『この星で、最後の愛を語る。』~The Phantom World War~

青葉かなん

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第二章 神苑の瑠璃 後編

第十九話 剣聖結界 ―奥義伝承― Ⅰ

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 目を覚ますとそこはカルナックの家の中だった、目だけを動かして辺りがどこかを確認しながらゆっくりと上体を起こす。上半身を起こして二度首を鳴らす、どうやらリビングのようだ。ソファーに寝かされていたアデルはテーブルの上に置かれている自分の帽子を見つける。それを取ると頭に被り立ち上がる、先ほどまでレイの深層意識の中で起こった出来事を思い出しながら再び辺りを見渡す。彼にとって貴重な体験だっただろう、自分の、ましてや他人の深層意識の中で起こった出来事なんて通常ではあり得ない事柄だからである。

「戻ってきたか」

 帽子の横に置かれていた自分の愛剣を片手で掴み取ると破壊された玄関へと歩き始める、外にはカルナックを初めとしたダイブ前の面々が揃っている。最初にアデルに気が付いたのはガズルだった、手を振ってアデルの名前を呼ぶと本人も左手を上げてそれに答えた。

「長かったな、どうだった?」
「あぁ、万事解決だ。だけど氷の結界が気になって俺だけ先に戻ってきたんだ、レイには後一時間ぐらいしたら目を覚ます様に伝えてある」

 皆の元へと歩きながら話した、両手を組んで結界で封印されているレイを見ていたカルナックは彼の表情をみて安堵する。モノクルを一度右手で掛けなおしてにっこりと笑った。

「おかえりなさいアデル、良くやりましたね」
「大変だったぜ全く、だけど良い体験ができた気がするんだ」
「そうですか、炎の厄災はどうなりましたか?」

 右手で鷲掴みにしていた二本の剣を左右の腰に丁寧にぶら下げた。それから帽子を両手で位置調整を行い切れ目がきちんと左目の上にくるように調整する。

「それに関しては大丈夫だ、もう何ともないさ」

 平静を装いながら返した、カルナックは何事もなかったように話すアデルを見てもう一度安心する。我が子の様に育ててきた弟子が一つ成長した姿を見て頬が緩む。

「レイは大丈夫なのか?」

 今度はギズーが話しかけてきた、寒そうに両手で自分の両腕をさすって小刻みに震えている。寒いのであれば家の中で暖を取ればいいだろうにとアデルは思ったが、自分がギズーの立場であった時そんなことは出来ないだろうとすぐに考えを改めた。

「さっきも言った通りさ、ちょっと一発殴っちまったけどな」

 右腕を振りかぶってレイを殴った時のそぶりを見せた、するとガズルが思わず笑ってしまった。

「お前は深層意識の中ですらぶっきらぼうなんだな」
「目覚まさせるにはこれが一番だってお前が言ったんじゃないかガズル」
「それはお前に対してだけだ、寝起きの悪い事悪い事」

 二人が笑いながらそんな話をし始めた。会話を聞いていたカルナックはため息を一つついてヤレヤレと首を振った、同じくシトラもそれにつられて微笑む。

「それじゃ、レイ君の結界を解きましょうかね」

 右手に握っていた杖を正面に持ってくるとシトラは詠唱を始めた、氷漬けのレイの足元から大きな魔法陣が出現すると紋章の角に沿って新たに魔法陣が出現する。ここでアデルはシトラのエーテルを感じ取った。今までのアデルからすればシトラが何をしているのかさっぱり分からない状態だったが此度の事件でエーテルコントロールを覚えたアデルには感知できるようになっていた。それでもまだレイの足元にも及ばないだろうその技術。

「すげぇ、エーテル感知が出来るようになると改めて凄さが分かるな」

 その発言にまずカルナックが驚いた、コントロールも真面に出来ずにいたアデルがこんな短期間で感知まで使えるようになっていることに驚愕した。

「アデル、感知まで出来るようになったのですか?」
「ん? あぁ、爺さんに教わったんだ。というか爺さん言ってたぜ? カルナックはそんなことも教えとらんのかってさ」
「ハハハハ。教える前に飛び出した弟子にそんな事言われる日がこようとは思いもよりませんでしたよ」
「ぬぐっ……」

 してやったりと思ったつもりだったが逆に痛い所を指摘されてしまう。恥ずかしそうに帽子を深く被りなおしてバツが悪そうにしていた。

「いつまでも面倒見てもらうわけにも行かないと思ってたんだ、仕方ねぇじゃないか」

 アデルがそう呟いた、魔法陣が起動する音によってそれはきっと誰の耳にも届いていないだろう。だがカルナックは薄々感じていた、きっとそうじゃないかなと。アデルの性格を考えればあり得る話だと思っていた。聞こえてはいなくてもそこは師弟であった。

「さぁ、そろそろ結界が解けるよ。レイ君の体誰か押さえてね」

 根元からビキビキと音を立ててヒビが入り始める、一瞬それをみたアデルがギョッとする。氷の中で封印されているレイの体は本当に大丈夫なんだろうかと心配し始めた。

「なぁ、そんなに勢いよくやって本当に大丈夫なんだろうな?」
「あら? 私を信じなさい坊や」

 ニッコリと笑うと注ぎ込んでいるエーテルを一層増やした、するとどうだろう、見る見るうちにヒビは全体に広がり氷が割れた。心配されていたレイの体には何の傷も無く外相は見られなかった。

「よっと」

 氷が割れた瞬間アデルはその場からレイの元へと跳躍して落ちてくる体を両手で抱きかかえた。穏やかな表情で寝息を立てているレイを見てアデルも一安心した。

「さてと、では時間も遅いですし続きは日が昇ってからにしましょう。皆さんお疲れ様です、今夜はゆっくりと休んでください。アデルは朝になったらレイ君を連れて私の元へ来てくださいね」

 カルナックが両手で手を叩いてそう言った、その言葉でそれぞれ破壊された家の中へと戻っていく。こうしてレイとアデルの両名は無事に現実へと戻ってくることが出来た。レイはその後すぐに目が覚めてアデル達に謝っていた。カルナックとシトラはすでに部屋に戻っていて謝ることが出来なかったためそれは朝が来てからになってしまう。四人は同じ部屋でそれぞれ体を休めた。しかしこの日、レイとアデルは寝ることが出来なかった。完全に目が覚めていて睡魔など一切ない。しかし精神的な疲れは確実に二人の体に残っている。寝ることは出来なかったが二人は目を閉じてそれぞれその日を休んだ。

 日が昇り朝を迎えた、アデルとレイはそれぞれ起き上がると身支度をはじめていた。まだ朝の七時頃だろうか? 吐く息は白く外気温はおそらく氷点下だろう。二人は一度玄関にまで足を運んで外の様子を見た、目の前に広がったのは一面銀世界だった。あの時止んでいた雪がもう一度降ったのだろう。彼らの戦闘の後が限りなく雪に覆われていたからである。庭の先に目をやると森が続いている、その入り口付近の木々がなぎ倒されている。間違いなく戦闘があった痕跡だった、レイはそれを見てここでどれほど大きな戦闘があったのかを理解した。

「暴れたんだなぁ僕は」
「あぁ、凄かったらしいぜ」

 二人が雲の間から覗き込んでくる朝日に照らされながらそう話した、そして玄関を後にして二人はカルナックの部屋へと向かう。ドアの前で立ち止まると一つノックをした。だが中から返答はない、物音一切しないカルナックの部屋に二人はため息をつく。

「自分から朝一番で来るように言っておいてこれか」
「仕方ないよアデル、僕は何も言えない」

 二人が顔を合わせてそれぞれ笑った、レイがゆっくりとドアノブに手を掛けて回す。立て付けが悪いのか高い音を鳴らしながらドアを開く。中には居るはずのカルナックの姿は見えなかった。部屋の中へと二人はそれぞれ入って辺りを見渡す。だがやはりどこにも姿は見えなかった。

「また本でも読んでるのかと思ったら居ないのか」

 両腕を組んで舌打ちをしながらアデルが舌打ちをした、苦笑いしながらレイがカルナックの机を調べる。何かメモ書きでもあるかと思って捜索してみるが机の上は本が散らかっていて良く分からなかった。

「相変わらずだなぁ先生も」

 ため息をついて本を一冊一冊本棚にしまい始めた、積み重ねられた本はおよそ二十冊はあるそうだった。それも分厚いカバーで覆われていて一冊が重い。辞典のような物から推理小説のような小さな本まで多岐にわたる。
 片づけをしていたレイはふと本の下敷きになっている手紙のようなものを見つける、左手で本を持ちながらその手紙を拾った。

「アデル、これ」

 レイの片づけを近くにあった椅子に座ってみていたアデルは腰を上げてその手紙を受け取る、メモ紙は端の処に切れ目があったりしている。

「おやっさんの字だな、何々?」

 そこに掛かれているのは次の通りだった。
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