冷酷無慈悲なお兄さまに認められたい

桐生桜月姫

文字の大きさ
上 下
57 / 117

54. わたしとジェフリーのお約束

しおりを挟む
「ねぇ、レティー、君も誓ってよ。僕とずーっと一緒にいるって。」
「………。」

 ジェフは意味深な深い笑みを浮かべてわたしに言った。

 怖い。

 ジェフに対して感じたことのない感情が心の中を支配する。彼は今までずっとわたしの心の拠り所で安心できる人だった。けれど、今の彼からは不穏な気配が漂っている。

 危険だ。

 心がいくら警鐘を鳴らしてもわたしの感情は制御できない。頷いてしまいたい衝動に駆られて、必死に唇を噛み締めた。
 ジェフは簡単に誓ってしまったけれど、これは誓ってはいない内容だ。それこそ、一生をお互いに捧げるという王族の夫婦などの結婚式の際に神に誓うような、そんな内容なのだ。

「ダメ?」

 ジェフはこてんと小首を傾げてわたしにいつもの微笑みを向けた。すると、わたしの警戒心がするりとどこかに行ってしまった。

 あぁ、断れない。

「……時が許す限り、わたしはジェフと一緒にいる。」

 わたしはそう言って小指を差し出した。

 東の大陸にあると言う“ゆびきり”という文化を知ったのは確か、わたしとジェフが4歳の頃だ。

▫︎◇▫︎

 春の陽気が暖かい4年前のある日、芝生の敷かれた『秘密のお庭』でわたしとジェフはお花の冠を作りながら、いつものように何気ないおしゃべりをしていた。

『ねぇ、レティー、“ゆ、び、き、り”って知ってる?』

 ジェフは1音1音丁寧に区切って質問した。

『…んー、しらないとおもうよ。その“ゆ、び、き、り”ってなーに?』
『“ゆびきり”だよ。う~ん、とぉーいいこくの、やくそくのちかいみたいなものだよ。小指を絡めて約束するんだ。』

 ジェフの言ったことをそのままトレースしたわたしに、ジェフはすかさず訂正を入れた。

『……ふーん。じゃあ“ゆびきり”しよう。』

 にっこりと屈託なく笑ったわたしはジェフに向かって小指を差し出した。

『なにをおやくそくするの?』
『……う~ん、じゃあ、わたしをまもって。ジェフはつよいっておじさまにきいたから、ジェフがわたしのところにたずねてくる、まっくろなひとたちからわたしをまもりぬいて。』
『そんなことでいいの?』
『わたしにとっては、そんなことではないよ。』
『わかった、おやくそくする。ぼくはこれからもつよくなってレティーを守り切るって。』
『!! ありがとう。』

 ジェフの屈託のない笑顔に頬を染めたわたしと、照れ臭そうな表情をしたジェフは、小指を不器用にぎゅっと絡めたあと、どちらからともなく額をくっつけて目を瞑った。

▫︎◇▫︎

*******************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

【完結】やってしまいましたわね、あの方たち

玲羅
恋愛
グランディエネ・フラントールはかつてないほど怒っていた。理由は目の前で繰り広げられている、この国の第3王女による従兄への婚約破棄。 蒼氷の魔女と噂されるグランディエネの足元からピキピキと音を立てて豪奢な王宮の夜会会場が凍りついていく。 王家の夜会で繰り広げられた、婚約破棄の傍観者のカップルの会話です。主人公が婚約破棄に関わることはありません。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜

秋月乃衣
恋愛
ルクセイア公爵家の美形当主アレクセルの元に、嫁ぐこととなった宮廷魔術師シルヴィア。 宮廷魔術師を辞めたくないシルヴィアにとって、仕事は続けたままで良いとの好条件。 だけど新婚なのに旦那様に中々会えず、すれ違い結婚生活。旦那様には愛人がいるという噂も!? ※魔法のある特殊な世界なので公爵夫人がお仕事しています。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

処理中です...