もふもふをもふもふしたい!

龍春

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コリスと癒しの手

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コリスとは、全体的にもふもふの毛皮、尖った小さな耳、面長な顔、手は四本指で小さめ、後ろ脚が大きめでその脚力で樹木の上を駆け抜け、飛び回る小動物である。
魔物には分類されないけれど、ちょっと面白い特技がある。
それが、身体と同じくらいの大きさで、倍くらいありそうな毛皮を有した尻尾だ。この尻尾、爬虫類の一部が行う囮行為が出来る面白い特徴があるのだ。

「うはー……!もっふもふ!流石に初めてよねぇ、身代わりされずに捕獲できるなんて。スキル様々よねー!」
「うわぁ……あの素早さではトップクラスに入るコリスを素手で捕獲するとか」
「もうお前普通の女じゃねぇよ」
「ほっとけ」

ごすっとデュランの脇腹に肘を打ち付けてから、視線を合わせたままのコリスを撫で回す。
コリスは恐怖にブルブルと震えてるけど怪我の場所を触らなければ当然ながら痛がらない。怪我をしているのはどうやら最初に触ったとこだけらしい。
胴体を触ってももみもみしても何も言わないし、なんかちょっと目がトローンとしてきた感じがする。

「まだ痛い?」
『イタクナイキモチイイ』
「そう。もう一度怪我を見たいのだけど?」
『イタイイヤイタイッ!』
「治療できるかもしれないから、ちょっと我慢してくれないかしら?」
『……』

ちょっと落ち着いた様子に見えたから声を掛けてみたら、胴体をマッサージするのは気持ちいいみたいね。
もっふもっふな毛皮を遠慮なく握って胴体までマッサージを通すのは結構指に力が要るなぁ。
身体が小さいから潰しそうだし、でも弾力があって防御力高そうな毛皮はちょっと押しただけじゃ下の筋肉までたどり着けない。
生え際がみっちりだから毛刈りでもしない限り無理ねぇ、コレ。コリスの身体は触ったことがなかったから知らなかったわ。
たまに猟師の人がコリスの群れを見つけると大量の毛皮を取ってくるけど、あれは天敵から逃げるためにコリスが尻尾から自分の意志で脱いだ毛皮。
脱皮とも違うんだけど、尻尾だけでコリス一匹分ありそうな毛皮を有してるのは囮として自分の代わりに置いてくるため。
コリスは遠目で見ると楕円形の毛玉って感じなのよね。尻尾の毛皮を半分くらい置いていくと丁度一匹分って感じ。爬虫類の中に尻尾を切り捨てて囮にして逃げる種類が居るけど、あんな感じ。
この毛皮は体温調整に優れてて、よく洗って上手に乾かすと物凄く手触りが良い。集団生活をする習性があるようで一匹コリスを見つけると大体三十匹くらいが近くに生息してる。
ミンクみたいに一つの群れで移動して生活するわけじゃなく、いくつかの群れがそれぞれ近くに集落を作っている感じで樹木の洞に巣がある個体もあれば外に鳥みたいに巣を作る個体も居る。その辺は好みみたい。
餌場があって、群れは持ってきた餌を一か所に集めて共有するのではないかとも言われてる。

コリスの生態を思い出しつつじっと見つめてれば、根負けしたように耳をぴたっと伏せたコリスが私の手の上で身体を投げ出すみたいに大の字になった。

「良いの?」
『イタイナクナル?』
「分からないけど、動きやすくはなるはずよ」
『ワカタ』

怖いのも痛いのも嫌だけど、痛いのがなくなるなら……って、不安そうな雰囲気で身体を預けてくれるコリスは超絶可愛いと思う!
そのままお腹と尻尾に頬を摺り寄せたい衝動に駆られるけどまずは癒しの手の効果を確認するべきだ。
いつの間にか癒しの手の効果に小さな傷を癒すという項目が増えてた。多分、連日うちの変異種なミンクを傷ごと撫で回していた関係でスキルの経験値が上がったと思われる。
後、さっきはスキルを使わないで撫で回したから痛がられたけど、スキルを使うことを意識して触れると傷の痛みは感じないらしい。
代わりに傷の場所がぽかぽかしてきて眠くなるとはうちのミンクたちの言だ。

「よし、じゃあ触るわね」
「キュゥ」

傷に集中するために見つめ合うのを止めてもコリスは大人しく手の中にいる。
よしよし、と思いながらさっき痛がった場所へ今度はスキル”癒しの手”を意識しながら手を触れる。

「うーん……この辺、かな。うん、ここだ。違和感」
「キュキュゥン」
「んー、ちょっと待ってねー。えーっと、ここを、こう、かな?」

痛みはないみたいだけど違和感はある様子のコリスに声を掛けながら、違和感のある場所を丁寧に触る。
最初は判らなかったけど、違和感のある場所も何かツボみたいなのがあってそれを見つけてその場所を触ると何となく違和感が消えていく。
酷い傷は何度も繰り返さないとダメなんだけど、この子のは軽度だから多分この一度で綺麗に消えるはずだ。

「キュッ、キュキュッ!」
「お、違和感消えた。どう?どう?」
『キエタイタイノキエタ!』
「やったー!なるほど、やっぱりこういう使い方なのか。最近やっと違和感とツボが判る様になったとこだけどこのスキル使うのに親密度は関係ないみたいね」
「おい、何やったんだよ」
「何したの?」
「んーっと、癒しの手ってスキルを使ってこの子の脚にあった怪我を治した、ハズ」

マッサージするように気になるツボ的な場所をぐりぐりと指で撫で回してたら、不意にコリスがぴこんっと耳を立てて尻尾を揺らしたから手を止める。
視線を合わせて問いかければ、しゅたっと手のひらの上で立ち上がったコリスがパタパタと両手を上下させながら喜びの声を上げてくれた。
思わず万歳しそうになってぐっと我慢しながらさっきの感覚を思い出して脳内でまとめてるとデュランとミレイから問いかけられて簡単に説明する。
本当に治ったのかは正直、医療系スキルがないから分からないんだけどね。
喜ぶコリスは私の手のひらでトントンタンタン足を踏み鳴らしたり跳ねたりしてる。よほど治ったのが嬉しかったらしい。まぁ、野生はこういうのきちんとは治らないもんね。
嬉しそうに手のひらの上でクルクル回り始めたコリスを両手でもふっと挟むと間からずぽっと頭を突き出してきてきゅっきゅ、きゅっきゅと声が上がるから視線を合わせるとすぐに聲が聞こえ始める。

『ナオタウレシオレイキノミ』
「木の実かぁ……珍しいのを食べる時があるって図鑑で見たから、それも嬉しいけど私としてはこのもふもふをいつまでも感じたいのよねぇ」
『モフ?』
「これ、このもふもふっとした毛皮!これが欲しいのよッ!でもまぁ、流石にうちの子になってなんて言えないからねぇ。今こうやって触ってるだけでも結構な危険でしょうし」
『……モフ』

首をことんと傾げたコリスに、これよこれ!と鼻先を手のひらの中に突っ込んでコリスの胸の毛皮をもふもふする。
手で感じるのもまた良いけど鼻先に当たるもふもふかんと日向ぼっこでもしていたかのようなほっこりした匂いにはぁはぁしちゃう。
暫くそうやっていたら顔に両手をぺちっと突いたコリスがしばし考える仕草を見せて黙り込み始めたから仕方なく顔を離してコリスを見守る。
横ではすっかりとあきれ顔でとりあえず暴走しない私に安堵したらしいミレイとデュランが居たのを思い出す。

「あのね、私、もふもふと目を合わせるとスタンが掛けれるの。それで、もふもふの心の声みたいなのが聞こえるのよ。心の声って言うか鳴き声が言葉に変換されて聞こえるっていうのかな?ちょっと詳しく判んないけどそんな感じ」
「ああ、それでコリスがお前と見つめ合った途端に動けなくなってたのか」
「必死に動こうとしてたものねぇ。私はてっきりリーフが怖すぎて動けなくなったのかと思ったわ」
「ミレイ酷い!私を怖がる野生動物は皆視線を合わせる前に一目散に逃げるわ!失礼しちゃうッ!」
「いや、お前のそのもふもふに見境ないとこなんて傍から見て恐怖だぞ、恐怖。瞳孔かっぴらいて鼻息も荒く両手をわきわきしながら今にも飛び掛からんばかりの状態なんだから、誰だって怖いわ」
「だってもふもふの魅力には抗えないのよ!特にメルメーとかはあのもっふもふに身体全部鎮めたいわ!うちはメルメーは居ないのよね。元々食用のお肉扱ってるのがメインだから」

そういえば聲を聴く者の説明はしてなかったと説明したのに、二人とも返事が辛辣。冷たい。
まるで変態でも見る様な目で見てくるけど、別に私真正の変質者じゃないわ。興奮はしないもの。癒されたいから躍起になってるだけで変態みたいな興奮は覚えないもの。
そんなことを訴えてる間に、漸くコリスが動き出したらしい。一緒に来ていたミンクがくいっと髪を引っ張って教えてくれたので我に返って顔をコリスに向けるときゅるんとした黒いおめめが私を見てくる。
あー、もふもふ、顔もちょっと抜けてる感じでとても癒しだわ。とかぼんやり眺めてたら私のスキルは発動しなかったようで、コリスが手のひらの上で私に背中を向けてくる。
ふるんっと目の前に揺れたのはコリスの特徴的な尻尾。最初に捕まえてもふもふした時にも思ったけどこの尻尾は本当に面白い。
ゆらんっと揺れたその尻尾は、次の瞬間ぼふっと倍くらいに膨らんでもふっとした毛玉を落とすとコリスと瓜二つのサイズの毛玉が出来上がった。

「ふあーーーッ?!えぇ?ちょ、いいのコレ?!」
「何した?!」
「え?何よ、これ!」

目の前で初めて見たコリスの脱皮というのかな、囮行為の為のスキルに叫んだ私と、驚いたデュラン、それに手のひらの上に出来上がったコリスと同じサイズの毛玉にミレイも驚きの声を上げる。
影分身のように毛玉を尻尾から切り離して自分かのように揺れ動かすスキル。これは一定時間が過ぎるとただの抜け殻になるからコリスを痛めつけずに毛玉を採取するには一番ベストな方法である。
ただし、このスキルを使ったコリスは一定期間同じスキルを使えないとしている研究結果を見たこともある。

「ねぇ、良いの?スキル、一時的に使えなくなったら命の危険があるんじゃないの?」
『ダイジョブココヘイワ』

視線を合わせてスキルを意識すると、慣れ始めたコリスがのんびりとした返事をくれた。確かにこの森は餌も豊富だし樹木の上を跳んで走り回るコリスを狙うような魔物も動物も少ない。
どちらかというと地面を走る草食動物やミンクみたいな小型の魔物の方が肉食獣や大きな魔物に襲われやすい。
とはいえ、だ。まさかもふもふにもふもふを提供されるとは思わなかった。

「ありがとう。大事にするわ!」
「お前、こんなのこいつに渡したら何をされるか……」
「コリスってこんなスキル持ってるのね。でも魔物じゃないのよね?」
『アリガト』

デュランとミレイが横からぶつぶつ言ってるのを無視してコリスを低木の安定している幹の上に降ろすと、コリスの尻尾はもう元のサイズに戻っていた。
アレ、本当にどうなっているのかじっくりと手元に置いて観察したい。どうなってるの。
触ってた感じはもっふもふで詰まってるようにも思えなかったのに、スキル発動で倍以上に膨らんでぬるんって、ぬるんって……。手の中で起こった出来事なのに信じがたい。
とりあえず、見た感じとか感触とか帰ったらメモに書き記さなきゃ!このコリスの毛皮は結構上質よね。洗って、あのコリスの姿を模った人形にでもしましょうか。

「デュラン、ミレイ、付き合ってくれてありがと!今日は収穫があったから切り上げるわ!」
「嘘だろ、いつもならまだまだ行くわよ!とか言いながら森に入ろうとするのに」
「リーフ、成長したのね……」
「デュランもミレイも本当に失礼よ!私だってやらなきゃいけないことだってあるんだから。本当に森に入る気だったら全力で準備して早朝から来るわ!」
「……そうだった、そういうやつだった」
「成長したと思ったのに、やっぱりリーフはリーフね」

二人して頭を横に振ってるけど、本当に失礼じゃないかしら。私だって考えてるんだから!
とりあえず帰って、私のスキルの効果とかコリスの様子とか色々書き記さなきゃ。野生動物にもスキルが効果あることが判ったし、今度はもふもふした野生の魔物にも挑戦したい。
癒しの手の使い方も何となく判った気がする。ミンクには擦り傷しかなかったからそれこそ手を当てるだけで自然治癒力が上がるのかなぁって首傾げるレベルだったけど今回のコリスで判った。癒しの手は触れたもふもふの悪くなってるところが判る。
擦過傷とかは表面だけだしそれこそ全身に出来てる場合もあるから分からないけど、骨折とか捻挫とかそういう病気とかは悪くなってるが所があるって今回はっきりわかった。
違和感を感じる場所がその原因の場所で、そこをすりすりなでなでもふもふするとあら、不思議。違和感が徐々に消えて行った。
最終的にコリスの様子を見ると完治のレベルまで持っていけるっぽい。今回のは見た目から言っても骨折じゃなくて人間で例えるなら軽い捻挫程度だったからすぐ治ったけど……。

「擦過傷は治りが少し早い程度にしか感じないのよね。全体的に効果があるみたいだけど」
「キュー?」
「怪我の種類によって、私の癒しの手の効果が違うのかな……」
「何がだ?」
「あ、なんでもない!」
「用事が済んだならそろそろ夕方に近いし帰るわよ!」
「はーい」
「おう」

ちょっと考え込んでたら口から言葉が飛び出してたっぽい。デュランに聞かれてまだ答えられないから誤魔化したら特に何も言わずに流してくれた。
そんな私とデュランを見て、切りが付いたと思ったらしいミレイが帰宅の号令を掛けたから元気に返事をして三人で帰路に就く。
このスキルが使いこなせたら野生の動物を全部は無理でも手に届く範囲だけでも怪我した子を助けられるかもしれない。
もふもふはやはり元気に動いてもっふもふしてるのが一番!私は次なる課題を整理しつつ、デュランたちと家に帰った。
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