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第二章 神苑の瑠璃 後編
第二十一話 神苑の瑠璃 ―紅の大地― Ⅳ
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階段を下り続けてまたもや五分ぐらいは経っただろうか、一向に第三階層の入り口が見えてこない。そういえばここは海底洞窟とカルナックが話していたことをレイは思い出した。ふいに立ち止まると周囲の壁をじろじろと見渡し始めた。
「先生、すごく不思議なんですけど。ここが海底洞窟というのなら何故海水が壁にしみてこないのでしょう? これだけ下りれば水圧によってこんな空間崩落してもおかしくないと思うんですが」
言われてみればそうだった、推定で八百メートルは下っているだろうと思われる。流石にそこまで下ってくれば水圧の負荷によってこんな空洞崩落してもおかしくはない、付け加えるのであれば気圧の変化も見られなかった。それがレイにとってはとても不思議に思えた。
「この洞窟が作られたのは今から二千年も昔です、当時の技術は今の技術より高度であり何より魔術が猛威を振るっていた時代です。この洞窟から感じ取れるこの気配からすると何らかの魔術が掛けられているのでしょう、私達には一切分かりませんが」
カルナックもまた良く分かってはいなかった、勝手に歩く書庫と呼んでいたアデルが思わず振り返ってしまう。カルナックが知らないことが本当にあったのかと驚いていた。だがアデルはすっかり忘れている、数日前にカルナックはガズルの重力球の事が分からないと言ったばかりであることを。
「そういえば法術の結界を発動させるときに用いる魔法陣って、元をただせば魔術何ですか?」
「そうですね、そもそも法術というのは魔族に対抗するべく生まれたエーテルの活用方法なのです。前にも説明しましたが魔術は体内のエーテルをそのまま具現化させることにより強力な一撃を放つことが出来ますが人間にはそれが出来ません。なのでエーテルを起爆剤として周囲にあるエレメントを具現化させる事により魔術に対抗できるのです。ですが結界に関していえば両方ともエレメントを用いた技術であり、先駆者は魔族側です。それを研究して分かったのが魔法陣です。名前の由来は魔族の術者が体に施している刺青が発祥と言われています」
淡々と説明した、途中でアデルはすでに頭の中がこんがらがっていて理解が出来ていないがレイはなるほどとうなずいていた。教養の違いなのかも知れないとカルナックはあきらめている。
それから再び階段を下る事数分、ようやく彼らの目に光が映りだしてきた。しかし松明の様な明るさではない、まるで外にいるかのような明るさである。違和感を感じつつも彼らは下る速度を速めた。初めにレイが第三階層への入口へと到着する。
続いてアデル、ガズルと続き残りの二人も階段を下り切った。彼らの目に飛び込んできたのは洞窟とは言えない空間がそこに存在した。まるで王宮の応接間に居るようなそんな光景だった、壁は大理石で埋め尽くされていて床は赤いカーペットのようなものがぎっしりと敷かれている。明かりは陽光石が大量に使われていている。これが明るさの原因だった。
「レイヴン!」
その広間の反対側に奴らは居た。レイヴン、シトラ、そしてひと際大きな体格をした大男が一人。アデルの声にレイヴンが反応して振り向いた。
「一足遅かったですねアデル君」
「いやまだだ、ここでお前たちを仕留めて瑠璃も破壊する!」
その言葉にレイ達は各々の武器を取り出しレイヴンたちの元へと走り出した。だがシトラが最後のロジックを解除し扉が開いてしまう。
「おめぇら先に行け、俺がこいつら始末してやる」
「それは無いですよ隊長、彼は私の獲物だと言ったじゃないですか」
「うるせぇ、たまには部下においしい役目持たせてやりてぇって上官の配慮だ。その代りと言っちゃぁ何だがこいつらは貰う」
大男が腰にぶら下げていた巨大な斧を取り出してレイヴン達を先に行かせた。苦笑いをしながらも上官の命令とし扉の奥へと進む。それにシトラ。
「待てぇ!」
アデルが叫ぶが扉は閉まってしまった。そして大男が両手で巨大な斧を振り上げて地面に向けて振り下ろす。すると叩きつけられた地面が割れて衝撃波と共に地面を一直線に破壊する。五人はそれを左右に避けるとそれぞれが大男に向かって攻撃を仕掛ける。カルナックは後方で四人のアシストをするべく法術を練る。
「どけぇ!」
最初にアデルが飛び出した、グルブエレスとツインシグナルをそれぞれ振りかぶり斬撃を叩きこむ。しかし巨大な斧でそれは防がれてしまう。力任せの攻撃をしてくるあたり速度は遅いと勘ぐったアデルはそれに驚く。俊敏な身のこなしでアデルの攻撃をさばき続ける。
「オラオラオラ、どうしたこんなもんか!?」
巨大な斧を横一杯に振りかぶると今度は力一杯振り回してきた。咄嗟にアデルは両手の剣で受け止めるが余りの力に受け止めた傍から後方へと吹き飛ばされてしまう。それを見たレイがアデルを受け止めるが勢いのあまり一緒に吹き飛ばされてしまう。その二人を後ろで法術を練っていたカルナックが受け止める。
「てめぇ!」
今度はガズルが叫びながら突撃する、重力爆弾を作り出すと大男目がけて叩きつける。だがそれに対し左手を重力爆弾へ向けて表情一つ変えずに難なく受け止められてしまった。重力爆弾が着弾した場所はクレーター上のへこみを作り大男も一緒に少しだけ沈む。だがダメージは全く見られない。そして伸びていた左手で飛んできたガズルをキャッチするとギズー目掛けて放り投げた。この二人もまたアデルとレイ同様に吹き飛ばされてカルナックによって受け止められる。
「こんなもんか? 大した事ねぇな」
首を鳴らしながら窪みから出てきて巨大な斧を地面へと突き立てる。両手で指の関節を鳴らすと再び斧を持ち上げた。
「さぁって今度はどんな手段で俺を攻撃する? あ?」
想像以上の強さだった、流石レイヴンの上官なだけはある。並の人間とはかけ離れたスピードとパワーを持ち合わせるこの男の存在は彼らの頭にはなかった。むしろこれほどまでの使い手が帝国にまだ残っていたことに驚いている。まさに番狂わせである。大男が指を鳴らしている間にカルナックは法術で四人を回復させる。そして立ち上がってもう一度突撃しようとするアデルの肩を叩いてカルナックが前に出る。
「君達は少し休んでいなさい、今消耗されては勝てる勝負も勝てなくなってしまいます」
そういうと雷光剣聖結界を即座に発動させる。大男を睨みすぐさま抜刀の体制を取る。
「――エルメアに剣聖結界使いで抜刀の構え?」
大男がそうぽつりとつぶやいた瞬間カルナックがその距離を途轍もないスピードで縮めた、カルナックは初段で決めるつもりでいた。戦闘を長引かせるとこの後の消耗に響くからだ。一撃でこの男を沈めてすぐさまレイヴン達の後を追うつもりでいた。が、その考えはすぐさま打ち破られる。初見であれば見切れるはずのない神速の抜刀術が大男の持つ巨大な斧によって塞がれていたのだ。
「なっ!」
初段を防がれてしまったカルナックは一瞬だけ混乱したがすぐさまバックステップで後ろへと飛ぶ。今の一瞬何が起きたのかカルナックは理解できなかった。
「そうかてめぇか、久しぶりじゃねぇか――」
その言葉が耳に届いた時、カルナックの目の前には距離を取ったはずの大男が斧を振りかぶってこちらに振り下ろす姿が目に映った。後ろに居た四人はこの男が何をしたのか、どうやって瞬間的に移動したのか全く見えていなかった。振り下ろされる斧をカルナックの刀で受け止める。その衝撃は刃同士がぶつかった瞬間に強大な風圧と共に二人の間を駆け抜ける。
「よう――『最強』!」
大男の顔が間近に迫っていた、その顔を見た瞬間カルナックの心臓は一度ドクンと高鳴った。そのまま視線を右腕へと移す。その右腕は義手だった。カルナックはこの男を知っている。
「やぁ――『最狂』」
エレヴァファル・アグレメント。帝国軍特殊殲滅部隊隊長、かつてカルナックと共に世界を駆け巡った戦友の一人である。そして、過去に一度カルナックが一夜にして帝国を壊滅寸前まで追い詰める原因を作り出した張本人である。だがしかし、この男、間違いなく強い。
「先生、すごく不思議なんですけど。ここが海底洞窟というのなら何故海水が壁にしみてこないのでしょう? これだけ下りれば水圧によってこんな空間崩落してもおかしくないと思うんですが」
言われてみればそうだった、推定で八百メートルは下っているだろうと思われる。流石にそこまで下ってくれば水圧の負荷によってこんな空洞崩落してもおかしくはない、付け加えるのであれば気圧の変化も見られなかった。それがレイにとってはとても不思議に思えた。
「この洞窟が作られたのは今から二千年も昔です、当時の技術は今の技術より高度であり何より魔術が猛威を振るっていた時代です。この洞窟から感じ取れるこの気配からすると何らかの魔術が掛けられているのでしょう、私達には一切分かりませんが」
カルナックもまた良く分かってはいなかった、勝手に歩く書庫と呼んでいたアデルが思わず振り返ってしまう。カルナックが知らないことが本当にあったのかと驚いていた。だがアデルはすっかり忘れている、数日前にカルナックはガズルの重力球の事が分からないと言ったばかりであることを。
「そういえば法術の結界を発動させるときに用いる魔法陣って、元をただせば魔術何ですか?」
「そうですね、そもそも法術というのは魔族に対抗するべく生まれたエーテルの活用方法なのです。前にも説明しましたが魔術は体内のエーテルをそのまま具現化させることにより強力な一撃を放つことが出来ますが人間にはそれが出来ません。なのでエーテルを起爆剤として周囲にあるエレメントを具現化させる事により魔術に対抗できるのです。ですが結界に関していえば両方ともエレメントを用いた技術であり、先駆者は魔族側です。それを研究して分かったのが魔法陣です。名前の由来は魔族の術者が体に施している刺青が発祥と言われています」
淡々と説明した、途中でアデルはすでに頭の中がこんがらがっていて理解が出来ていないがレイはなるほどとうなずいていた。教養の違いなのかも知れないとカルナックはあきらめている。
それから再び階段を下る事数分、ようやく彼らの目に光が映りだしてきた。しかし松明の様な明るさではない、まるで外にいるかのような明るさである。違和感を感じつつも彼らは下る速度を速めた。初めにレイが第三階層への入口へと到着する。
続いてアデル、ガズルと続き残りの二人も階段を下り切った。彼らの目に飛び込んできたのは洞窟とは言えない空間がそこに存在した。まるで王宮の応接間に居るようなそんな光景だった、壁は大理石で埋め尽くされていて床は赤いカーペットのようなものがぎっしりと敷かれている。明かりは陽光石が大量に使われていている。これが明るさの原因だった。
「レイヴン!」
その広間の反対側に奴らは居た。レイヴン、シトラ、そしてひと際大きな体格をした大男が一人。アデルの声にレイヴンが反応して振り向いた。
「一足遅かったですねアデル君」
「いやまだだ、ここでお前たちを仕留めて瑠璃も破壊する!」
その言葉にレイ達は各々の武器を取り出しレイヴンたちの元へと走り出した。だがシトラが最後のロジックを解除し扉が開いてしまう。
「おめぇら先に行け、俺がこいつら始末してやる」
「それは無いですよ隊長、彼は私の獲物だと言ったじゃないですか」
「うるせぇ、たまには部下においしい役目持たせてやりてぇって上官の配慮だ。その代りと言っちゃぁ何だがこいつらは貰う」
大男が腰にぶら下げていた巨大な斧を取り出してレイヴン達を先に行かせた。苦笑いをしながらも上官の命令とし扉の奥へと進む。それにシトラ。
「待てぇ!」
アデルが叫ぶが扉は閉まってしまった。そして大男が両手で巨大な斧を振り上げて地面に向けて振り下ろす。すると叩きつけられた地面が割れて衝撃波と共に地面を一直線に破壊する。五人はそれを左右に避けるとそれぞれが大男に向かって攻撃を仕掛ける。カルナックは後方で四人のアシストをするべく法術を練る。
「どけぇ!」
最初にアデルが飛び出した、グルブエレスとツインシグナルをそれぞれ振りかぶり斬撃を叩きこむ。しかし巨大な斧でそれは防がれてしまう。力任せの攻撃をしてくるあたり速度は遅いと勘ぐったアデルはそれに驚く。俊敏な身のこなしでアデルの攻撃をさばき続ける。
「オラオラオラ、どうしたこんなもんか!?」
巨大な斧を横一杯に振りかぶると今度は力一杯振り回してきた。咄嗟にアデルは両手の剣で受け止めるが余りの力に受け止めた傍から後方へと吹き飛ばされてしまう。それを見たレイがアデルを受け止めるが勢いのあまり一緒に吹き飛ばされてしまう。その二人を後ろで法術を練っていたカルナックが受け止める。
「てめぇ!」
今度はガズルが叫びながら突撃する、重力爆弾を作り出すと大男目がけて叩きつける。だがそれに対し左手を重力爆弾へ向けて表情一つ変えずに難なく受け止められてしまった。重力爆弾が着弾した場所はクレーター上のへこみを作り大男も一緒に少しだけ沈む。だがダメージは全く見られない。そして伸びていた左手で飛んできたガズルをキャッチするとギズー目掛けて放り投げた。この二人もまたアデルとレイ同様に吹き飛ばされてカルナックによって受け止められる。
「こんなもんか? 大した事ねぇな」
首を鳴らしながら窪みから出てきて巨大な斧を地面へと突き立てる。両手で指の関節を鳴らすと再び斧を持ち上げた。
「さぁって今度はどんな手段で俺を攻撃する? あ?」
想像以上の強さだった、流石レイヴンの上官なだけはある。並の人間とはかけ離れたスピードとパワーを持ち合わせるこの男の存在は彼らの頭にはなかった。むしろこれほどまでの使い手が帝国にまだ残っていたことに驚いている。まさに番狂わせである。大男が指を鳴らしている間にカルナックは法術で四人を回復させる。そして立ち上がってもう一度突撃しようとするアデルの肩を叩いてカルナックが前に出る。
「君達は少し休んでいなさい、今消耗されては勝てる勝負も勝てなくなってしまいます」
そういうと雷光剣聖結界を即座に発動させる。大男を睨みすぐさま抜刀の体制を取る。
「――エルメアに剣聖結界使いで抜刀の構え?」
大男がそうぽつりとつぶやいた瞬間カルナックがその距離を途轍もないスピードで縮めた、カルナックは初段で決めるつもりでいた。戦闘を長引かせるとこの後の消耗に響くからだ。一撃でこの男を沈めてすぐさまレイヴン達の後を追うつもりでいた。が、その考えはすぐさま打ち破られる。初見であれば見切れるはずのない神速の抜刀術が大男の持つ巨大な斧によって塞がれていたのだ。
「なっ!」
初段を防がれてしまったカルナックは一瞬だけ混乱したがすぐさまバックステップで後ろへと飛ぶ。今の一瞬何が起きたのかカルナックは理解できなかった。
「そうかてめぇか、久しぶりじゃねぇか――」
その言葉が耳に届いた時、カルナックの目の前には距離を取ったはずの大男が斧を振りかぶってこちらに振り下ろす姿が目に映った。後ろに居た四人はこの男が何をしたのか、どうやって瞬間的に移動したのか全く見えていなかった。振り下ろされる斧をカルナックの刀で受け止める。その衝撃は刃同士がぶつかった瞬間に強大な風圧と共に二人の間を駆け抜ける。
「よう――『最強』!」
大男の顔が間近に迫っていた、その顔を見た瞬間カルナックの心臓は一度ドクンと高鳴った。そのまま視線を右腕へと移す。その右腕は義手だった。カルナックはこの男を知っている。
「やぁ――『最狂』」
エレヴァファル・アグレメント。帝国軍特殊殲滅部隊隊長、かつてカルナックと共に世界を駆け巡った戦友の一人である。そして、過去に一度カルナックが一夜にして帝国を壊滅寸前まで追い詰める原因を作り出した張本人である。だがしかし、この男、間違いなく強い。
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