32 / 117
31. 夫人の地雷とは……
しおりを挟む
「マイグレックヒェン公爵令嬢、先程の御無礼お許しください。まさか令嬢自ら息子の応急手当てをしてくださっていたとは思っておりませんでした。」
「わたくしからはお礼を申し上げます。テオドールの手当てをしてくださりありがとうございます。あの、わたくしは医学に造詣があるのですが、令嬢の処置は医者のわたくしから見ても見たところ完璧ですよ。」
子爵は深々と頭を下げた。わたしは当然の事をしただけなのに……。
……夫人は医学に造詣があったなんて知らなかった。ここにいる全員のできることを全てを知っているつもりだったけれど、微々たる情報だけでは知らないこともやっぱり存在するのね。
でも、これは褒めすぎね。釘を刺した方がいいかしら。
「……子爵、謝罪を受け取るわ。夫人については、お礼は受け取るけれど、お世辞は結構よ。」
「お世辞ではないのですが……。」
夫人は困ったように笑った。
「お嬢様は何をしても完璧なのですよ。ですが、いつもいつも謙遜が過ぎるのですよ……。夫人ももっともっとお嬢様に言ってやってください。」
何故かジェフリーが得意げで嬉しそうに言った。
わたしが許可を出したわけでないにも関わらず、勝手にしゃべった挙句、ないことを吹き込んだのだから、後からお話が必要ね。お葬式が終わったらお話しするのが大変ね……。
「……ジェフリー、後から覚えておきなさい。
夫人、ジェフリーの言ったことは気にしないで放っておいてちょうだい。ただのお嬢様馬鹿の戯言よ。手に取るにも足りないかしら。」
「そのような、絶対に、そのようなことはございません!!マイグレックヒェン公爵令嬢の手当ては完璧でしたわ!!テオは打撲だけでしたが、その患部の僅かな手当てを見ただけでも令嬢の几帳面さが現れていましたわ!!美しい包帯の巻き方、患部が動かないようにと気のつかわれたきっちりとした固定、あぁ、なんと素晴らしいのでしょう……!!」
……どうやらわたしは、先程のほんの僅かな会話で夫人のおしゃべりスイッチという名の地雷を見事に踏み抜いてしまったようだ。
夫人はわたしに目線を合わせるように屈んでから、手を取ってキラキラと輝いた瞳をわたしに向けて頬を蒸気させながらうっとりした顔付きでペラペラと話し始めた。
ーーーそ、そんなことよりも、こ、ここ、これはどうしましょう!?…て、てて、て、手が、手が……ふぇ、あわわわ……うぅ…、……!?
「令嬢!!」
「……は、はぃ……。」
頭の中が残念なことになってしまっているので、お返事がはっきりしていないのはご愛嬌だ。
*******************
読んでいただきありがとうございます😊😊😊
「わたくしからはお礼を申し上げます。テオドールの手当てをしてくださりありがとうございます。あの、わたくしは医学に造詣があるのですが、令嬢の処置は医者のわたくしから見ても見たところ完璧ですよ。」
子爵は深々と頭を下げた。わたしは当然の事をしただけなのに……。
……夫人は医学に造詣があったなんて知らなかった。ここにいる全員のできることを全てを知っているつもりだったけれど、微々たる情報だけでは知らないこともやっぱり存在するのね。
でも、これは褒めすぎね。釘を刺した方がいいかしら。
「……子爵、謝罪を受け取るわ。夫人については、お礼は受け取るけれど、お世辞は結構よ。」
「お世辞ではないのですが……。」
夫人は困ったように笑った。
「お嬢様は何をしても完璧なのですよ。ですが、いつもいつも謙遜が過ぎるのですよ……。夫人ももっともっとお嬢様に言ってやってください。」
何故かジェフリーが得意げで嬉しそうに言った。
わたしが許可を出したわけでないにも関わらず、勝手にしゃべった挙句、ないことを吹き込んだのだから、後からお話が必要ね。お葬式が終わったらお話しするのが大変ね……。
「……ジェフリー、後から覚えておきなさい。
夫人、ジェフリーの言ったことは気にしないで放っておいてちょうだい。ただのお嬢様馬鹿の戯言よ。手に取るにも足りないかしら。」
「そのような、絶対に、そのようなことはございません!!マイグレックヒェン公爵令嬢の手当ては完璧でしたわ!!テオは打撲だけでしたが、その患部の僅かな手当てを見ただけでも令嬢の几帳面さが現れていましたわ!!美しい包帯の巻き方、患部が動かないようにと気のつかわれたきっちりとした固定、あぁ、なんと素晴らしいのでしょう……!!」
……どうやらわたしは、先程のほんの僅かな会話で夫人のおしゃべりスイッチという名の地雷を見事に踏み抜いてしまったようだ。
夫人はわたしに目線を合わせるように屈んでから、手を取ってキラキラと輝いた瞳をわたしに向けて頬を蒸気させながらうっとりした顔付きでペラペラと話し始めた。
ーーーそ、そんなことよりも、こ、ここ、これはどうしましょう!?…て、てて、て、手が、手が……ふぇ、あわわわ……うぅ…、……!?
「令嬢!!」
「……は、はぃ……。」
頭の中が残念なことになってしまっているので、お返事がはっきりしていないのはご愛嬌だ。
*******************
読んでいただきありがとうございます😊😊😊
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~
絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

わたしのことはお気になさらず、どうぞ、元の恋人とよりを戻してください。
ふまさ
恋愛
「あたし、気付いたの。やっぱりリッキーしかいないって。リッキーだけを愛しているって」
人気のない校舎裏。熱っぽい双眸で訴えかけたのは、子爵令嬢のパティだ。正面には、伯爵令息のリッキーがいる。
「学園に通いはじめてすぐに他の令息に熱をあげて、ぼくを捨てたのは、きみじゃないか」
「捨てたなんて……だって、子爵令嬢のあたしが、侯爵令息様に逆らえるはずないじゃない……だから、あたし」
一歩近付くパティに、リッキーが一歩、後退る。明らかな動揺が見えた。
「そ、そんな顔しても無駄だよ。きみから侯爵令息に言い寄っていたことも、その侯爵令息に最近婚約者ができたことも、ぼくだってちゃんと知ってるんだからな。あてがはずれて、仕方なくぼくのところに戻って来たんだろ?!」
「……そんな、ひどい」
しくしくと、パティは泣き出した。リッキーが、うっと怯む。
「ど、どちらにせよ、もう遅いよ。ぼくには婚約者がいる。きみだって知ってるだろ?」
「あたしが好きなら、そんなもの、解消すればいいじゃない!」
パティが叫ぶ。無茶苦茶だわ、と胸中で呟いたのは、二人からは死角になるところで聞き耳を立てていた伯爵令嬢のシャノン──リッキーの婚約者だった。
昔からパティが大好きだったリッキーもさすがに呆れているのでは、と考えていたシャノンだったが──。
「……そんなにぼくのこと、好きなの?」
予想もしないリッキーの質問に、シャノンは目を丸くした。対してパティは、目を輝かせた。
「好き! 大好き!」
リッキーは「そ、そっか……」と、満更でもない様子だ。それは、パティも感じたのだろう。
「リッキー。ねえ、どうなの? 返事は?」
パティが詰め寄る。悩んだすえのリッキーの答えは、
「……少し、考える時間がほしい」
だった。

【完結】やってしまいましたわね、あの方たち
玲羅
恋愛
グランディエネ・フラントールはかつてないほど怒っていた。理由は目の前で繰り広げられている、この国の第3王女による従兄への婚約破棄。
蒼氷の魔女と噂されるグランディエネの足元からピキピキと音を立てて豪奢な王宮の夜会会場が凍りついていく。
王家の夜会で繰り広げられた、婚約破棄の傍観者のカップルの会話です。主人公が婚約破棄に関わることはありません。

新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜
秋月乃衣
恋愛
ルクセイア公爵家の美形当主アレクセルの元に、嫁ぐこととなった宮廷魔術師シルヴィア。
宮廷魔術師を辞めたくないシルヴィアにとって、仕事は続けたままで良いとの好条件。
だけど新婚なのに旦那様に中々会えず、すれ違い結婚生活。旦那様には愛人がいるという噂も!?
※魔法のある特殊な世界なので公爵夫人がお仕事しています。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

隠れ蓑婚約者 ~了解です。貴方が王女殿下に相応しい地位を得るまで、ご協力申し上げます~
夏笆(なつは)
恋愛
ロブレス侯爵家のフィロメナの婚約者は、魔法騎士としてその名を馳せる公爵家の三男ベルトラン・カルビノ。
ふたりの婚約が整ってすぐ、フィロメナは王女マリルーより、自身とベルトランは昔からの恋仲だと打ち明けられる。
『ベルトランはね、あたくしに相応しい爵位を得ようと必死なのよ。でも時間がかかるでしょう?だからその間、隠れ蓑としての婚約者、よろしくね』
可愛い見た目に反するフィロメナを貶める言葉に衝撃を受けるも、フィロメナはベルトランにも確認をしようとして、機先を制するように『マリルー王女の警護があるので、君と夜会に行くことは出来ない。今後についても、マリルー王女の警護を優先する』と言われてしまう。
更に『俺が同行できない夜会には、出席しないでくれ』と言われ、その後に王女マリルーより『ベルトランがごめんなさいね。夜会で貴女と遭遇してしまったら、あたくしの気持ちが落ち着かないだろうって配慮なの』と聞かされ、自由にしようと決意する。
『俺が同行出来ない夜会には、出席しないでくれと言った』
『そんなのいつもじゃない!そんなことしていたら、若さが逃げちゃうわ!』
夜会の出席を巡ってベルトランと口論になるも、フィロメナにはどうしても夜会に行きたい理由があった。
それは、ベルトランと婚約破棄をしてもひとりで生きていけるよう、靴の事業を広めること。
そんな折、フィロメナは、ベルトランから、魔法騎士の特別訓練を受けることになったと聞かされる。
期間は一年。
厳しくはあるが、訓練を修了すればベルトランは伯爵位を得ることが出来、王女との婚姻も可能となる。
つまり、その時に婚約破棄されると理解したフィロメナは、会うことも出来ないと言われた訓練中の一年で、何とか自立しようと努力していくのだが、そもそもすべてがすれ違っていた・・・・・。
この物語は、互いにひと目で恋に落ちた筈のふたりが、言葉足らずや誤解、曲解を繰り返すうちに、とんでもないすれ違いを引き起こす、魔法騎士や魔獣も出て来るファンタジーです。
あらすじの内容と実際のお話では、順序が一致しない場合があります。
小説家になろうでも、掲載しています。
Hotランキング1位、ありがとうございます。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜
ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」
あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。
「セレス様、行きましょう」
「ありがとう、リリ」
私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。
ある日精霊たちはいった。
「あの方が迎えに来る」
カクヨム/なろう様でも連載させていただいております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる