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第二章 神苑の瑠璃 後編

第二十三話 神苑の瑠璃 ―死闘― Ⅱ

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 変わってレイとギズーに向かって飛び込んだシトラは飛びながらも法術を唱えている。左手に構える杖が見る見るうちに凍り付き槍へと形状を変えた。その速度のままレイとギズー二人に攻撃を仕掛ける。レイのすぐ目の前に落下すると足元の血だまりが噴き出す。
 レイが左手でそれをガードすると突如目の前に氷の槍が出現した。血だまりを目くらましに使いその隙に自分の獲物を突き出していた。レイの左腕に突き刺さるかどうかという処で急に槍の進路方向が左にずれる。レイの顔面スレスレを氷の槍が通過した。
 咄嗟にギズーがシトラの槍をシフトパーソルで撃ち抜いたのだ。その判断、命中、速度共に一流と言える実力にまでこの数日間で成長していた。レイはバク転をしてシトラとの距離を取ると霊剣を頭上に振りかぶる。そのままシトラ目掛けて振り下ろすが氷の槍によって斬撃を受け止められてしまった。

 シトラは攻撃を受け止めた瞬間体を捻って体ごと槍を旋回させる。対象物が無くなった霊剣はそのまま地面に振り下ろされてバランスを崩す。そこに氷の槍が横一杯に振りかぶられてレイの体を真っ二つにしようと飛んでくる。だがその刃も途中で止まってしまった。
 ギズーが左手に構えるロングソードを逆手に持ち替えてレイと氷の刃の間に割って入る。無理な体制のまま右手のシフトパーソルを背中からシトラに向けて数発の弾丸を発射する。その一発が彼女の右頬を掠めていった。

「中々いいコンビネーションじゃない、でもこれはどうかしら!?」

 右手に冷気を放出させるとそれをレイとギズー二人に向けて放つ、すると彼等二人の体が徐々に凍り始めてきた。身動きが取れなくなりそうになったがここでレイが氷雪剣聖結界ヴォーパルインストールを発動させた。レイから放出される冷気はまるで意志を持っているかのようにシトラの放つ冷気に向かって同じ冷気をぶつけた。
 だが彼らが動けないのことは覆らない。そう思えたが次の瞬間、思わぬことが起きた。突如としてシトラの足元の血だまりが吹きあがるとそこから炎が吹きあがった。その炎を作り出したのはギズーだった。
 
 カルナックより譲り受けたウィンチェスターライフルにあらかじめ炎の法術が施された弾丸を装填していたのだ。右腕の袖の部分にライフルをしまい込んでいる幻聖石を忍び込ませておき、右手首をまっすぐに伸ばすとそれが手の平に落ちてくる仕組みを作っていた。
 もちろん最初に持っていたシフトパーソルは落とすことになるが。その結果、発射した法術弾が地面に着弾すると炎が巻き起こったのである。
 これにはさすがのシトラも虚を突かれた。まさかこんな仕込みをしてくるなんて考えても居なかったからである。僅かではあるがケルヴィン領主家で一緒に時間を過ごしたシトラからはこんな芸当をするようなギズーは記憶にはない。ましてやそんな小細工を教えた覚えもない。

 これはきっとカルナックが仕掛けたトラップ。そう判断した。

 巻き起こる炎によって三人の間にできた氷は解けてそれぞれ身動きが取れるようになった。シトラはその瞬間後方へと跳躍するが一歩遅かった。目の前では次の弾丸を装填してくるんとレバーをまわしているギズーの姿が目に移った。

「逃がすと思ったかシトラ!」

 空中に舞っているシトラに向けて銃口を向ける、だが無理な体制は続いていた為体が一瞬ぐらつく。それをレイの左手がカバーした。左腕を水平に上げるとそこにギズーのライフルの銃口付近が乗っかる。安定した体制になりギズーは引き金を引いた。シトラは即座に氷の盾を形成し炎でも解けないような極度に冷たい氷を形成した。だがそれはシトラにとって最大の誤算である。
 ギズーが放った弾丸は法術弾ではない、今度は実弾が発射されていた。四十四口径の弾丸はその破壊力を誇示する。展開された氷の盾をいとも簡単に撃ち抜きシトラの右足太ももに命中する。足に激痛が走って表情が歪んだ。撃ち抜かれた太ももからはおびただしい量の血が流れだし。着地するときにバランスを崩した。

 レイヴンとシトラは偶然にも同じタイミングで同じ場所に戻ってきていた。そこにレイ達四人が一斉に襲い掛かる。初めにガズルが二人の頭上の遥か上に位置取り両手を組んで重力爆弾を作り出す、続いてレイとアデルが一斉に飛び掛かりそれぞれ一発、もう一発と斬撃を叩きこむ。
 そこにガズルが両腕を振りかぶって重力爆弾を放った。二人に着弾すると一気に包み込み彼らの動きを封じた。そこにギズーが離れた場所から法術弾を発射する。今度は風の法術弾だった。弾丸は着弾する前にはじけ飛びかまいたちを形成する。それが重力球によって吸い込まれ中で真空波となり二人を切り刻んだ。

「もらったぁ!」

 アデルが叫びながら両手の剣を逆手に持ち替えた。右腕を下から振りかぶって前に突き出す。自分の体と同じラインで勢いよく止めるとその剣先から炎が圧縮されて噴き出す。
 それは高温となって吹きあがり重力球に飲まれていく。重力球の中では圧縮された風によって炎が勢いを増して業火となり二人を包み込んでいる。流石にこれには耐えられまいとアデルは確信していた。しかし、事が起きたのはその瞬間だった。
 重力球は突如として破壊され炎が見る見るうちにレイヴンによって吸収されていく。破壊されたことにより風はその維持が出来なくなり力を弱めていった。シトラの体は分厚い氷に覆われていて炎を全く寄せ付けていなかった。
 それどころか撃ち抜かれた太ももの傷がきれいさっぱりと消えている。回復法術だ、あの怒涛の連続攻撃の間に氷の防御と回復法術とを同時に発動させてシトラは自分とレイヴンの体に受けたダメージを全て回復させていた。

 まさに脅威、四人がその光景に絶望しているころシトラが動いた。右腕に集められていた冷気をそのまま地面に叩きつけるとあたり一面が一斉に凍りだす。
 それに四人は反応することが出来なかった。足元は氷漬けになり身動きが取れない状態になった。そこにレイヴンが一人ひとりに斬撃を放つ。四人とも全員が何とか防御するもその破壊力たるもの凄まじく四人全員が後ろの壁へと吹き飛ばされて激突する。そのまま四人は揃って地面に倒れてしまった。

「くっそう、強すぎる……生半可な連携攻撃じゃダメージもまともに与えられ――」

 レイが立ち上がってそうぼやこうとした。が、突如足が言う事を聞かなくなり片膝をついてしまった。ギリギリのところで防御したと思った攻撃だったが、ダメージは確実に貫通していた。
 口からは微量な血が逆流している。確実に内臓にダメージを負っていた。レイだけではない、他の三人も同様にダメージを負っていた。これが剣帝序列筆頭の力、油断するつもりは無かったものの、これほどまで力の差があるとは考えても居なかった。これはレイ達の多大なる誤算であった。

「そろそろ遊びも終わりにしましょうか、あまり長く遊んでいると先生が来てしまうかも知れませんし」

 そう言いながらレイヴンが四人に近づいていく、一度刀を納刀してゆっくりとこちらへ歩いてくる。まさに恐怖そのものだった。先ほど与えたダメージはどこへやら、完全回復した今のレイヴンにダメージを負っている彼等四人はどうあがいても勝てそうになかった。
 しかし、ここで奥の手を出していいのかレイは悩んでいた。そう厄災剣聖結界である。確かにイゴールを前面に出せばこの局面を乗り切れるかもしれない。しかし、今がその最大の危機なのだろうか? まだ何かできることがあるのではないかと思考が錯誤し始める。そんなレイに起き上がったアデルが肩を叩いた。

「まだだ、まだその時じゃない」

 心を読まれていた、知らず知らずのうちに顔に出ていたのだろう。それを悟ったアデルが首を横に振ってレイの前に出る。グルブエレスとツインシグナルと鞘に納めると腰のポーチから幻聖石を取り出した。それを左手で握るとヤミガラスを具現化する。

「インストーラーデバイスですね、やっと本気になってくれましたかアデル君」

「別に手を抜いてた訳じゃないんだけどな、最初に使っちまうと後に響いちまうからよ。とっておきってのは最後の最後まで取っておくもんだろ?」

 そう啖呵を切って抜刀の構えに移行する、それを見たレイヴンも一度鞘に納めて間合いギリギリのところで立ち止まった。シトラはそれを後ろでじっくりと観察しているように見える。レイ達三人もアデルの行動を見守りつつシトラを警戒していた。

「同じ流派だ、何をするかってのは分かってるんだろうレイヴン」
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