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コリスの相談
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ウォルトさんは村長に掛け合って最低1年は村に滞在するという条件で空き家をゲットしたらしい。
なんで私が知ってるかといえば数日前、長期滞在の準備が整うのと同時に私の家にバイトとしてやってきたから。
なんでも、村長宅で父さんと遭遇していつの間にかそういう話になったらしい。
「確かに、最近は若い男手が欲しいってずっと言ってたものね」
「デュラン君をいつも借りるわけにいかないからねぇ」
「困った時はお互い様とはいえ、度々借りるわけにはいかないもんね」
「当然だろう? その点で言えば、ここに滞在することで仕事を探してるはずの彼は丁度いい!」
朝ご飯を食べながらしみじみと呟いた私の言葉に母さんが返して、それに頷いたら父さんまで会話に入ってきた。
眼の前ではニコニコしながらうちのなんてことのない普通の朝食をもりもり食べてるウォルトさんが座ってる。
朝一番の作業が終わって、休憩を兼ねた朝食タイムである。
うちに住み込んだら? って言いたくなるレベルの早朝でも当たり前のように出勤してるのを見ると凄いなって思うわよね。
まぁ、部屋はないし、なんと、借りた空き家は我が家の敷地の隣だった。
そういや、この人森に行きたいって言ってたわ。
「いやぁ、牧場のご飯がこんなに美味しいなんて知らなかったです。新鮮な牛乳まで飲ませていただいて」
「何の変哲もない田舎の朝ご飯ですよ」
「今まで乾パンと干し肉に干し果物、後は食堂のご飯ばかりだったんで、こんなふうにご相伴に預かれるのはありがたいですよ」
「口にあったならなによりだ。この後は馬小屋のわら替えをして、牛たちを放牧したら夕方までやることないから自由時間にしていいよ」
「ありがとうございます。では、仕事が終わったらちょっと森に行ってきます」
美味しそうに牛乳をお代わりして飲み干したウォルトさんは、父さんの言葉に頷くと夕方まで出てくると告げた。
特に止めないのは彼が冒険者としてランクがそれなりに高いこと、手入れが行き届いた武器を持ってること、鍛錬を怠ってないことなどが挙げられる。
まぁ、言ってこの森、日帰りで帰れる範囲に凶悪な魔物は出ないのもある。
ミンクたちや小動物が住んでる理由もそこにあるらしい。コリスが森の際にある牧場の柵まで来ては色々教えてくれるから、結構詳しくなったよね。
「いいなぁ……」
「リーフ君も一緒に来るかい?」
「無理なこと知ってて言ってるでしょ」
「ハハハッ! いやぁ、あんな入口すら猛抗議されるとは思わなかったから彼らの説得は骨が折れそうだねぇ」
森に行くというウォルトさんについ、羨望の眼差しを向ければ誘ってくれるけど私の機嫌は急降下だ。
ウォルトさんがうちで働き始めた初日も同じように誘ってくれたんだけど、結局ミレイとデュランに見つかって却下されたのよね。
まぁ、原因はわかってる。私が興味を持ったものに対して集中すると他が見えなくなって知らない間に奥まで入り込んじゃう癖がある。毎度それをやらかして、気付いたデュランとミレイが慌てて探しに来るのだから仕方ない。
腰に縄でも付けて引っ張っていくならまだしも、野放しにするならダメだと盛大に注意されたのだ。ウォルトさんも若干引いてたけど、前科は覆せない。もふもふのためならそれくらいできるのよ、って胸を張ったら空笑いされたわ。
それはさておき、そういう要因があるのでまずはウォルトさんが十分に森を探索して私がフラッと消えても探し当てることができるくらい森に詳しくならないとダメって言われたのよね。
何せ、ミレイとデュランは家の仕事があるから毎回私の面倒を見てくれるわけにもいかないし。私は一人でも大丈夫だと思うんだけど二人には却下されるし、もふもふについていかないなんてことは確約できないので。
「君に自制ができればいいんじゃないの?」
「それができないことを実証済みだから二人があの反応デスヨ」
「胸を張って言っちゃうところがリーフ君だね」
「アリガトウゴザイマス」
褒められてはないんだろうけれど、誉め言葉として受け取っておいたら苦笑が返ってきたからスルーしておく。
ご飯を食べ終わったらグレイは周辺の見回りに出かけていく。私は皿洗いをしてから仕事の手伝いに戻るから、食器を流しに運んでいくとウォルトさんも手伝ってくれる。
こういうところが人受けが良いのかなと思う。隣に並んで流し台に食器を置いたら父さんがウォルトさんを呼ぶから必然的に食器洗いと片づけは一人でやるんだけどね。
まぁ、これは今までもやってきたから問題ない。サクッと終わらせて仕事に戻って牛たちを放したら私は自分の部屋に戻る。
スキルが分かってから書き溜めてる紙の束を持ってミンクの小屋に入る。狩りに出てる子もいるから総数は半分くらい。リーダー格の子が私に気づいてすぐに近づいてくる。
『ヨウジ?』
「うん、ケガした子の様子見に来たよ」
『ワカッタ』
基本的に他の子たちは自分から寄ってこないのよね。気持ちいいけど撫でまわされる時間が長すぎるから捕まりたくないっていうのが総意らしいわ。
だからリーダー格の子が寄ってきて、用向きを聞いてくれる。ケガをしてる子は治癒速度を確認してる。
獣医の先生に確認した完治までの予定日数を縮められるかっていうのが今のところのスキル効果の判断基準。
癒しの手なんて大業なスキル名がついてるけど、実際に直接治せるわけじゃないっていうのはグレイのケガの様子を見ていて判ってる。
グレイの時に思ったのは通常よりケガの治りが早くないだろうかっていうことだった。スキル内容については使いこなすほどに変化があるってことだから、今後どうなるかわからないんだけどね。
そんなこんなでケガをしている子に何匹か協力をしてもらって経過を見てる。
なお、もっふもふの心が読めるらしいスキルについてはすぐに進化したみたいで、警戒心が強い子に対してはやっぱり最初に目を合わせないとダメだけど人懐っこい子相手だったら目を合わせなくても伝わってくるようになった。
グレイの聲はかなりスムーズに文章として聞き取れるようになったしね。
なお、私と付き合いの長いうちの家畜たちについては私の暴走時以外は聞きたい子を視界に入れると声が聞こえてくる。
主に今日は私が暴走していない、なんていう安堵の言葉ばっかりだけど!
「んー……この子はもうほとんど治ってるわね。えーっと、カルテカルテ……あった。通常だと一週間って書いてあるから、三日? 半分くらいか」
『リーフ』
「グレイ? 今日早くない?」
『コリスガヨンデル』
「コリスが? ちょっと待ってね、これが最後だから記録したら行くわ。いつもの場所?」
『ウン』
「わかった。コリスに待っててって言っといて」
『ワカッタ』
記録を取ってから目の前のミンクたちにお礼を言って手にした紙の束を部屋に戻してから森の入口の方の出入り口に向かう。
柵の上にコリスがちょこんと座っていて、近くにグレイもいた。
私が来たことに気づくとぴょーんと力強く飛び出してきたコリスに慌てて駆け寄って両手で受け止める。何しろ、昨夜は雨だ。地面はドロドロ、コリスのせっかくのもっふもふが泥で凄いことになってしまう。
それだけは避けたくて何とかキャッチすると、手の上に乗ったコリスのもふっとした毛皮の感触に無意識に手がもっふもふを堪能し始める。
『リ、リーフ、ダメダメ! ヨウジオワッテカラァーー』
「はっ! ごめんなさい。コリスってば人間に飼われてるわけじゃないのに毛並みが素晴らしいんだもの、つい止まらなかったわ」
『ジマン!』
「素晴らしいわ! 今後もぜひこのままを目指してちょうだい!」
『ワカッタ。ソウダ、ソウダン』
「あ、そうね。コリスが私を呼んでるって言ってたのは相談があったの?」
『ソウ』
掌のコリスのもっふもふに逆らえずにもにもにもふもふとしながらお腹に顔を突っ込んだ辺りでべちべちとおでこを叩かれて我に返った。
以前までなら噛みつかれてももふもふを堪能することに必死だったんだけど、これはグレイのおかげでもふり満足度が常に八割は満たされてるから戻ってこれるようになったのよね。
そんなことを思いつつもコリスの毛皮を褒めて謝罪したら胸を張ったコリスに力いっぱい継続を希望した。こっくり頷く姿に和んでたら、思い出したように相談と口にされて呼び出されたんだと思い出す。
「そのコリス、君に懐いてるんだね?」
「ウォルトさん居たの?」
「やること終わって森に入ろうと思ったら君が来たからね。もふもふに夢中で気づかれてなかったみたいだけど」
「そうね。私にとって最重要事項はもふもふだから」
「君の幼馴染たちが許可を出さない理由がわかった気がするよ。それで、何か話してたのかい?」
『リーフ、ダレ?』
「こちら、先日この町に来て暫く周辺の魔物調査をすることになった人。ウォルトさんって言うのよ」
『ウォルトサン』
「違うわ、ウォルトが名前、さんは敬称よ」
相談事の内容を聞こうとしていたら背後から声を掛けられて振り返るとウォルトさんが立ってた。あら、とっくに出かけたと思ったのにまだ居たのね。そんな気持ちが顔に出たのか苦笑しながら頷くウォルトさんに、そうと頷く。
もふもふが最重要事項なことを胸を張って答えたら、なんだかちょっと疲れた雰囲気になったけどすぐに興味深そうに私の掌に大人しくしてるコリスを見て聞いてきた。
そして、見慣れない相手を不審に思うのはコリスもで、逃げないのはひとえに私に掴まれてるせいよね。私が居るからというのもあるだろうけど、ウォルトさんを紹介したら敬称までが名前だと思ったみたいだったから訂正しておく。
わかったと頷くコリスに、今度はウォルトさんの方へ返事を返すことにする。
「グレイからコリスが呼んでる言われて来たら、相談があるって言われて。今からその相談内容を聞くところだったの」
「なるほど。それ、僕も一緒に聞いていいかな?」
「別に良いですけど、森に行くのでは?」
「面白そうだから、コリス君の話を聞いてからでいいよ。別にいつでも行けるしね」
「さようで。じゃあ、コリス、相談内容を教えて」
『ウン!』
それで聞いたコリスの相談とは、他の森から入ってきた魔物のせいで森の住処の分布が変わって入り口付近の動物たちにまで悪影響が出てるのをどうにかしたいということだった。
でも、なんでその話を私に持ってきたの? 私、別に名の知れた狩人でもなんでもないんだけど?
首を傾げてたら、コリスが顔を上げて私を見ながらゆらりと尻尾を振ったので、そのもふもふに視線がつられる。
『リーフ、モフモフスキ。マモノ、モフモフダッタ』
「それは何が何でも行かねばならぬッ!」
「ちょっと待って、話が読めないんだけど僕にも説明してくれないかな?!」
「あ、あー……話聞いてなかった?」
「君の相槌だけしか聞こえないからね、僕は」
「ソウデシタ」
もふもふと聞いて、ぜひとも! と興奮した私の両肩をがっしと掴んで止めたのはウォルトさんだった。
邪魔する人を振り払おうとして顔を見て思い出したよ。そうだったよ、彼が居た。そして彼はコリスの言葉が聞こえない。
説明しなきゃダメなのか……とがっくりと肩を落とした私に苦笑しながら、そろそろお昼になるし一度戻ろうかと言われてしまったので仕方がなく戻ることにする。
「ごめん、コリス。私は直ぐに奥まで行けないから、ちょっと準備して、うーん……準備出来次第グレイに伝言頼むよ」
『スグ、ムリ?』
「すごく申し訳ないし、行きたいのはやまやまなんだけど今のままじゃちょっと難しい」
『ワカッタ、マッテル』
「森の中大丈夫?」
『オク、ダメ。マチチカイ、マシ』
「そう。みんなに気を付けてって言っておいてね」
『ワカッタ』
町の近くに寄れば、それはそれで狙われる可能性とかもあって危険なんだけど、奥にずっといるよりはマシらしい。
なるほど、と頷き出来るだけ早く奥まで行けるように努力することを約束して一度家に戻ることにする。
出来るだけ早く行きたいけど、そのためにはミレイとデュランの許可が要るんだよなと考えて、それに付随する多大なお小言を思い出してちょっと遠い目になる。
が、しかし! 会う魔物はもっふもふ確定! コリスが言うなら間違いなくもっふもふだと思うの。自分とは違って長毛だけど大きくて毛深いとかなんとか言ってたし!
これはもうコリスのためにも森の奥に入るしかないと思うのよね。どうやって二人を説得しようかと部屋に向かう道すがらぶつぶつ呟いてたら追いかけてきたウォルトさんに肩を叩かれた。
「僕も森の奥に入るつもりだし、良ければ護衛するよ?」
「なるほど? つまり、ウォルトさんもついてくるから大丈夫! と二人を説得すればいいってことですね!」
「そういうこと」
それは確かに良い案かもしれない! でも、本当にそれで納得するかなぁ……。
私は一応自分の性格に自覚はある。自重する気がないだけだ。つまり、うーん……まぁ、言うだけ言ってみようかな。それから二人と妥協案を話し合えばいいか。
「じゃあ、その方向でお願いします」
「任せてよ」
そして私は幼馴染二人と森へ行くための交渉をすることになった。
なんで私が知ってるかといえば数日前、長期滞在の準備が整うのと同時に私の家にバイトとしてやってきたから。
なんでも、村長宅で父さんと遭遇していつの間にかそういう話になったらしい。
「確かに、最近は若い男手が欲しいってずっと言ってたものね」
「デュラン君をいつも借りるわけにいかないからねぇ」
「困った時はお互い様とはいえ、度々借りるわけにはいかないもんね」
「当然だろう? その点で言えば、ここに滞在することで仕事を探してるはずの彼は丁度いい!」
朝ご飯を食べながらしみじみと呟いた私の言葉に母さんが返して、それに頷いたら父さんまで会話に入ってきた。
眼の前ではニコニコしながらうちのなんてことのない普通の朝食をもりもり食べてるウォルトさんが座ってる。
朝一番の作業が終わって、休憩を兼ねた朝食タイムである。
うちに住み込んだら? って言いたくなるレベルの早朝でも当たり前のように出勤してるのを見ると凄いなって思うわよね。
まぁ、部屋はないし、なんと、借りた空き家は我が家の敷地の隣だった。
そういや、この人森に行きたいって言ってたわ。
「いやぁ、牧場のご飯がこんなに美味しいなんて知らなかったです。新鮮な牛乳まで飲ませていただいて」
「何の変哲もない田舎の朝ご飯ですよ」
「今まで乾パンと干し肉に干し果物、後は食堂のご飯ばかりだったんで、こんなふうにご相伴に預かれるのはありがたいですよ」
「口にあったならなによりだ。この後は馬小屋のわら替えをして、牛たちを放牧したら夕方までやることないから自由時間にしていいよ」
「ありがとうございます。では、仕事が終わったらちょっと森に行ってきます」
美味しそうに牛乳をお代わりして飲み干したウォルトさんは、父さんの言葉に頷くと夕方まで出てくると告げた。
特に止めないのは彼が冒険者としてランクがそれなりに高いこと、手入れが行き届いた武器を持ってること、鍛錬を怠ってないことなどが挙げられる。
まぁ、言ってこの森、日帰りで帰れる範囲に凶悪な魔物は出ないのもある。
ミンクたちや小動物が住んでる理由もそこにあるらしい。コリスが森の際にある牧場の柵まで来ては色々教えてくれるから、結構詳しくなったよね。
「いいなぁ……」
「リーフ君も一緒に来るかい?」
「無理なこと知ってて言ってるでしょ」
「ハハハッ! いやぁ、あんな入口すら猛抗議されるとは思わなかったから彼らの説得は骨が折れそうだねぇ」
森に行くというウォルトさんについ、羨望の眼差しを向ければ誘ってくれるけど私の機嫌は急降下だ。
ウォルトさんがうちで働き始めた初日も同じように誘ってくれたんだけど、結局ミレイとデュランに見つかって却下されたのよね。
まぁ、原因はわかってる。私が興味を持ったものに対して集中すると他が見えなくなって知らない間に奥まで入り込んじゃう癖がある。毎度それをやらかして、気付いたデュランとミレイが慌てて探しに来るのだから仕方ない。
腰に縄でも付けて引っ張っていくならまだしも、野放しにするならダメだと盛大に注意されたのだ。ウォルトさんも若干引いてたけど、前科は覆せない。もふもふのためならそれくらいできるのよ、って胸を張ったら空笑いされたわ。
それはさておき、そういう要因があるのでまずはウォルトさんが十分に森を探索して私がフラッと消えても探し当てることができるくらい森に詳しくならないとダメって言われたのよね。
何せ、ミレイとデュランは家の仕事があるから毎回私の面倒を見てくれるわけにもいかないし。私は一人でも大丈夫だと思うんだけど二人には却下されるし、もふもふについていかないなんてことは確約できないので。
「君に自制ができればいいんじゃないの?」
「それができないことを実証済みだから二人があの反応デスヨ」
「胸を張って言っちゃうところがリーフ君だね」
「アリガトウゴザイマス」
褒められてはないんだろうけれど、誉め言葉として受け取っておいたら苦笑が返ってきたからスルーしておく。
ご飯を食べ終わったらグレイは周辺の見回りに出かけていく。私は皿洗いをしてから仕事の手伝いに戻るから、食器を流しに運んでいくとウォルトさんも手伝ってくれる。
こういうところが人受けが良いのかなと思う。隣に並んで流し台に食器を置いたら父さんがウォルトさんを呼ぶから必然的に食器洗いと片づけは一人でやるんだけどね。
まぁ、これは今までもやってきたから問題ない。サクッと終わらせて仕事に戻って牛たちを放したら私は自分の部屋に戻る。
スキルが分かってから書き溜めてる紙の束を持ってミンクの小屋に入る。狩りに出てる子もいるから総数は半分くらい。リーダー格の子が私に気づいてすぐに近づいてくる。
『ヨウジ?』
「うん、ケガした子の様子見に来たよ」
『ワカッタ』
基本的に他の子たちは自分から寄ってこないのよね。気持ちいいけど撫でまわされる時間が長すぎるから捕まりたくないっていうのが総意らしいわ。
だからリーダー格の子が寄ってきて、用向きを聞いてくれる。ケガをしてる子は治癒速度を確認してる。
獣医の先生に確認した完治までの予定日数を縮められるかっていうのが今のところのスキル効果の判断基準。
癒しの手なんて大業なスキル名がついてるけど、実際に直接治せるわけじゃないっていうのはグレイのケガの様子を見ていて判ってる。
グレイの時に思ったのは通常よりケガの治りが早くないだろうかっていうことだった。スキル内容については使いこなすほどに変化があるってことだから、今後どうなるかわからないんだけどね。
そんなこんなでケガをしている子に何匹か協力をしてもらって経過を見てる。
なお、もっふもふの心が読めるらしいスキルについてはすぐに進化したみたいで、警戒心が強い子に対してはやっぱり最初に目を合わせないとダメだけど人懐っこい子相手だったら目を合わせなくても伝わってくるようになった。
グレイの聲はかなりスムーズに文章として聞き取れるようになったしね。
なお、私と付き合いの長いうちの家畜たちについては私の暴走時以外は聞きたい子を視界に入れると声が聞こえてくる。
主に今日は私が暴走していない、なんていう安堵の言葉ばっかりだけど!
「んー……この子はもうほとんど治ってるわね。えーっと、カルテカルテ……あった。通常だと一週間って書いてあるから、三日? 半分くらいか」
『リーフ』
「グレイ? 今日早くない?」
『コリスガヨンデル』
「コリスが? ちょっと待ってね、これが最後だから記録したら行くわ。いつもの場所?」
『ウン』
「わかった。コリスに待っててって言っといて」
『ワカッタ』
記録を取ってから目の前のミンクたちにお礼を言って手にした紙の束を部屋に戻してから森の入口の方の出入り口に向かう。
柵の上にコリスがちょこんと座っていて、近くにグレイもいた。
私が来たことに気づくとぴょーんと力強く飛び出してきたコリスに慌てて駆け寄って両手で受け止める。何しろ、昨夜は雨だ。地面はドロドロ、コリスのせっかくのもっふもふが泥で凄いことになってしまう。
それだけは避けたくて何とかキャッチすると、手の上に乗ったコリスのもふっとした毛皮の感触に無意識に手がもっふもふを堪能し始める。
『リ、リーフ、ダメダメ! ヨウジオワッテカラァーー』
「はっ! ごめんなさい。コリスってば人間に飼われてるわけじゃないのに毛並みが素晴らしいんだもの、つい止まらなかったわ」
『ジマン!』
「素晴らしいわ! 今後もぜひこのままを目指してちょうだい!」
『ワカッタ。ソウダ、ソウダン』
「あ、そうね。コリスが私を呼んでるって言ってたのは相談があったの?」
『ソウ』
掌のコリスのもっふもふに逆らえずにもにもにもふもふとしながらお腹に顔を突っ込んだ辺りでべちべちとおでこを叩かれて我に返った。
以前までなら噛みつかれてももふもふを堪能することに必死だったんだけど、これはグレイのおかげでもふり満足度が常に八割は満たされてるから戻ってこれるようになったのよね。
そんなことを思いつつもコリスの毛皮を褒めて謝罪したら胸を張ったコリスに力いっぱい継続を希望した。こっくり頷く姿に和んでたら、思い出したように相談と口にされて呼び出されたんだと思い出す。
「そのコリス、君に懐いてるんだね?」
「ウォルトさん居たの?」
「やること終わって森に入ろうと思ったら君が来たからね。もふもふに夢中で気づかれてなかったみたいだけど」
「そうね。私にとって最重要事項はもふもふだから」
「君の幼馴染たちが許可を出さない理由がわかった気がするよ。それで、何か話してたのかい?」
『リーフ、ダレ?』
「こちら、先日この町に来て暫く周辺の魔物調査をすることになった人。ウォルトさんって言うのよ」
『ウォルトサン』
「違うわ、ウォルトが名前、さんは敬称よ」
相談事の内容を聞こうとしていたら背後から声を掛けられて振り返るとウォルトさんが立ってた。あら、とっくに出かけたと思ったのにまだ居たのね。そんな気持ちが顔に出たのか苦笑しながら頷くウォルトさんに、そうと頷く。
もふもふが最重要事項なことを胸を張って答えたら、なんだかちょっと疲れた雰囲気になったけどすぐに興味深そうに私の掌に大人しくしてるコリスを見て聞いてきた。
そして、見慣れない相手を不審に思うのはコリスもで、逃げないのはひとえに私に掴まれてるせいよね。私が居るからというのもあるだろうけど、ウォルトさんを紹介したら敬称までが名前だと思ったみたいだったから訂正しておく。
わかったと頷くコリスに、今度はウォルトさんの方へ返事を返すことにする。
「グレイからコリスが呼んでる言われて来たら、相談があるって言われて。今からその相談内容を聞くところだったの」
「なるほど。それ、僕も一緒に聞いていいかな?」
「別に良いですけど、森に行くのでは?」
「面白そうだから、コリス君の話を聞いてからでいいよ。別にいつでも行けるしね」
「さようで。じゃあ、コリス、相談内容を教えて」
『ウン!』
それで聞いたコリスの相談とは、他の森から入ってきた魔物のせいで森の住処の分布が変わって入り口付近の動物たちにまで悪影響が出てるのをどうにかしたいということだった。
でも、なんでその話を私に持ってきたの? 私、別に名の知れた狩人でもなんでもないんだけど?
首を傾げてたら、コリスが顔を上げて私を見ながらゆらりと尻尾を振ったので、そのもふもふに視線がつられる。
『リーフ、モフモフスキ。マモノ、モフモフダッタ』
「それは何が何でも行かねばならぬッ!」
「ちょっと待って、話が読めないんだけど僕にも説明してくれないかな?!」
「あ、あー……話聞いてなかった?」
「君の相槌だけしか聞こえないからね、僕は」
「ソウデシタ」
もふもふと聞いて、ぜひとも! と興奮した私の両肩をがっしと掴んで止めたのはウォルトさんだった。
邪魔する人を振り払おうとして顔を見て思い出したよ。そうだったよ、彼が居た。そして彼はコリスの言葉が聞こえない。
説明しなきゃダメなのか……とがっくりと肩を落とした私に苦笑しながら、そろそろお昼になるし一度戻ろうかと言われてしまったので仕方がなく戻ることにする。
「ごめん、コリス。私は直ぐに奥まで行けないから、ちょっと準備して、うーん……準備出来次第グレイに伝言頼むよ」
『スグ、ムリ?』
「すごく申し訳ないし、行きたいのはやまやまなんだけど今のままじゃちょっと難しい」
『ワカッタ、マッテル』
「森の中大丈夫?」
『オク、ダメ。マチチカイ、マシ』
「そう。みんなに気を付けてって言っておいてね」
『ワカッタ』
町の近くに寄れば、それはそれで狙われる可能性とかもあって危険なんだけど、奥にずっといるよりはマシらしい。
なるほど、と頷き出来るだけ早く奥まで行けるように努力することを約束して一度家に戻ることにする。
出来るだけ早く行きたいけど、そのためにはミレイとデュランの許可が要るんだよなと考えて、それに付随する多大なお小言を思い出してちょっと遠い目になる。
が、しかし! 会う魔物はもっふもふ確定! コリスが言うなら間違いなくもっふもふだと思うの。自分とは違って長毛だけど大きくて毛深いとかなんとか言ってたし!
これはもうコリスのためにも森の奥に入るしかないと思うのよね。どうやって二人を説得しようかと部屋に向かう道すがらぶつぶつ呟いてたら追いかけてきたウォルトさんに肩を叩かれた。
「僕も森の奥に入るつもりだし、良ければ護衛するよ?」
「なるほど? つまり、ウォルトさんもついてくるから大丈夫! と二人を説得すればいいってことですね!」
「そういうこと」
それは確かに良い案かもしれない! でも、本当にそれで納得するかなぁ……。
私は一応自分の性格に自覚はある。自重する気がないだけだ。つまり、うーん……まぁ、言うだけ言ってみようかな。それから二人と妥協案を話し合えばいいか。
「じゃあ、その方向でお願いします」
「任せてよ」
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ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。
どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?
そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。
深く考えないでください。
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お久しぶりです(≧▽≦)
約2年?生存確認出来て満足(๑•̀ㅂ•́)و✧
ご無沙汰しております!
コメントと生存確認ありがとうございます!!_(:3」∠)_
2年も経ってましたか……!!(*﹏*;)
1年くらい引きこもってた記憶はあるのですが、そこからさらに1年も……orz
今後は近況報告で生存報告くらいはできるように頑張ります
約1年ぶりです(*╹꒳╹*)
コメントありがとうございます!
い、1年ぶりでした……!!!((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
なかなか纏まらずに書いては消してをしてる間に1年も経ってました、申し訳ないです(´・ω・`)
今後はもう少し頻度を上げれたらと思ってます。お付き合い頂けると嬉しいです!
暴走爆裂娘(¯∇¯٥)
あ(´・ω・`)一気読みさせて頂きました(〃゚д゚〃)
コメントありがとうございます!
私のノリと勢いをそのまま引き継いてくれたのでかなり勢いのあるヒロインとなっております。
楽しんで頂けていたら幸いです。
読んで下さってありがとうございます。