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6. お母さまのお下がり
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「きれいだね。」
ジェフもベールに目を向けた。
「うん、そう思う。実はそれ、お母さまの遺品から引っ張り出してリメイクさせたの。」
「は?」
「ふふふ、そのレースがとって気に入ったから、ね。」
わたしはびっくりして固まっているジェフに向かって無邪気にウインクをした。
「1度リメイクをしたら、もう元の大きさにするのは難しいんじゃないの?」
「大丈夫なように切らずに加工してもらったわ。」
わたしはむすっとしながら答えた。ジェフの気にするところはわたしが苦手で嫌いななお母さまのお下がりを使ったことではなく、大きくなったら使えなくなるのではないかという懸念の方らしい。
「よく僕に気づかせずにそんなことができたね……。」
「気づかせないようにしたわけではないの。それは本当よ?ジェフ。
それを加工する時に職人探しをたまたま訪問がぶつかったフレイヤさまにわたしが直接お願いしたから気づかなかっただけだと思うけれど……。」
ジェフがいきなりしょぼんとしたお顔をしたから、わたしはとても焦ってしまった。何が琴線に触れたのかよく分からないのだ。
「……はぁー、いつ使うかも分からない物をだいぶ前から作らせていたの?」
「?うん、1年に3着は喪服をいつでも使えるように用意しとかないといけないでしょう?今年の初めに今年用のを作ろうとした時に、なにか使える物がないかなと思ってお母さまのお部屋あさって見つけたの。」
貴族は遺族が亡くなった時に、必ず大きなお葬式をあげる。
親戚はもちろん、知り合いや関係のあるお家のお葬式にはできるだけ参列しないといけない。だから、いつ誰かが亡くなってもいいように最低、春秋用、夏用、冬用の3着の喪服がいるのだ。ちなみに、マイグレックヒェン、我が家ではいつも年始に仕立て直している。
「ねぇ、君は夫人のことが嫌いだったのに、よく夫人のお下がりを着ているよね。」
「……気づいていたの?」
ジェフはわたしの長い後ろ髪を先程前髪に作った編み込みを巻き込みながら、くるくると三つ編みのシニヨンにした。
「そりゃあ気づくよ。夫人って結構キラキラとした東の国の生地がお気に入りだったし。」
「……わたしにはお母さまのお洋服は似合わないって言いたいの?」
「似合わないことはないけど、可愛らしい淡い色とか、落ち着いた濃い色の方がよく似合うし、デザイナーはそれ以外で君の新しい服は仕立てないじゃないか。」
「………そうね。」
たしかに、仕立て屋さんはいつも可愛らしい色合いの淡いピンクや水色やミントや黄色、それに濃い色合いの真紅や藍色や深緑などしかわたしに進めない。
「……わたし、お母さまとよく似ているって言われていたのだけれど……。」
わたしの呟きはじんわりと暑い空気に吸い込まれていった。
*******************
読んでいただきありがとうございます♪♪♪
ジェフもベールに目を向けた。
「うん、そう思う。実はそれ、お母さまの遺品から引っ張り出してリメイクさせたの。」
「は?」
「ふふふ、そのレースがとって気に入ったから、ね。」
わたしはびっくりして固まっているジェフに向かって無邪気にウインクをした。
「1度リメイクをしたら、もう元の大きさにするのは難しいんじゃないの?」
「大丈夫なように切らずに加工してもらったわ。」
わたしはむすっとしながら答えた。ジェフの気にするところはわたしが苦手で嫌いななお母さまのお下がりを使ったことではなく、大きくなったら使えなくなるのではないかという懸念の方らしい。
「よく僕に気づかせずにそんなことができたね……。」
「気づかせないようにしたわけではないの。それは本当よ?ジェフ。
それを加工する時に職人探しをたまたま訪問がぶつかったフレイヤさまにわたしが直接お願いしたから気づかなかっただけだと思うけれど……。」
ジェフがいきなりしょぼんとしたお顔をしたから、わたしはとても焦ってしまった。何が琴線に触れたのかよく分からないのだ。
「……はぁー、いつ使うかも分からない物をだいぶ前から作らせていたの?」
「?うん、1年に3着は喪服をいつでも使えるように用意しとかないといけないでしょう?今年の初めに今年用のを作ろうとした時に、なにか使える物がないかなと思ってお母さまのお部屋あさって見つけたの。」
貴族は遺族が亡くなった時に、必ず大きなお葬式をあげる。
親戚はもちろん、知り合いや関係のあるお家のお葬式にはできるだけ参列しないといけない。だから、いつ誰かが亡くなってもいいように最低、春秋用、夏用、冬用の3着の喪服がいるのだ。ちなみに、マイグレックヒェン、我が家ではいつも年始に仕立て直している。
「ねぇ、君は夫人のことが嫌いだったのに、よく夫人のお下がりを着ているよね。」
「……気づいていたの?」
ジェフはわたしの長い後ろ髪を先程前髪に作った編み込みを巻き込みながら、くるくると三つ編みのシニヨンにした。
「そりゃあ気づくよ。夫人って結構キラキラとした東の国の生地がお気に入りだったし。」
「……わたしにはお母さまのお洋服は似合わないって言いたいの?」
「似合わないことはないけど、可愛らしい淡い色とか、落ち着いた濃い色の方がよく似合うし、デザイナーはそれ以外で君の新しい服は仕立てないじゃないか。」
「………そうね。」
たしかに、仕立て屋さんはいつも可愛らしい色合いの淡いピンクや水色やミントや黄色、それに濃い色合いの真紅や藍色や深緑などしかわたしに進めない。
「……わたし、お母さまとよく似ているって言われていたのだけれど……。」
わたしの呟きはじんわりと暑い空気に吸い込まれていった。
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