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第二章 神苑の瑠璃 後編

第二十話 信頼と裏切り Ⅰ

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 カルナック家のリビングでは女性四人が片づけをしていた。昨夜の暴走によって様々なものが破壊されている、ガラス片も飛び散っていたりとまともに歩けない場所もいくつかある。破壊されたドアはそのまま床に転がっていたりと片づける処は多々ある。それを四人で片づけては休憩し、片づけては休憩しとお茶を飲みながら掃除していた。

「朝起きた時はビックリしましたけど何とか片付くものですね」

 紅茶を少しづつ飲みながらクッキーに手を伸ばしてそういうのはプリムラだ、フフフと笑ってコーヒーをすするアリスが対面にいる。

「あの、本当にごめんなさい」

 何故か先ほどからずっと謝り続けているメルがアリスの左に座っている。何度も何度も頭を下げて必死に謝り続けている。

「なんでメルちゃんが謝る必要があるのかな? もしかして~、自分の彼氏がおいたしちゃったもんだから責任感じてるのかな?」
「かかかかか、彼氏だなんてそんな!」
「いいのよぉ~隠さなくても、お姉さんは分かってるから」

 そのメルの対面に足を組んで座ってるのがシトラだ。いち早くテーブルとソファーを元の位置に戻して足元に散らばる瓦礫等を撤去していた。早い話がお茶会がしたかっただけのような気がする。しかしこれで座る場所と物が置けるテーブルがあればとりあえず食事はできるだろう。現在は女子会の場になっているが、片づけてくれる人たちに男どもは決して文句は言わないだろう。

「でも意外だったなぁ、原因分かってるからあれだけどレイ君が暴走するとはねぇ~」

 もごもごと口の中にクッキーが入ったまましゃべりだしたのはアリスだった、普段からショタコンを覗けば完璧な女性というイメージがある彼女だが、今日ばかりは何年かぶりの女子会だからだろうか、かなり気が緩んでいる様子だ。男の目線が無いとはいえ物凄くくつろいで居る様に見える。それにプリムラがならう。

「確かにそうですね、私も話を聞いてびっくりしちゃいましたよ。過去の厄災の魂でしたっけ? それが何でレイ君の中に居たんでしょうね」

 テーブルに置かれたクッキーを二ついっぺんに取るとそのまま口の中へと入れた、もうすぐお昼だというのにそんなに食べて入るのだろうか? ソファーの上で胡坐をかきながら食べていた。

「不思議なこともあるのね本当」

 足を組み替えて同じようにクッキーに手を伸ばすシトラ、その中で唯一一人だけ背筋を伸ばしてきちんと座っているのはメルただ一人。気を張っているようにも見える。

「そういえばビュート君だっけ? ずっと姿が見えないけど」

 突然話題を切り替えた、言われてみれば朝からずっとビュートの姿を女性四人は見ていない。最初に気に掛けたのはシトラだった。

「確かに見てないわね、カルナックと一緒に何かやってるんじゃないかしら?」

 口の渇きをコーヒーで潤しながらアリスが言う、飲み干したコップをもって立ち上がると台所に置いてあるコーヒーの粉末を入れて新しくお湯を入れる。

「私全然あの子と喋ってないんだけど、あの子は強いのかしらアリスさん?」

 シトラがにやにやとしながらアリスへと尋ねる。入れなおしたコーヒーを片手にソファーに戻るとアリスはゆっくりと座った。

「レジスタンスの中でも実力者だったらしいわよ、法術は苦手だけどあの珍しい武器の扱いはかなりのものだってカルナックが褒めていたからそれなりに強いんじゃないかしら。護衛で一緒に付いて来てもらってるけど並の子供じゃないことは間違いないと思うかな」

 珍しくアリスからのお墨付きが出た、実を言う所アリスはビュートの護衛無しでも普通に近隣の街へと出かけることが出来る実力者ではあった。主に法術に長け熟練度はかなり高い。元々アリスはカルナックの元にやってきた理由が弟子入りだったのだが気が付けば家事全般をこなす主婦になっていた。原因はカルナックにある。あの汚い部屋を初めてみたアリスは修行どころではないと最初に悟ってしまった、自分が寝泊まりする部屋ですらもので埋もれていて足の踏み場もなかった。

 極めつけは食事だった、カルナックは食事を作ることが大変下手である。例えを上げよう、目玉焼き一つ作るのになぜかフライパンから炎が上がり、肉を焼かせれば必ず炭化する。初めてその料理をみたシトラは別の意味で殺されると感じ取っていただろう。それからは彼女がカルナックの身の回りの世話をしながら修行という名の買い物や掃除といった家事全般をこなすようになった。もちろん元々法術の扱いにはカルナックから一目置かれていたこともあり特別何かを施すことはなかったという。では彼女の実力としてはどのようなものか、レイの法術より破壊力は高く扱いは上手い。風のエレメントを使った法術が得意でカルナックの精神寒波をも易々と潜り抜ける。レイやアデルが旅立った後はその手の実力者がカルナックへと挑戦しに来るたびに彼女が最初に相手をしているぐらいである。もちろん全て返り討ちにしてるのは言うまでもない。

「アリスさんに言わせるなんて大したもんね彼も」
「まだまだ危なっかしいところはあるけどね、それよりそろそろ続きやっちゃいましょうか。もうじきお昼になるわ」

 台所の近くにある壁掛け時計は無事だった、もうじき正午になる。四人はそれぞれゆっくりと立ち上がると自分が使った食器を片づけて掃除の続きへと戻っていった。
 一方そのころ、外で各々特訓に精を出していた四人はカルナックの部屋に呼ばれていた。アデルはこの時疲弊しきっていた、それもそうだろう。先ほどまで二時間以上も剣聖結界を発動させては切れての繰り返しをもう何十回とつづけ、六幻取得に向けて周りの木々にひたすら打ち込んでいたからである。レイの肩を借りて息を切らしながらやっと立っている状態だった。

「さぁ、できましたよアデル」

 相変わらずの笑顔でカルナックが疲れ果てているアデルに告げた、その表情は本当にうれしそうだ。自分の弟子が一生懸命特訓して頑張っている姿を見ての事だ。しかしアデルが動けそうにもない事を流石に悟ってか彼らの元へと歩いてきた。珍しいこともあるもんだとレイが多少驚いた表情をしていた。

「元々黒曜石で出来ていたこの刀に先ほどの溶岩が固まった石を付け加え、炎帝の力を付与しました。渾身の出来ですよアデル」

 右手でその刀を渡そうとアデルの前に持ってくる。が、左手はレイの肩に回っていて右手にはカルナックの刀を杖代わりにしている。膝が笑っているため刀を取り上げたら多分転倒するだろうとカルナックは即座に察した。

「はぁ……仕方ないですね」

 あまりの消耗に呆れていた、確かに必死に特訓する姿は美しくカルナックの目に映っていたがこれでは話にならない。ため息をつきそうになるのを我慢してアデルに肩を貸した。

「ほらアデルこちらですよ」

 そのままアデルを担ぎ上げた、身長差があるとは言え軽々と持ち上げる。それなりの武具を装備しているにも関わらずだ。二本の剣とカルナックの刀、それにいくつかの防具を身に着けているがその重さを感じさせない背負い方だった。

「すまねぇおやっさん」
「せっかく君の為に用意したのに、まずは動けるように回復させます。ガズル君、すみませんが椅子に座らせますので回復の法術を」
「わりぃ剣聖、実は俺もすっからかんなんだ。特訓中のアデルを回復させるのに全部使いきっちまってる」
「本当に仕方ありませんねぇ」

 ゆっくりと椅子に座らせると急にアデルの頭を押さえ付けてテーブルにうつ伏せにさせる、突然の事にアデルが暴れようとするが体には力が入らない。

「いってぇな! まさかアレやるんじゃねぇだろうな!」
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