冷酷無慈悲なお兄さまに認められたい

桐生桜月姫

文字の大きさ
上 下
24 / 117

23. 書類の花びら

しおりを挟む
「……貴方様は、貴方様は全部ご存知なのですか……?」
「…そうね。書類に書かれたこととそこから読み取れることくらいならば知っているわ。」

 震えた声で聞いた男爵は、声とは裏腹に真っ直ぐとした視線をわたしに寄越した。

「………あなたがアダムス伯爵に脅されていた、いえ、脅されていることもね。」

 わたしは自信満々に、フレイアさまに作り上げられた慈愛の微笑みをベールの下で浮かべた。

「私とレティシアお嬢様はここ数年起こった事件などについてはほとんど暗記して裏をとっています。貴方がパシリをさせられている事を見抜くことくらい難しくはありません。」

 ジェフリーは真実を冷たく言い切りながら、わたしの服の裾をツンと僅かに引っ張った。
 わたしは彼に視線を向けて僅かに顎を引いた。

 お葬式場内の人々は、ほとんど全ての人間が怯えきってお互いにプルプルと目配せを始めた。
 まるで逃げる算段を立てるかのように……。

「わたしとジェフリーはこれらの知識を使用して、全面的に兄である次期公爵閣下に仕えようと思っているわ。
 ……そして、仕えるにあたってまずはマイグレックヒェン内に蔓延る膿を全て摘出しようというふうに考えているわ。……わたしはお父さまの所為で膿が溜まりきっている穢れたマイグレックヒェンをそのままの汚い状態でお兄さま献上する気はないわ。だから、悪いけれど今ここでマイグレックヒェンの膿みになるとわたしが判断した人間には、もれなく全員消えていただくわ。」

 だから、わたしはわざわざにこやかに笑って歌うように言葉を遠くまで発する事で、会場内の人々膿どもに追い討ちをかけた。

「さぁ!これがその証拠たちよ!!マイグレックヒェンのためにも表沙汰にはしないけれど、お覚悟なさい!!」

 わたしは高らかに宣言して、ジェフリーに大量の書類のを、美しい花々が咲き乱れ、散っているデザインのステンドガラス張りの色とりどりで鮮やか天井に向けて華やかにばら撒かせた。
 花びらのように美しく舞う白い紙の書類に、青々とした夏空から降り注いだ光を受けた、ステンドガラスの鮮やかな色が映った。

 ちなみに、この書類に至ってもわたしにはいつジェフリーが用意していたのか分からなかった。

 本当に出来過ぎた、従者にするにはもったいなすぎる従者だ。

 でも、能力の低い、ひとりでは何もできない愚かな小娘であるわたしには手放せない大切な大切な従者さまだ。

 ……先程は辞めさせようと掛け合ったと言ったけれど、本当は彼がやめたいと言っても辞めさせてあげられないほどにわたしは彼に依存している。
 ………だからこそ、わたしは怖いのだ。
 …彼を失うことが……。

*******************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

【完結】やってしまいましたわね、あの方たち

玲羅
恋愛
グランディエネ・フラントールはかつてないほど怒っていた。理由は目の前で繰り広げられている、この国の第3王女による従兄への婚約破棄。 蒼氷の魔女と噂されるグランディエネの足元からピキピキと音を立てて豪奢な王宮の夜会会場が凍りついていく。 王家の夜会で繰り広げられた、婚約破棄の傍観者のカップルの会話です。主人公が婚約破棄に関わることはありません。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜

秋月乃衣
恋愛
ルクセイア公爵家の美形当主アレクセルの元に、嫁ぐこととなった宮廷魔術師シルヴィア。 宮廷魔術師を辞めたくないシルヴィアにとって、仕事は続けたままで良いとの好条件。 だけど新婚なのに旦那様に中々会えず、すれ違い結婚生活。旦那様には愛人がいるという噂も!? ※魔法のある特殊な世界なので公爵夫人がお仕事しています。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

処理中です...