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第二章 神苑の瑠璃 前編
第九話 瑠璃にまつわる様々な噂 Ⅰ
しおりを挟む今から約十五年も前の話、この世界に何でも一つだけ願い事を叶えてくれるという宝石、瑠璃が存在するという噂が流れた。その瑠璃は“ 神苑の瑠璃”と呼ばれる。世界中の旅人や一攫千金を狙う者は皆瑠璃を探し、そして誰も帰っては来なかった。
人間の欲望、そして力を欲するあまり仲間を裏切り殺し合い、そして全滅していった。その中で唯一生き残ったパーティーがあった。平均年齢十五歳の男女が集まった出来たてのチームでもある、その中の一人――シトラ・マイエンタという女性が生き残った。
他の仲間は皆殺し合い、そして最後に残ったシトラ・マイエンタの恋人、“テト・ラピストマル”はシトラを殺そうとした仲間と相打ちになり息を引き取った。残されたシトラは呪われた瑠璃を探すのを止め、恋人の墓をその地に作り去った。
その後も瑠璃を探す冒険家達は一行に減る気配を見せず逆に増える一方だった、そして誰も瑠璃は見つけられなかった。
次第に神苑の瑠璃は“過ちの瑠璃”と呼ばれるようになり、人々に恐れられた。だが、その瑠璃の詳細な記録は既に無く、残されているのは過ちの瑠璃と名前だけになってしまった。
しかし、ここに一人。その過ちの瑠璃を探そうとする者が居た。彼の名は“カルナック・コンチェルト”、何故彼は瑠璃を探そうとしたのか、それはこの星が見た記憶の本当の意味を知る為である。
彼は剣聖であり、賢者でもあった。この世界中で今、彼に敵う者なんて居ない。よって彼は力を得ようとはしなかった。
「無茶です、あの瑠璃の噂はカルナックさんも聞いているはずです!」
真っ赤に染まった髪の毛、スラリとした身長、腰には刀をぶら下げている青年がカルナックに叫んだ。だが当の本人は涼しい顔でお茶をすすっている。
「大丈夫ですよレイヴン、私は力なんて手に入れようとは思っていませんから。ただこの星が見た本当の歴史を知りたいだけなんですから」
「なりません! 神苑の瑠璃を探しに出て帰ってきた者は一人も居ないのですから、第一残された私達はどうするのですか! そもそもシトラの事を考えれば瑠璃を探しに行くなんて事はお止めになって下さい! あの瑠璃の所為でシトラは心に深い傷を作ってしまったのですよ!?」
もの凄い形相でレイヴンと呼ばれた青年はカルナックに怒鳴った、少々耳が痛いのか両耳を塞いで顔をすくめた。隣にはシトラと呼ばれた女性が座っている。シトラの対象の席には少し控えめな青年が座っている。
「それは分かっております、ですからあなた方にはもしもの為に私の悟りをお教えしたのではないですか。いつか後継者が現れたその時、あなた達は私の悟りを継承する義務があります。もう私はこれ以上発展のない人生を歩む事になりかねません。そして、私もいずれは死んでしまいます、少なくともあなた達よりもずっと早くに――」
「あの!」
カルナックが喋っている途中シトラが突然話を切り出した、いつもなら大人しい性格のシトラから見れば突然すぎて驚く物だ。
「私も、私も連れて行って下さい」
「何を言ってるんだシトラ! 又あの地獄みたいな場所に戻りたいというのか!?」
レイヴンが叫んだ、その言葉にシトラはすくみ方を小さくして俯いた。
「でも、私は……私は本当の事を知りたいんです。テトが最後に言い残した言葉の本当の意味を、未だに分からない謎かけは私を苦しめるんです。だから」
「本気なのですか?」
言い争うシトラとレイヴンの間に割って入ったこの青年、“フィリップ・ケルヴィン”は両手を顎の下に据えて話した。
「そのつもり。だから、カルナック先生、私も連れて行って下さい! 覚悟は出来ています」
「……」
カルナックは黙った、先ほどまでの威勢は何処に行ったのだろうと考えるほどだ。だが暫くしてからフィリップが口を開く。
「私も行きましょう、私は師匠にお仕えする為に自分の家元を捨ててここまで来たのです。今更力など欲しようとは思っていません」
「ケルヴィン様」
重い腰を上げてゆっくりと立ち上がったフィリップにシトラが涙目で言う。
しかし、レイヴンは納得いかなかった。
「お前達、あの瑠璃の本当の恐ろしさを理解していない! アレは……あの宝石はこの星に厄災をもたらす存在だ! そもそもあの石は神々が所有する神器、それを人間如きが使おうなんて!」
「ならば破壊すれば良いのですね?」
ずっと黙り込んでいたカルナックが突然口を開いた。
「カルナックさん、何を……」
「本当は、私はあの宝石にまつわる古代説を知っていましてね。貴方も知っていたのかと思っていましたがまさか本当に知っていようとは思っても居ませんでした」
「では、カルナックさんは始めから」
「えぇ、本当はあの石を封印又は破壊しようと考えていました。あの石さえなければ“アレ”も蘇る事はないでしょう」
聞いた事のない名前が飛び出してきた、シトラは勿論フィリップも首をかしげる。だがこの男だけは違った、出された名前に異常なまでの反応を示した。
「それならば、“幻魔樹”を探し出し燃やすほうが安全です! 瑠璃と幻魔樹、そして***のいずれかがそろっていなければ“アレ”は復活しません、ですから幻魔樹を!」
「分かっていないのは貴方の方です」
突然フィリップが口を開いた、何かを悟った様子でレイヴンを見る。
「ようやく話の筋が分かりましたよ、確かに瑠璃には“アレ”を復活さえるには十分かと思います。ですが幻魔樹を燃やすのであればこの星は朽ち果てる事になります」
「何だと」
「宜しいですかな? 元々幻魔樹というのは“アレ”を復活させるだけの物ではありません。その昔、“アレ”の復活を恐れた人類は力の源である幻魔樹そのものを消滅させる事を選んだ。だが一部の学者は猛反対した。それは幻魔樹がこの星のエレメントの源だという仮説からだ。勿論、仮説としてその時は無視されたがね。しかし、その発言を無視した他の学者達は当時の帝国に情報を流し幻魔樹と思われる大樹を焼き払った。その大樹は幻魔樹ではなかったようだが、森の守り神の怒りに触れてしまい、人間と魔族との大戦争へと繋がっている。実在するかもわからない幻魔樹を探すよりは瑠璃がはるかに効率的だ」
驚く真実がフィリップの口から話された、勿論カルナックはそれを知っていた。だからこそカルナックは幻魔樹ではなく瑠璃の方を封印しようと考えたのだろう。その言葉にレイヴンは自らの無知さに暴落した。
何も分かっていなかったのは自分だという事、そして自分は過去の過ちを繰り返そうとしていた事に酷く後悔した。
話の筋が見えないシトラは首をかしげて何も言えなかった。
「し、しかし。瑠璃を破壊又は封印するなどと神の持ち物に人間如きが手を出して良いのでしょうか」
「安心しなさいレイヴン、私もそれなりの考えの下です」
カルナックは笑顔でそう言って自分の部屋に戻った、そしてその日は部屋から一歩も出てこなかった。その一週間後カルナックは瑠璃を探す旅に出る事になる、長く険しい旅になった。無事に帰ってきたのはその三年後の事。
――――――***――――――――***――――――――
「とまぁ、昔話ですよ隊長」
「ほう、お前にそんな過去があったとはなぁ。んで、瑠璃はどうなったんだ?」
「見つからなかったそうです。確か、その時は小さな子供を連れて帰ってきましてね、この間合いましたよ。僕の事覚えていなかったようですがね」
楽しそうに昔話をしているこの男、名はレイヴン。元カルナック流剣術皆伝でカルナックの右腕と呼ばれた男だ。今は帝国特殊任務部隊中隊長として活躍している、主に炎系の法術を得意としカルナック流最終奥義“インストール”をマスターする。この男の活躍により今の帝国があると考えても良いだろう。
「何だ、そんなにちっこいガキだったのか当時は?」
「えぇ、まだ五歳ぐらいでしたよ」
「どうだ懐かしかっただろう?」
「えぇ、それもあるんですが予想以上に強くなっていましたね。インストールを使わなかったら負けていたかも知れません」
「たく、冗談もほどほどにしておけよ。たかがガキにお前が負けるわけねぇだろう」
隊長は髭面で、大柄の如何にもって男だった。部下に優しく温厚で人望も厚い。それが帝国特殊任務部隊の隊長である。名は“エレヴァファル・アグレメント”、帝国内部で彼の名前を知らない物は居ないほどである。通称「最狂」。一度戦場へ出れば一騎当千の力を発揮する。
「いえいえ、本当の事ですよ。今でも思うだけでゾッとします、最初にあったときは其程強いとは思って居なかったのですが実際に剣を交えてみると予想外でした。彼がアレを習得すると多分私でも勝てる気がしません。おそらく、帝国でも一目置く存在になる事は確かでしょう」
コーヒーカップを手に取り一口飲みそれをテーブルにおいた、窓を開けて外の寒くてほこりくさい空気を部屋に取り込んだ。外は雪が降っていてとても寒かった。
「それ程の力を持っているのか、で? 名前はなんて言うんだ?」
窓の外に乗り出して外の景色を眺めていたレイヴンに対して椅子に腰掛けている隊長がその少年の名前を尋ねた。そしてレイヴンはにっこりと笑って答えなかった。
「秘密ですよ隊長、それを教えたら隊長が殺しちゃうじゃないですか。あの子は私の獲物ですよ?」
「バレてたか。しょうがねぇな」
「あれれ、隊長図星ですか?」
「うるせぇ、それよっか早く窓閉めろい。寒くてかなわんわ」
二人は笑いながらコーヒーを飲み干した。そして窓を閉めた。
――――――***――――――――***――――――――
「と言うのが瑠璃にまつわる噂だ、どうだ? 試してみる価値はあんだろう?」
「……お前な、そんな都合の良い物がこの世の中にあると思ってるの?」
アデルと一緒の部屋になったレイはアデルが持ち出した噂話。だがレイは笑いながらアデルの持ち出した話を途中で否定した。
「その前に僕達は一回先生の元に帰らなくちゃ行けないだろう? それと、FOS軍て名前は構わないとして残されたメンバーはどうするんだ? と言うより何で僕がリーダーなんだ」
レイはティーカップをテーブルに叩き付けるとアデルに怒鳴った、一度に沢山の事を言われたアデルはしばし考えてから口を開く。
「そう沢山の事を言うな、確かに俺とお前はおやっさんの所に帰って教わってない最後の技を教えて貰いに行く、他のメンバーも連れて行けばいい話じゃないか。それともギズーに越されるのが嫌なのか?」
「僕は別にそんな事思ってはないよ、心配なのはこんなに大勢でいきなりお邪魔するのはどうかって言ってんだよ。確かにあの家は無駄に広いけど、アリス姉さんだって困るだろうし。……ん、アリス姉さん?」
途中言葉を止めて何か大切な事を思い出そうとレイは頭を抱えた、そしてすぐにその答えは出てきた。
「ちょっと待って、アリスも連れて行くなら――」
「あぁ、そうだな。アリスには悪いけど一時的に改名して貰うってのはどうだ? あいつの事だすぐにでも変えてくれるだろうしな。そろそろ出てきても良いんじゃねぇか? いつまでドアの外で耳を立ててるつもりだよアリス?」
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