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成人の儀
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成人の儀は年の初めに行われる。
その年に成人と認められる十六歳になる子供たちが村や町の中心にある教会へ集められ、長の話を聞き、その教会に保管されている道具によってスキルを鑑定される。
大きな丸い水晶だとか、顔の大きさ位の虫眼鏡だとか、色々な話があるけれど実際に見たはずの人たちもそれがどんな道具なのかさっぱり覚えていないらしい。
まぁ、私はそんなことにはとんと興味がないから構わないのだけど、周囲の人たちは皆気になるらしい。
大人も子供も集まってわいわいとどんな道具なのかと話し合ってる。
「どんな道具なのかな?」
「さぁ? 見れば判るだろう?」
「でも不思議よね。大人たちは皆見たことがあるはずなのに覚えてないんだもの」
「そういう物なんだろう。それより、こいつが暴走しないかが不安だ」
「それは確かに……」
私の隣でどんな道具だろうかと想像を膨らませていた幼馴染の一人、ミレイが問いかけたのはもう一人の幼馴染であるデュランだ。
ミレイは私と同じ女性で、しっかり者で気配りも出来る器量良し。容姿だってとても可愛くて実家である宿屋兼食事処の看板娘。
デュランは男性で、言葉は少なくて時々毒舌だけどいざと言う時は凄く頼りになる兄貴肌の武器屋の息子。
今はお父さんに師事して鍛冶師としての修業に入ったところ。
二人は私の面倒を見るという共通の使命感からかとても仲がいい。実際にお付き合いしてるのかはよくわからないけど、大体私が居る所に一緒に居るから二人きりの時間があるのか、あったら何してるのかとか知らない。
そして、そのデュランに“こいつ”と言って指を指されたのが私、リーフである。
「暴走って失礼だなぁ。どうやったって暴走しようがないじゃない。スキルは生まれた時から決められてて望んだからって変更出来ないんだから」
むぅっと、思わず唇を尖らせて二人に反論すればなんだか胡乱な目つきで見返された。
曰く、私だったらその不可能すら可能にしてでももふもふを愛でるために死力を尽くしそうとのこと。
否定は出来ないのが何とも言えないけど、周囲に居た顔見知りは皆納得しながら頷いてたから思わず頭が垂れたのは仕方ない。
でもさ、本当にそんなことが出来るんだったら頑張るけどさ、調べた限り難しいもの。やらないわよ。
せいぜい近所にある魔の森の入り口付近でもふもふ探して彷徨うくらいじゃない。今までと変わらないわ。
「そりゃ、仕事は真面目にやってるし、ここ数年はもふもふ愛にも我慢を覚えて仕事時間には暴走しなくなったけどねぇ」
「魔の森に入り込む度に呼び出されてた身にもなれ」
「うっ……それは本当にごめんなさいだけどさ。あの頃はだってもふもふが足りなかったんだよッ!!」
そう、私は無類のもふもふ好き。というか異常なまでにもふもふが好きすぎて、家でも家畜として飼ってるミンクの群れに飛び込んではサァッと避けられて顔や手、膝っ小僧に擦り傷作るなんてお手の物。
うちの家畜たちは生まれた時から私の襲撃に遭うので慣れたもので、突っ込んでも攻撃されないけど華麗に避けられる。
その素早さや、残像が残る程だが私もそれを捕まえようとして異常なまでに素早くなった。
あと、気配を絶つのが上手くなった。
おかげで私の行動や思考を知り尽くしてる幼馴染の二人以外、私を見失ったら探し出せなくなって早十年くらいになる。
なお、親はさすがに私の行動を先読みできるだけの経験があるので、大事な行事の時は私が出かける前に首根っこを押さえられる。
「お前がそのしつこいまでの執着を気配と同様に包み隠して、適度なふれあいで我慢していれば魔の森に入る必要ないだろうが」
「そ、う、だけどッ! 無理ッ!! 無理だよッ!! あのもふもふの感触は手放せないのッ! それに、魔の森に入るのは家でもふもふに飢えてるからじゃないもん! 家に居る子たち以外のもっと極上なもふもふがあるかもしれないっていう期待からでッ!」
「命を賭けるような物じゃないでしょ?!」
ごちんっとミレイからげんこつが降ってきて、私は痛くて頭を押さえてその場に蹲った。
それとほぼ同時くらいに長が教会の祭壇に立って話し始めたから、やむなく全員が静かになってその言葉に耳を傾ける。
語られるのは成人としての心構え、スキルを得た後の行動、後はおめでとうとかそういうお祝いの言葉。
今の長はそんなに長ったらしく話す性質ではないから話は簡潔でとても分かりやすい。
つまり、人に迷惑を掛ける行為、恥じる行為はしないこと。大人としての分別を持って、他人に誇れる自分で居なさいってことだね。
これから覚醒するスキルも、どんなスキルでも人の役に立つ使い方を模索しなさいって言ってた。
「では、これよりスキル覚醒の儀式を始める。呼ばれた者より隣室へ入りなさい」
長がそう締めくくって成人の儀は終了して、それに付随するスキル覚醒の儀式が始まる。
儀式って言っても一人ずつ道具で視て貰ってスキルを自覚することで、生まれながらに与えられていたスキルが使用可能になるっていうだけ。
何かに祈りなさいとか、何かを為し得なさいとか、そういう話ではない。
「ドキドキするねぇ。どんなスキルを持ってるんだろう」
「私は! 絶対! もふもふを! もふもふ出来る! スキルが! 良い!」
「それは無理じゃないか? お前、本当に動物を撫でだすと止まらない上に撫でてる動物が嫌がり始めても執拗なまでに押さえつけて撫で回してるし」
「だって! 私は満足してないのにちょっと撫でただけで逃げるんだもん」
「小一時間を過ぎても満足しないのはどう考えてもちょっとじゃない」
「そうよね、ちょっとじゃないわ」
「デュランもミレイも冷たい……」
流石にしょんぼりするわよ? でも、もふもふはとても気持ち良くてずっと撫でていたいの。
どうしようもなく撫でていたくなるの。安心するんだもん。
あー、どっかに力いっぱい撫でても逃げなくて、ともすれば一緒に寝てくれるような大きなわんちゃんとか居ないかなぁ。
順番はまだ来そうにないのを確認して、思わずため息を吐きながらそんなことを考えるとわしわしと頭を撫でられてぽんぽんと肩を叩かれた。
ミレイとデュランが私の凹み具合を察して慰めてくれる時の仕草だ。
思わずふふっと笑って顔を上げると、私を見て片眉を上げるデュランと苦笑するミレイに大好きとありがとうを叫ぶ。
これもいつもの事なので周囲の村人はスルーですが何か。
そうやって幼馴染でわいわいと雑談している間に一人、二人とスキルが確定していく。私の番が来るまであと三人、二人、そうしてやってきた私の番。
私は教会の奥の部屋に呼ばれて大きな板に丸く透明度の高い水晶が填められた物の前に立たされていた。
「さて、次は……おお、リーフか。ご両親は元気か?」
「はい! 今日も牛を追いかけてましたよ。一頭逃げ出したみたいで」
「それは手伝わんでいいのか」
「私を見ると逃げるので邪魔って言われました」
長が板の前、私の対面に立って問いかけてきたので笑顔で答えれば苦笑されてしまったが、仕方がないのだ。
牛だって毛があるのだからもふもふしたら気持ちいいんじゃないかと思って、家に居る子は年老いた牛から若い子牛までぜーんぶ手を出したので私を見ると逃げる。
ちなみに、手触りは硬かった。無念。もっとふっさふさの毛のやつじゃないとダメだね。
そんなことを言うとそうか、と少し引いた雰囲気を醸し出されてついつい唇が尖ってしまったけど、気を取り直してスキルの確認をすることになった。
長の言うままに板にハマった水晶玉へ手をかざす。ただそれだけで、ぽうっと板が光って文字が浮かび上がってきた。
黒い板に白い軽石で文字を書いたみたいなそんな感じで出てきたスキルは三つ。
多いのか少ないのか分からないから長を見たら平均だって言われたので凄くはないらしい。
上から確認すると『魅了の手』『癒しの手』『聲を聞く者』とあった。共通点は触れること。
触れないと効果がないらしいけど、それが一度でいいのか、触れている間なのか、触れた後時間制限があるのかそういうのは何も書いてない。
書いてあるのは発動条件である”触れること”、触れた時の各種の効果、それだけだ。割と不親切。
「ほう……。これは、使い方によっては非常に役に立つスキルだな」
「むー。そうかもしれませんけど、これ対象とかさっぱり書かれてないですよ。どうするんですか」
「スキルにはレベル、経験値というものがある。使っていくうちに詳しくわかってくるもんだ。使わなければどんなスキルも宝の持ち腐れだ」
「とにかくスキルを使って、自分で対象や効果の真髄を見極めろっていうことですか? 意外といい加減ー」
「そうだな。ああ、でも『魅了の手』だけは効果範囲が指定されてるみたいだな」
文章が書き出されているのを眺めながら長に質問をすると、なんともいい加減な内容が返ってきた。
言っていることは一理あるけれど、その投げやりっぷりもどうなのさって感じ。方向性も判らないのにむやみやたらと使えないじゃない?
ちょっと悩んでいたら完全に文章の浮かび上がった板面を見て長が付け加えたひと言にそちらへ視線をやると確かに『魅了の手』には効果範囲が指定されていた。その効果範囲は人間以外の動物とある。
人間以外の動物? え? つまり……?
「神様ありがとーーーーーーーッ!!!」
固まること数秒。その効果を把握したのと同時に私は万歳をして叫んだ。
それは個室の外にも響いたみたいでガタガタって音が聞こえた気がしたけど気にしない。だって、だって、少なくともこの『魅了の手』!
使いこなせれば私の夢! 満足いくまでもふもふをもふもふし尽すという野望が叶うかもしれないんだからッ!!
「やったーーーーーッ! 明日から私頑張るッ! このスキルたちを使いこなして見せるわよぉーーッ!」
突然叫び出してテンションマックスの私に唖然とした長やその補助役の人たちを置いてけぼりにして、私は一人これから始まる野望への第一歩に向けて空へこぶしを突き出した。
その年に成人と認められる十六歳になる子供たちが村や町の中心にある教会へ集められ、長の話を聞き、その教会に保管されている道具によってスキルを鑑定される。
大きな丸い水晶だとか、顔の大きさ位の虫眼鏡だとか、色々な話があるけれど実際に見たはずの人たちもそれがどんな道具なのかさっぱり覚えていないらしい。
まぁ、私はそんなことにはとんと興味がないから構わないのだけど、周囲の人たちは皆気になるらしい。
大人も子供も集まってわいわいとどんな道具なのかと話し合ってる。
「どんな道具なのかな?」
「さぁ? 見れば判るだろう?」
「でも不思議よね。大人たちは皆見たことがあるはずなのに覚えてないんだもの」
「そういう物なんだろう。それより、こいつが暴走しないかが不安だ」
「それは確かに……」
私の隣でどんな道具だろうかと想像を膨らませていた幼馴染の一人、ミレイが問いかけたのはもう一人の幼馴染であるデュランだ。
ミレイは私と同じ女性で、しっかり者で気配りも出来る器量良し。容姿だってとても可愛くて実家である宿屋兼食事処の看板娘。
デュランは男性で、言葉は少なくて時々毒舌だけどいざと言う時は凄く頼りになる兄貴肌の武器屋の息子。
今はお父さんに師事して鍛冶師としての修業に入ったところ。
二人は私の面倒を見るという共通の使命感からかとても仲がいい。実際にお付き合いしてるのかはよくわからないけど、大体私が居る所に一緒に居るから二人きりの時間があるのか、あったら何してるのかとか知らない。
そして、そのデュランに“こいつ”と言って指を指されたのが私、リーフである。
「暴走って失礼だなぁ。どうやったって暴走しようがないじゃない。スキルは生まれた時から決められてて望んだからって変更出来ないんだから」
むぅっと、思わず唇を尖らせて二人に反論すればなんだか胡乱な目つきで見返された。
曰く、私だったらその不可能すら可能にしてでももふもふを愛でるために死力を尽くしそうとのこと。
否定は出来ないのが何とも言えないけど、周囲に居た顔見知りは皆納得しながら頷いてたから思わず頭が垂れたのは仕方ない。
でもさ、本当にそんなことが出来るんだったら頑張るけどさ、調べた限り難しいもの。やらないわよ。
せいぜい近所にある魔の森の入り口付近でもふもふ探して彷徨うくらいじゃない。今までと変わらないわ。
「そりゃ、仕事は真面目にやってるし、ここ数年はもふもふ愛にも我慢を覚えて仕事時間には暴走しなくなったけどねぇ」
「魔の森に入り込む度に呼び出されてた身にもなれ」
「うっ……それは本当にごめんなさいだけどさ。あの頃はだってもふもふが足りなかったんだよッ!!」
そう、私は無類のもふもふ好き。というか異常なまでにもふもふが好きすぎて、家でも家畜として飼ってるミンクの群れに飛び込んではサァッと避けられて顔や手、膝っ小僧に擦り傷作るなんてお手の物。
うちの家畜たちは生まれた時から私の襲撃に遭うので慣れたもので、突っ込んでも攻撃されないけど華麗に避けられる。
その素早さや、残像が残る程だが私もそれを捕まえようとして異常なまでに素早くなった。
あと、気配を絶つのが上手くなった。
おかげで私の行動や思考を知り尽くしてる幼馴染の二人以外、私を見失ったら探し出せなくなって早十年くらいになる。
なお、親はさすがに私の行動を先読みできるだけの経験があるので、大事な行事の時は私が出かける前に首根っこを押さえられる。
「お前がそのしつこいまでの執着を気配と同様に包み隠して、適度なふれあいで我慢していれば魔の森に入る必要ないだろうが」
「そ、う、だけどッ! 無理ッ!! 無理だよッ!! あのもふもふの感触は手放せないのッ! それに、魔の森に入るのは家でもふもふに飢えてるからじゃないもん! 家に居る子たち以外のもっと極上なもふもふがあるかもしれないっていう期待からでッ!」
「命を賭けるような物じゃないでしょ?!」
ごちんっとミレイからげんこつが降ってきて、私は痛くて頭を押さえてその場に蹲った。
それとほぼ同時くらいに長が教会の祭壇に立って話し始めたから、やむなく全員が静かになってその言葉に耳を傾ける。
語られるのは成人としての心構え、スキルを得た後の行動、後はおめでとうとかそういうお祝いの言葉。
今の長はそんなに長ったらしく話す性質ではないから話は簡潔でとても分かりやすい。
つまり、人に迷惑を掛ける行為、恥じる行為はしないこと。大人としての分別を持って、他人に誇れる自分で居なさいってことだね。
これから覚醒するスキルも、どんなスキルでも人の役に立つ使い方を模索しなさいって言ってた。
「では、これよりスキル覚醒の儀式を始める。呼ばれた者より隣室へ入りなさい」
長がそう締めくくって成人の儀は終了して、それに付随するスキル覚醒の儀式が始まる。
儀式って言っても一人ずつ道具で視て貰ってスキルを自覚することで、生まれながらに与えられていたスキルが使用可能になるっていうだけ。
何かに祈りなさいとか、何かを為し得なさいとか、そういう話ではない。
「ドキドキするねぇ。どんなスキルを持ってるんだろう」
「私は! 絶対! もふもふを! もふもふ出来る! スキルが! 良い!」
「それは無理じゃないか? お前、本当に動物を撫でだすと止まらない上に撫でてる動物が嫌がり始めても執拗なまでに押さえつけて撫で回してるし」
「だって! 私は満足してないのにちょっと撫でただけで逃げるんだもん」
「小一時間を過ぎても満足しないのはどう考えてもちょっとじゃない」
「そうよね、ちょっとじゃないわ」
「デュランもミレイも冷たい……」
流石にしょんぼりするわよ? でも、もふもふはとても気持ち良くてずっと撫でていたいの。
どうしようもなく撫でていたくなるの。安心するんだもん。
あー、どっかに力いっぱい撫でても逃げなくて、ともすれば一緒に寝てくれるような大きなわんちゃんとか居ないかなぁ。
順番はまだ来そうにないのを確認して、思わずため息を吐きながらそんなことを考えるとわしわしと頭を撫でられてぽんぽんと肩を叩かれた。
ミレイとデュランが私の凹み具合を察して慰めてくれる時の仕草だ。
思わずふふっと笑って顔を上げると、私を見て片眉を上げるデュランと苦笑するミレイに大好きとありがとうを叫ぶ。
これもいつもの事なので周囲の村人はスルーですが何か。
そうやって幼馴染でわいわいと雑談している間に一人、二人とスキルが確定していく。私の番が来るまであと三人、二人、そうしてやってきた私の番。
私は教会の奥の部屋に呼ばれて大きな板に丸く透明度の高い水晶が填められた物の前に立たされていた。
「さて、次は……おお、リーフか。ご両親は元気か?」
「はい! 今日も牛を追いかけてましたよ。一頭逃げ出したみたいで」
「それは手伝わんでいいのか」
「私を見ると逃げるので邪魔って言われました」
長が板の前、私の対面に立って問いかけてきたので笑顔で答えれば苦笑されてしまったが、仕方がないのだ。
牛だって毛があるのだからもふもふしたら気持ちいいんじゃないかと思って、家に居る子は年老いた牛から若い子牛までぜーんぶ手を出したので私を見ると逃げる。
ちなみに、手触りは硬かった。無念。もっとふっさふさの毛のやつじゃないとダメだね。
そんなことを言うとそうか、と少し引いた雰囲気を醸し出されてついつい唇が尖ってしまったけど、気を取り直してスキルの確認をすることになった。
長の言うままに板にハマった水晶玉へ手をかざす。ただそれだけで、ぽうっと板が光って文字が浮かび上がってきた。
黒い板に白い軽石で文字を書いたみたいなそんな感じで出てきたスキルは三つ。
多いのか少ないのか分からないから長を見たら平均だって言われたので凄くはないらしい。
上から確認すると『魅了の手』『癒しの手』『聲を聞く者』とあった。共通点は触れること。
触れないと効果がないらしいけど、それが一度でいいのか、触れている間なのか、触れた後時間制限があるのかそういうのは何も書いてない。
書いてあるのは発動条件である”触れること”、触れた時の各種の効果、それだけだ。割と不親切。
「ほう……。これは、使い方によっては非常に役に立つスキルだな」
「むー。そうかもしれませんけど、これ対象とかさっぱり書かれてないですよ。どうするんですか」
「スキルにはレベル、経験値というものがある。使っていくうちに詳しくわかってくるもんだ。使わなければどんなスキルも宝の持ち腐れだ」
「とにかくスキルを使って、自分で対象や効果の真髄を見極めろっていうことですか? 意外といい加減ー」
「そうだな。ああ、でも『魅了の手』だけは効果範囲が指定されてるみたいだな」
文章が書き出されているのを眺めながら長に質問をすると、なんともいい加減な内容が返ってきた。
言っていることは一理あるけれど、その投げやりっぷりもどうなのさって感じ。方向性も判らないのにむやみやたらと使えないじゃない?
ちょっと悩んでいたら完全に文章の浮かび上がった板面を見て長が付け加えたひと言にそちらへ視線をやると確かに『魅了の手』には効果範囲が指定されていた。その効果範囲は人間以外の動物とある。
人間以外の動物? え? つまり……?
「神様ありがとーーーーーーーッ!!!」
固まること数秒。その効果を把握したのと同時に私は万歳をして叫んだ。
それは個室の外にも響いたみたいでガタガタって音が聞こえた気がしたけど気にしない。だって、だって、少なくともこの『魅了の手』!
使いこなせれば私の夢! 満足いくまでもふもふをもふもふし尽すという野望が叶うかもしれないんだからッ!!
「やったーーーーーッ! 明日から私頑張るッ! このスキルたちを使いこなして見せるわよぉーーッ!」
突然叫び出してテンションマックスの私に唖然とした長やその補助役の人たちを置いてけぼりにして、私は一人これから始まる野望への第一歩に向けて空へこぶしを突き出した。
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