もふもふをもふもふしたい!

龍春

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ミンクとは

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ポケットに入れて連れてきた毛色の違うミンクを両親に見せて、この子飼いたいって言ったらあっさりと許可が出た。
まぁ、ミンクの群れが丸ごと毛色が違う突然変異なら却下されただろうけどあいにくとこの子だけだったからね。
しかも、別の群れに居た個体が置き去りにされたパターンだったし。
ミンクは二十から三十の個体が一纏まりの群れとして生活する魔物よりの動物だ。
その生態も独特で、産まれて一年ほどで成体になり、五年ほどは若人として年長のミンクたちに養われる。
その間に個々の向いている役割を得て、六年から十年ほどを群れの働き手として過ごすと若人が働き手となる頃に年長のミンクたちが群れを離れる。
群れを離れたミンクたちは各々が好んだ場所に移動すると、数か月以内にひっそりと亡くなる。といった具合の生態である。
ちなみに、繁殖は何故か近くに居る別の群れを察する能力を持っていて、夜の間に他所の群れと合流して朝になるとまた離れていく。
そうして血が濃くなり過ぎない様に子供を残していくのが一般的だと言われてるんだけど、例外はある。
それが、私が手元に連れてきたこの子だ。

「えーっと、確か首輪がここに……ケージは父さんに後で頼んで、寝床は藁の方が良いわよね」

くったりとしていたミンクはそのまま熟睡しちゃったらしく、未だに目を覚まさない。
一応、隔離用の小さいケージに突っ込んであるから脱走は出来ないはずなんだけど、狭くて可哀想だし首輪をつければ当面は大丈夫なはず。
引出を漁って首輪を探しながら、通常のミンクとは毛色が違うミンクの様子を見る。
毛色が違うミンクは基本的には群れに居座ることは出来ない。異分子として、大抵は身体が弱く繁殖できない個体に出やすい特徴だからだ。
この子もきっとそういう理由で捨て置かれたんだと思う。うちは野生のミンクと交配が出来るように森の傍にミンクの小屋を建て、森側にはミンクだけが出入り可能な入り口用の穴がある。
半分くらい森の敷地と思われるところに乗り出している建物は、深夜は人も番犬も誰も近づかないので野生のミンクも交配のためにやってくるのだ。
その訪れが出来るまでは罠を仕掛けて生け捕りにしたミンクを群れに投入なんてこともしていたらしいんだけど、それだと警戒されるじゃないかという話になって結局今の形になった。
というのは数年前に亡くなった祖父の話だけど、幼い頃の私はもふもふの話ならば何でも聞いたので何度でもミンクにまつわる話をせがんだ覚えがある。
まぁ、それはさておき、自然の中に生活する動物というのは逞しい。逞しくて、順応性が高い。
うちに居る子たちも野生の循環を営みつつも死に場所は小屋の中に見つけるので私たちは儚くなった子の身体を大切に頂いているのである。
まぁ、だからミンクに関しては肉よりも毛皮に需要がある。質が良いと評判でお金持ちから予約が殺到しているのだ。
でも、ミンクの自然の営み以上に減らす気がないので、目下群れの個体数を増やす方向でせっせと励んでいるのが父である。
個体数が増えれば入れ替わる時の個体数も必然的に増えるだろうという考えらしい。まぁ、どうなるかはわからない。

「あった! これを、こうして、こうだ!」
「きゅっ?!」
「あ、目が覚めたみたいね。調子はどうかしら?」
「きゅっ、きゅきゅっ?!」
「わっ、ちょっ、そんなに暴れないでよ! 取って食いやしないんだから、ちょっとは大人しくしなさいってばッ!」

気絶した状態で連れてきたのは悪かったと思うけど、目が覚めて一番最初に私の顔を見て逃走しようとするなんでいい度胸よね。
弱い個体であることは間違いないみたいだけど大体毛色が違うのは何かしら特別な力があったりするものだと思うのよ。
捕まえて持ち上げて、無理やり目を合わせると途端にピタリと動きが止まるミンクにホッとする。
寝てる間に首輪は着けちゃったから逃げ出しても何とかなるけど、とりあえず納得してもらわなくちゃね。
もふもふさせてくれることにだって納得してくれれば触りたい放題なのに! いつも説得を試みる前にもふもふが逃げ出すのよね。悔しいわ。
まぁ、それも言葉が通じなかった前までの話よ。今日からは言葉っていうか考えが伝わってくるようになったもの!
説得を頑張っていつか好きな時に好きなだけもふもふを……!

「うふふふふふふ……」
『コワイ! ヤッパリ、コワイ!!』
「おっと、ごめんごめん。ちょっともふもふをもふもふし放題なところを想像しちゃってつい」
『イミ、ワカラナイ』
「気にしないで頂戴。落ち着いたみたいね。身体の調子はどう?」
『……イタイ、ナイ』
「痛くなくなった、ってことかしら?」
『ソウダ』

ちょっと妄想が溢れて笑っちゃったら怯えられたわね。ちょっと失礼とは思うけど、私も近所のおじさんが唐突にあんな笑い方し始めたら怖い物ね。
そこは仕方ないと思って素直に謝って、片手に捕まえたミンクの顎を指先で擽る様に触ったら逆立ってた毛がちょっとだけ落ち着いてきたから問いかけ直す。
今度はちゃんと聞き取ってくれたみたいで、私に仰向けで捕まったまま、頭を右往左往させて自分の身体を確認してるみたい。
その動きだけでも凄く可愛いしもふもふしたいんだけど、またパニックになられても困るからぐっと我慢。
私にだって我慢くらいできるのよ! ミレイやデュランは我慢できない子みたいに言うけど、できないわけじゃないの!
まぁ、ここで主張してもミレイやデュランが聞いてるわけでもないし、聞いていても大きく首を振られて終わるんだけど。
それはともかく、身体の調子を聞いたら痛くなくなったって返事が返ってきた。
私が撫で回してる時にも確認してるけど、怪我の規模は小さい物だけど無数にあったんだから動けば痛いのは間違いない。
小屋でも出てこなくてリーダー格の子が引きずってきたのも、痛みが理由かもしれない。

「そう。うーん、でも怪我が完治しているというわけじゃなさそうなんだけど」
『ワカラナイ、デモ、イタクナイ』
「しばらくは様子見ながら、ね。一日一回は撫で回すから」
『……』

目線があっている間は動けないというリーダー格のミンクの言葉は本当の様で、無言でえぇ……という雰囲気がしてるけど頷きも否定もしない。
てっきり嫌だって言われるかと思ったんだけど、どうやら撫で回すことを甘受はしてくれるみたい。
やっぱりあれかしら、魅了の手の力が働いたのかしら? それとも、治ったわけじゃないけど痛みがないことが決め手かしら。
判らないわね。とりあえず、首輪についても納得したみたいで外そうとあがくこともなさそうだから小さなケージに戻す。
パニックを抜け出したこともあって、ケージの中で大人しくしているミンクをじっくりと観察してみる。
他のミンクたちは真っ白な毛色に対してこの子はシルバーと言い表せるようなグレーをしている。
白以外の色のミンクだと、黒とか茶色が一般的で、こんなにきれいなグレーは見たことがない。
突然変異種と言われる毛色の違うミンクは身体が弱い個体が多くて、群れの中でもつまはじきにされるか自主的に出ていくかだと言われている。
そして、はぐれのミンクは一定期間の弱い期間を耐えきって生き残ると凄く強い個体になるとも言われている。
まぁ、言われているだけで実際にどうなのかは知らない。
研究者が言うには、ミンクによく似た魔獣が群れから外れた突然変異種の成れの果てなのではないかということらしい。

「貴方、魔力持ち?」
「きゅ?」
「魔力持っているの?」
『シラナイ』
「……そうよねぇ。持ってるかどうか知ってたら、今頃一人で悠々自適な野生生活してるわよね」

突然変異種の遺体は見つけたら研究の為買い取る研究者が居るため、時折回収している狩人や冒険者を見かける。
かなりの高値になるわけなんだけど、その人たちの一部からは魔力持ちの遺体だった。という発言が聞かれるという。
もちろん、これも噂だ。噂だけど、何しろミレイが持ってくる噂だから信憑性は高い。
ミレイは食事処の看板娘である。元気だし、愛想も良いし、見た目も可愛くてよほど馬鹿なことをしない限り差別もしない。
ミレイが接客に出ている時は客が増加するという話は近所でも有名だし、客の半分くらいは冒険者のリピーターだったり狩人だったりする。
その人たちがミレイに話しかけるネタとしてこういう話を持ってくることもあるというのだ。
私がミレイにもふもふの話があったら是非聞いて覚えてきて! って頼んだのが原因らしいのだけど、それはそれで楽しいから良しとされてる。
それで、突然変異種はみんな魔力持ちなんじゃないかと思ったわけなんだけど。
本人に聞いても使ったことがないならわかるわけない。ちょっと残念に思いつつも、追々調べればいいやということで放り出した。
とりあえずはこのミンクの寝床とするべく広く居心地の良いケージを用意しなければ! 思い立ったら即実行とばかりに部屋を出ようとして、ぐぅっとお腹の虫が鳴ってしまった。

「そういえば、まだお昼ご飯食べてなかったや。ミンクも食べてないわね、ご飯持ってくるわ」

ケージの中で私を無視するように目を閉じてじっとしているミンクを見て、せっかくだから仲良くなるためにもいい餌を持って来よう。
そう思い至った私はケージを取りに行くついでに自分のお腹を満たし、ミンクの気に入りそうな燻製や果物を選んでくるべく部屋を出た。
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