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38. 仄暗い闇
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「……申し訳ございません、アドルファスお兄さま。」
「………謝れとは言っていない、死ねと言っている。」
わたしは震える身体を叱咤して決死の思いで初めて会う兄、アドルファス・マイグレックヒェンを振り返った。
私と同じ色合いである、光の反射によって七色に見える白銀髪に、きらきらと輝くアクアマリンの瞳。けれど、わたしとは全く違って見える仄暗い髪色に瞳の色。
死への道のりを指さすお兄さまは、亡き父に似た容姿だった。
「……お初お目にかかります。レティシアと申します。」
「………私は死ねと言ったのだが、聞こえなかったのか?」
「……ご容赦、くださいませ。」
仄暗く輝く髪と瞳には深い闇が見えた。
ジェフリーだけでも逃さなくては……。
わたしに注意を向けるのよ。
わたしだけが全ての元凶であるかのように。
お兄さまがジェフリーに関心を向けないように。
ぎゅっと唇を結び、ジェフリーを逃すための算段を立てるために、必死にの思いで頭を回転させる。
怖かろうが、恐ろしかろうが、逃げたがろうが、関係ない。
彼を守るためならば、わたしは自分がどんな目に遭おうとも構わない。
「お初お目にかかります。公爵閣下、妹君の専属従者をさせていただいております、ジェフリー・ガルシアと申します。」
「……私はお前に話しかけていない。」
「ですが、主人たるお嬢様が名乗ったのでしたら、その後で名乗るのが礼儀でしょう?
それに、主人が脅されている場面に出向かない護衛兼従者なんていませんよね?」
ジェフリーはそんなわたしの気持ちを無視して、にこやかに笑って圧倒的な強さによる恐怖に震えながらも、わたしを庇い始めた。
ダメ……。
やめて……。
あなただけは、絶対に失いたくないの…。
お願いだからやめて。
あなただけでも逃げて。
わたしなんか放っておいて。
ワンピースのスカートをぎゅっと握り締めながら、わたしはジェフリーの足元に視線を向けた。
視界がぼやぼやと歪んでしまってまともに彼の姿を視認しることができなかった。
心から泣くのなんていつぶりだろうか。
怖くても、恐ろしくても、悲しくても、痛くても、わたしは心から泣けなかった。
泣いたふりはできても、心からは泣けなかった。
お母さまに酷い言葉を浴びせられても、物を投げられても、怪しまれないように泣いたふりをすることしか出来なかった。声を張り上げて、目に演技で出た、虚しい水を溜めることしか出来なかった。
でも、今はどうだ。
わたしはちゃんと泣けている。
ーーわたしは異能者ではなく、ちゃんとした人間なんだ……。
*******************
読んでいただきありがとうございます😊😊😊
「………謝れとは言っていない、死ねと言っている。」
わたしは震える身体を叱咤して決死の思いで初めて会う兄、アドルファス・マイグレックヒェンを振り返った。
私と同じ色合いである、光の反射によって七色に見える白銀髪に、きらきらと輝くアクアマリンの瞳。けれど、わたしとは全く違って見える仄暗い髪色に瞳の色。
死への道のりを指さすお兄さまは、亡き父に似た容姿だった。
「……お初お目にかかります。レティシアと申します。」
「………私は死ねと言ったのだが、聞こえなかったのか?」
「……ご容赦、くださいませ。」
仄暗く輝く髪と瞳には深い闇が見えた。
ジェフリーだけでも逃さなくては……。
わたしに注意を向けるのよ。
わたしだけが全ての元凶であるかのように。
お兄さまがジェフリーに関心を向けないように。
ぎゅっと唇を結び、ジェフリーを逃すための算段を立てるために、必死にの思いで頭を回転させる。
怖かろうが、恐ろしかろうが、逃げたがろうが、関係ない。
彼を守るためならば、わたしは自分がどんな目に遭おうとも構わない。
「お初お目にかかります。公爵閣下、妹君の専属従者をさせていただいております、ジェフリー・ガルシアと申します。」
「……私はお前に話しかけていない。」
「ですが、主人たるお嬢様が名乗ったのでしたら、その後で名乗るのが礼儀でしょう?
それに、主人が脅されている場面に出向かない護衛兼従者なんていませんよね?」
ジェフリーはそんなわたしの気持ちを無視して、にこやかに笑って圧倒的な強さによる恐怖に震えながらも、わたしを庇い始めた。
ダメ……。
やめて……。
あなただけは、絶対に失いたくないの…。
お願いだからやめて。
あなただけでも逃げて。
わたしなんか放っておいて。
ワンピースのスカートをぎゅっと握り締めながら、わたしはジェフリーの足元に視線を向けた。
視界がぼやぼやと歪んでしまってまともに彼の姿を視認しることができなかった。
心から泣くのなんていつぶりだろうか。
怖くても、恐ろしくても、悲しくても、痛くても、わたしは心から泣けなかった。
泣いたふりはできても、心からは泣けなかった。
お母さまに酷い言葉を浴びせられても、物を投げられても、怪しまれないように泣いたふりをすることしか出来なかった。声を張り上げて、目に演技で出た、虚しい水を溜めることしか出来なかった。
でも、今はどうだ。
わたしはちゃんと泣けている。
ーーわたしは異能者ではなく、ちゃんとした人間なんだ……。
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