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108 わたしはできない

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 心地おい無言の空間で歩みを進めていると、唐突に世界がぐにゃりと歪んだ。わたしとジェフがそのことに気がついた次の瞬間、わたしはジェフに抱き込まれた。わたしをぎゅっと抱き寄せて護身用のナイフを握ったジェフからは、ピリッとした空気が流れ出ていて、わたしも思わず身を固くしてしまう。

「………レティー?ジェフ?」

 けれど、弱々しい声を聞いた次の瞬間、わたしたちは目を見開いてててっとどちらからともなく走り出していた。珍しく幼い行動は、赤子の頃から面倒を見てくださっていたフレイアさまの声が故に起こったことだと思いながらも、わたしははやる気持ちを抑えることなく、ジェフとともにフレイアさまの元に絡まっけころげそうになる足を捌きながら向かう。

「「フレイアさま!!」」

 昔のように舌ったらずで名前を呼ぶと、火傷の傷を隠していた仮面が破れ落ちてしまったフレイアさまは困ったように笑っていた。美しく着飾っていた旦那さまのお色のドレスは破れて、苦しそうに荒い息を吐いているフレイアさまは、もう満身創痍だった。ぐっと息が詰まって、泣き叫びたい衝動に駆られる。

 世の中は不条理だ。
 神さまは残酷で、与えられている人は、1つも2つも大きなものを与えられている。そして、もっとも必要としている能力は、決して与えてはくれない。
 悔しいと泣き叫んでも、怖いとうずくまっても、イヤだと嘆いても、神さまは結局、助けてくれない。それどころか、苦しくて辛い試練を与えてくる。
 自分だけが恵まれていないなんて悲観的なことは言わない。けれど、わたしは、わたしの試練が周りよりも重くて、そして回数が多いと思っている。

 誰にも言えない秘密。
 誰にも認められない努力。
 誰にも必要とされない能力。

 全部全部無駄で、無能で、いらないもの。わたしには、そういうものばかりが降り積もっていく。努力なんて全て無駄だと、嘲笑われる。

 わたしはぐっとくちびるを噛み締めた。

 笑え、笑え笑え、笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え笑え、笑え!!
 フレイアさまを安心させるために、笑いなさい!!

 自分に言い聞かせて、わたしは歪んだ笑みを浮かべる。

「………いやよ、フレイアさま。」
「っ、」

 わたしはどこまでいっても、どんなに努力をして泥水を啜ろうとも、何にも上手にできない。

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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