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第一章 少年達の冒険

第四話 東大陸―グリーンズグリーン― Ⅰ

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 中央大陸を出向して二日、レイ達を乗せた船はちょうど四分の一と言う所まで進んでいる。相変わらず海の上は雪が降り、視界が悪かった。
 船の監視役として一人だけ残り、他の人間は部屋で暖を取っている。
 この部屋にも暖を取っている少年が三人。

「寒いな」

 ガズルが窓の外を見てそっと呟く、レイは紅茶を飲みながら何やら小説を読んでいる、対してアデルはまだベットで寝ていた。
 紅茶が入っているカップをそっとテーブルに置き本を閉じる、そして一つあくびをすると部屋を出ようとドアの前に足を運ぶ。 

「レイ? 何処に行くんだ?」
「暇だから船内を見て回る事にしたんだ、流石に暇だから」 

 ふーんと一言だけ言ってレイを見送る、自分は何をしようかと悩むが何も思い浮かばずレイが読んでいた小説に手を出す。

「広い船だ」

 ゆっくりと歩きながらレイが見たままの感想を言う、部屋を少し出た所に貨物室があり、その奥に機関部、来た方向へと目をやると食堂、寝室と何もない大きいフロアがある。
 レイは機関部へと最初行く事にした、特別機械に興味があるわけでもないがどんな風に動いているかが知りたくなった、この船は全長五十メートル、横二十メートルほどは有る大型の船だ、そんな船をどのような機械で動かしているかなんてレイ以外でも知りたくはなるだろう。

「お、少年。こんな所に何か用か?」

 船員達が休憩している所にレイはお邪魔した、全員がレイの方を見て何かと興味深そうに見ている。その視線にレイは大きいジャンパーを脱ぎそれを腰に巻いた。

「いえ、この船がどういう風に動いているか知りたくなりまして。大きな蒸気機関ですね、初めて見ます」
「そりゃそうだろ、この船は中央大陸、ひいては西大陸でもそうそう見掛けないほどの大きさの船だ。と言っても製造元は西大陸のリトル・グリーンだがね」

 蒸気機関技術が発達した大きな街と言う事だけはレイも風の噂で聞いたことはあった、旧文明の遺産を復元させた技術街で世界中に技術を下していると聞く。

「ところで、何か手伝う事はありませんか? 部屋にいても暇で暇で……僕に出来る事があったら何でも言って下さい」

 レイが笑顔でそう言うと全員がまた笑い始める、キョトンとするレイに先ほど話をしていた技術船員が腹に手を当てて笑いながらレイに言う。

「手伝うって、レイには何も出来ないぜ? 全部力が掛かった仕事だ、その貧弱な腕じゃビクともしねぇよ」

 そうですかと一つ残念そうに言う、だがレイは諦めなかった。
 近くにあった鉄の棒を一つ持ち上げて軽く手の平で放る、ジャックの隣にいた船員が目を丸くしてレイが放る鉄棒を見てこういった。

「おいおい、その鉄棒って五十キロは有るんだぞ! なんでそんな物を軽く放る事が出来るんだ? ちと貸してみてくれねぇか?」

 レイは笑いながらその鉄棒を船員に投げた、受け取ろうと船員が手を伸ばした瞬間がくんとその手が下に落ちる。

「お……重てぇ」

 ギリギリと右腕が悲鳴を上げている、たまらず両手に持ち替えて下に下ろす。
 その様子に船員が不思議そうに鉄棒を持ち上げる、やはり重かった。大の大人が子供が軽々持ち上げていた鉄棒持ち上げられずに顔を強ばらせる。

「ちきしょう、お前さんどんな人間だよ」

 船員が一つ愚痴をこぼすとレイはニコリと笑い説明を始める。

「普通の子供ですよ、ただ……法術で筋力を調整しているのでこの細い腕でも凄い力が出るんです。でもこれは最近覚えたばかりの術なので余り活用はしてません。因みにこの剣普通に持っていられますか?」

 レイはポケットから幻聖石を一つ取り出しそれを霊剣に変える、船員の元へと足を運び霊剣を差し出した。

「それ位なら俺にだって――痛ってぇ!」

 慌ててレイが霊剣を持ち上げる、船員の手は甲板にのめり込んでいた。それを見て他の船員達が大笑いをして馬鹿にする。
 だが霊剣を持とうとした船員の手を見て馬鹿にする物は次第にいなくなった、彼の手には霊剣のグリップの部分が生々しく残っていた。

「やっぱり大人でも無理なんだ」
「何処が普通の子供だよ」

 と一つ零した、他の船員達は休憩時間が終わるベルを聞くと重い腰を上げてめんどくさそうに仕事の方へと戻った。
 居場所が無くなったのを知ったレイはまたジャンパーを羽織り寒い通路をへと戻っていく、今度は操縦をしている場所へと足を運ぶ。
 そこには船長と航海士が六人、さらにはアデルが居た。

「あれアデル? 何時の間に起きたんだ?」

 レイが扉を開けて入ってくると直ぐさまアデルの姿が目に入った、黒いエルメアを着て帽子を首から提げている状態で船長の隣に立っていた。
 船長とアデルが振り向くとレイがジャンパーを羽織った状態でそこに立っている。

「よう、ついさっきだ」
「お早うレイ君、君も一杯どうだね?」

 船長が手元にあったコーヒーカップを一つ見せると頂きますと一言言ってレイはカップを受け取り口に運ぶ。
 一口すするとカップを近くのテーブルにおいた。中に入っているコーヒーは波に揺れている船と同じ感じに揺れ始める。

「それにしても雪止まないですね、見張りをしている人は寒そうだ」

 レイが船長の隣で言う、そうだなと半分笑いながら船長が答えた。
 その時船内に無数に取り付けられた管から見張りの声が聞こえた。

「艦長、二時の方向に救命弾を確認しました。どうします、助けますか?」
「クラーケンにやられたか。反応弾用意!」

 その言葉に見張りをしていた男が銃口を空に向けた。

「発射!」

 船長の声と共にその引き金は引かれて空に一つのたまを発射する、撃った後暫くするとたまははじけ飛び大きな音がその周辺に鳴り響いた。するとその音に反応するかのようにもう一発救命弾が打ち上げられた。
 船長は進路を変え、救出するように命じると船は二時の方向へと角度を変える。

「かかか、艦長!」

 見張りの声が管を通って操作室に響き渡った、あまりの大声に一同は耳を押さえて艦長の方を見る。

「馬鹿でけぇ声出すんじゃねぇ! どうした!?」

「ぜぜぜ、前方八百メートルにクラーケンを確認しました! その数三!」

 その場にいた全員が船の正面を凝視する、雪で見えにくいが確かに巨大な影が三つ確認できる。

「そーらお出でなすった!」

 一度だけ驚きそして頭を抱え込む、そして船員達に瞬時にして命令が下される。

「取り舵一杯! この区域から離脱する!」
「おいおい艦長さん、あの人達を見捨てるつもりかよ! この為に俺達がいるんだぜ!」
「相手が三匹も居たら無茶だ、この船だって木っ端微塵にされちまうよ」

 弱音を吐き出した船長が葉巻を大きくすった、だが彼等は納得がいかなかった。そして直ぐに艦長の右手に握られていたマイクを奪うと大声で

「皆さん、僕達が何とかします。僕達が相手をしている間に早くあの人達を救助してやって下さい!」 

 レイだった、そして艦長にマイクを戻すと操舵室の扉を開けて甲板へと出る。雪が降りしきる中前方に見える魔物の姿を捕らえる。
 直ぐさま荷物入れから幻聖石を取り出しそれを霊剣へと姿を変えた。

「この間の酒場での啖呵、本当に大丈夫なんだろうな?」

 ガズルが空から飛んできた、大きな音を立てて甲板の上に着地しレイの横に並ぶ、左手を前に構え右手はだらりと下に垂らしている。

「余裕だろ? 昔相手にしたのはもっと大きかった」

 後ろからゆっくりとアデルが両手に剣を構えて出てきた、左手に持っている剣をぶんぶんと振り回しゆっくりとレイの隣に着く。

「だけど一人一匹はちょっと辛いかな?」
「一匹と言うよりは一杯かな?」

 冗談交じりでガズルがレイの言葉を返す、その言葉にアデルが笑いレイが本気で怒り出した。冗談冗談と良いながらガズルもニット帽を深くかぶり何時でも飛び出せる準備を整える。アデルも帽子をかぶり直した。
 レイは霊剣を強く握りしめそして剣に風を集中させる。

「ガズルは左手前の一番小さい奴お願い、二人とも行くよ!」

 その言葉と同時にレイが飛び出した、真っ正面に見える巨大なクラーケン目掛けて霊剣を縦一閃に降った。だがあまり手応えがないまま弾かれそうになる。
 だが霊剣に集中させていた風がクラーケンを包み込みかまいたち状になりクラーケンを切り裂き始める、そして足を一本切り取りそのままクラーケンを蹴って船に戻る。
 すでにガズルとアデルもクラーケンに飛び込んでいて甲板にはまだ戻っては来ていなかった、レイはそのまま足を持って食堂へと駆け込んだ。






「しつけえっての!」

 何度も何度も重力波を繰り出すガズルの攻撃はクラーケンには全く聞いていなかった、それどころか足を捕まれて今にも海の中に引きずり込まれそうになる。
 だがガズルもそればかりは勘弁と言わんばかりに必死に抵抗した、からみつく足に噛みついたり、巨大な重力波を作り出したりと必死な抵抗を見せた。

「うわぁ!」

 クラーケンがガズルに向けて水を勢いよく掛けてきた、それを手に作り出した重力波で吸収する。

「もらったぁ!」

 重力波を作り出した手を真上に挙げてそれを思いっきりクラーケンにたたきつける、重力波がクラーケンに当たるとその中から水が噴き出してきた、その水は重力によって凄まじいほどの水圧に変わりクラーケンを切り裂く。

「っはは! ざまぁみろ!」

 自分の足にからみついていたクラーケンの足がほどかれたのを見計らってもう一度重力波をたたきつける、するとその反動でガズルは船の方へと押し戻される。

「痛てぇ!」

 着地に失敗した、それを後ろの方から笑い声聞こえる。
 振り向くと巨大なイカの足を良い具合に焼けた物を持って船の中から出てくるレイが居た。

「レイ、なんだそれ?」
「何って、クラーケンの足。結構美味しいよ?」

 あつあつと言いながらほどよく焼けたイカの足を食べるレイにガズルは少し引いた、だが暫くしてから自分の後ろの方で何か物音が聞こえだした。
 それは戦闘を終えて船に戻ってきたアデルだった。

「あちちち、焼きすぎたかな?」
「アデル、それは?」
「あ? レイと同じ物だよ、なんだガズルは確保しなかったのか?」

  黒こげになったクラーケン足を美味しそうに喰らうアデルを見てため息を一つ付いた、ずり落ちた眼鏡を直して操舵室の方へ親指を上に突き立てた。艦長が窓から呆気に取られた表情で三人を見ていた。

「本当に、化け物かお前ら」

 艦長はそんな事を呟きながらガズルに向かって親指を上に突き出す、そして進路方向修正を舵室に繋げた。





「何だ、男かと思ったら女だったのか」

 前方百メートル手前でアデルが双眼鏡を手にそう言った、難破船にはしごが下ろされた。しっかりとしがみつきながら登ってくる女性をレイが上から物珍しそうに見ている。

「女の子?」

 少し興味有りそうにレイはそう呟いた、初々しいというか何というかガズルとアデルが楽しそうにレイの顔ををのぞき込む。

「レイ、このむさ苦しい船に女の子が乗ってきたのがそんなに嬉しいのか?」
「違うよ、ただ珍しいなって思ってさ」
「珍しい?」

 ガズルが疑問そうにそう言った。
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