冷酷無慈悲なお兄さまに認められたい

桐生桜月姫

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105 わたしは走る

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 決まったステップを、決まった通りに踏んでいく。ふわっと回る度に、真っ白なドレスの裾がふわっと舞い上がる。わたしはそんな様子を眺めながら、なぜか苦しそうな表情をしたジェフリーを見つめる。
 無表情に似た微笑みの表情。いつもとない1つ変わらない、完成された表情。それなにのも関わらず、わたしには、彼の表情が悲しみの絶叫のように見えた。

 ーーーたんっ、

 最後のステップを踏むと、周囲から割れんばかりの拍手が送られる。絶賛されているはずなのにも関わらず、どうしても苦しく聞こえてきて、それでも役目を果たすしかないわたしはすっと頭を深々と下げた。

「………それでは、主役たちは去ることに致しますか?」
「あぁ、………残りは俺の従者に任せよう。」
「承知いたしました。」

 わたしはカツカツとヒールの音を鳴らして、ジェフリーの元に向かい、彼に向けて手を差し出す。

「………帰るわよ。エスコートなさい。」
「ーーー承知いたしました。レティシアお嬢様。」

 わたしが振り返ると、恐怖に染まった表情をした貴族たちが、さっと道を開ける。退場への道はまっすぐと開いて、ジェフリーはわたしのことを迷いのない美しい所作でエスコートする。
 あぁ、どうして、どうしてわたしの心はこんなに苦しいのだろうか。痛いのだろうか。

「それではみなさま、ご機嫌よう。」

 ーーーパキンっ、

 わたしがそう呟いた途端、周囲に大きな竜巻、否、全てを阻むような壁が現れた。わたしとジェフリーは次の瞬間、会場の中に弾き入れられる。それが結界であると分かったのは、1度だけ彼女に見せてもらったことがあるかもしれない。

「これは………!!」
「………フレイアさまの魔法ね。」

 イヤな予感。ずっとずっと持っていた、イヤな予感が的中してしまった。これは制御不可能になってしまった魔法だと真っ先に気がついたわたしは、絶望に染まりかけている身体を叱責してフレイアさまの元へと全力疾走を始める。
 わたしの手には変わらずジェフリーの手があって、それが心を落ち着けてくれているが、彼がいなかったら、わたしの魔法も暴走してしまっていたかもしないと漠然と考えながら、わたしのペースに合わせて、普段よりもずっとずっと遅く走ってくれているジェフリーに感謝して、わたしはフレイアさまのいる元へと、フレイアさまが閉じこもっている結界の中へ向かうために走っていく。

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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