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第一章 少年達の冒険

第六話 星の光一つ Ⅰ

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 ガズルが苦い顔をしながら、そして楽しそうに自分たちの過去を話し始めた。どことなく寂しそうではあるが決して辛い事じゃないと言わんばかりに強がる少年がいた。


 それは七ヶ月前。
 特進を重ね、大学を驚異の早さで卒業したガズルはその若さから職が中々手に付かずにいた、そして等々自分が持ち合わせていた全財産を使い果たしたガズルは生まれて初めて食い逃げをする事にした。
 入った食堂は「風潮歌月ふうちょうかげつ」という食事処だった、自慢じゃないがガズルは自分自身でよく食べる方だと理解していた、それを良い事に通常の人が食べる何倍もの食事を注文した。
 隣に居合わせた客も同じ量を頼んだ、それがアデルだった。アデルはガズル同様持ち金を全て使い果たしていた。それも少ない中、ちまちまと使っていたアデルにしてみればこんな高そうな店にはいるのは初めてだった。
 そして二人は年代が近い事から注文が来るまで自分が何者で、どこから来たのかを話し合った。

「へぇ、あんたみたいなのが法術剣士なんだ」
「おう、こう見えても結構腕には自信があるんだ。それでも俺の剣の師には到底敵う事が出来ないけどな」

 ガズルは驚いていた、この世界に法術を操る剣士がいる事は以前から知っていた。だがその人物を実際の目で見た事はなかったからである。

「なぁなぁ、法術剣士って事はよ、どんな法術でも使えるって事か?」
「そうでもないな、主に法術ってのはその人にあった力を発揮する物なんだ。例えば俺なんかは攻撃型で炎を操る事しかできない。俺と一緒に剣の修行をしていた奴は風と氷が得意だったかな?」
「へぇ、俺も法術じゃないけど似たような事は出来るんだぜ?」
「似たような事?」

 アデルは聞き返した、だが遮るように店の叔母さんが注文の品を全て持ってきた。

「はいよ、しっかしあんた達がたいが小さい割りによく食べるね。まぁ、育ち盛りだからかねぇ?」

 冗談を交えながら笑う叔母さんを見ながらガズルは一礼する、外見はともかく意外と礼儀正しい少年だと感じさせてくれる。

「実はさ……俺この後食い逃げするんだ」「実はさ……俺この後食い逃げするんだ」

 二人が同時に小声で言った、すると二人は同時に笑い出した。

「なんだお前もか」「んだよ、考える事は一緒か」

 また同時に言う、アデルはその一瞬でガズルの事が気に入った。そして有る一つの話を持ちかける。

「なぁ、実は俺義賊のリーダーをしてるんだ、お前で良かったら俺の賊に入らないか?」
「義賊? 主に何をするんだ? 変な事だったら俺はやらないからな」
「なぁに、貴族や金持ち、王族なんかから金を巻き上げてそれを何処かの貧しい村に分け与える、その内十パーセントは俺達の儲け。それだけだ」

 ガズルは取り敢えず近くにあったそばを一気に食べた、そして次ぎにカツ丼に手を出す。

「悪くないな、俺は元々暴れるのが好きな男だ。こんなちんけな街じゃ何も出来やしないしな、その話乗った!」


 雪降る寒い夜の中ガズルは昔の事を喋った、誰にも話した事のない出来事やアデルと出会ったときの事を話し続けた。
 真剣に喋るその表情は何処か寂しそうだった、それを察したアリスは問う。

「泣いてるの?」

 不意に出た言葉がガズルに気付かせる、ガズルは知らず知らずのうちに自分が涙していた事に気付く、それは何故涙が出てくるのかが分かるまでしばらくの時間をようした。
 そして自分自身で何故なのか気付く。

「いつもなんだ」
「何時も?」
「昔の事を思い出すだけで俺は、自分が情けなくなってくる」
「なぜ?」
「アデルと出会うまで、俺の目は死んだ魚みたいだった。自分自身で暮らしていけるだけの生活費は得られないし、育てて貰った教会も潰れて俺は世界でたった一人になっちまった。何時も誰かが助けてくれるはずの生活から誰も助けてはくれない生活へと転じたからかも知れない。そのことがきっかけで俺は腐った、教会から高い金を出して貰ってまで大学に入ったのに、それが全く役に立たずに俺は今まで生活してきているし。神父さんに悪いと思ってな。それでも、俺はアデル達と一緒に旅してるのが楽しんだ、レイは仲間を見つける旅、アデルはその付き添い。勿論俺もその付き添いだったんだけど、今はちょっと違うんだ」

 ガズルは眼鏡を取って涙を拭いた、そしてまた眼鏡をかけ直す。

「俺は、これは俺の旅でもあるんだ、今は亡き神父さんが最後に残した言葉を見つける旅にしようと俺は考えてる」
「最後に残した言葉?」
「それだけは誰にも言えない、アデルだって知らない事さ」
「……」

 ガズルは暫く俯いたまま喋らなかった、アリスも喋ろうとはしなかった。不意に顔を横に向けて幻聖石の光を見る、それは着実に先ほどより大きくなっていた、光の下に二人の人影らしき物が見えるほどまで近づいていた。

「アリス」
「え?」

 ガズルが突然声を出す、自分が呼ばれた事に気付いたアリスはガズルの方を見る。

「結局、アデルの事はどうするんだ?」
「……」
「んじゃぁ、俺も一つだけ言わして貰って良いかな?」
「何?」

 ガズルは眼鏡を取ってそれを右手で握りしめたままアリスの方を向いた、そして真剣な目をして

「俺もお前のこと、好みなんだ」

 と言った。そしてアデルにすまないと心の中で呟いた。
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