冷酷無慈悲なお兄さまに認められたい

桐生桜月姫

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40. わたしの走馬灯

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「……そうかもしれませんね。わたしは死ぬことが怖くありません。」

 ーーただ、あの人たちお父さまとお母さまと同じように早死にするのが嫌なだけで……。ーー

 後半は口の中だけで僅かに呟き、わたしはわたしと同じはずだけれど、全く異なる色彩に見えるお兄さまを見据えた。

「……つまらないな。」
「っ、………申し訳ありません。」

 わたしの返答がお気に召さなかったのか、お兄さまの放つ殺気が増幅し、剣を抜く掠れて耳障りな金属音が耳に響いた。

 きらきらと鈍い光を放つ磨き抜かれた美しい剣は、わたしの視線を奪った。

 ………どこを切るのだろうか……。
 ………それとも、刺すのだろうか……。

 最後まで異能者だってバレないといいな。
 誰の役にも立てなかったな。
 恐れられて、怖がられて、憎まれて、嫌われて、…………。

 わたしの人生ってなんだったのだろう。
 ただ他人を苦しめることしかしていなかった気がする。

 なんでジェフの顔ばっかりが頭の中に浮かぶのだろうか。
 笑った顔に、怒った顔、困った顔に、不機嫌な顔、澄まし顔に、喜んだ顔、哀しんだ顔に、悲しんだ顔、悔しそうな顔に、嬉しそうな顔、幼い頃からずっと一緒に過ごしている、わたししか知らない彼の特別な顔がどんどんどんどん溢れ出てくる。

 あぁ、そうか、コレは走馬灯か……。

 気づくまでに幾分長くの時間を要したように感じたが、実質のところは数秒にも満たぬ、僅かな時間しか過ぎていないだろう。
 走馬灯とは、そういうものだと聞いたことがある。
 今まで生きた人生の中に存在する能力で、死なない道を探すためや、幸せだった時間を、人生の最後に見るためとも聞いたことがある。

 だが、この走馬灯を見るに、納得したり、理解したりしたくはないが、わたしの持ち得る能力や幸せな時間は全てジェフに起因しているらしい。

 本当に嫌なことだ。
 けれど、何故か無性に嬉しくもある。

 感情というものはわたしには、異能者であるわたしには縁遠いものなのかもしれない。
 わたし自身がいくら自分が異能者だと認めたく無くとも、やっぱりわたしは異能者なのだろう。
 人の感情が分からない、異能者なのだろう。

 感情を上手くまとめられなくて、分からなくて、理解できないのは異能者だからだ。
 決してわたしが無能だからではない、ないのだ。

 わたしはただただぼんやりと、今日初めて出会ったお兄さまの持つ剣を、どこか遠い異国の、否、遠くの世界のように眺めた。

*******************

読んでいただきありがとうございます😊😭😊

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