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第一章 暁の空から
ナマリイロノソラ――Re:Ⅲ
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自分の語彙力の無さに絶句する。
何が起きているのかを説明するのに脳内をフル稼働しても足りない、言い換えれば狂気。そう、狂気だ。現実として受け止めることが出来ない、出来るはずがない。
背中を走る悪寒は外気温の所為じゃない、額を流れる汗は体温の上昇からでは決してない。手の震えは凍える寒さから来るものではない。視線が覚束無いのは疲れから来るものでは決してない。
冷静な僕と、狂気の世界から死に物狂いで手を伸ばして僕を掴み引っ張る自分がいる。どちらが本物でどちらが偽物か。
一瞬世界が歪んだ気がした。
きっと感覚的なもので、心がそうさせている。もう一人の僕が必死に混沌へと引きずり込もうと全力で引っ張いている感覚が全身に走っている。
気持ちが悪い、吐きそうだ。
何故僕がこんな思いをしなくちゃいけない、何故僕がこんな気持ちにならなくちゃいけない、何故僕が、何故僕が。
足元の感覚が無い、まるで無限に落ち続ける穴に飛び込んだかの様だ。光すら逃れられないブラックホールに吸い込まれ、意識が加速する。目に見えている現実に疑問を抱き、無限に続く脳内演算が止まることが無い。暗闇に落ち続ける、言葉にするのも悍ましい。
「では続いて天気予報です、栗原さーん」
そこで思考が止まった。
アナウンサーの呑気な声が、僕を現実へと引き戻してくれた、
正直なところ何もわかってない。
あれから一時間、居間でテレビを見ながらぼんやりと考えていた。昨夜から繰り返し起こる怪奇現象に頭を悩ませてるのは事実。僕が見ているこの世界が本当なのかどうなのかも今となっては頭痛の種だ。何度この問答を繰り返してきただろうと頭を抱えたくなる。
外へ視線を動かせば一時間前より降り方が強くなった雪が目に留まる。
異常気象にも程がある。と、そう考えられる内はまだ僕が壊れていない証になるだろうか。そんなくだらない事を考えていなければ壊れてしまうのではないかと。
考えても考えても答えは出てこない。出てくる筈がなかった。漠然と何から考えればいいのか分からない、何処から考えたものか。
ノイズが走る事。
二重にイメージが重なる事。
奇妙な機械音声の事。
時間を遡っている可能性。
この中で時間を遡っている可能性、ノイズとイメージが重なる現象はほぼ同義だろうと推測している。そう推測だ、確定事項じゃない。
確定事項として捉えるには情報が少なすぎる、同時にそんなことが現実に起きるはずが無いと否定する僕自身の強い願いでもあった。
最後にさっきのあの声だ。
聞いたことのない言葉な筈なのに意味が理解できた。
いや、あの声はどこかで聞いたことがある気もする。それが何時だったのか何処だったのかが分からない。
漠然と何から考えれば良いのか分からなくなってくる、それがとても不愉快で不快だった。考える事は嫌いじゃない、大好きな宇宙の事でも空想科学でも、本当のところを言えばこの手の事象については得意分野のはずだった。
苦痛なのはそれが「空想科学」で「理論の一つ」として扱われているサブカルチャーの話であって、現実で起こっている可能性があると考えてしまう僕自身が居る事。それが苦痛で堪らない。
考えても見てほしい、昨夜から答えの出ない空想科学を現実に落とし込んで、自分の身に何が起きているのかを考えている事を。まともな思考回路をしている人間なら狂ってしまう事象だ。
一歩前進したかと思えば二歩強制的に後退させられる気分だ。何一つ楽しくない、楽しく考えられない。コレが楽しいと思えるのならそれは狂人か世界終末論者だけだ。
僕はどちらでもない。
ただの一般人だ。
とは言え何かが起きているのは確かだ。コレが空想科学の枠からはみ出た現実だったとしても僕にとっては現実であって事実な事に変わりはない。
「あの作品の主人公達も、きっとこんな気分だったのかな」
部屋に数多くあるタイムトラベル物の作品を思い出してそう呟いていた。独り言に思わず笑みが零れていたと思う、この部屋に鏡が無くて良かった。
悲壮するだけした、絶望するだけ絶望した。
ここから先は、この後の事を考えなくてはいけない。
今この瞬間にも世界の時計は動いている、僕以外の人も時間は等しく進んでいる。一般相対性理論の枠で考えれば等しくというのはまた違った意味になるかもしれないが、概ね間違ってはいないだろう。
この世界が終わりを迎えるかもしれないのなら、その出来事を知っている僕にはある程度回避する術がある。まずはそこから考えていこう。
大きく事象が変化するのは明日。
潔や曽根と遊ぶ約束をした日だ、中国とロシアがアメリカに核戦争を仕掛ける。報復処置としてアメリカも核弾頭を二つの国に向けて発射するのが明日だ。
日本だってもちろん無事で済むはずはない。
沖縄が地図上から消滅するのが明日だ。
たぶん、大局だけは避けられないと思う。今からじゃバタフライ効果も期待できない、一人の呼びかけでどうにかできる話でもない。もしもここで僕が声を上げて「明日戦争が始まる」と何らかの方法で世界に呼び掛けてたとする、でもその呼びかけは無常にも狂人の戯言か自称預言者の言葉として封殺されてしまう。
そもそも後戻りはできない状態にまで世界情勢は切迫しているのは間違いない。今朝のニュースでもあった通りなのだからソレを回避することは出来ない。
では、僕が今出来る事と言えばなんだ。
明日以降の行動を思い出して親友達の死を回避していくしかない。例え世界が終わりを迎えるその時が来たとして、またあの光景を一人で見るのだけは真っ平御免だ。
今は深く考えるな。
生き残る事だけを考えればいい、それに僕はそれ以降の出来事を知らない。もしかしたら希望が残されている可能性だって否定はできないんだ。そうだ、そうに違いない。
楽観視しているつもりは無い、でも何か行動を起こさなければ。と、僕は今この判断を後悔しない。やって後悔するのは構わない、何もしないで後悔することだけは絶対に嫌だ。
「そうと決まれば、まずやることは決まったな」
椅子から立ち上がって自室へと戻り、厚手の上着と厚手のデニムを履いて玄関へと向かう。
「先ずは、雪掻きだ」
気を紛らわせる意味も含まれているのは否定しない、体を動かして居なければ負の念に押しつぶされそうになっている今を脱却して、明日の肉体労働を少しでも軽減させなければ。
行動を開始するなら今しかない。勢いよく玄関を開けて零度近くの外気温に触れ、一面銀世界な美しい世界を目に焼き付けた。もしかしたらもう二度と見る事の出来ない景色になろうとも、今僕が感覚として美しいと感じられたこの世界を記憶する為に。
同時に、現状を把握してはこの理不尽な積雪に絶望もしていた。
「――出鼻を挫かれるとはよく言ったものだけど、本当に異常気象だよねこれ」
予想以上に降り積もった雪に絶句しながら空を仰いだ。ため息は白く濁って空に昇って行くのが良く分かった。鉛色の雲から白いドットの様に落ちてくる雪を見ながら、これからの僕と世界に向かって一度深く深呼吸した。
ご機嫌如何ですかクソッタレな世界、否定した小さな足掻きを起こしてやる。僕はこれから――この後起きる歴史に宣戦布告する。
何が起きているのかを説明するのに脳内をフル稼働しても足りない、言い換えれば狂気。そう、狂気だ。現実として受け止めることが出来ない、出来るはずがない。
背中を走る悪寒は外気温の所為じゃない、額を流れる汗は体温の上昇からでは決してない。手の震えは凍える寒さから来るものではない。視線が覚束無いのは疲れから来るものでは決してない。
冷静な僕と、狂気の世界から死に物狂いで手を伸ばして僕を掴み引っ張る自分がいる。どちらが本物でどちらが偽物か。
一瞬世界が歪んだ気がした。
きっと感覚的なもので、心がそうさせている。もう一人の僕が必死に混沌へと引きずり込もうと全力で引っ張いている感覚が全身に走っている。
気持ちが悪い、吐きそうだ。
何故僕がこんな思いをしなくちゃいけない、何故僕がこんな気持ちにならなくちゃいけない、何故僕が、何故僕が。
足元の感覚が無い、まるで無限に落ち続ける穴に飛び込んだかの様だ。光すら逃れられないブラックホールに吸い込まれ、意識が加速する。目に見えている現実に疑問を抱き、無限に続く脳内演算が止まることが無い。暗闇に落ち続ける、言葉にするのも悍ましい。
「では続いて天気予報です、栗原さーん」
そこで思考が止まった。
アナウンサーの呑気な声が、僕を現実へと引き戻してくれた、
正直なところ何もわかってない。
あれから一時間、居間でテレビを見ながらぼんやりと考えていた。昨夜から繰り返し起こる怪奇現象に頭を悩ませてるのは事実。僕が見ているこの世界が本当なのかどうなのかも今となっては頭痛の種だ。何度この問答を繰り返してきただろうと頭を抱えたくなる。
外へ視線を動かせば一時間前より降り方が強くなった雪が目に留まる。
異常気象にも程がある。と、そう考えられる内はまだ僕が壊れていない証になるだろうか。そんなくだらない事を考えていなければ壊れてしまうのではないかと。
考えても考えても答えは出てこない。出てくる筈がなかった。漠然と何から考えればいいのか分からない、何処から考えたものか。
ノイズが走る事。
二重にイメージが重なる事。
奇妙な機械音声の事。
時間を遡っている可能性。
この中で時間を遡っている可能性、ノイズとイメージが重なる現象はほぼ同義だろうと推測している。そう推測だ、確定事項じゃない。
確定事項として捉えるには情報が少なすぎる、同時にそんなことが現実に起きるはずが無いと否定する僕自身の強い願いでもあった。
最後にさっきのあの声だ。
聞いたことのない言葉な筈なのに意味が理解できた。
いや、あの声はどこかで聞いたことがある気もする。それが何時だったのか何処だったのかが分からない。
漠然と何から考えれば良いのか分からなくなってくる、それがとても不愉快で不快だった。考える事は嫌いじゃない、大好きな宇宙の事でも空想科学でも、本当のところを言えばこの手の事象については得意分野のはずだった。
苦痛なのはそれが「空想科学」で「理論の一つ」として扱われているサブカルチャーの話であって、現実で起こっている可能性があると考えてしまう僕自身が居る事。それが苦痛で堪らない。
考えても見てほしい、昨夜から答えの出ない空想科学を現実に落とし込んで、自分の身に何が起きているのかを考えている事を。まともな思考回路をしている人間なら狂ってしまう事象だ。
一歩前進したかと思えば二歩強制的に後退させられる気分だ。何一つ楽しくない、楽しく考えられない。コレが楽しいと思えるのならそれは狂人か世界終末論者だけだ。
僕はどちらでもない。
ただの一般人だ。
とは言え何かが起きているのは確かだ。コレが空想科学の枠からはみ出た現実だったとしても僕にとっては現実であって事実な事に変わりはない。
「あの作品の主人公達も、きっとこんな気分だったのかな」
部屋に数多くあるタイムトラベル物の作品を思い出してそう呟いていた。独り言に思わず笑みが零れていたと思う、この部屋に鏡が無くて良かった。
悲壮するだけした、絶望するだけ絶望した。
ここから先は、この後の事を考えなくてはいけない。
今この瞬間にも世界の時計は動いている、僕以外の人も時間は等しく進んでいる。一般相対性理論の枠で考えれば等しくというのはまた違った意味になるかもしれないが、概ね間違ってはいないだろう。
この世界が終わりを迎えるかもしれないのなら、その出来事を知っている僕にはある程度回避する術がある。まずはそこから考えていこう。
大きく事象が変化するのは明日。
潔や曽根と遊ぶ約束をした日だ、中国とロシアがアメリカに核戦争を仕掛ける。報復処置としてアメリカも核弾頭を二つの国に向けて発射するのが明日だ。
日本だってもちろん無事で済むはずはない。
沖縄が地図上から消滅するのが明日だ。
たぶん、大局だけは避けられないと思う。今からじゃバタフライ効果も期待できない、一人の呼びかけでどうにかできる話でもない。もしもここで僕が声を上げて「明日戦争が始まる」と何らかの方法で世界に呼び掛けてたとする、でもその呼びかけは無常にも狂人の戯言か自称預言者の言葉として封殺されてしまう。
そもそも後戻りはできない状態にまで世界情勢は切迫しているのは間違いない。今朝のニュースでもあった通りなのだからソレを回避することは出来ない。
では、僕が今出来る事と言えばなんだ。
明日以降の行動を思い出して親友達の死を回避していくしかない。例え世界が終わりを迎えるその時が来たとして、またあの光景を一人で見るのだけは真っ平御免だ。
今は深く考えるな。
生き残る事だけを考えればいい、それに僕はそれ以降の出来事を知らない。もしかしたら希望が残されている可能性だって否定はできないんだ。そうだ、そうに違いない。
楽観視しているつもりは無い、でも何か行動を起こさなければ。と、僕は今この判断を後悔しない。やって後悔するのは構わない、何もしないで後悔することだけは絶対に嫌だ。
「そうと決まれば、まずやることは決まったな」
椅子から立ち上がって自室へと戻り、厚手の上着と厚手のデニムを履いて玄関へと向かう。
「先ずは、雪掻きだ」
気を紛らわせる意味も含まれているのは否定しない、体を動かして居なければ負の念に押しつぶされそうになっている今を脱却して、明日の肉体労働を少しでも軽減させなければ。
行動を開始するなら今しかない。勢いよく玄関を開けて零度近くの外気温に触れ、一面銀世界な美しい世界を目に焼き付けた。もしかしたらもう二度と見る事の出来ない景色になろうとも、今僕が感覚として美しいと感じられたこの世界を記憶する為に。
同時に、現状を把握してはこの理不尽な積雪に絶望もしていた。
「――出鼻を挫かれるとはよく言ったものだけど、本当に異常気象だよねこれ」
予想以上に降り積もった雪に絶句しながら空を仰いだ。ため息は白く濁って空に昇って行くのが良く分かった。鉛色の雲から白いドットの様に落ちてくる雪を見ながら、これからの僕と世界に向かって一度深く深呼吸した。
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