『この星で、最後の愛を語る。』~The Phantom World War~

青葉かなん

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第一章 少年達の冒険

第一話 レイ・フォワード Ⅰ [イラスト有り]

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 いつの時代も世界は不条理で動いている、そう思ったことは無いだろうか?
 とある時代では宇宙から飛来した何かによって文明が、その星に住む全てが消え去ったのかも知れない。
 とある時代では築き上げた文明が――自然、又は抗う事の出来ない何かによって滅亡の危機を迎えたのかも知れない。

 また、とある時代では――いや、この時代は武装国家によって民が苦しみ病に飢え、戦争が蔓延する世界。そんな時代に生きた若者達が居る、これはそんな彼らの物語。

 彼らの物語の書き出しはそう――「むかしむかし、ある所に」そんな様式美から始まる物語。

 


 見渡す限り一面の砂漠、照り付ける日差しが容赦なく体力を奪いに来る。そんな灼熱地獄に少年が一人。
 全身にローブを纏って日差しから肌を守っているこの少年、腰には一振りの大剣を一本。肩からベルトでくくっている。ちょうど砂丘のてっぺんにまで登ったところで一度足を止めて頭にかかっているローブをとってあたりを見渡した。

 周囲に人工物もしくは日陰になるような場所すらない。少年はため息を一つついてもう一度ローブをかぶりなおして歩き始めた。
 少年がこの砂漠に足を踏み入れてから今日で三日と五時間、手持ちの食料も底をつき残るは多少の飲み水だけ。

 ここは世界の中心、中央大陸南部の砂漠地帯ケープバレー
 過去に大戦があり荒廃した後砂漠化した場所である。半径百数キロを砂漠で埋め尽くされその周囲には山がそびえたつ。
 少年が目指しているのは砂漠と、その先にある荒野の入り口、酒場町として旅人のオアシス。彼は北東部の山を越えて砂漠に入り地図を頼りに進んできたものの一面砂漠で地形もすぐに変わってしまうこの場所で文字通り迷子となっていた。

 手にしている地図を睨みつけるもまったくもって現在地がわからない、砂丘を見つけては登って周囲を見渡す作業をずっと続けている。溜息が少年の口からこの日、何度目かわからない数がこぼれたあたりで澄み渡る空を見上げた。照り付ける日差しを睨み自分の影と日の位置を確認して今自分がどの方角に進んでいるのかを確認する。

 迷い始めてからすぐに実行したこの方角確認、このままなんの考えもなしに歩いていては町を見つけるどころか砂漠の出口を見つけることすらできない。その前に飲み水がなくなり息絶えてしまうかもしれない。そう考えた少年の行動だった。運よく町が見えれば吉、そうでなくとも同じ方角にまっすぐ進んでいればいつかは砂漠の切れ目まで出られる。そう考えたのだ。そしてこの少年は運のいい方向へと転がった。

 その日の夕刻、日中のあの暑さから徐々に涼しくなってくるころ。目の前にひときわ大きな砂丘が見えた。少年の荷物の中には一時間ほど前に飲み水はすべて切らしている。この砂丘を登り何かが見えてくれることを祈った。

 何度か砂に足を取られそうになりながらもやっとの思いで登った砂丘、両ひざに手をついて息を切らしていた少年がふと顔を上げると自分が探し求めていた物がついに見えた。

 少年は大いに喜んだ、砂丘を滑り降り勢い余って転ぶ。すぐさま立ち上がり残りの体力すべてを使い切る勢いで走った。もう彼に余力は残っていない、気力と体力が続く限り動き辛い砂漠を駆けた。ガチャガチャと背中の荷物と巨大な剣がぶつかり音を立てている。ぐんぐんと速度を上げて走るその姿はさぞ滑稽だったろう、しかし今の少年にそんなことを気にしている余裕なんてこれっぽっちもなかった。生死にかかわることなのだから。だが少年はここで一つ考慮すべきことを忘れていた。

 確かに砂丘から見えたのは少年の目的地である酒場町のようだった。だがこれが蜃気楼じゃないという確証がどこにあったのだろうか? もしも見えたものが実物ではなく蜃気楼の類であったのなら……その時はゾッとするであろう。



 あれから一時間後、少年が見たものは間違いなく酒場町だった。
 へとへとになりながらもたどり着いた少年は両手を挙げて大声で叫んだ。そしてそこで力尽き、そのまま後ろへと倒れると眠るように気絶してしまった。
 何事かと周辺の酒場や宿屋から住人や旅人が顔を出しては少年を見る。ボロボロになったローブに砂まみれの衣装を見た彼らは急いで少年を近場の診療所へと運んだ。

 この町ではよくある話だそうだ、唐突に大声を上げたとたん倒れる旅人なんてもはや名物となり果てている。それもそのはずだ、大体この町に入ってくる旅人なんてのは荒野か砂漠を越えてくるのどちらかしかいない。どっちのルートも大概ではあるものの難易度的には砂漠を越えてくるほうが無茶なことである。荒野のほうも安全とは言い難いがそれでも砂漠よりかはマシだろう。
 少年が他の旅人に抱えられ診療所に担ぎ込まれたのを見送った一人の大男が少年のものと思われる大きな大剣が地面に置き去りにされているのに気が付きそれを拾うとした。

「な……なんだこれ」




 診療所に少年が担ぎ込まれて二日、一向に目を覚まさなかった少年だったがこの日やっと動きがあった。ゆっくりと瞼を開くと少年は現在自分が置かれてる状況が分からなく首をかしげていた。体に異変は無く上半身を起こし、見慣れない服を着てベッドに横たわっていたことを確認する。

「お、兄ちゃん大丈夫か?」

 部屋の前を通り過ぎようとしていた大男が意識を取り戻した少年を見えて声をかける、少年は一言簡単に返すと大男は一安心したようで胸をなでおろした。

「あのまま目を覚まさないのかと思ったぜ、兄ちゃんが町の入り口で大声出して倒れた時にゃいつものアレかと思って顔出してみりゃぁこんな子供だもんな。町中大騒ぎよ」

 大男の話曰く、大概は大人の旅人が行き倒れるところを目撃しているようだが今回のように子供がこのように倒れたというのは初めてだという。少年も申し訳なさそうに一度会釈をして右手で頭をかいた。

「それはそうと、もう大丈夫なのか? 熱中症に脱水症状。極め付けは砂漠熱にもあてられてたって先生の話だったが」

 少年はきょとんとした顔でもう一度自分の体を見る、見る限りではどこにも異常は無く旅に出た当初と同じ程度の健康状態であると確認できる。その大男のいう病状の痕跡は全くなく辛さや気怠さといった不調も一切なかった。

「驚きだなぁ、砂漠熱にあてられて二日で目を覚ますとは前代未聞だ。なんにせよ外傷はないみたいだけど内臓がどうなってるかわからねぇし先生呼んでくるわ」

 そう笑顔で大男は部屋を後にしようとした。が、少年が呼び止める。

「あ、なんだ兄ちゃん」

 少年は申し訳なさそうな顔でこの大男の名前を尋ねる、すると今度は大男のほうがきょとんとした顔で少年の顔を見て笑う。

「はっはっは、すまねぇな兄ちゃん。俺はこの町の宿屋『風吹くさざ波亭』の店主で『ガトー』ってんだ。皆からはおやっさんって愛称で呼ばれてるから兄ちゃんも気軽におやっさんとでも呼んでくれ」

 そう笑いながら言うと部屋を立ち去ってしまった。少年が自分の名前を名乗ろうとしたその前にだ。大柄でスキンヘッド、ピンクのエプロンが似合わない大男。そんなガトーに少年は少しだけ安堵して上半身の力を抜いた。力の抜けた上半身はベッドにそのまま倒れ白い枕に後頭部をうずめた。


 
「もう数週間は絶対安静じゃ! と本来ならいうところだがお前さんの体はどうなってるんじゃ? もう心配いらんわ」

 その後ガトーが引っ張ってきた医者に診察してもらい体に異変がないか調べてもらったが特に何も出なかった。健康そのものであると太鼓判を押されて少年もほっとする。それを見たガトーもまた大笑いして少年の背中を数発平手で叩いた。

「はっはっは、本当に頑丈だな兄ちゃん!」
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