冷酷無慈悲なお兄さまに認められたい

桐生桜月姫

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36. わたしは頼る

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 『わぁー!!』という大きくて喜びに満ち溢れた、この場には一切似合わない歓声が湧き上がった。
 そしてその声が、わたしとジェフリーによってばら撒かれた真っ黒な書類が、この空間から全て消えたことを如実に物語っていた。

「……ジェフリー、そろそろ戦場に戻りましょうか。」

 わたしはふんわりとした微笑みを浮かべてジェフリーを振り返った。
 ジェフリーもわたしの幼馴染みとしているときのジェフの微笑みを浮かべてくれた。
 とても安心する。

「そうですね、参りましょう。
 ブラウン子爵夫妻、子供達と共にここでお待ちください。ここを安全地帯にいたします。絶対に敵を近づきさせませんし、何が起ころうとも私達が必ず死守いたしますから。」
「っ!……ーー。」

 子爵はジェフリーの自信に満ち溢れた言葉に息を呑んだ。
 そして、長いこと呑んでいた息を吐いたかと思ったら、言いたいことがいっぱいあるのに何も言い出せないように、口をパクパクさせた。
 お水の中から沖に上がったお魚さんみたいだ。

 ここは、子爵を納得させるために、先生に説得のための言葉を簡潔に重ねるべきだろう。

 子爵は先生に弱いようだから……。

「わたしたちは大丈夫よ。気にせずに子供たちとともに待っていなさい。子供たちをお願いね。」
「分かりましたわ。」

 案の定、先生は分かってくれた。
 というより、わたしに頼られたことが嬉しいようだ。

「シャーロット!?」

 子爵の素っ頓狂な声が歓喜の大声の中に小さく小さく響いた。

「レティシア様にとって、わたくし達は付いて行ったとしても、お荷物でありませんわ。
 ならば、何の憂いもなく、戦っていただけるように、ここで子供達のお守りをするのが最適解ですわ。ね?そうでしょう?旦那様。」

 先生はわたしが思っていたよりも賢いお方だったようだ。

 でも、わたしは子爵と先生がお荷物だとは言っていない。
 断じて言っていない。

「っ、……ここは、お任せください。マイグレックヒェン公爵令嬢、ガルシア侯爵子息、心より御武運をお祈りしております。」
「ありがとう。」
「ありがとうございます。」

 生と死を隔てる戦争に参戦するかのような、あまりの言いように、くすっと笑いながら、わたしとジェフリーは丁寧にお礼を言った。
 他人にこういうおまじない的なことを言われるもの悪くはないと思ったのはわたしだけの秘密だ。

*******************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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