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第二章 神苑の瑠璃 後編

第二十三話 神苑の瑠璃 ―死闘― Ⅰ

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「君達は知っているかい? ここが紅の大地という別名を持っていることを」

 レイヴンが唐突に語りだした、レイ達はそれぞれの獲物を取り出して構えている。ここへ来る途中カルナックも同じようなことを言っていたが真相までは語られていなかった。足元を見ても格別赤くもなんともない。もしや溶岩の明かりでそう見えるのだろうかと思ったがそれも違うようだ。

「折角だ、この洞窟の本質を見せてあげよう」

 すると神苑の瑠璃は見る見るうちに小さくなりレイヴンの手に収まるほどの大きさにまで縮んだ。左手で受け取りそれを前に差し出すと瑠璃は一段と輝きを増した。目が眩むほどの光がその場を埋め尽くしていく、視力が回復した時彼らの足元に転がる物と鼻につく嗅いだことのある匂いがした。

「っ!」

 レイは足に何かがぶつかる感触を覚えてそれを見た、骸骨だ。無数の骸骨がそこら一面に広がっている。そして嗅いだことのある匂い、それは血の匂いだ。骸骨を埋め尽くすほどの血が大量に流れている。

「なんだこれ!」

 アデルが血だまりに埋もれた足を引き上げて骸骨の上に乗る。だがその骸骨もすぐに崩れてしまいまた血だまりへと足がはまる。十人や二十人なんて規模じゃない。何百人の骸が転がっている。

「これが紅の大地と言われる由縁よ、この宝石に見せられた人の夢の跡。それがここよ」

 今までずっと黙っていたシトラがついに口を開いた、その口調からは今まで一緒に旅をしてきたときの様なお道化た口調ではなくなっている。これがシトラの本性なのだろう。それはあのカルナックですら見抜くことが出来なかった。

「気を付けてね、そのどれかが私の仲間なのだから」

 一段と声が低くなった。

「シトラさん、何で……何でこんなことをっ!」

 思わずレイの口から飛び出した言葉をシトラは蔑んだ目で見る。その表情はまるで汚いものを見るかのような目をしていた。右手で顔を覆って俯いた後髪の毛を掻き揚げてもう一度レイ達をにらむ。

「何で? そうね、例えるのであれば――」

 レイブンが左手に持つ瑠璃を宙に放る、それと同時にシトラが瞬間的に詠唱を初めて封印法術を唱え始める。レイ達はそれに迅速に反応してそれぞれが距離を取る。

「幻魔様復活の為かしらね!」

 瑠璃が一瞬で凍り付いた。天井と瑠璃が氷で繋がってぶら下がるように凍り付いた。そして同時にレイヴンとシトラが動いた。レイヴンはアデルとガズルへと、シトラはレイとギズーに向かって同時に突進する。四人はそれを見逃さなかった。互いに距離を取っていた彼等としては一人ずつ相手にできる絶好のチャンスでもあった。だが相手はカルナックが最初に育て上げた弟子の中でも最強の分類に入る剣帝序列筆頭と結界法術を使わせたら右に出るものが居ないシトラだ。少しでも油断をすればそれは死につながる。

 レイヴンは炎帝剣聖結界ヴォルカニックインストールを施している、そのスピード火力共に素のアデルでは到底かなうことは出来ない。しかし対抗策は練っていた。
 アデルの元へと飛び込んできたレイヴンの刀がアデルの首を跳ねようと襲い掛かる、それをアデルは二本の剣で受け流す、するとその後ろに居たガズルが即座に重力球を作り出すとレイヴンの頭上へと放り投げる。
 受け流したアデルも同時に二本の剣をそれぞれ逆手に持ち替えて横一線に剣を叩きこんだ。重力球の影響を受けているレイヴンは一瞬だけ体に通常の二倍の重力を感じる、そう二人の思惑は攻撃は避けるとしてそのスピードだけでも殺せないかと考えたのだ。結果二倍の重力を受けたレイヴンの動きが一瞬だけ鈍る。
 だがレイヴンの判断力は速かった。身動きを少しでも封じられてしまったのであれば目の前に迫りくるアデルの攻撃を防御することは不可能、それならば。

「避ければいいだけの話ですよ」

 体を後ろにのけ反ってアデルの斬撃を避ける、鼻上すれすれのところで二本の剣は交差して避けられてしまった。上体をのけ反っていたレイヴンはそのまま反撃に出るつもりでいたがそれは不可能と悟る。
 目の前に現れたのはガズルの姿だった、空中に飛んで重力球の真上に体を構えている。右腕を振りかぶって思いっきり重力球に打撃を叩きつける。
 するとその重力球は形状を変えドリル型になりレイヴンを真上から襲う。船での戦闘以来彼等と見えるのは久しぶりであるがあの短期間でここまでの成長を成し遂げたのかとレイヴンは笑っていた。最狂の部下というだけあって性格までも少しばかり似ているのかもしれない。
 左肩にガズルのドリル上の重力球を受けた。が、かすり傷程度だった。二人の攻撃は止まらない。ガズルはその体制のまま左手で重力波を作り出すとそれをレイヴンに叩きつける。
 真っ黒な重力波は彼の体を包み込むとそこにアデルの剣激が走る。横一線にもう一度振るわれたツインシグナルが確実にレイヴンの体をとらえる。しかし金属音と共にそれは貫通していないことを知る。

 真っ黒で外が見えない状態のレイヴンにはアデルの攻撃が手に取るように分かっていたのだ。それはアデルから流れ出る殺気。それから見える未来予知にも等しい洞察で体を真っ二つにするために放たれた斬撃を刀で受け止める。レイヴンの法術ギアが一段上がった。覆い被っている重力波を自身の炎法術で吹き飛ばした。二人はそれぞれ別々に飛ばされたがレイヴンの目標は依然としてアデル一人に向けられている。壁にまで吹き飛ばされたアデルは大の字で壁へと激突する。そこにレイヴンが猛烈な勢いで迫ってくる。

「面白い、面白いですよアデル君!」
「そうかい! そうかい! 俺はちっとも面白くねぇよ!」

 前のめりに倒れこもうとする体に力を入れてレイヴンを睨んだ、左手に構えるツインシグナルを逆手から順手に持ち替えて突進してくるレイヴンに向けて突きを放つ。が、首を捻ってそれを簡単に交わされてしまった。その直後アデルの腹部に激痛が走る。レイヴンの刀が刺さっていた。口から少量の鮮血が飛ぶと歯を食いしばってレイヴンをにらみつけた。レイヴンに向けて右手のグルブエレスを横から叩きこむがそれも簡単に避けられてしまう。

「甘いですよアデル君、そんな速度で私に傷をつけることが出来ますか!」
「甘いのテメェだ!」

 レイヴンの体が急にアデルの元から離れた、離れたというより吹き飛ばされたと言うべきだった。アデルだけを見ていたレイヴンはガズルの存在をすっかり忘れていたのだ。そのガズルが後ろから走ってきて二人の間に割って入るように飛び込み体を捻ってレイヴンの顔面に左足で蹴りを入れていた。
 吹き飛ばされたレイヴンだが刀を放すことは無かった。弾き飛ばされたと同時にアデルの腹部に突き刺さる刀はずるりと抜けてレイヴン共々吹き飛ぶ。アデルの傷口からは大量の血が流れるがそれを炎の法術で焼いた。傷口を塞ぐための行動だった。
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