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第二章 神苑の瑠璃 後編

第十九話 剣聖結界 ―奥義伝承― Ⅳ

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「イッテェェェェェェェェ!」

 アデルだった。あれから二時間ひたすら炎帝剣聖結界ヴォルカニックインストールを使いながら六幻を習得するべくひたすらそこらじゅうの木々に打ち込み続けた。しかし五連続までは何とか成功するにしてもやはり六幻だけはどうにもたどり着けない、無理もない。いわばカルナックが教える最後の剣技だからである。そう易々習得されてはたまった物じゃない。度重なる右腕の酷使についに悲鳴を上げた。

「だぁぁぁぁ! 音を置き去りにする攻撃なんてどうやったらできるんだよ!」

 ドサッと後ろへ倒れこんだ、雪がクッション代わりになり痛みは全くない。

「そうはいってもさアデル、剣聖は目の前でやってのけたんだろう?」

 ガズルだった、それだけじゃない。レイとギズーも一緒に外でアデルの特訓を見守っている。二時間ひたすらに打ち込み続けている様子はまさに鬼のようだった。

「そもそもなんで剣聖結界前提なんだ? 速度の問題とは聞いたけど」

 ギズーが家から持ってきた椅子に座って尋ねる、背もたれに顎を乗せて両足を開いて座っている。

「単純に速度の問題だけじゃねぇんだ、あの技はいわば音速を超えるんだ。だからこそ音を置き去りにできる、だけどその時の摩擦熱は尋常じゃないんだ。それから身を守る為にも必須なんだと俺は考えてる」
「それを生身でも使える剣聖ってやっぱりおかしいんだな」

 ガズルがボソッと呟いた、だが残りの三人はそれに激しく同意する。元々化け物と呼ばれるほどの人間であったカルナックだがその実力は年をとっても衰える気配は全くなかった。

「何かヒントがあるはずなんだ、もう一度アデルが見た様子を話してくれ」

 椅子に座っているギズーの頭に左腕を置いて寄りかかっているレイが口を開いた。誤解しないでほしい、アデルがひたすらに技の練習をしている間レイが何もさぼっているわけではない。エーテルコントロールで爆発的に消費する剣聖結界をどうにか長時間維持できるように彼もまた修行している途中だ。証拠に三十分以上も氷雪剣聖結界ヴォーパルインストールを発動し続けたままだ。最初にカルナックが告げた時間を遥かにオーバーしている。これも深層意識の中で炎帝に教わった技術の一つである。

「これで何度目の説明だよ。俺が見たのは炎帝剣聖結界ヴォルカニックインストールを使った後六つの残像が見えた、それがそれぞれ円を描きながら中心へと集まるんだ。斬撃音は納刀した後に聞こえてきた、それ以外は――」

 同じ説明を繰り返し繰り返し話してきたアデルはそこでピタッと発言を止める、突然ガバっと上半身を起こすとカルナックの刀を見つめる。三人は突然の事でアデルが何をしているのか分からなかった。

「アデル?」

 レイがギズーの頭の上に置いていた腕を退かしてきちんと両足で立つ、カルナックの刀をずっと見つめているアデルに近寄ると隣でしゃがんだ。

「なぁレイ、炎帝剣聖結界ヴォルカニックインストールの最大の利点ってなんだ?」
「身体に負荷を掛け一時的に爆発的な戦闘力を持たせる事だろ? その代償として発動後は動けなくなることもあるって先生言ってたじゃないか」
「なら、爆発的な戦闘力ってなんだ?」

 その場にいた三人がそれぞれ顔を見合わせる、一体アデルは何を言いたいのだろうかと首を傾げる。きっとアデルには何か閃きの様な考えが浮かんだのではと三人は思った。

「例えば戦闘力って言うのは一概にはただの強さってイメージがある。だがそれを細かく分析したらどうだ? パワー、スピード、視認力、判断力等色々なパラメーターに分かれるはずなんだ。その中でも六幻の最大な特徴はその攻撃速度だ、残像を伴い六方からほぼ同時に攻撃を叩きこむ。その攻撃速度は音速を超え音を置き去りにする」

 彼にしては珍しい考察力なのかもしれない、普段ぶっきらぼうで単細胞と言われている彼がここまで様々な事を口にするのはやや珍しい。時々あるにはあるが。

「つまり、あの技を成功させるにはスピードが最重要。その攻撃速度を上げれば習得は目前――」
「いや、その攻撃速度云々について今まさに話し合ってる所じゃないか?」

 真剣に語るアデルにすかさずガズルが突っ込みを入れる。しばらくの間沈黙が続きアデルが再び後ろへと倒れこむ。

「あぁ、全く何て技だ」

 アデル意外の三人はその様子に笑っていた、それを家の中から観察する人がいる。カルナックだった、彼もまたひたすら六幻に向かって繰り返し繰り返し試行錯誤を行うアデルの様子を見ていた。その表情はとても微笑ましいものだった。

「頑張りなさいアデル、六幻の神髄はその見た目にあらず。私が使った時の事をよく思い出すのです、今のあなたならきっと分かる。まだ足りないが必ずレイヴンと出会う前に理解するでしょう」

 机に置かれたコーヒーを手に取って口へ運び自身の仕事へと取り掛かった。
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