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8. ジェフリーの逃亡と出陣

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「……ジェーフー、……ダメ?」
「うぅっ!!……いい、よ。」
「本当に?」
「……うん。」

 わたしの上目遣いに負けたジェフはついに真っ赤な顔でこくんとうなずいてしまった。しまったっ!と口元を押さえるけれど、もう遅い。言質はわたしが勝ちとったのだ!

「あ、その……。」

 必死に弁明しようとするジェフが逃げられないようにわたしは追い討ちをかけた。

「ありがとう、ジェフ。わたし、とっても嬉しいわ。」
「うぐっ!……それが、それが一番の嫌がらせだよ……。」

 ジェフはそうよく分からないことを小さな声で言って項垂れた。

「……どういうこと……?」

 わたしは無表情でこてんと小首を傾げてジェフの表情を窺った。

「………お、お嬢様、そろそろ参列なさらないといけません。早急にご準備ください。」

 ………むぅ、逃げられた。

「ジェ、」
「お嬢様、早くご準備を。」

 こう言われてしまえば、わたしにはもう深入りができない。
 何故なら、今の彼は幼馴染のジェフでなく、従者のジェフリーだから。

 うぅー、悔しい。

「分かったわ。」
「……こちらをどうぞ。」

 ジェフリーはそんなわたしの心情を知っていて無視した。
 従者としての完璧な甘い微笑みの仮面を身につけ、恭しい仕草でベールのついた帽子を手渡した。
 彼は従者としての姿勢になると一切のつかみどころがない。人の感情を読むのが比較的得意な方だが、ジェフリーはもっと上をいく。彼は完璧だ。異能者であるわたしよりもずっと、ずっと天才だし、神童と呼ぶにふさわしい。隙がない……。

 帽子を被った顔が隠れたのをいいことに、わたしは視線を下げて小さく溜め息を吐いた。

「行くわよ。」
「承知いたしました、お嬢様。」

 コツコツと磨き上げられたわたしの履いている黒い靴が、わたしの部屋を出てすぐの廊下に規則的な音を生み出した。

「……ジェフリー、ここではあなたはわたしのよ。足音を消してはダメ。」
「……申し訳ございません。」

 コツコツいう葬儀場に向かう廊下に響く規則的な足音が2つに増えた。

「………そういえば、今日はいつもの装いとは違うのね。」

 今日のジェフリーはいつもの、シャツに藍色のハーフパンツに同じく藍色のラバリエールとアクアマリンの宝石飾り、グレーのサスペンダーに焦茶の革靴ではなく、シャツに黒いハーフパンツに黒いラバリエールとアクアマリンの宝石飾り、黒のサスペンダーに黒の革靴と手袋だった。

 手袋は部屋を出た際、歩きながら装着していた。
 お行儀が悪い……。


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