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50,5. (2) side. アドルファス アレとヤツ

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 私は不愉快な人間どもの蔓延る空間から脱出して自分の部屋、というより、客室に向かって靴の硬質な音を立てながら歩いていた。

 今日は朝起きてから今までの全てが不愉快だ。

 理由は単純明快。

 1つ、父親あの男が死んだせいで、仕事が全て私に回ってきて人と関わらねばいけなくなったこと。
 1つ、私の後見人になりたい人間ゴミ虫どもが群がってくること。
 1つ、父親あの男の面影を私を見て追っていること。

 ……1つ、私を捨てた不愉快な母親あの女にそっくりな小娘が生意気に話しかけ、私を気にしたこと。
 1つ、小娘が私のやることに発言したこと。

 後半2つについては不可思議ながら、あまり不愉快に感じなかった気がするので、私にもよく分からない。

 それにしても今日、私によって死人が発生しなかったのは運が良かったとしか言いようがないだろう。
 なんて言ったって、私はずっと不愉快なのだから。

『パキン!!』

 そら、まただ。
 私の感情が乱れれば、魔法が暴走して私の周りのものが全て凍る。
 万物を死へと誘う悪魔、否、死神の力だ。

 私の周りの生物は全て死んでいく。

 そう、私の氷によって全て凍っていくのだ。
 氷像となり、いとも簡単に死にゆくのだ。
 もしも、運良く生き残ったとしても、凍傷で死んだ部位を切除しないといけなくなる。
 身体に欠損があるなど死んだと同義だ。
 だから、私に近づいた生物は全て死ぬ。
 私の感情が揺れるようなことを一切しないなど不可能だからだ。

 ………あの小娘は不思議だ。
 あの、この世のものとは思えない精霊や女神の如く美しい憎しみしか浮かばないはずのあの女に瓜二つな容姿に、自分と同じはずなのに同じには見えない、磨き抜かれてカットされた宝石のようにキラキラと輝いた瞳と髪。

 不愉快にしか見えないはずなのに、不愉快に感じるはずなのに何も感じなかった。
 それどころか、ふわふわとした今までに感情たことのない不思議な気持ちになった。

 を消さなくて済んだのは行幸だ。
 アレにはそれなりに使い道がある。そばにいるが邪魔だが、ヤツもガルシアの人間だ。ヤツにもそれなりに使い道があるはずだ。それに、ヤツの動きは隠しているつもりだったようだが、それなりに腕の立つ人間の動きと呼吸だった。あの場にいた腕の立つ武人のうちの数人は、ヤツの才能に気がついているだろう。

 今世のガルシアは歴代稀に見ぬ鬼才揃いと聞いていたが、実際に目にすると信じられぬものだ。

 のこれからの成長が実に楽しみだ。

 私は周りの人間が気づけないくらいに小さくニヤリと口角を上げた。

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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