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18. ジェフリーの論破

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「……あの、ありがとう、ございます。」

 案の定愚かな男の娘たる愚かな少女は、座り込んだまま赤く染めた頬と、キラキラとした恋する乙女の瞳で手を差し出した。
 起こせということだろう。
 だが、やっぱりジェフリーは少女を無言と無表情と冷徹な瞳で見つめるだけだった。

「あ、あの……。ジェフリー、様……?」
「……今現在の私はレティシアお嬢様の従者という立場ですが、本来の生まれは貴方の生家である伯爵家よりも上の家格の侯爵家です。ですから、その立場から貴方に言わせていただきますが、貴方に私の名前を呼ぶのを許した覚えはございません。この場で私の名前を呼んでいいのは、レティシアお嬢様ただひとりです。分かったならば、そのお嬢様の悪口を言った不愉快で気持ち悪い口で私の名前を呼ばないでください。」
「ひ、酷い……!!」

 ジェフリーの不快感を伝える言葉に、愚かな少女は目にいっぱいの涙を溜めて悲劇のヒロインを演じた。
 というか、嘘泣きではなく、本気で泣いているような……?

「……酷くない。というか、不愉快だから近寄ってくるな!!」

 ジェフリーはズルズルと身体を引きずってそろそろと近寄ってくる少女に、少し大きくて威圧的な声を上げた。

「そんな酷いこと言わないでくださいな。わたくしはあなたさまの本当のお気持ちを分かっておりますわ。嫌々従っておられるのでしょう?大丈夫、わたくしはそこの女狐と違ってちゃーんと理解しておりますわ。だから、そんなこと言わないでください。そこにいる女狐はわたくしがお父様に言って片付けて差し上げますわ。わたくしと共に参りましょう?愛しの愛しのジェフリー様!!」

 ………女狐とはもしかしなくてもわたしのことでしょうか?

「……私は、私が仕えたくてレティシアお嬢様に仕えているんだ。それに、レティシアお嬢様は5年前に私が無理矢理お嬢様を手籠にして仕え始めて、今現在もずっと仕えられるように裏から手を回し続けているのにも関わらず、勝手に負い目を感じて私に対していつも不安げで申し訳なさそうで、可愛らしくて、あいらしくて、いとおしくて仕方がない表情をしているんだ。
 ……私は何があろうともレティシアお嬢様に仕え続ける。
 私が1番大嫌いな人種である貴様などに、私の気持ちは一生わかるはずなどない。さっさと私たちの前から消え失せろ。」

 ジェフリーは煩悩いっぱいの脳みそお花畑ちゃんに言い切りました。

 ………というか、ジェフリーはわたしが申し訳なく思っていたことに気がついていたのね……。

 しかも、何故か彼をわたし付きの従者から外せなくなっていると思ったら、色々と裏から手を回していたなんて………、後からしっかりとお話しする必要がありそうね。

 わたしは困ったように小さく口角を上げた。

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読んでいただきありがとうございます♪♪♪

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