『この星で、最後の愛を語る。』~The Phantom World War~

青葉かなん

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第一章 少年達の冒険

第二話 黒衣の焔とその右腕 Ⅱ

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「驚いた、まさかアデルと会うなんてな、何年ぶり?」 

 レイはオーナーにコーヒーを頼むとすかさずアデルに質問する。 

「二年半、それ位か。俺がおやっさんの所を飛び出したのは」 
「勝手に居なくなっちゃうんだもん、あの時は驚いたよ。隣は?」 

 レイが先ほどから黙って外を眺めているニット帽をかぶった少年のことをアデルに訪ねた、その時マスターが三人分のコーヒーを運んできた、それをゆっくりと飲みながらアデルは口を動かす。 

「此奴はガズル、『ガズル・E・バーズン』。半年前に別の町で食い逃げをしてな、その時に一緒に逃げた口だ」 
「く、食い逃げって……」 

 あきれ顔でアデル達を見るレイ、暫くするとガズルと紹介された少年が静かに口を開く。 

「レイって言ったっけ? 宜しくな」 
「宜しく。アデルと一緒に行動してるなんて君も大したもんだね」

 ガズルもまたコーヒーを片手に簡単な挨拶を交わした。

「所でレイ、何でお前はこんなの所に居るんだ?」 

 話がいきなり自分の方に降られてきたので少しビックリした、だがアデルの質問にレイは適切な答えを用意していたかのようにほぼ即答に近い状態で答える。 

「探して居るんだ、友達を」 
「ダチ?」 

 アデルがさらに聞き返す、レイは冷めたコーヒーを一口すすると、 

「僕が先生の所を出るきっかけになったのはあいつ・・・がやってきた時だ。あいつは先生の弟子にして欲しいと言ってきてさ、先生はその理由を聞いたけど、その子はただ強くなりたいの一点張りだった。だけど先生はその子を弟子にはしなかった」

 カップを両手に持ち揺れるコーヒーの波を見つめる。

「代わりに僕を旅の同行者としてついて行くように言われた。最初はお互い考える事が一致しなかったり喧嘩をしたりと色々としてたんだけど、暫くすると友達感覚になって。だけど旅の途中でその子とはぐれちゃって、勿論探し回ったさ。結局見つからなかったけど。その後風の噂を頼りにずっと探していて偶然この町にたどり着いたって訳。所で、僕の事よりアデルの方はどうなんだよ?」 

 コーヒーカップを置き淡々と話し終えたレイは逆にアデルに質問をする。アデルはキョトンとしていて何から答えればいいか迷っている様子だった。 
 静かにカップを置きため息を一つしてからゆっくりと口を開いた。 

「似たり寄ったりかな? 最初はそこそこ生活出来てたんだけどさ、生活費がな。そこで食い逃げをしてさ、此奴と一緒になったってわけさ」

 暫くするとアデルの子分達が慌てた表情で戻ってきた、手には何やら一つの紙が握りしめられている。 

「だだだ、旦那! 此奴を見てくだせぇ」 
「何だよ、明らかにお前達の方が年上なのに旦那はやめろって。んで? なんだその紙は」 

 アデルは子分の一人から紙を受け取りそれを見始めた、光具合からレイには薄く上の方の文字が透けて見えた。『指名手配』と書かれた文字が薄く見えその下には何処かで見たような顔が映っていた。 

「賞金首か、にしても金額が高いな。二千万シェル(お金の単位:シェルはこの世界の通貨)なんて高額めったに見ないぞ?」

 ガズルがその金額に目を光らせる、無理矢理アデルからその紙を奪いなめ回すようにじっくりと見る。レイも金額を聞いた瞬間どんな奴か知りたくなった。 

「グリーンズグリーンを拠点に半年前から帝国兵士及び一般市民を虐殺したとして全国指名手配。生死を問わずとらえた者には二千万シェルの賞金を出す、指名手配犯の名前は――」 

 ガズルがそこまで読むとアデルがその紙を取り上げ続きを読み始める。 

「名前はギズー、『ギズー・ガンガゾン・・・・・・・・・』。ガンガゾンって、あの殺し屋ガンガゾンか? それならこの金額も……っておい、どうしたレイ?」 

 目を点にしてコーヒーカップを持ったまま何も喋らずに呆けているレイを見てアデルが難しい顔をしながら聞いた、だがレイはアデルの問いかけに何も答えずそのままの格好で固まっていた。 

「……」 
「オイ、大丈夫かレイ?」 

 そのままの体制から急に立ち上がりコップを落とす、目の色が変わりアデルの手に握られている紙を奪い取った、直ぐにその目を丸く開く写真を見る。 

「あいつ!」 

 レイは急にその場から走り去った。次ぎに出てきた時は荷袋をまとめて青いジャンパーを羽織って階段を下りてきた。 

「おやっさん、今までありがとう」 

 レイが風吹くさざ波停から出ようとした時マスターが呼び止めた。 

「待ちな」 

 レイは急ブレーキを掛けたように少し滑りながら出入り口で止まった、振り向くとそこにはガトーが何か袋を持っている。 

「受け取りな!」 

 投げた袋はレイの手の中に収まった、中には少しばかりのお金と幻聖石が入っていた。 

「これは?」 
「今までのお礼だ、とっておきな」 

 ガトーが左手を前に出して親指を上に突き上げた。レイはその手を見て笑いながら自分も親指を上に突き上げた。 

「おい」 

 レイの左斜め後ろの方から聞き慣れた声が聞こえた。 

「俺達も連れて行けよ、楽しそうじゃねぇか?」 
「アデル、あぁ! 良いよ。ただし、アデルとガズルの二人だけだ、他の連中はこの町で待機させておいてね」 

「あん? 何で俺が」

 ガズルが面倒くさそうにレイの方を見る。 

「アデルが認めた人でしょ? 見てみたいんだ、君の強さを」 

 ガズルがキョトンとしてレイの顔を見続ける、アデルがガズルの方に手を回し行こうぜ? と促す、少し目をつむりフッと笑ってレイを見返す。 

「良いぜ? 行ってやるよ。ただし、つまらなくなったら俺は直ぐに引き上げる。良いな?」 
「了解」 

 そう言うと直ぐさま三人はその酒場を後にしようとした、だが酒場の前には何人もの兵隊がうじゃうじゃと集まっていた。肩にショットパーソル(注意:火器の事、ショットパーソルはライフル型重火器)を背負っている。 
 その中に傷だらけの朝方見た兵隊も見受けられる。 

「隊長! 此奴らです、帝国に反発する奴らは!」 

 隊長と呼ばれた大柄で髭面の男が奥の方から出てきた。 

「お前達か、俺の大切な部下をこんな風にした・・・・・・・のは?」 

 大男が手に持っていた何かをレイ達の目の前に放り投げた、それは今朝方アデルが切り飛ばした帝国兵の首だった。 

「あぁ、俺がやった。それが何か?」 
「なにかじゃねぇ! 帝国反逆罪でお前達を全員逮捕する」 

 大男が大声でそう言うと三人は一度キョトンとした後一斉に笑い出した。レイはお腹を抱えて、アデルは帽子で顔を隠し、ガズルは涙ぐみながら大男を指さしながら。 

「この野郎、かまわねぇ。引っ捕らえろ」 

 命令を合図に一斉に三人に飛びかかる、一人目がレイに飛びかかった瞬間その兵隊は勢いよく後ろの方へと吹き飛ばされた、回し蹴りだ。吹き飛ばされた兵隊に巻き込まれるかのように何人かは一緒に吹き飛んでいた。 
 アデルとガズルはそれぞれ左右へと跳躍しアデルは剣を抜いた。 

「「俺達をどうするって?」」「僕達をどうするって?」 

 三人同時にそう叫んだ、レイもアデルから霊剣と呼ばれた剣を幻聖石から本来の姿に戻し戦闘態勢へと移る。大男がまた一つ命令を下すと持っていたショットパーソルを構えて狙いを定めてこちらに撃ってきた。 
 レイは霊剣で弾き、ガズルは手から放射される不思議な空間でその弾の部質をゆがめさせアデルは普通に避けた。 

「レイ! 俺がどれだけ強くなったか見せてやるぜ!」 

 アデルは低い体制で両手に剣を構え瞬時に逆手に持かえ、狙いを定めて一気に前に走り出すと一人の兵隊に左から斬檄を放つ、一閃、また一閃と次から次へと斬檄を放ち兵隊の意識がなくなったことを確認した後にその兵隊を思いっきり吹き飛ばした。 
 後方へと吹き飛ばした後左手に赤く燃える炎が渦巻き始めた、それを両手で弾き前方へと飛ばした。その火球は綺麗なアーチを描き辺り一面を焼き払った。 

「燃えちまいな!」 

 すかさずガズルが左手にあの黒い空間を歪ませた。 

「レイ! お前の力を見せてみろよ、そうすれば少しは長く旅が出来るかも知れないぜ?」 

 ガズルが唆すようにレイに挑発をする、レイは「分かった」と一言だけ呟いた、ガズルはその拳を天高く突き出すと歪んだ空間は帝国兵を一つにまとめて空へと舞う、するとレイの顔つきが一瞬変わった。
 
 霊剣を横に構えて体制を低くし、足場をしっかりと確かめると左を添える、横一杯に振りかぶると霊剣に風が集まりだした、その風は次第に大きくなり渦を巻きレイのジャケットがばたばたと大きく暴れる、その風と会話をするかのようにレイは笑った。 
 左肩に霊剣の柄の部分を乗せ大きく上からたたき込むように剣を縦に一閃する。 

突風剣エアー・プレリュード」 

 渦を巻いた風はその剣からは離れると空に浮いている帝国兵達に向かってスピードを上げて迫っていく。その風は辺りの砂を巻き込み目に見えるほどの竜巻がそこに出現した。 
 竜巻は轟音と共に兵隊達を上空の彼方へと吹き飛ばした。 

「……ほぇ」 

 ガズルの開いた口がふさがらない、右手で頭の帽子を押さえたままその体制で立っている。アデルは相変わらずだなと言わんばかりに呆れた顔でレイを見ていた。 

「どうガズル? 僕の力少しは認めてくれた?」 
「呆れた奴らだ、お前とアデルはそろって化け物か!」 

 その慌てぶりにレイとアデルは笑い出した、すべてはカルナックの教えであることも知らずにガズルは何に対して笑われているのかが一行に掴むことが出来ずに理不尽な表情のままアデルとレイを追いかけだした。
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