『この星で、最後の愛を語る。』~The Phantom World War~

青葉かなん

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第二章 神苑の瑠璃 前編

第十二話 剣聖結界 ―精神寒波― Ⅰ

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「本来インストールを習得するには様々な能力が必要となります、初めにエーテルの制御と操作。一時的ではありますがエーテルを体内で暴走させるのです、暴走した後正常に戻すための術を身につけておく必要があります。ですがアデル、君にその能力はありません。つまり無謀なのです」
「それじゃレイヴンに勝てない! 他に方法は無いのかよおやっさん!」

 すっと立ち上がると本棚へと足を進めるカルナック、それを目で追うレイとアデル。一冊の本を手に取るとその場でページをぱらぱらとめくりはじめた。

「何もインストールを習得できないとは言っていません、方法はあります」
「方法、ですか?」

 今度はレイが口を開いた、今までの絶望的な話から一変してカルナックは笑顔で答える。

「インストーラーデバイス、体内で暴走させたエーテルの制御を行う装置です。簡単には作れませんが」
「教えてくれおやっさん! どうすればそれを手に入れられるんだ!」

 本を閉じると再び椅子に座る、両手を組んで背もたれに寄りかかって天井を見上げた。

「素材は既に用意してあります、ただ」
「引っ張らないでくれおやっさん、後は作るだけじゃないのか?」

 一つため息をついてからメガネを外して机に置く、一度目を閉じて深呼吸をするとアデルを睨み付けた。

「生きるか死ぬかの選択です。アデル、あなたはこの賭けに乗れますか?」

 そう言った。もちろんアデルは「当たり前だ!」と言うつもりだったが一瞬戸惑った、それもそうだろう。仮にもしも自分が命の選択を迫られたとき簡単に死ぬ覚悟は出来ている何て事言える人は早々居るはずがなかった。もちろん彼も例外ではない。

「先生」

 戸惑っているアデルより先に声をあげたのはレイだった、虚ろな表情でレイは一歩前に踏み出してアデルの肩にポンと手を置いた。アデルは相方の表情を見て少し笑った。

「僕だけがインストールを使えるようになったとして、そのレイヴンって人に勝てる確立はどの位ですか?」
「レイ君だけがインストールを使えたとしたら?」「レイ、何を言ってるんだ!?」

 肩に置かれた手に力が入っていた、ギュっと一度強くアデルの肩を握り目はカルナックを見つめていた。

「教えてください先生、僕達の兄弟子。レイヴンに勝てる確立を」

 カルナックは黙った、真実を告げていいのかはたまた無理にでも諦めさせるのか。師としては複雑な気持ちだったろう、自身が育てた弟子同士が合間見えることがあったとは思いもよらず……いや、少なからず反帝国感情を抱いていた二人を育てていたときにそれは分っていたことだったのかもしれない。

「限りなく低いです、それも一桁でしょう」
「一桁、それでも勝ち目は一桁だけの数字があるんですね?」
「いやレイ君、確かに勝率は一桁だが残りの数を考えれば君一人インストールを使えたところでレイヴンに勝てるはずが」
「先生!」

 レイは机にもう片方の手で叩いた、久しく見ていなかった我が弟子の感情的な顔を見てカルナックは驚いた。

「アデル、インストールとは自信との戦いです」
「え?」

 突然話を振られたアデルは何を言われたのかよく理解できていなかった。自身との戦い? それはどういう意味なのだろうか。

「二人とも表で待機していてください、後ドアの外に居る二人も一緒に来なさい」
「ドアの外?」

 数秒の沈黙があった後ドアが開いた、そこにはガズルとギズーの姿があった。バツが悪そうにゆっくりと入ってくると二人は頭を下げた。

「それで先生、話を戻しますがインストーラーデバイスについて詳しく」



「インストーラーデバイスとは、先ほど説明した通りインストール時に置けるエーテルを一時的に制御させる装置のことを言います。ただしこれを使えば安易にインストールが使えるというものではありません。インストーラーデバイス自体の効果は装備者の精神状況で異なります。また、暴走させたときに発せられる膨大なエーテルを押さえ精神負荷を抑える効果も発揮します」

 外に出た四人を前にしてカルナックが説明を始める、右手首に腕輪をはめていた。それがインストーラーデバイスなのだろう。

「見た限りではレイ君で十二分は制御可能でしょう、しかしアデル。君がインストーラーデバイスを使ったとしても持って五秒が限界だと思います」
「たったの五秒!?」

 四人はその言葉を聴いて驚いた、確かにアデルは法術が苦手なのは知っている。しかし彼のエーテル制御は一般の術者と大差変わらない物だと思っていた。だからこその法術剣士と名前が通っていた。

「ちょっと待ってくれ、確かに俺は法術が苦手だけどたったの五秒で何をしろって言うんだ!」
「五秒と言う時間は確かに短い、だからこそ今の君ではインストーラーデバイスを使ってもインストールを使うことが出来ないという事に繋がるんです。正確に言えば無駄なのです」
「なら、どうしろって言うんだ。インストーラーデバイスですら意味の無い物になってるじゃないか」
「それを今から行うんですよ」

 全く意味の分らない事を話すカルナックに四人は揃って首を傾げた。

「一つ良いかな剣聖」

 ガズルが一歩前に出て困惑した表情で話し始める、右手に重力球を作り出してそれを体の前に持ってくる。

「根本的な話で悪いんだが、俺のこの重力を操る力。これを応用して何かレイヴン対策で出来ることは無いか? もしくは俺にもインストールってのが習得できるものなのか?」
「ガズル君、インストールは誰でも習得できるものではありますが君の場合天性の力です。私も長い間色々な人を見てきましたが重力を操る力を持ってる人とは出会ったことがありません。その力がましてやエレメントを利用した法術なのか、はたまた別の力なのかも検討がつきません」

 グルグルと渦を巻いている重力球を右手で握りつぶす、期待の眼差しでカルナックを見つめ始めた。

「なら、俺にもインストールを教えてくれ。あのレイヴンに一泡吹かせてやりたい!」

「勇ましいことです、ですが先ほども話したとおり君の力が法術なのか、それとも別の力なのか分らない以上インストールを教えることは出来ません。仮に教えたとしてもどの程度エーテルが暴走するのかが分りませんしアデルより危険です、今は諦めなさい」
「そうか、アデルより危険か」

 ものすごく残念そうな顔をして肩を落とした、それを見ていたギズーは思わず吹き出してしまった。同じくアデルも笑っている、申し訳なさそうにしてるのはカルナックとレイの二人だけだった。

「さてっと、ではインストーラーデバイスを使えるかどうかの試験を始めます」
「いよいよ本題か、おやっさん俺は何をすればいいんだ?」

 ニヤっと笑みをこぼすとカルナックはズボンのポケットに右手を突っ込んだ、とっさにレイ達は各々の武器を取り出して戦闘体制を作る。

「私に触れてみなさいアデル」
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