冷酷無慈悲なお兄さまに認められたい

桐生桜月姫

文字の大きさ
上 下
31 / 117

30. わたしには分からない

しおりを挟む
「……わたしには彼らに触れる資格はないわ。」
「…そのようなことはないかと思いますが。」

 ジェフリーは苦笑して困ったように言った。

「……少なくとも、わたしにはあるわ。」
「……ーー何を言っても無駄ですね。」

 ジェフリーは諦めたように、自分に言い聞かせるように、辛そうに、苦しそうに言った。
 苦々しい気持ちだ。
 彼をそうさせているのは他の誰でもないわたしのはずなのに。

 わたしは苦々しい気持ちを切り替えるように深呼吸をしてから、愛息子を抱きしめるブラウン一家の方にコツコツと靴音を鳴らしながら歩みを進めた。

「ブラウン子爵にブラウン夫人、此度の騒動に巻き込んだこと、謝罪申し上げるわ。」
「……これがマイグレックヒェン公爵家のやり方なのでしょうか?」

 子爵は僅かな殺気をわたしの方に向けながら、怒りの滲んだ声で問いかけた。

「………いいえ、はわたしの独断よ。
 言ったでしょう?わたしはこの穢れたマイグレックヒェン公爵家を大掃除するって。お兄さまにこのままの穢れた状態のマイグレックヒェン公爵家を献上する気はないと。」

 わたしは阿鼻叫喚の惨状の方を顎で指しながら、子爵を小馬鹿にするように言った。おそらく、お兄さまたちは彼等も排除することを望んでいるはず。ならば、今は彼がわたしに危害を加えようとするように仕向けるしかない。

 ………わたしにはこれしかやり方がないから……。
 ………まだ__・__#全てを守ってあげられるほどの力がないから……。

「あのね、まま、ぱぱ、おにーちゃんとおねーちゃんがぼくをたすけてくれたんだよ!おけがもね、ちりょーしてくれたの!!」
「まぁ!!」
「! それは、それは誠なのですか?」
「………応急手当てだけよ。後でしっかりとした医者に見せなさい。
 ……それに、その子の怪我はわたしがまいた種の所為よ。だから、応急手当てをするのは当然のことかしら。」

 唐突に会話に割って入ったテオドールくんの所為で子爵の怒りはどこか遠いお空に飛んで行ってしまった。
 
 それに、厳しくて指摘されて痛いことを言っただけにも関わらず、金髪に空色の瞳を持つ美しい夫人は涙ぐんでわたしの方を嬉しそうに眺めているし、テオドールくんそっくりで焦げ茶の髪と瞳と褐色の肌を子爵には羨望の眼差しで見られて感動されてしまっている。解せぬ。

*******************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

【完結】やってしまいましたわね、あの方たち

玲羅
恋愛
グランディエネ・フラントールはかつてないほど怒っていた。理由は目の前で繰り広げられている、この国の第3王女による従兄への婚約破棄。 蒼氷の魔女と噂されるグランディエネの足元からピキピキと音を立てて豪奢な王宮の夜会会場が凍りついていく。 王家の夜会で繰り広げられた、婚約破棄の傍観者のカップルの会話です。主人公が婚約破棄に関わることはありません。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜

秋月乃衣
恋愛
ルクセイア公爵家の美形当主アレクセルの元に、嫁ぐこととなった宮廷魔術師シルヴィア。 宮廷魔術師を辞めたくないシルヴィアにとって、仕事は続けたままで良いとの好条件。 だけど新婚なのに旦那様に中々会えず、すれ違い結婚生活。旦那様には愛人がいるという噂も!? ※魔法のある特殊な世界なので公爵夫人がお仕事しています。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

処理中です...