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69 可愛いでしょう?

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「あら、今日も早いのね。」

 鈴蘭に気を取られていると、後ろから声がかかった。気高く薔薇のように美しい声の主が見たくてくるりと振り向くと、そこにはくせっ毛な薔薇のように真っ赤な真紅の髪に、碧の瞳を持った女性が立っていた。顔は口から上を覆い隠すマスクで隠れている。

「フレイアさま!!」
「ふふふ、こんにちは、レティー。いいえ、今はおはようと言うべきかしら?」
「おはようございます、フレイアさま。」
「ジェフもおはよう。」
「おはようございます。フレイア様。今日もご機嫌麗しいようで何よりです。」

 フレイアさまはわたしとジェフの頭をぽんぽんと撫でた。後ろに立っているフレイアさまの侍女は日傘を持って、わたしたちの周辺に影を作っている。

「それにしても、今日はいつもに増して可愛くしてもらってるわね。レティー。」
「………うん。可愛いでしょう?」

 わたしはクルンとその場でターンして見せた。フリルがたっぷりとあしらわれたドレスは、裾がふんわりと舞い上がって蝶々の羽のようだった。これがカラフルなドレスだったらよかったのにと思いながら、わたしはどうどう?とフレイアさまの方にキラキラとした目線を向けた。

「えぇ、可愛いわ。ジェフはこういう子が好みなの?」
「え!? ………僕の好みはそのままイコールでレティーだから、放っておいてください。」
「あら、それは自慢かしら?」
「えぇ、僕の育てている1輪の大輪の鈴蘭をご覧ください。ね?とっても綺麗でしょう?」

 ジェフはわたしの身体をするりと撫でた。わたしは彼に育てられている覚えはないが、日頃のお礼も込めてこの場ではそういうことにしておくことに決めた。

「レティーもシックだけれど、ジェフも今日は地味な装いなのね。」
「一応喪中ですから。しばらくは喪服のままですよ。」
「………わたしはお客さま方が帰られたらやめる予定です。」

 ドレスの裾をちょこんと持ち上げたわたしは、ひらひらと揺らして少し弄んだ。

「先代当主のお葬式に出られなくてごめんなさいね。あまり表には出たくないの。」

 フレイアさまは首筋にある火傷の傷跡をするりと撫でた。この火傷こそがフレイアさまが顔を覆うマスクをしている原因でもある。

「………………あの、でも、わたしの社交界デビューには来てほしいです。」

 気づいた時には時すでに遅し、わたしは言ってはいけない我儘を言ってしまっていた。

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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