冷酷無慈悲なお兄さまに認められたい

桐生桜月姫

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47. ジェフリーはわたしの願いを聞かない

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「……司祭殿はどこにいる。」
「……入り口のところでお待ちいただいています。」

 お兄様は質問に答えたわたしに対して何も言わずに、踵を返してわたしの前から去っていった。
 本当に失礼な人だ。

「ついて行かないのですか?」
「……むぅー、ちゃんとついて行くわよ。」

 肘で小突いてくるジェフリーに答えながら、わたしは罪人たちには一瞥もくれずに、お兄さまの後に続いた。

 ………歩くのが、早い。

 ドレスワンピースでも見苦しくないギリギリのペースで必死になって歩いても、どんどんお兄さまとの距離が空いていってしまう。
 この男は、否、お兄さまは人のペースを考えるということができないらしい。もしも人のペースを考えるということができるのであれば、わたしには興味がない、もしくは、わたしが捨て置くレベルの人間でしかないということだ。
 うん、むかつくから人のペースを考えることができないということにしておこう。

「お嬢様、もう諦めましょう。」
「………。」
「お嬢様。」
「……うぅー、分かったわ。」

 わたしはお兄の後ろをついていくのを諦めて、歩くペースを普段のペースに戻した。

「……ねぇ、ジェフリー。あなただけならお兄さまの歩くペースに問題なくついていける?」
「う~ん、正直キツイと思いますね。そもそも足の長さが違いますし。それにしても、公爵閣下は誰かさんと違ってとても背が高いですね。」

 先日わたしの身長を追い越したジェフリーは、自分よりも僅かに背が低くなったわたしに視線を向けながら言った。
 最近背があまり伸びなくなってしまったことを気にしている主人に対してする態度ではない気がする。

「気のせいではないでしょうか。」
「……主人の心を勝手に読んだ挙句、それに対する返答をしないでくれるかしら?」
「………。」

 ジェフリーは嫌なことには頷かない。
 だから、ここで頷かなかったということは、わたしの願いを聞き入れる気はないのだろう。
 わたしはジェフリーに気がつかれないように密かに溜め息を吐いた。

「私は主人に対しては嘘をつかない主義ですので。」
「……そう。」

 唐突に彼が発した言葉は、先程のわたしの願いを聞き入れる気はないという拒絶の内容だった。

「ですが、私のご主人様は私によ~く悪戯を仕掛けてきますので、そんな時はよく嘘を吐いていますよ。」
「……聞き捨てならない言葉ね。」
「わざと言っていますから~。」

 ヘラヘラと軽薄に笑う彼は、おそらく緊張気味なわたしを気遣っているのだろう。

*******************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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