もふもふをもふもふしたい!

龍春

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考えること十数分。
結局、もふもふについて以外は興味もなく基本的にあんまり賢くない私に理由を察するなんてことが出来るはずもなく、もうもふもふが堪能できるスキルに進化したなら良しってことにした。
だって別に変化の理由が解ってもそれが全てのスキルに適用されるかっていうのは別問題だし。
想像して強く願ったら進化するって確信が持てて、魅了の手や癒しの手にも効果が期待できるならちょっと考えるけど、聲を聞く者以外のスキルは触れるの前提でも良いかなって思うから強く願えない気がするし。
ある意味、魅了の手は触れないで使えるならそれはそれで大いに助かるとは思うんだけど、制御出来ないのに何でもかんでも呼び込んでも凄く困る。
呼んだもふもふが肉食獣だったりしたら何が犠牲になるかわからないからね。

「さて、まずは捕まえなくてもよくなったから『聲を聞く者』っていうスキルを試してみよう。このスキルを使うと動物たちの気持ちが読み取れるらしいけど、どうするのかしら。耳を澄ませばいいのかな。どうせなら使い方もスキル確認するときに教えてくれれば良いのに」

紙の束と羽ペンを手にしてしばし考えて、まずは隅っこに逃げて行ったミンクを追いかけまわさなくても良いスキルを使ってみる。
使ってみるって簡単に言ったけど使い方がさっぱりわからない。
こちらが見つめるだけで良いのか、相手と見つめ合わなきゃいけないのか、目を閉じてても使えるのか、逆に目を閉じないと使えないのか。

「とりあえず、聞く者っていうくらいだから耳から聞こえると思って目を閉じてみよう。ミンクたち静かだけど、思考を受信する電波系のスキルなのかも気になるからこのままでいっか」

持ってきた紙にメモ程度にスキル名を記入して、適当な場所に座って目を閉じる。
座るための簡易椅子はしっかり持ってきたからね! 腰かけて目を閉じてじぃっとしてるとすっごく眠くなるんだけどどうしたもんかしら。
とりあえず声に出さずに百まで数えてみようかしら。いーち、にーい、さーん、って数えてると本当に眠くなる。よそ事考えながら数を数え続けてまだ五十くらい?
そろそろ飽きてきたし他の事を考えようかな。あれ? そもそももふもふを前に両親も居ないのにこんなに大人しくしてるのって久しぶり? いや、初めて?
あら、そう気づいたらなんかミンクたちの気配が逆に怯えてるっぽく感じるわね。ごそごそわさわさしてるのは何となくわかるけど見えないと実際にどうかは判らないわね。
特に物音が聞こえるわけでもないし、あっ、母さんにミレイからの伝言伝えるの忘れてた!

『メ アケタ ニゲロ』

忘れてた伝言を思い出して勢いよく立ち上がって目の前を見たらミンクが数匹私の足元まで来てたみたいで一匹と目が合った途端に頭に響いた不思議な聲っぽい何か。
単語で、片言で、たぶん私のことを言ってるのよね? それと同時に一斉に散らばっていくミンクたち。
私と目が合った一匹は何かに捕まっているかのように動けなくてその場でじたばたともがいていた。

「動けないの?」
『コワイ コワイ!』
「いや、今日はもふもふしないから。したいけどしないから」
『ウソダ コワイ!』
「うーん、これは自業自得と言うべきなの? でも、その割に会話が成り立ってるっぽいところを考えるとこのミンク賢いわね」

したいけどって言った辺りでプルプルし始めたミンクは毛を逆立てて更に頑張ってもがきだした。
目が合ってるのはあれか、いつ私が動くのか警戒してるせいかな。うーん、仕方ない。今日はもふもふまではしないつもりなのは本当だし、でももふもふしたいっていう全力の欲望が抑えきれてないから怖いってことか。
これ、私から離れたら良いのかな。そもそも、この子なんで目を離さないの?

「ねぇ、目、逸らさないの?」
『コワイ デキナイ コワイ』
「いあいあいあ、いい加減コワイって言うの止めて。さすがに傷つく」
『……』

いかに自他ともに認めるポジティブでバイタリティーあふれる私でも、傷つかないわけじゃないんだよ。
全身で怖いって表現されつつコワイを連呼されるのはちょっと堪えるわぁ……。そう思ってぽろっと本音が零れ落ちたらなんかミンクが無言になった。
あ、今更だけど鳴き声が言葉になって聞こえてるのか何なのかわかんないわね。これ、目の前の視線が合ってる子としか言葉通じてないから視線を合わせるのが条件?
いや、その前にこれ『何となく』どころじゃなくはっきり意思が読み取れてないか? どういうこと?
思わず視線を合わせていたミンクから目を逸らし、首を傾げて考えこんだら途端に頭に響いていた不思議な聲らしきものが消えていく。
代わりに聞こえるのはきゅーきゅーとかみゅーみゅーっていうミンクの一般的な鳴き声。

「やっぱり、目が合うと聞ける感じなの? 聞くっていうか読み取るっていうかだけど。でも、全然何となくじゃないわよ?!」

最後の方に叫んだ私に驚いたミンクが足元でびっくんっと飛び跳ねて急いで離れていく。
もうちょっと何度かやってみないとわからないけど、動けない様子と目を逸らせないのかって呟いた時に出来ないって叫んでたのを考えると視線を合わせている間はもっふもふは動けなくなるのかも。
もしそうならたとえ伝説級の猛獣でももふもふなら目線を合わせれば私にでも触れるってことよね?

「なるほど……」

なるほど、なるほど。思わずニヤリと口の端が上がるのを止められなかったら、こちらを見ていたらしいミンクたちの鳴き声が激しくなった。
失礼ね。怖いとか言ってるんでしょうけど視線も合わせずビクビクして大きな毛玉になってるから言葉にはならないわね。残念。
でも、一か所にぎゅうぎゅうにまとまっているミンクたちを見ると、ちょっとあの上にダイブしたいとか思っちゃうのはやっぱりもふもふ至上主義の所以かしら?
うずうずっと身体が動いたけど、とりあえず思い出した伝言を母さんに伝えようとミンクの小屋を飛び出す。
牛小屋まで一直線に走って、そういえば入室禁止になってたんだったと丁度外に出てきた男の人を捕まえる。
牛の検診に来たお医者様の助手さんだ。母さんを呼んでほしいと頼むと、牛たちの逃げっぷりをこの人も知ってるので相変わらずなのかと言って笑いながら快諾してくれた。

「どうしたの?」
「あ、母さん。ごめん。ミレイからの伝言伝えるの忘れてたから伝えに来たのよ」
「あらあら、ミレイちゃんはなんて?」
「後で牛乳貰いに来ますって言ってた。量は特に言ってなかったからいつも通りで良いと思う」
「わかったわ。お父さんに少し頼んで用意しておくわね」
「うん、お願い」

助手さんに呼ばれて顔を出した母さんにミレイの伝言を伝えると、笑顔で頷いて早速しぼりたての牛乳が保管している倉庫へ行くために父さんに声を掛けてたから私はまたミンクの小屋に戻る。
丁度いいからそーっと気配を消して音を立てずに中に入ると私が出る前は隅で固まっていたミンクたちが疲れたように思い思いの場所でぐったりと転がっていた。
野生はかなり気配に聡いし、うちの子たちは私の気配に敏感だ。けど、実は気配を消す技術は私の方が上なのでいつも気配を殺して中に入ると気づかれない。
丁度良く柵の一番手前、手が届く位置に一匹転がっているのを見つけて気配を殺したまま近づくとそのミンクが気づく前に抱き上げる。
途端に両手に広がるのは極上のもふもふ手触り。ミンクは私に捕まれた時点で気づいて暴れ始めたけど伊達にもふもふと戯れるために全力を注いで年齢分を過ごしていないので逃がすはずもない。
みゅーみゅー悲痛な声で鳴いてるミンクを持ち上げて視線を合わせると、びくりと身体を跳ねさせてそのまま固まった。
全身が強張るのが両手から伝わってくる。いつもならこんな風に硬直しないで更に暴れだすんだけど、やっぱり私と目が合うと自動的にスキルが発動してるのか動けなくなるみたい。

『コワイ、コワイ、コワイ、コワイ!!』
「自業自得なのは解ってるけど、そこまで怯えられるとか凄くショックだわぁ。いつも傷つけないように気持ちいいようにって最善の注意を払ってもふってるつもりなんだけど」
『メ コワイ ケハイ コワイ』
「おっと、撫で方とかじゃなかった。だってこの手触りは病みつきになるくらい気持ちいいんだもん!」

プルプルと震えてるはずなのに視線が合ってるからかカチリと固まって動かないミンクの言葉に撫で方じゃなかったのかと納得はしたけど違う意味で傷ついたので、嫌がらせに視線を合わせたままもっふもっふすることにした。
ミンクは小柄で体長は個体差もあるけど三十センチから四十センチくらい。今は両手で持ち上げてるから良いけど、片手じゃもふもふはやり辛い。
さっきまで座ってた椅子に座って膝に乗せるとそのまま全身を撫でまわすことにする。
目を逸らさないまま自分でも器用だな! って言いたくなるくらいにスムーズに椅子まで移動して腰を下ろすと両手で持っていたミンクを膝の上に下ろす。
座る形は丸っこいボールみたいで、私に撫でられるという事実に死刑を宣告されたミンクの雰囲気を醸し出して固まってる。
視線を逸らせば逃げるんだろうけど、しっかり目は合わせたままだから身動きも自分じゃ取れないんだろう。

『コワイ コワイ コワイ ……』

延々とコワイを繰り返すミンクが可哀想でもないけど、久しぶりのもっふもふを堪能する機会を逃す手はない。
丁度いいから癒しの手と魅了の手の効果が出るのかも試してみたいし。
膝に乗ったボールみたいな雰囲気のミンクの首元に左右の指先を潜り込ませるともうそれだけでもっふもふのふっかふか!
脈を図る様に地肌を触るとドッドッドッドッて凄い速さで脈を打ってる。私が触る動物たちって極度の緊張に晒されてるからかまともな脈をしてた試しがない。
おかげでこの脈拍が異常なのか知らないけどいつものことだから私は気にしない。鬼だとは自分でも思う。
思うけど、この極上の手触り……病みつきにならない方がおかしいというものである。

「アーッ! このもふもふッ! たまらんッ!」

最初は極軽く、マッサージするように撫でていた私もどんどん理性が崩れ去っていく。
触れているのは指先だったのに、だんだん全体で撫で回す様に全身を包んでわっしわっしもっふもっふ。柔らかく癖が付きづらいミンクの毛皮の感触を楽しんでいる間に気づけば視線は外していた。
この状態ではいつ逃げ出してもおかしくないのに動けることに気づいていないのかミンクは膝の上で大人しく、むしろ物心ついてからは初めてと言って良いほど膝でくったりと全身を無防備に預ける姿を見せられていた。
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