冷酷無慈悲なお兄さまに認められたい

桐生桜月姫

文字の大きさ
上 下
58 / 117

55. 呼び方

しおりを挟む
 わたしの小指にするりと自分の小指を絡めたジェフは、満足そうに微笑んで目を細めた。
 そして、あの時と同じようにどちらからともなく額をくっつけた。

 何年経っても変わらないこの関係は、わたしにとって何者にも変えられないかけがえのないものだ。

 ーーあの約束から4年、律儀なジェフは約束通りにどんどん強くなってわたしを守り続けてくれている。ジェフは極力わたしに嘘を吐かないし、約束も守ってくれる。だから、さっきの誓いを立てた彼は、尚の事彼らしくなかった。いつもの彼ならば、あれほど簡単に誓いなんて立てない。

「……懐かしいね。」
「ふふ、……多分、同じこと考えてた。」
「そっか……。僕、ちゃんとレティーのこと守れてるよね?」
「…もちろんよ。ジェフはずっとわたしの騎士さまだよ。」

 遠い目をした後、わたしを正面から見据えたジェフに対して素の笑顔がするりと出てきた。

「えー、王子様がいいな。」
「……分かったわよ、ジェフリー殿下」

 ぷくぅーっと頬を膨らませたジェフを、王子の敬称で読んでみた。

「え、なんか嫌だ。」
「……むぅー、せっかく呼んであげたのに。」

 今度はわたしが頬を膨らませる番になってしまった。

「う~ん、やっぱりレティーには“ジェフ”って呼ばれたいなって。」
「……それはわたしがジェフに対して常々思っていることね。」
「え、それは仕方なくない?」
「……ないわね。」

 表向きわたしとジェフはお嬢さまと専属従者だ。
 本来ならば愛称で呼びあったり、気軽にお話しして良い間柄ではない。

「まぁでも、レティーは僕のことジェフリーじゃなくてジェフって読んでもいいと思うけど?」
「……ジェフって呼んじゃうと、どうしてもわたしの気が抜けちゃうから……。」
「あぁ……、成る程。うん、じゃあ今まで通り、表ではお嬢様とジェフリー呼びにしておこう。」
「……そうね。」

 わたしとジェフはお互いに困ったように笑いあった。

「それでは震えも収まったことですし、お嬢様、私はお茶とお湯を用意して参りますので、ごゆるりとお過ごし下さい。」
「……一言余計よ。……ジェフリーも、しっかり休まないとダメよ。」
「では、ともにお茶をいただいても?」
「うん!!」

 この時のわたしの表情は、キラキラと輝いてしまっていた気がする。
 けれど、嬉しかったのだから仕方ない。
 ジェフの淹れるお茶はとても美味しいし、ジェフと一緒にお茶をいただくのはわたしにとって至福の時なのだから。

*******************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

【完結】やってしまいましたわね、あの方たち

玲羅
恋愛
グランディエネ・フラントールはかつてないほど怒っていた。理由は目の前で繰り広げられている、この国の第3王女による従兄への婚約破棄。 蒼氷の魔女と噂されるグランディエネの足元からピキピキと音を立てて豪奢な王宮の夜会会場が凍りついていく。 王家の夜会で繰り広げられた、婚約破棄の傍観者のカップルの会話です。主人公が婚約破棄に関わることはありません。

歪んだ恋にさようなら

木蓮
恋愛
双子の姉妹のアリアとセレンと婚約者たちは仲の良い友人だった。しかし自分が信じる”恋人への愛”を叶えるために好き勝手に振るまうセレンにアリアは心がすり減っていく。そして、セレンがアリアの大切な物を奪っていった時、アリアはセレンが信じる愛を奪うことにした。 小説家になろう様にも投稿しています。

新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜

秋月乃衣
恋愛
ルクセイア公爵家の美形当主アレクセルの元に、嫁ぐこととなった宮廷魔術師シルヴィア。 宮廷魔術師を辞めたくないシルヴィアにとって、仕事は続けたままで良いとの好条件。 だけど新婚なのに旦那様に中々会えず、すれ違い結婚生活。旦那様には愛人がいるという噂も!? ※魔法のある特殊な世界なので公爵夫人がお仕事しています。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

【完結】偽物と呼ばれた公爵令嬢は正真正銘の本物でした~私は不要とのことなのでこの国から出ていきます~

Na20
恋愛
私は孤児院からノスタルク公爵家に引き取られ養子となったが家族と認められることはなかった。 婚約者である王太子殿下からも蔑ろにされておりただただ良いように使われるだけの毎日。 そんな日々でも唯一の希望があった。 「必ず迎えに行く!」 大好きだった友達との約束だけが私の心の支えだった。だけどそれも八年も前の約束。 私はこれからも変わらない日々を送っていくのだろうと諦め始めていた。 そんな時にやってきた留学生が大好きだった友達に似ていて… ※設定はゆるいです ※小説家になろう様にも掲載しています

処理中です...