様、創造主!」
「あー、わかったわかった。とりあえず落ち着け、んでそれを返してやれ」

 レイがそれを取り上げると駄々をこね始めるギズー、ガズルとアデル二人が押さえ付けてレイから引き離して拘束する。ため息をついて手に持つ二丁をファリックへと返した。

「ごめんな、アイツこういうのが好きなんだ」

 そう苦笑いをしながらファリックに伝えると、彼もまた苦笑いで返してきた。やっとの思いでギズーを押さえ付けているアデルが再び尋ねる。

「で、結局どうするんだ? 武器を持ってるってことは旅人か何かだと思うけど記憶がねぇんじゃこの先どうにもなんねぇだろ」
「そこなんだ、僕達じゃどうにもできないってことが分かったから先生に意見を伺おうと思う。だから一度帰ろうと思うんだけど良いかな?」

 レイのお人よしに三人は頭を抱えてしまう、この戦時中に見も知らずの少年少女の世話をしようというのだから困ったもんだ。だがこうなることはある程度予想はしていたのだろう。三人は仕方なさそうにその提案を飲んだ、もとよりレイが何を言っても止める気は毛頭なかったからだ。彼らのリーダーの発言には基本従う、そう決めていたからこそ。

「別にお前の意見にアレコレいうつもりは無いけど、この街はどうするんだ? 現状俺達が抜けるとなると押されるんじゃないか?」
「アデルに賛成、少なくとも全員で行く必要はないと思うし……俺とギズー二人が残るからお前ら二人で行って来いよ。俺の重力球とギズーの法術弾があればある程度は抑えられるだろう」

 ギズーはそれに対して意見をしなかった、見ず知らずの人間のお守をするよりかはこの戦場で暴れていた方が彼には合っているのだろう。確かに全員でまたカルナックの家に行っても仕方ないのは正論である。レイとアデルは元々カルナックの弟子であるわけで、相談もしやすいだろう。
 一方ミト達は困惑している様子だった、今日初めて会った人達にこれ以上迷惑をかけていいのだろうかと。しかし他に頼れる人間が居るわけでもない、だからこそ断り辛い部分もあるが頼りたいのは本当のところなのだろう。

「何から何まで、本当に有難う御座います。なんてお礼を言ったらいいか」
「お礼なんかいいよ、これもきっと何かの縁だと思ってさ。それに――」

 レイが不安そうに語るミトに対して笑顔を向けてそう告げようとした時、外で爆音が鳴り響いた。雷の音ではない、何かが爆発するような轟音だった。爆音がした後アジトが地震発生時みたいに大きく揺れる。部屋の中の家具は傾き倒れる。

「おいおい何だよ!」

 倒れてくる家具がファリックに向かって傾いた時、ガズルがすぐさま飛び出していた。ファリックに接触するか否かの処でガズルがそれを抑え込みぶつかることは無かった。だが揺れは未だ続いている。爆発音は最初の一発のみでそれ以降は聞こえてこない。家具を誰も居ないところへと放り投げてファリックとミラの体を両脇に掴んでガズルは部屋を後にする、レイもミトを抱きかかえ大きく揺れるアジトから外へ出る。残りのメンバーもそれに続いた。
 外に出た時、街のはずれに現れたのはミト達が出現した時に現れた黒い球体が空に浮かんでいる。それも先ほど見た時よりも巨大なものだった。

「おいおいおい! また何か出てくるぞ!」

 アデルがグルブエレスを引き抜いてそう叫ぶ、彼の言う通り球体から何かが出てくる。灰色の無機質な物体が最初に姿を現した。 次々と出現するそれはあまりにも巨大な物体だった。

「でっけぇ……なんだこれ」

 半分ぐらいが出現しただろうか、それは彼等にとって全くの未知であった。見た事の無い物体、見た事の無い大きさ。その何かは巨大で角ばっていてい、何処か人の形にも似ていた。
 すべてが姿を現した時その巨大さが良く分かる、メリアタウン郊外に出現したそれは彼等から離れているにもかかわらず見上げる程の大きさをしている。例えるのであれば巨人、だが人間ではない。その体を構成している素材は分からないが現代においてこのような技術が確立してはいなかった。

「あの黒い奴から出てきたってことは、ミト達を追って来たのか? プリムラさん、至急避難勧告を!」

 最後に一度大きな縦揺れがあった後、雨が降りしきる中ようやく地震が収まった、何事かと外に出てくる人の数が増えてきた。そしてその巨人を見上げて驚く。当然だろう、突如としてあんなものが目の前に現れたとなればパニックになる。ミトを地面に降ろすとレイは直ぐに町全体に避難勧告を出すようプリムラに指示をする。

「レイ、如何すんだあんなでけぇの」

 レイの横に立ってアデルが見上げながら問う、同じようにガズルとギズーも二人の横に立って巨人を見上げた。動く気配は今はない。しかし先ほどから何やら鐘の鳴る様な音が聞こえている。その間隔は次第に短くなってきていた。

「動いてねぇ今がチャンスだ、叩くなら今しかねぇぞレイ」
「分かってる、でもさ――」

 幻聖石から霊剣を取り出して巨人の隅々を調べる様に見渡すレイ、左に立つギズーから攻撃を仕掛ける提案を受けるがどこをどう攻撃すればいいのかが分からない。ましてやこんな巨大なものに攻撃が通用するのだろうか? それがレイの頭の中をぐるぐると回る。

「どうやって攻撃すればいいんだよこんなの」

 あまりの大きさに呆然とするレイ、鳴り響く鐘の音は次第に速度を増し、そして音が止んだ――。
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