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第二章 神苑の瑠璃 前編
第十五話 剣聖結界 ―深層意識と心象世界― Ⅲ
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レイの暴走から十分後、彼らはまだ外にいた。
五人はすでにボロボロ、まさに死闘の後といった感じだった。氷漬けになったレイの正面に五人は立それぞれが口を開き始めた。
「それで、この後どうするんだ」
最初に口を開いたのはアデルだった、他の四人に比べてまだ疲労は然程ないように見えるがそれは間違いである。彼こそ一番疲弊した張本人だった。咄嗟とはいえ炎帝剣聖結界を使い、エーテルを消耗した上に逆光剣を立て続けに放ったのだからだ。
「不可解なところが多すぎてまだ何とも言えません。何故、レイ君には炎のエレメントの素質は全くないはずなのに炎帝剣聖結界が使えたのか」
カルナックが続けて言う、眼鏡を一度治してその疑問を口にした。それにシトラが続ける。
「確かに不思議ね、結果としてみれば暴走してたことは確かなんだけど」
二人が顔を傾げる、あんな状況の後だというのに物凄く落ち着いて話をしている。それにガズルが大きなため息をした。
「二人ともよく冷静にいられるな、運よくアデルが起きてきて何とかなったというのに。こいつが起きてこなかったらあんたは自分の弟子の首を跳ねていたところなんだぞ剣聖」
「いや~、それを言われると何も言えませんね」
ハッハッハと笑いながら笑顔でそう言った、それを見たギズーの顔が豹変した。まさに鬼のごとくである。
「何笑ってんだ、自分の弟子に手を掛ける処だったっていうのに!」
「ギズー君、私は最初に君達に忠告したはずです。覚悟はしておけと」
カルナックは笑顔のまま続けた、だがその笑顔の奥にはどこか寂しそうな表情さえ見え隠れしている。
「炎帝剣聖結界と言えばアデル、よく習得しました」
いきなり話題を振られた、アデルはその言葉に少し驚きつつ素直に喜ぶことはできなかった。それもそうだろう、目の前には一緒に習得しようと約束した親友が暴走し、今まさに目の前で氷漬けの封印されている姿があったからだ。
「素直には喜べないけど、何とかって感じだよ。そういえば――」
そこで深層意識の中での出来事を思い出した、炎帝が残した言葉をゆっくりと思い出しながらカルナックに語り掛ける。
「爺さんが厄災が蘇るとか何とかって――」
アデルがそこまで言うとカルナックとシトラは表情を変えてアデルを見る、その表情はとても強張っている。今までカルナックの表情からはこんな顔見たことがなかった。
「え、何?」
「アデル、炎帝は確かに「厄災が蘇る」そう言ったのですね?」
「あぁ、なんのことだか俺にはチンプンカンプンで分からないんだ」
「もし……その話が本当なら」
カルナックが腰に差していた鞘から刀を引き抜くとレイに刃を向ける。
「今すぐこの場でレイ君を殺さなければなりませんね」
シトラ以外の三人がざわつく、シトラだけは俯いて何も言わなかった。
「待てよおやっさん、厄災って一体なんだ!」
「千年も昔の話です、私自身文献でしか読んだことがありません。炎帝が言う厄災とはすなわち『炎の厄災』、西大陸の地形をも変えてしまった最悪の厄災の一つです。これで不可解だったことに合点がいく、炎の適正がないレイ君が何故炎帝剣聖結界が使えたのか、仮にレイ君の体に炎の厄災が封印されているのであれば十分あり得る話です」
「あり得るって、千年も昔の出来事なのになんでレイの体に封印されているんだよ」
アデルが噛みつく、当然と言えば当然だろう。大昔に封印された物が何故現代の人間に封印されているかを疑問に持つことは至極普通の事だと思える。
「大昔の封印です、それが時代と共に緩み精神だけが封印から抜け出してしまったらどうでしょう。それが運悪くレイ君に当たってしまったと考えるなら――」
「すまない剣聖、ちょっといいかな?」
二人の話を聞いていたガズルが急に口を挟む、今のカルナックの話を聞いて疑問に思ったことがあった。
「今の剣聖の話だと精神がレイに宿ってしまったと仮定した話だよな、なら精神に干渉する逆光剣でそれを除去することはできないのかな?」
「無謀な話ではありませんが現実不可能でしょう。あまりにも深い処まで潜り込まれていた場合逆光剣の効果でもそこまで到達できません、深層意識の中から直接取り除かなければなりません。レイ君が炎帝剣聖結界を使ったことで厄災は深層意識まで確実に潜り込んでいると思われます」
淡々と説明する、だがガズルはその話を聞いてニヤッと笑う。そしてアデルの首に手をまわして寄りかかる。
「アデル、お前の力で剣聖の意識をレイとリンクさせることはできるか?」
「いや、俺じゃそこまでは出来ねぇ。おやっさんならできるだろうけど」
そこまで聞いてカルナックもガズルの話の意図を見出した、レイに向けていた刀を今度はアデルへと向ける。剣先が自分の顔すれすれまで伸びてきてアデルは驚く。
「な、なんだよおやっさん。人に刀向けるんじゃねぇ!」
「ガズル君、君は天才ですね」
「これでも飛び級で大学まで卒業してるんでね」
二人は笑顔でそう言葉を交わす、そこでようやくギズーが話を理解した。続いてシトラも理解したようで笑顔を作る。三人はアデルの体を掴むと離さないようにギュッと抱きしめる。
「え、何々?」
アデルはまだ話の意図を理解していなかった。ガズルはそれにため息を一つついて説明を始める。
「良いかアデル、任務は簡単だ。剣聖がお前とレイの深層意識をつなげる、お前はレイの意識の中に飛び込んで炎の厄災だっけ? その精神を除去してレイを開放する。それだけだ」
そこまで説明されてようやくアデルも話を理解する。だが何故今自分が雁字搦めに三人に掴まれているかわからない。
「話は分かったけど、なんで俺こんなに動けなくなるぐらい掴まれてるの?」
カルナックが笑顔で刀を振りかぶり逆光剣の準備を始める、十分にエーテルを充填すると再びアデルの前に刀を持ってくる。
「あなたが気絶しても大丈夫なように支えてるだけです、さぁ――レイ君を救ってきてください」
そこまで言うとアデルの目の前でカルナックの刀が光り輝き、それを目にしたアデルは再び深層世界へとダイブした。
五人はすでにボロボロ、まさに死闘の後といった感じだった。氷漬けになったレイの正面に五人は立それぞれが口を開き始めた。
「それで、この後どうするんだ」
最初に口を開いたのはアデルだった、他の四人に比べてまだ疲労は然程ないように見えるがそれは間違いである。彼こそ一番疲弊した張本人だった。咄嗟とはいえ炎帝剣聖結界を使い、エーテルを消耗した上に逆光剣を立て続けに放ったのだからだ。
「不可解なところが多すぎてまだ何とも言えません。何故、レイ君には炎のエレメントの素質は全くないはずなのに炎帝剣聖結界が使えたのか」
カルナックが続けて言う、眼鏡を一度治してその疑問を口にした。それにシトラが続ける。
「確かに不思議ね、結果としてみれば暴走してたことは確かなんだけど」
二人が顔を傾げる、あんな状況の後だというのに物凄く落ち着いて話をしている。それにガズルが大きなため息をした。
「二人ともよく冷静にいられるな、運よくアデルが起きてきて何とかなったというのに。こいつが起きてこなかったらあんたは自分の弟子の首を跳ねていたところなんだぞ剣聖」
「いや~、それを言われると何も言えませんね」
ハッハッハと笑いながら笑顔でそう言った、それを見たギズーの顔が豹変した。まさに鬼のごとくである。
「何笑ってんだ、自分の弟子に手を掛ける処だったっていうのに!」
「ギズー君、私は最初に君達に忠告したはずです。覚悟はしておけと」
カルナックは笑顔のまま続けた、だがその笑顔の奥にはどこか寂しそうな表情さえ見え隠れしている。
「炎帝剣聖結界と言えばアデル、よく習得しました」
いきなり話題を振られた、アデルはその言葉に少し驚きつつ素直に喜ぶことはできなかった。それもそうだろう、目の前には一緒に習得しようと約束した親友が暴走し、今まさに目の前で氷漬けの封印されている姿があったからだ。
「素直には喜べないけど、何とかって感じだよ。そういえば――」
そこで深層意識の中での出来事を思い出した、炎帝が残した言葉をゆっくりと思い出しながらカルナックに語り掛ける。
「爺さんが厄災が蘇るとか何とかって――」
アデルがそこまで言うとカルナックとシトラは表情を変えてアデルを見る、その表情はとても強張っている。今までカルナックの表情からはこんな顔見たことがなかった。
「え、何?」
「アデル、炎帝は確かに「厄災が蘇る」そう言ったのですね?」
「あぁ、なんのことだか俺にはチンプンカンプンで分からないんだ」
「もし……その話が本当なら」
カルナックが腰に差していた鞘から刀を引き抜くとレイに刃を向ける。
「今すぐこの場でレイ君を殺さなければなりませんね」
シトラ以外の三人がざわつく、シトラだけは俯いて何も言わなかった。
「待てよおやっさん、厄災って一体なんだ!」
「千年も昔の話です、私自身文献でしか読んだことがありません。炎帝が言う厄災とはすなわち『炎の厄災』、西大陸の地形をも変えてしまった最悪の厄災の一つです。これで不可解だったことに合点がいく、炎の適正がないレイ君が何故炎帝剣聖結界が使えたのか、仮にレイ君の体に炎の厄災が封印されているのであれば十分あり得る話です」
「あり得るって、千年も昔の出来事なのになんでレイの体に封印されているんだよ」
アデルが噛みつく、当然と言えば当然だろう。大昔に封印された物が何故現代の人間に封印されているかを疑問に持つことは至極普通の事だと思える。
「大昔の封印です、それが時代と共に緩み精神だけが封印から抜け出してしまったらどうでしょう。それが運悪くレイ君に当たってしまったと考えるなら――」
「すまない剣聖、ちょっといいかな?」
二人の話を聞いていたガズルが急に口を挟む、今のカルナックの話を聞いて疑問に思ったことがあった。
「今の剣聖の話だと精神がレイに宿ってしまったと仮定した話だよな、なら精神に干渉する逆光剣でそれを除去することはできないのかな?」
「無謀な話ではありませんが現実不可能でしょう。あまりにも深い処まで潜り込まれていた場合逆光剣の効果でもそこまで到達できません、深層意識の中から直接取り除かなければなりません。レイ君が炎帝剣聖結界を使ったことで厄災は深層意識まで確実に潜り込んでいると思われます」
淡々と説明する、だがガズルはその話を聞いてニヤッと笑う。そしてアデルの首に手をまわして寄りかかる。
「アデル、お前の力で剣聖の意識をレイとリンクさせることはできるか?」
「いや、俺じゃそこまでは出来ねぇ。おやっさんならできるだろうけど」
そこまで聞いてカルナックもガズルの話の意図を見出した、レイに向けていた刀を今度はアデルへと向ける。剣先が自分の顔すれすれまで伸びてきてアデルは驚く。
「な、なんだよおやっさん。人に刀向けるんじゃねぇ!」
「ガズル君、君は天才ですね」
「これでも飛び級で大学まで卒業してるんでね」
二人は笑顔でそう言葉を交わす、そこでようやくギズーが話を理解した。続いてシトラも理解したようで笑顔を作る。三人はアデルの体を掴むと離さないようにギュッと抱きしめる。
「え、何々?」
アデルはまだ話の意図を理解していなかった。ガズルはそれにため息を一つついて説明を始める。
「良いかアデル、任務は簡単だ。剣聖がお前とレイの深層意識をつなげる、お前はレイの意識の中に飛び込んで炎の厄災だっけ? その精神を除去してレイを開放する。それだけだ」
そこまで説明されてようやくアデルも話を理解する。だが何故今自分が雁字搦めに三人に掴まれているかわからない。
「話は分かったけど、なんで俺こんなに動けなくなるぐらい掴まれてるの?」
カルナックが笑顔で刀を振りかぶり逆光剣の準備を始める、十分にエーテルを充填すると再びアデルの前に刀を持ってくる。
「あなたが気絶しても大丈夫なように支えてるだけです、さぁ――レイ君を救ってきてください」
そこまで言うとアデルの目の前でカルナックの刀が光り輝き、それを目にしたアデルは再び深層世界へとダイブした。
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