『この星で、最後の愛を語る。』~The Phantom World War~

青葉かなん

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第二章 神苑の瑠璃 前編

第十二話 剣聖結界 ―精神寒波― Ⅱ

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 そういうとカルナックを中心にブワァっと重たい空気が流れ出した、その空気の重さに辺り一面が緊張する。最初に崩れたのはギズーだった。法術を一切使えない彼にはあまりにも辛い空気だ。

「な……んだこれ!」

 次にガズルが崩れる、方膝を地面について身動き取れないで居た。アデルはかろうじてその中で立っていられた。レイは涼しそうな顔をして三人を見た。

「三人とも何でそんなに苦しそうなんだ?」
「は!?」「え!?」「何だと!?」

 三人が同時に声を上げる、眉一つ動かさずにレイはその場で立っている。カルナックも驚いていた、これほどの重圧を作り上げても尚レイは涼しい顔をしていたことに正直彼の才能を疑った。

「レイ君はこの程度では何とも無いようですね、そちらの二人は大丈夫ですか?」
「まだまだ!」「動けないけど、何とか……」
「わかりました、ではもう一段階ギアを上げます」

 カルナックは二人の同意を受けた上で一つ法術のギアを上げた、今度は重圧に加えて真空の様なすさまじい衝撃波を加えてきた。その法術にガズルとギズーは大きく後方へと吹き飛ばされる。

「よっと」

 吹き飛ばされた位置にシトラが待ち構えていた、二人を受け止めると溜息をついてカルナックへ文句を言う。

「こらー先生、こんな子供相手に精神寒波使うなんて何考えてるんですか?」
「いやぁ、シトラ君助かるよ。その二人を家の中に逃がしてくれないか?」

 ニコニコと左手で手を振るカルナックにあきれた顔でもう一つ溜息をついた。二人を両脇に抱えながら走り出した。玄関の前に来ると自動的にドアが開く、アリスだった。両脇に抱えられて居る二人は思わず『なんで!』と叫んだ、確かに二人がそう叫ぶ理由も分らなくはない。

「さて、ここまでしてもレイ君は何とも無いんですね」
「あ……はい、特に何も」

 レイは相変わらず汗一つかかずにそこに立っていた、流石にこれを見たカルナックも困惑の表情を隠しきれない。同じ理由でアデルも表情を曇らせた。

「あの衝撃波をまともに食らって何でお前はそんなに平然としてられるんだ!」
「そう言われても」

 アデルはついに右ひざを地面に付けた、ガクガクと震えながらカルナックを睨み付ける。

「こんな状況であんたに触るなんて出来るわけないだろ! 何を考えてるんだ!」

 アデルの言うことも一理ある、だがその隣で平然として立っている男が居る。それが何よりの疑問に感じるアデルは戸惑っていた。

「先ほどもお話した通りインストールを扱うにはエーテルの制御が必要不可欠です。何故レイ君が平然としていられるか、何で君がこんなに苦しいのか。その違いは制御力の違いです。私は君たちに重圧を掛け、真空波で吹き飛ばそうとしました。だがレイ君はそれを押し退けた、これは周りのエレメントを制御することで無意識の内に対法術障壁アンチマジックシールドを展開させています。それに対してアデル、君はそれを操る術を知らない。だから無防備に私の精神寒波を受けているんですよ」
「それでおやっさんに触ってみろか……難しい宿題が出たもんだ」
「先ずはそれを習得しなさい、そうすればレイヴンの攻撃も緩和できるでしょう」

 ゆっくりと地面についていた膝を起こそうと上体を上げる、そこにまた一発衝撃波が飛んでくる。先ほどとは違いダメージを負った体でそれをまともに貰い後方へと吹き飛ばされる、背中から地面に叩きつけられてピクリとも動かない。

「いってぇ!」

 体は動かなくても口は動くようだった、一瞬気絶したかのように思えたが間一髪意識は繋いでいた。両手を使って体を起こし立ち上がろうとする。

「なるほどな、これを克服しなければ進むものも進まないって事がよく分った。あのレイヴンって野郎もあんたの弟子だ、もちろんこれが使える、これを克服できなければ動かない的を簡単に攻撃するだけで相手は倒れるって事か」

 グルブエレスを地面に突き立てて杖の代わりにした、中腰の状態まで何とか持ち直すことが出来たアデルだったがそこに衝撃波が再びアデルの体を襲う、今度はグルブエレスを握り締めていたおかげもありバランスを崩す程度で済んだ、それを見たカルナックは一つ笑みをこぼす。

「今の感じですアデル、わずかながら障壁を展開しましたね。もちろん無意識だとは思いますが感覚は体に残っているはずです、それを強くイメージしなさい。そして展開しなさい。次の一発……」

 カルナックはそこまで話すと一度口を紡ぐ、アデルが立ち上がるまでその先に言うことを抑えることにした。バランスを立て直して再び足に力を入れるアデル。乱れた呼吸を整え体にわずかながら残っている感覚を思い出し強くイメージする。両足を肩幅に広げてゆっくりと立ち上がったその時。

「私は君を殺します、死にたくなければ防ぎなさい」

 そういうと強力な衝撃波を放った、その衝撃波はレイの法術障壁をも貫通して襲い掛かる。着ているジャケットの左脇をかすめる様に流れ、ほんの少しだがジャケットに切れ込みが入る。それほどの威力だった。

「うおぉぉぉ!」

 アデルは左手でツインシグナルを鞘から引き抜くと同時に右手のグルブエレスを地面から引き抜いた、左上からツインシグナルを縦に振り下ろしさらにグルブエレスで横に一線を入れた。その瞬間アデル目掛けて放たれた衝撃波が何か目には見えない壁と衝突した。閃光が放たれギギギギと音を立てる。

「これが俺の全力だぁ!」

 アデルが叫んだ、森中に響くような叫び声だった。



 それから三時間、カルナック含めた者は居間に居た。だがそこにアデルの姿は無かった。
 アデルは昔使っていた部屋で気を失っている、意識を取り戻すまでの休憩といっても取れる。何事も無かったようにカルナックはお茶を啜っていた。

「ねぇ先生、アデルは大丈夫なんですか?」

 プリムラが心配そうにカルナックに尋ねた、茶飲をテーブルに置くと笑顔で質問に答える。

「大丈夫ですよプリムラ君、アレぐらいのことじゃ彼はビクともしません」
「そうですか」

 プリムラが安心して自分の前に置かれているお茶に手を出す、周りをふっと見渡すと他の人達はアデルの事を忘れたかのように落ち着いていた。

「ねぇレイ君、何でそんなに落ち着いていられるの? アデルは貴方の親友なんでしょ? 心配じゃないの?」

 突然の質問に自分のジャンバーの切れた部分を縫っていたレイはゆっくりと振り返る、しかし器用なことに手は動かしている。指に刺さることは無いのだろうか。

「ん~、大丈夫じゃないかな。あれしきの事どうってこと無いと思うけど」
「あれしきって……修行時代どんなことしてたのよ貴方達」
「あまり思い出したくないかな」

 一瞬顔が青ざめた、修行時代のことを思い出しているのだろうか。手元が狂い自分の指をサクサクと刺し始めた。それを見たガズルが大笑いする。

「レイ、自分の指さしてるぞ」
「え?」

 ガズルに言われた先を見てレイは大騒ぎし始めた、何発刺したのだろうか血がタラタラと流れ始める。指を自分の口にくわえてもごもごと話し始める。

「修行時代は崖から落とされたり猛獣の討伐に行ったり、さっきの精神寒波はまだ生ぬるいほうだよ。精神的なダメージなら暫くすれば起きると思うんだ。肉体的ダメージなら流石に心配はするんだけどね」
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