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第一章 少年達の冒険
第五話 剣帝序列筆頭、帝国の焔 Ⅱ
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そのころ、この二人もグリーンズグリーンズに向かって行動を開始していた。
雪積もる山道をひたすら歩き続ける少年と少女、明らかに二人には疲労が浮かび出ていた。服はボロボロに破れ息を切らし歩く足もおぼつかない。
二人は山小屋を出るやいなや野生の動物や盗賊などに襲われ生死を彷徨っていた、命からがら切り抜けた二人だったがもはや話す気力すら残されては居なかった。
黙々と手を繋いで雪降る山道をひたすら歩いていた、すでに辺りは暗い。だが何処かで身体を休める所は見つからない。
レイは少し焦っていた、自分は各地を点々と旅をしながら生活していた性もあって体力や法術などで力を温存出来るがメルは何も能力はない、何時倒れるか解らない事だけが心残りだった。
握るその手はもう冷たい、自分の手だって十分冷たかった。だが自分は彼女に何もしてやれる事は出来ない。レイは小さく唇を咬んだ。
「ゴメンねレイ君」
「何言ってんだよメル、僕の事は気にしなくて良いから。それよりメルは自分の事を気にしてなきゃ、後もう少しで街の明かりが見えてくるはずだからそれまで体力を温存しておかなきゃ」
メルがゴメンねと言う度にレイは心底泣きたくなった、本当に彼女に何もしてやれないのだろうか? 何も出来なくても言葉ぐらいは掛けてやれるのではないか、だけど……その言葉さえも見つからなかった。
暫くすると街明かりらしい光が見えてきた、目を細めながら遠くの方を見るレイはその光が家々の明かりだと確信する。
そしてもうすぐ街だよ、と言う変わりにメルの冷たい手を強く握り替えした、そして振り向くと笑顔で遠くの方に見える明かりの事を教えた。
メルの顔に久々に笑顔が戻った、とても明るい笑顔だった、その笑顔を消させない為にもレイは弱っているメルをおんぶしてその残りの行程を歩く事にした。
「本当にレイ君は力持ちだね」
メルが言った。
「そんな事はないよ、法術の力で多少力を調整しているだけだから」
レイが正直な事を答えた。
「ううん、そんな事はないよ。レイ君は力持ちだ。それに……」
「それに?」
「こんなにも優しい、私の理想の男の子だよ」
「……」
レイが黙った、頬を赤くして下を向き少年らしい顔で止まった、そして照れながらまた歩き出す、後ろからフフと笑い声が聞こえてそしてレイの首に腕を回してマフラー代わりにした。
「寒くない?」
「私は平気、それよりもレイ君。そんな薄着で寒いでしょ」
Tシャツ一枚で歩いているレイにメルは心配そうに訪ねる、何時もレイが来ている青いジャンパーはメルが羽織っていた。
「僕は心配ないよ、ほら!」
「え、何? きゃ!」
レイが突然大きくジャンプした、それも人並み外れた跳躍だった、数メートルはあるかと言う木を軽々と越したジャンプはとても高かった。
山の上の木々が伸びていない所から見る冬の夜は綺麗だった、例え百万シェル(シェル:お金の単位の事)を積まれても手に入れる事の出来ないその景色、二人は望むままに、そして目に焼き付けた。二人だけの思い出として。
「……綺麗」
「僕も初めて見るよ、とても綺麗だ」
レイの履いているズボンがばばたばたと音を立てている、そしてメルが羽織っているレイのジャンパーもばたばたと音を立てた。二人の髪の毛は空気の流れに沿って後ろの方へと自然的に描き上げられたみたいな感じではなく自然的な流れになっていた。 そしてレイ達はなかなか地面に着地しなかった、レイは気が付いた。そこが今どんな状態になっているのかを。
そこは大きな崖だった、断崖絶壁の崖が二人の足下から数メートル離れた所にあった。
「メル、僕の身体にしっかりと捕まっていてね」
「え?」
「落ちるよ」
レイが指を鳴らした、するとレイの身体ががくんと高度を下げ始める、しがみついていたメルも同時に同じ速度で落下し始めた。
レイはにこにこしながら鞄の中に入っていた幻聖石を一つ取り出すとそれを左手にしっかりと握った。すると幻聖石は光だしその辺りをてらした。
「メル!」
突然二人の身体が浮いた、だがメルはレイの身体からズレ落ちそうになる、それを止めるべくレイは右手でしっかりとメルの身体を抱きしめる。
「きゃ!」
ズレ落ちるのが止まった、ほんの数センチずれただけですんだ。メルは不思議そうにレイの顔を見る。
するとレイはにっこりと笑って頭上を見上げた。そこには大きな軽い素材で出来たブーメラン型の物があった。
「驚いた?」
ブーメラン型の物に取っ手が付いている、それに片腕だけで捕まっていた。
「レイ君これって」
「僕が作ったスカイワーズって言う乗り物さ、まだ実用性はないけどね。これで街まで一気に降下するよ、しっかりと捕まっててね。じゃないと落ちちゃうから」
「……うん」
メルは小さく返事をした、また前に目線を戻すと再び綺麗な景色が目の前に広がった、街の光と海が白く光っていた。下を見れば雪化粧をした森が、林が、雪原が広がっている。その光景を忘れまいとしっかりとメルは見た、瞬きをするのも忘れてその景色を見ていた。
レイも同じくして見ていた、本来の優しい目に戻り安堵の表情を浮かべて……だがその右腕にはしっかりとメルを抱き続ける為にしっかりと力を入れていた。痛くない程度で彼女が落ちないように。
二人は抱き合いながら降下し続けた、少年の顔にはまた風のイタズラで髪の毛を乱す悪さをする風が吹いている、少女にも同じイタズラをしている。
暫く二人は同じ体制のまま固まっていた、遠くを見る目や少年を抱き続ける腕、また遠くを見る目と少女を抱く右腕があった。
ロクシェリベルのホテル。
そこに三人の少年と少女が訪ねてきた、一人は黒い帽子に黒いエルメアを着た長い髪の毛を腰まで垂らしている少年と、青いニット帽を深くかぶった眼鏡を掛けている少年。そして白いワンピースに上から紫色のジャケットを羽織っている少女の三人組だった。
三人はとかく安い部屋を訪ねた、ちょうど良い部屋を二つ借りてアデルとガズルは少し雑な部屋を、アリスはアデル達より少し豪華な部屋に荷物を置いた。
「取り敢えず安いホテルが見つかっただけでも良かったとするか、あのボロ小屋に三人は少々分が悪すぎる」
ガズルテーブルの上に地図を広げながら喋った、アデルも自分の荷物をベッドのすぐ脇に置いてガズルの正面に座る。
「なぁ、どう思う?」
「どう思うって何が?」
いきなり切り出したアデルにガズルが何事かと尋ねる。
「レイとメルって女の事だよ、離ればなれになってからもう一週間は経つんだぞ? いい加減心配になってきたぜ」
「そんな事言ったって今の俺達に何が出来る? 彼奴等の事を心配するなら取り敢えずこの町に居るしかないんだ、レイの言葉を忘れたのか? あいつはこの町で合流するって言ってたんだ。そう簡単にこの町からは出られないんだぜ?」
「そうだけどよ、探しに行くとか何とかしなくて良いのかよ?」
真剣な顔をして離していたアデルにガズルが食いつく。
「なら聞くが、この大陸にいるかも解らない人間をどうやって捜すって言うんだ?」
「そうだけど」
「レイなら大丈夫だ、お前と違って頭は良いよ。その内ひょっこり出てくるさ」
ガズルがのんびりした顔で言う、だがその裏腹は心配でしょうがなかった。正直アデルの言うとおりではあった、離ればなれになってから早一週間。人間一人が生きていける事はおろか二人、生存は絶望的ではあった。しかしレイの言い残した言葉通りここから離れるわけにはいかなかった。
「それより、これからの事を考えよう。まず残りの軍資金についてだけど」
「金か、俺達が持ち合わせていた金とアリスが貯めた金を足しても二十万シェル前後。食料と宿代を引いていくと大体一ヶ月が限度って所だな」
「一ヶ月か……その間に間に合ってくれれば良いんだけどな……」
ガズルが両腕を組みそんな事を言った、アデルは帽子を取って机に置き椅子の背もたれに寄りかかる。
そして二人同時にため息をついた。
「何辛気くさい話してるのよ」
ドアが開けられてずかずかと入ってきた、アリスだった。
アリスはアデルとガズルのちょうど真ん中に座るとガズルが眺めていた地図を見た。そして自分の鞄の中からノートを取り出して鉛筆で何かを書き始めた。
「あなた達ねぇ、さっきから聞いてればずいぶん楽に考えてるけどお金の計算間違ってるわよ?」
突拍子にアリスがあきれ顔で二人に言った。
「はぁ?」「へ?」
二人は同時に言った。そして計算を終えたアリスがノートを見せる、そこにはびっしりと書かれた綺麗な文字が並んでいる。
「えーと何々? マジかよ」
「マジもマジ、大マジ。たかが二十万シェルじゃ二週間が関の山よ。大体どんな計算をすれば一ヶ月なんて数字が出てくるの? そっちが知りたいわよ」
一つため息をついてどんよりする二人の顔を見た、また一つため息をついてからアデルに向かって言う。
「所で、私に何か武器無い?」
「はい?」
アデルは驚いてアリスの顔を見る、ガズルもゆっくりではあるがアリスの顔を見た。
「武器って、シフトパーソルが有るじゃないか」
「駄目、アレは借り物なの。もしこの大陸を出たときに戦う事が出来ないじゃない。解る?」
真剣に怒鳴るアリスの顔を見てアデルは押され気味でいた、そして一つため息をついてバックパックから一つの短剣を取り出すとそれをアリスに向かって放り投げた。
「わわわ!」
「おい、そんなにビックリしなくても良いだろ?」
「そうだけど、いきなり投げるなんて何考えてるのよ。今一度言っておきますけどね、私は女の子なんだからね?」
「それぐらいで驚かれてちゃぁこの先不安だな」
アリスは顔を膨らませて拗ねるしぐさをしたのち、受け取った短剣を少し振って見せる。
「軽い、意外だわ。もう少し重いものだと思ってた」
アデルはムッとし、ガズルは静かに笑った。アリスはどんな表情で居て良いのか困り果ててその部屋を出ようとした。
「……」
何かに気が付くと曇っている窓を開ける、暖房が外に漏れ出すと部屋の温度が少し下がった、雪が窓から部屋の中に少し入った。
「 何してんだよ、寒いじゃねぇか!」
「今日は雪が降ってるよね?」
「は? そんなの見れば解るじゃないか」
三人が順番ずつ喋った、アリスは急に振り向き二人を睨んだ。
「馬鹿だねぇ、そんな事は誰だって見れば解る事だよ。でも、雪が降ってるのに何で星が出てるのか不思議にならない?」
「星?」
雪積もる山道をひたすら歩き続ける少年と少女、明らかに二人には疲労が浮かび出ていた。服はボロボロに破れ息を切らし歩く足もおぼつかない。
二人は山小屋を出るやいなや野生の動物や盗賊などに襲われ生死を彷徨っていた、命からがら切り抜けた二人だったがもはや話す気力すら残されては居なかった。
黙々と手を繋いで雪降る山道をひたすら歩いていた、すでに辺りは暗い。だが何処かで身体を休める所は見つからない。
レイは少し焦っていた、自分は各地を点々と旅をしながら生活していた性もあって体力や法術などで力を温存出来るがメルは何も能力はない、何時倒れるか解らない事だけが心残りだった。
握るその手はもう冷たい、自分の手だって十分冷たかった。だが自分は彼女に何もしてやれる事は出来ない。レイは小さく唇を咬んだ。
「ゴメンねレイ君」
「何言ってんだよメル、僕の事は気にしなくて良いから。それよりメルは自分の事を気にしてなきゃ、後もう少しで街の明かりが見えてくるはずだからそれまで体力を温存しておかなきゃ」
メルがゴメンねと言う度にレイは心底泣きたくなった、本当に彼女に何もしてやれないのだろうか? 何も出来なくても言葉ぐらいは掛けてやれるのではないか、だけど……その言葉さえも見つからなかった。
暫くすると街明かりらしい光が見えてきた、目を細めながら遠くの方を見るレイはその光が家々の明かりだと確信する。
そしてもうすぐ街だよ、と言う変わりにメルの冷たい手を強く握り替えした、そして振り向くと笑顔で遠くの方に見える明かりの事を教えた。
メルの顔に久々に笑顔が戻った、とても明るい笑顔だった、その笑顔を消させない為にもレイは弱っているメルをおんぶしてその残りの行程を歩く事にした。
「本当にレイ君は力持ちだね」
メルが言った。
「そんな事はないよ、法術の力で多少力を調整しているだけだから」
レイが正直な事を答えた。
「ううん、そんな事はないよ。レイ君は力持ちだ。それに……」
「それに?」
「こんなにも優しい、私の理想の男の子だよ」
「……」
レイが黙った、頬を赤くして下を向き少年らしい顔で止まった、そして照れながらまた歩き出す、後ろからフフと笑い声が聞こえてそしてレイの首に腕を回してマフラー代わりにした。
「寒くない?」
「私は平気、それよりもレイ君。そんな薄着で寒いでしょ」
Tシャツ一枚で歩いているレイにメルは心配そうに訪ねる、何時もレイが来ている青いジャンパーはメルが羽織っていた。
「僕は心配ないよ、ほら!」
「え、何? きゃ!」
レイが突然大きくジャンプした、それも人並み外れた跳躍だった、数メートルはあるかと言う木を軽々と越したジャンプはとても高かった。
山の上の木々が伸びていない所から見る冬の夜は綺麗だった、例え百万シェル(シェル:お金の単位の事)を積まれても手に入れる事の出来ないその景色、二人は望むままに、そして目に焼き付けた。二人だけの思い出として。
「……綺麗」
「僕も初めて見るよ、とても綺麗だ」
レイの履いているズボンがばばたばたと音を立てている、そしてメルが羽織っているレイのジャンパーもばたばたと音を立てた。二人の髪の毛は空気の流れに沿って後ろの方へと自然的に描き上げられたみたいな感じではなく自然的な流れになっていた。 そしてレイ達はなかなか地面に着地しなかった、レイは気が付いた。そこが今どんな状態になっているのかを。
そこは大きな崖だった、断崖絶壁の崖が二人の足下から数メートル離れた所にあった。
「メル、僕の身体にしっかりと捕まっていてね」
「え?」
「落ちるよ」
レイが指を鳴らした、するとレイの身体ががくんと高度を下げ始める、しがみついていたメルも同時に同じ速度で落下し始めた。
レイはにこにこしながら鞄の中に入っていた幻聖石を一つ取り出すとそれを左手にしっかりと握った。すると幻聖石は光だしその辺りをてらした。
「メル!」
突然二人の身体が浮いた、だがメルはレイの身体からズレ落ちそうになる、それを止めるべくレイは右手でしっかりとメルの身体を抱きしめる。
「きゃ!」
ズレ落ちるのが止まった、ほんの数センチずれただけですんだ。メルは不思議そうにレイの顔を見る。
するとレイはにっこりと笑って頭上を見上げた。そこには大きな軽い素材で出来たブーメラン型の物があった。
「驚いた?」
ブーメラン型の物に取っ手が付いている、それに片腕だけで捕まっていた。
「レイ君これって」
「僕が作ったスカイワーズって言う乗り物さ、まだ実用性はないけどね。これで街まで一気に降下するよ、しっかりと捕まっててね。じゃないと落ちちゃうから」
「……うん」
メルは小さく返事をした、また前に目線を戻すと再び綺麗な景色が目の前に広がった、街の光と海が白く光っていた。下を見れば雪化粧をした森が、林が、雪原が広がっている。その光景を忘れまいとしっかりとメルは見た、瞬きをするのも忘れてその景色を見ていた。
レイも同じくして見ていた、本来の優しい目に戻り安堵の表情を浮かべて……だがその右腕にはしっかりとメルを抱き続ける為にしっかりと力を入れていた。痛くない程度で彼女が落ちないように。
二人は抱き合いながら降下し続けた、少年の顔にはまた風のイタズラで髪の毛を乱す悪さをする風が吹いている、少女にも同じイタズラをしている。
暫く二人は同じ体制のまま固まっていた、遠くを見る目や少年を抱き続ける腕、また遠くを見る目と少女を抱く右腕があった。
ロクシェリベルのホテル。
そこに三人の少年と少女が訪ねてきた、一人は黒い帽子に黒いエルメアを着た長い髪の毛を腰まで垂らしている少年と、青いニット帽を深くかぶった眼鏡を掛けている少年。そして白いワンピースに上から紫色のジャケットを羽織っている少女の三人組だった。
三人はとかく安い部屋を訪ねた、ちょうど良い部屋を二つ借りてアデルとガズルは少し雑な部屋を、アリスはアデル達より少し豪華な部屋に荷物を置いた。
「取り敢えず安いホテルが見つかっただけでも良かったとするか、あのボロ小屋に三人は少々分が悪すぎる」
ガズルテーブルの上に地図を広げながら喋った、アデルも自分の荷物をベッドのすぐ脇に置いてガズルの正面に座る。
「なぁ、どう思う?」
「どう思うって何が?」
いきなり切り出したアデルにガズルが何事かと尋ねる。
「レイとメルって女の事だよ、離ればなれになってからもう一週間は経つんだぞ? いい加減心配になってきたぜ」
「そんな事言ったって今の俺達に何が出来る? 彼奴等の事を心配するなら取り敢えずこの町に居るしかないんだ、レイの言葉を忘れたのか? あいつはこの町で合流するって言ってたんだ。そう簡単にこの町からは出られないんだぜ?」
「そうだけどよ、探しに行くとか何とかしなくて良いのかよ?」
真剣な顔をして離していたアデルにガズルが食いつく。
「なら聞くが、この大陸にいるかも解らない人間をどうやって捜すって言うんだ?」
「そうだけど」
「レイなら大丈夫だ、お前と違って頭は良いよ。その内ひょっこり出てくるさ」
ガズルがのんびりした顔で言う、だがその裏腹は心配でしょうがなかった。正直アデルの言うとおりではあった、離ればなれになってから早一週間。人間一人が生きていける事はおろか二人、生存は絶望的ではあった。しかしレイの言い残した言葉通りここから離れるわけにはいかなかった。
「それより、これからの事を考えよう。まず残りの軍資金についてだけど」
「金か、俺達が持ち合わせていた金とアリスが貯めた金を足しても二十万シェル前後。食料と宿代を引いていくと大体一ヶ月が限度って所だな」
「一ヶ月か……その間に間に合ってくれれば良いんだけどな……」
ガズルが両腕を組みそんな事を言った、アデルは帽子を取って机に置き椅子の背もたれに寄りかかる。
そして二人同時にため息をついた。
「何辛気くさい話してるのよ」
ドアが開けられてずかずかと入ってきた、アリスだった。
アリスはアデルとガズルのちょうど真ん中に座るとガズルが眺めていた地図を見た。そして自分の鞄の中からノートを取り出して鉛筆で何かを書き始めた。
「あなた達ねぇ、さっきから聞いてればずいぶん楽に考えてるけどお金の計算間違ってるわよ?」
突拍子にアリスがあきれ顔で二人に言った。
「はぁ?」「へ?」
二人は同時に言った。そして計算を終えたアリスがノートを見せる、そこにはびっしりと書かれた綺麗な文字が並んでいる。
「えーと何々? マジかよ」
「マジもマジ、大マジ。たかが二十万シェルじゃ二週間が関の山よ。大体どんな計算をすれば一ヶ月なんて数字が出てくるの? そっちが知りたいわよ」
一つため息をついてどんよりする二人の顔を見た、また一つため息をついてからアデルに向かって言う。
「所で、私に何か武器無い?」
「はい?」
アデルは驚いてアリスの顔を見る、ガズルもゆっくりではあるがアリスの顔を見た。
「武器って、シフトパーソルが有るじゃないか」
「駄目、アレは借り物なの。もしこの大陸を出たときに戦う事が出来ないじゃない。解る?」
真剣に怒鳴るアリスの顔を見てアデルは押され気味でいた、そして一つため息をついてバックパックから一つの短剣を取り出すとそれをアリスに向かって放り投げた。
「わわわ!」
「おい、そんなにビックリしなくても良いだろ?」
「そうだけど、いきなり投げるなんて何考えてるのよ。今一度言っておきますけどね、私は女の子なんだからね?」
「それぐらいで驚かれてちゃぁこの先不安だな」
アリスは顔を膨らませて拗ねるしぐさをしたのち、受け取った短剣を少し振って見せる。
「軽い、意外だわ。もう少し重いものだと思ってた」
アデルはムッとし、ガズルは静かに笑った。アリスはどんな表情で居て良いのか困り果ててその部屋を出ようとした。
「……」
何かに気が付くと曇っている窓を開ける、暖房が外に漏れ出すと部屋の温度が少し下がった、雪が窓から部屋の中に少し入った。
「 何してんだよ、寒いじゃねぇか!」
「今日は雪が降ってるよね?」
「は? そんなの見れば解るじゃないか」
三人が順番ずつ喋った、アリスは急に振り向き二人を睨んだ。
「馬鹿だねぇ、そんな事は誰だって見れば解る事だよ。でも、雪が降ってるのに何で星が出てるのか不思議にならない?」
「星?」
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